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第23話

著者: 月影
last update 最終更新日: 2025-01-08 17:31:54
乃亜は驚きの表情を浮かべた。

凌央の言葉の意味は......

離婚したくない、ということ?

まさか、そんなはずがない!

「私は別に構わないけど、お姉さんのお腹が隠せなかったら、周りから変なこと言われるかもしれないよ。その時、聞いてる人がどう思うか分からないよ」

乃亜は心の中でそう思った。こんなに寛大な妻は、なかなかいないよね!

凌央は無言で乃亜を支え、次に乃亜の手首を掴んでエレベーターに無理に引き込んだ。

ドアが閉まると、凌央の大きな手が彼女の後頭部を包み込み、唇が軽く触れた。

乃亜は手で口を覆おうとしたが、彼の唇がそのまま指に落ちてきた。

一瞬の熱さ!

凌央は冷たい声を出し、彼女の手を引き離した。

二人の唇が重なり合う。

凌央のキスはとても優しく、ほんのりタバコの香りが漂ってきて、まるでその温もりに引き込まれるようだった。

乃亜はその優しさにすっかり惹かれていた。

一階に到着すると、エレベーターのドアが開き、騒がしい音が二人を現実に引き戻した。

乃亜は恥ずかしさと怒りで、凌央の胸を叩きつけた。

凌央は彼女の顔を抱きしめ、低い声で言った。「動かないで、抱えて出るから」

乃亜は言われた通り、じっとしていた。

凌央は彼女を抱きかかえ、エレベーターを出て、急いで車へ向かった。

祐史は凌央が女性を抱えて車から出てくるのを見て、一瞬驚いたが、すぐに理由を察した。

凌央が抱えている女性は二人しかいない。ひとりは蓮見家の奥さん、もうひとりは美咲さんだ。

蓮見家の奥さんは凌央に抱かれることはないし、距離を取るように言われている。

けれど、今の凌央の抱き方は、間違いなく美咲さんだ。

もしや、凌央は美咲を迎えに行ったのか?

祐史は考えながらも、凌央が近づいてきて、「ドアを開けろ!」と言った。

慌てて車のドアを開けた祐史。

凌央は乃亜を車に乗せ、ドアを閉めてロックをかけると、彼女を座席に座らせ、自分もすぐに身を寄せた。

乃亜は目を見開き、彼の目に欲望が映っているのを感じて、思わず声を上げて手を振り上げた。「恥知らず!」

凌央はその頬を叩かれ、顔色を変えたが、すぐにネクタイを引き裂き、乃亜の両手を頭の上で縛り上げた。

唇を再び奪い
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    凌央は眉を軽く上げながら、冷たく問いかけた。 「それ、どういう意味だ?」 乃亜は少し笑みを浮かべながら、さらりと答えた。 「言葉通りの意味よ。とにかく、よく覚えておいてね!で、もう気は済んだ?ネクタイを外して、私を解放してくれる?」 彼女の口調は軽く、まるで何事もなかったかのようだった。 凌央は何も返さず、車のドアを開けて降りた。 祐史は少し距離を置いて立っていた。聞くべきでないことを耳にしないよう配慮していたが、それでも意識は凌央の動きに集中していた。 凌央が車を降りると、祐史は急いで近寄り、恭しく声をかけた。 「蓮見社長」 「昨日の夜、桜華市の高架道路で何があったのか調べろ。それから、乃亜がここ数日入院していた記録も確認してくれ」 凌央は乃亜の言葉を完全に信じていないわけではなかった。ただ、彼は確たる証拠を見てからでないと納得できない性格だった。 祐史は少し驚いたが、深く詮索せずに「かしこまりました」とだけ答えた。 祐史が電話をかけに行く間、凌央は車のドアにもたれてタバコを吸い始めた。 なぜか分からないが、頭の中には乃亜の首についたキスマークが何度も浮かんでくる。それが妙に胸の奥をざわつかせていた。 車内では、乃亜が座席に縛られた手を必死に擦りつけて、ネクタイを外そうとしていた。 ふと目を窓ガラスに向けると、そこにはガラス越しに見える凌央の端正な横顔があった。 この男を、乃亜は9年間も愛していた。 何度も夢に出てきたその顔。 しかし、今や二人の関係は終わりを迎えた。 その結末に直面しても、想像していたほど痛みを感じない自分に気づき、少し驚いていた。 祐史は仕事が早く、高架道路の監視カメラの映像をすぐに入手した。 凌央はパソコンを受け取り、動画を再生した。 2本の映像をすべて確認するのに30分ほどかかった。 その間、乃亜は手首に巻かれたネクタイをどうにか外し、素早く身なりを整えると、車のドアをそっと開け、気づかれないように静かに車から飛び降りて走り去った。 背後で聞こえた物音に気づき、凌央は振り返った。 彼女の姿が目に入り、祐史がすぐに追いかけようとする。 しかし、凌央は冷静に言った。 「追わなくていい。

  • 永遠の毒薬   第25話

    「彼が私を抱えたのは、服が破れてしまって、あの時は恐怖で一歩も歩けなかったから。でも、車まで運んでくれただけで、その後は紗希と一緒に家に帰ったわ」 凌央が信じようが信じまいが、乃亜が言っていることは正真正銘の事実だった。 凌央は彼女の言葉を最後まで聞いたが、目は冷たいまま。 「昨日の夜、高架道路でそんな事件があったなんてニュースには一切出ていないぞ」 まるで「信じられるわけがない」と突き放すような言い方だった。 乃亜は胸の奥に、悲しみを感じた。 凌央は美咲と堂々と一緒にいて、毎日のように話題になり、子供まで作っているのに、乃亜には一言の説明すらない。 なのに、自分がこんなに心を抉るようにして真実を伝えても、彼は信じようとしない。 やっぱり、それは愛されていないからだろうか? 「どうして黙る?嘘をつく言い訳も思いつかなくなったか?」 凌央の中では、乃亜と拓海の間に何かあると完全に決めつけていた。証拠を目にしない限り、絶対に信じることはなかっただろう。 乃亜は深く息を吸い、涙を浮かべた瞳で凌央をじっと見つめると、突然笑った。 「じゃあ、今すぐ祐史さんに頼んで、昨日夜の高架道路の監視カメラの映像と、私の病院の入院記録を調べてみてよ。私が嘘をついているかどうか、全部分かるはずよ」 一言一言を口にするたびに、彼女の心は少しずつ引き裂かれていった。 あんなに凌央を愛していたのに、今この顔を見ても何の感情も湧いてこない。 もう何年も凌央に尽くし、自分を犠牲にしてきた。それなのに――もう、それは終わりにする時だ。 凌央は乃亜の虚ろな目を見た瞬間、胸の奥がざわつくのを感じた。 もし彼女の言っていることが本当なら、自分が彼女を危険に追いやった張本人だということになる。 そんな自分を、どうしても許せるはずがない。 「凌央......私たち、離婚しましょう」 乃亜は目を閉じ、胸の痛みをこらえながら震える声でそう言った。 彼女は本気で、この愛のない結婚を終わらせたかった。 こんなふうに苦しむより、ずっとマシだと思ったから。 凌央は険しい表情を浮かべ、冷たく言い放った。 「前におじいさまの前で、一生離婚しないって約束したとき、お前も承諾したよな。今さら

  • 永遠の毒薬   第24話

    乃亜は凌央に腕を掴まれたまま、彼が口にした「拓海」という名前に驚き、目を見開いた。 少し前に助けてくれた彼のことを思い出し、凌央が拓海に何か仕掛けるのではないかと心配になり、慌てて口を開いた。 「私と拓海さんは本当に何もないわ。凌央が考えてるような関係じゃない」 必死に言い訳する乃亜の様子を見て、凌央の目が冷たく光る。その手にはさらに力がこもった。 「何だよ?そんなにあいつのことが大事か?」 さっきまで自分に身を委ねていた乃亜が、拓海の名前を聞いた途端にその反応すら失う。 本当に拓海のことを庇っているのか――そう思うと、凌央の内心はさらに苛立ちを募らせた。 乃亜は彼の目に見透かされたように、体が一瞬こわばった。それでも首を振って否定する。 「違う。そうじゃない」 凌央は彼女の微妙な反応を見逃さず、眉を寄せた。 「蓮見家の嫁は、嘘をつくのが随分上手くなったな」 その低い声には、どこか鋭い危うさがあった。乃亜が他の男を心の中で思い浮かべる――それがどれほど腹立たしいことか。 だが、その瞬間の凌央は、自分の怒りの理由を深く考えようとはしなかった。 「私は嘘なんてついてない。本当に、拓海さんとは何の関係もないの」 乃亜は必死に否定した。 昨日、拓海が貸してくれた上着はまだ紗希の家に置いてある。明日クリーニングに出し、その後返す機会を探さなければならない。 もし久遠グループが拓海の帰国を知ったら、また彼女を監視するような真似をしてくるだろう。 そんなことになれば、拓海と会うどころか、上着を返すことすら難しくなる。 凌央は彼女の小さな口が言い訳を並べる様子を見て、ますます苛立った。そして、突然彼女の唇を奪った。 そのキスは乱暴で、まるで感情をぶつけるかのようだった。 乃亜は思わず体をよじらせて抵抗する。「凌央、痛い!」 その一言で、凌央の顔がさらに暗くなった。 「もう俺に触られるのも嫌になったのか?何のつもりだ?」 「違う。ただ、痛かっただけ」乃亜は慌てて言い訳をする。 凌央は彼女の顔をじっと見つめ、鋭い目で何かを見極めようとしているようだった。そして彼の目が彼女の首元に留まる。そこには赤い痕があった。 その痕跡は、色から見て

  • 永遠の毒薬   第23話

    乃亜は驚きの表情を浮かべた。 凌央の言葉の意味は...... 離婚したくない、ということ? まさか、そんなはずがない! 「私は別に構わないけど、お姉さんのお腹が隠せなかったら、周りから変なこと言われるかもしれないよ。その時、聞いてる人がどう思うか分からないよ」 乃亜は心の中でそう思った。こんなに寛大な妻は、なかなかいないよね!凌央は無言で乃亜を支え、次に乃亜の手首を掴んでエレベーターに無理に引き込んだ。 ドアが閉まると、凌央の大きな手が彼女の後頭部を包み込み、唇が軽く触れた。 乃亜は手で口を覆おうとしたが、彼の唇がそのまま指に落ちてきた。 一瞬の熱さ! 凌央は冷たい声を出し、彼女の手を引き離した。 二人の唇が重なり合う。 凌央のキスはとても優しく、ほんのりタバコの香りが漂ってきて、まるでその温もりに引き込まれるようだった。 乃亜はその優しさにすっかり惹かれていた。一階に到着すると、エレベーターのドアが開き、騒がしい音が二人を現実に引き戻した。 乃亜は恥ずかしさと怒りで、凌央の胸を叩きつけた。 凌央は彼女の顔を抱きしめ、低い声で言った。「動かないで、抱えて出るから」 乃亜は言われた通り、じっとしていた。 凌央は彼女を抱きかかえ、エレベーターを出て、急いで車へ向かった。 祐史は凌央が女性を抱えて車から出てくるのを見て、一瞬驚いたが、すぐに理由を察した。 凌央が抱えている女性は二人しかいない。ひとりは蓮見家の奥さん、もうひとりは美咲さんだ。 蓮見家の奥さんは凌央に抱かれることはないし、距離を取るように言われている。 けれど、今の凌央の抱き方は、間違いなく美咲さんだ。 もしや、凌央は美咲を迎えに行ったのか?祐史は考えながらも、凌央が近づいてきて、「ドアを開けろ!」と言った。 慌てて車のドアを開けた祐史。 凌央は乃亜を車に乗せ、ドアを閉めてロックをかけると、彼女を座席に座らせ、自分もすぐに身を寄せた。 乃亜は目を見開き、彼の目に欲望が映っているのを感じて、思わず声を上げて手を振り上げた。「恥知らず!」 凌央はその頬を叩かれ、顔色を変えたが、すぐにネクタイを引き裂き、乃亜の両手を頭の上で縛り上げた。 唇を再び奪い

  • 永遠の毒薬   第22話

    美咲は凌央の姿を見るなり、瞬時に計算したような目の輝きを見せ、勢いよく凌央の胸に飛び込んだ。 そして、か細い声で泣き始めた。 「凌央さん、ごめんなさい。私なんかがこの手首飾りを欲しがったせいで、乃亜さんをこんな気持ちにさせてしまいました!」 「医者から感情を安定させるように言われたばかりだろう。泣いて何になる」 凌央は眉をひそめ、顔には少し苛立ちの色が浮かんでいたが、声色は優しく、まるで目の前の女性を労わるようだった。 「やっぱり、この手首飾りは返します。私にはふさわしくありませんから......」 美咲は凌央の手を掴み、その手にブレスレットをそっと置いた。 その仕草にはどこか控えめで恥じらいがあったが、その裏に隠された本心は屈辱そのものだった。 ――私はこの家の孫嫁なのに、どうしてこんなにも扱いが違うのか。 美咲の胸には怒りが込み上げていた。 自分の誕生日には何一つ贈られず、乃亜には創世グループの株式と蓮見家の家宝のブレスレットが渡された。 このブレスレットは、蓮見家の「次期正夫人」としての地位を示す象徴。 それは権力、名声、財力を持つ者が身につけることを許される特別なアイテムだ。 桜華市の上流社会の中でも憧れの存在であるそれを、ずっと欲しがっていたのに。 ――どうして乃亜がそんな簡単に手に入れるのよ。 美咲は内心、ブレスレットを自分のものにしたいという願望でいっぱいだったが、凌央の前では無関心を装っていた。 「これは君にあげたものだ。一度渡したものを返してもらうなんて筋が通らない」 凌央は再びブレスレットを美咲の手に押し返した。その声は低く、落ち着いていた。 美咲はその瞬間、勝利の笑みを浮かべながら乃亜の方を見た。 ――これで私の勝ちね。 乃亜が欲しがっているこのブレスレットは、自分の手元に残る。 乃亜は静かにスマートフォンを取り出し、2人の様子を撮影しながら、笑顔を浮かべて言った。 「次に2人がベッドで愛し合うときは、ぜひ知らせてね。プロのカメラマンを連れて、証拠写真を撮るから。離婚のときに慰謝料の参考にするわ」 乃亜の笑顔はとても明るく、楽しんでいるように見えた。 しかし、心の中では悲しみが押し寄せていた。 凌

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