-㉟小さく大きな建設計画- メイスは光にある相談を持ち掛けた、流石に美味しくても毎日白い飯と漬物だけでは飽きてくる。そこで光は自宅の家庭菜園へ招待する事にした。先日米作りの時に使った肥料のお陰か野菜が豊富に実っていた。 庭にテーブルを出し汚れない様にゲオルの店で買っておいたラップを巻き付け、その周りに子供達を集めた。先日、ガイにお裾分けしてもらった小麦粉を使い生地を作り、薄く丸く広げる。そこに自宅で採れたトマトで作ったソースを塗り、切ったベーコンとナル特製のモッツァレラチーズを散らす。子供達にちぎりながら散らしてもらうべくナルに頼んで作り方を教えて貰いながら一緒に作っておいた。 ベーコンは先日『作成』で作ったタンドールを利用した燻製器で作った自家製だ。豚バラのブロック肉を仕入れて燻製し今回用に半分、そして自分の晩酌用に半分と分けてある。 さて、もうお分かりのはずだが光は今回、子供達とピザ作りをする事にしていたのだ。ただやはり子供達が嫌う野菜の代表格と言えるピーマンを彩りの為乗せたい、そこで見た目が分からなくなるまで木端微塵に刻み市場で買ったトウモロコシやツナと一緒に散らす事にした。 子供達が遊び感覚で小さなピザを各々で作り、それをメイスや丁度休日だったゲオルの協力で高温に熱されたピザ窯(これもタンドールの窯を利用したもの)に入れて焼いていった。 数分後、子供たちのピザが焼けたので配り、食事会の始まりとなった。子供達が先日と同様に祈りを捧げ食事を始める、焼きたてのピザは熱々だったが味は好評で子供たちは知らないうちにピーマンを克服していった。 食事会が終わり、メイスの引率で子供達が教会に帰った頃、光は何故か不服な気持ちになっていた。何かが足りない・・・、ただ何故か思い出せない。そこで改めて自分が焼いたピザを一口齧り咀嚼していった。光「マッシュルーム・・・、茸(きのこ)食べたい!」 唐突にそう思った光は庭の空いている土地に鋼鉄で作ったハウスを『作成』で建設し、内側にビニールを張り巡らせた。川から引いた水を利用し、まず水車を利用した簡易式の水力発電装置を設置して、普段家で利用している蓄電池に接続した上でハウス内の電力を確保する。流水を利用したシャワー設備を構築して年中茸が育つ状態にした。 空調に関しては苦労した。エアコンや換気扇は無事に設置出来たが、こ
-㊱違和感の世界で・・・、え?- パン屋での仕事を終わらせた光は街中を少し散策して帰ることにした、いつもさり気なく通る道を改めてゆったりと歩いてみると何かしら発見がありそうでワクワクしてくる。 先日、呑み会を行ったパン屋の裏通りを少し歩いてみよう。テラス席が沢山ありカレーハンバーグが人気のコーヒー専門店や東京の浅草にありそうな風格のある老舗っぽいカレーが人気のメイド喫茶、そして元々賄いだった裏メニューのカレー茶漬けが密かな人気になっているインドカレー専門店など日本にあっても違和感ばかりの店が並んでいた。 川に座敷と半分に切った筒を設置して「流しカレールー」をやっている店もある、ただ利用してもなかなか掴めないので客足が遠のくばかりで次の策を考えている様だ。 いつ考えていつ作ったのだろうか、蛇口を捻ればオレンジジュースやカルピス、焼酎、生ビール、そして変わり種としてカレールーが出てくるお店も発見する。ただこのお店、お水が出てくる蛇口は無いらしい。光「か・・・、カレーばっかりじゃん・・・。」 様々なお店の前を通り少し引きながら散策して行った、店員さんがいたら確実に店に引きずり込まれる。しかし、今は何となくカレーの気分ではない。 行き止まりになったので来た道を戻り街の中心部へと戻ることにした、鬱陶しい位に嗅ぎ飽きたカレーの匂いに包まれゆっくりと歩く。 先程通った蛇口のお店で見覚えのある女の子がご飯片手にカレーの蛇口の前にへばりついていた、またカレー茶漬けばかりを沢山頼んで他の料理も食べて欲しい一心の店主を泣かせている見覚えのある男の子もいる。老舗っぽい店で両脇に種類の違うルーを持つメイド2人を従えひたすらカレーをがっつく見覚えのある女性、そしてスプーンの代わりに中華料理で使う蓮華で流れるカレールーをすくおうと必死になる見覚えのある男性。ただとろみがあり中々流れてこない上に流れてきても蓮華では全て取れない。因みに「大き目のおたま」はオプション料金らしい。 しかし今着目すべきはカレールーのとろみ加減やオプション料金のおたまではない、カレーを食べている人たちを先日どこかで見たことがあるという事だ。全員が私服なので違和感が勝り正直誰なのか思い出せない、光はカレールーを必死に取ろうとしている男性に見覚えのある服装を頭の中で着せてみた。光「えっと・・・、まさかね・
-㊲子供達のために?- 異世界に来てどれ位経っただろうか、光はコーヒーを片手にふと思った。神様には何もしなくていいと言われたが今まで色々ありすぎて自分で言うのも何だがそれなりに活躍してきたと胸を張って言える気がする。 しかしそれなりにこっちでの催しや遊びも楽しんできた、結構日本に近い物を感じていたが異世界なりの変化もあったのでそれはそれで良しとした。 1人の大人として楽しく過ごしてはいたが疑問に思う事がある。 この国に子供たちの為の遊び場ってあっただろうか、と。 大人たちは街の西側にあるレース場公園夜銭湯や呑み屋で楽しめるが、子供達が遊べる公園や遊園地などの遊び場は見当たらない。 たまに田畑の端を走り回る姿は見かけたがそれ以外は殆ど見ていない。 そこで、教会に行き、アーク・ビショップのメイスに相談を持ち掛けてみる事にした。メイス「確かにその通りかも知れませんね、隣国では公園や遊園地などで友達を得る子供達が多いですから。」 教会は孤児院を兼ねていて、子供達が勉学を学ぶ施設や少し狭めだが小学校の様に遊具のある運動場も併設している。 そこでメイスが国王のエラノダに相談を持ち掛ける事にした、アーク・ビショップには国王以上の権威や権利のある人間達もいてメイスもその内の1人だった。 翌日、メイスは王宮へエラノダに直接会いに行った。エラノダ「そうですか・・・、それは盲点でしたね・・・。」メイス「子供たちにはお友達やご家族の方々との楽しい交流の場が必要とされています、この機会にご検討をお願いいたします。」 エラノダは即決断し王国軍の将軍達を集め作業の指示を出した。初めの第1歩として光の家がある住宅地近くに公園を作った、決して大きくはないがブランコや滑り台、そしてジャングルジムなど子供達が楽しめる遊具が設置された公園だ。 次にインパクトのあるものをと考え、銭湯の向かいの駐車場の端に山の斜面を活かしたローラー滑り台を作ると一瞬にして子供たちの注目の場になった。 そして銭湯に引いている温泉を利用し年中通える温水プールを建設して親子連れでワイワイしながら楽しめる場所とした。 メイスはエラノダに直接相談を持ち掛けて正解だと思った、まさかこんなに早く解決するのは予想外だったがこれも王国軍の仕事の早さの賜物だ。 温水プールの利用客の為、街の洋品店が水着やプー
-㊳学びの場- 温水プールではっちゃけた数日後、街中のカフェテラスでネスタが尋ねた。ネスタ「そう言えば、あんたはどこの魔学校に通ってたんだい?」 ネスタは光と一緒で日本からこの世界に転生して来た林田警部の奥さんだ。 この世界では住民が魔法を使えて当然との事だがどこかで学んでいた等の話は全く聞いた事が無かった、ネスタには自分がどうやってこの世界にやって来たかを伝えてはいる。 光は一応、大卒の会社員だが勿論魔法なんて日本で学んだ事は無い。 この世界では小中学校、高等学校、専門学校、そして大学という概念が無く学校と言えば魔法を中心とした勉学を学ぶ「魔学校」のみだそうなのだ。そこでは種族関係なく子供達が6歳から15歳まで学ぶことになっている。 夫の林田警部が転生者でありどこで学んでいたか知りたかったのだろう。光「私の元の世界には魔法自体が無くて、魔学校というものも無かったです。」 因みにこの世界での魔学校は隣のバルファイ王国に1校だけある、そう言えば街を見回しても学校らしき施設は孤児院の施設以外見当たらなかった。 6歳から15歳と言えば日本では大体義務教育の期間となる、その時期になれば出生届と住民票を役場と共有するバルファイ王国魔学校から連絡が来て学校に行くようになるのだ。 ただ、全寮制でも無いらしいので毎日隣国まで通うのは大変だろうなと思っていたが、学生証を家の玄関のドアにかざして開けるとすぐ教室に到着するとの事だ。 光はこの世界に来てから神様の恩恵で使える様になった『作成』のおかげで色々出来る様になったが林田警部は魔法が使えない。きっと、『作成』などのスキルの存在に気付いていないか本人が使おうとしていないかだ。 そんな事を考えていたら、ネスタが確信をつく質問を投げかけた。ネスタ「じゃあ、誰に魔法を教わったんだい。」 きっと神様のお陰だと言っても信じてもらえないだろう、光の場合誰かに教わった訳では無く『作成』で自ら作ったものだったからだ。光「この世界に来て、ネスタさんの家で眠っていた時に気づいたら出来てました。」ネスタ「そう言えば、朝ごはんの後に突然倒れた事があったね。あれと関係があるのかい?」 この世界に来た初日、ネスタの家で違和感を覚えながら全体的に和の朝食を食べた後、精神だけ神様に呼び出された折に、現実世界では廊下で倒れていた事
-㊴1つの鍋を囲む- 林田警部と会ってから数日、光はパン屋の仕事を昼過ぎまでこなし休憩時間に入る頃にネスタが店にやって来た。孤児院の子供達の事を聞いて自分にも何かできないかと相談を持ち掛けてきた、この事には林田警部も賛成していて本人も協力したいとの事だ。ネスタ「さっき街に来る途中でとても大きな鍋を見かけたんだよ、あれで料理をして皆で楽しく食べれないかと思ってね。何か良いアイデアでも無いかい?」光「やはり大人も子供も共通して食べたくなるものが良いですよね、それに各々の好きな具材を持ち寄って出来る・・・、カレーとかどうですか?」ネスタ「いいかもね、皆の好きな具材が入った大きいお鍋でカレーなんて美味しくて豪華になりそうね。」 光の仕事が終わり、ネスタとメイス、そしてゲオルとカフェテラスで会い具体的に話を詰めていく事にした。 ネスタは先程の鍋を自ら調達し、一旦家で保管してるという。最低限必要なカレールーはゲオルが自らの自腹でお店から寄付すると持ち掛けた。 米は子供達の農業体験で田畑を提供したガイがたんまりと用意すると意気込んでいるとの光に連絡があったそうだ、子供達が育てた米を沢山の人たちに食べて欲しいとの事だ。 とりあえずじゃが芋、人参、玉ねぎの3種類の根菜は用意して後の具材は皆が好きな物を持ち寄って入れようという話になった、様々な家庭のオリジナリティが集結した豪華なカレーを作ることになった。 数日後、稲を刈り取り乾燥したガイの田んぼに大量の薪で焚火を起こし、火を通すのに時間がかかる根菜類から入れていく事にした。 最初に話していた3種類に加え、ルーを提供したゲオルが持って来た蓮根を入れる。しっかりとした歯ごたえと甘みでルーの辛味に深みが増すとの事だ。 後から話を聞いた焼き肉屋の板長とヤンチが普段の調理で余り、普段賄いなどに使用する牛肉や豚肉の切れ端を提供してくれた。本人たちや他の従業員達も今日は店を休みにして全員が駆けつけてくれている、肉は切れ端と言えど普段店で出てくる物と変わらず旨味の溢れる物だった。 ネスタと光の話をこっそり聞いていたラリー達も普段コーンパンに入れているトウモロコシを提供して来てくれた。 ネスタは林田家で評判の良い鶏肉を2種類を沢山用意し焼き肉屋の肉と一緒に炒めてから鍋へ。 警察署内で林田からカレーの話を聞いたノーム刑事こと
-㊵異世界らしくない位の平和な理由- 光は違和感を感じていた、冒険者ギルドが存在し街を訪れた冒険者たちが魔獣達に困っている住民から依頼を受け各々の仲間と共に仕事へと向かって行く。仕事を終えると報酬を受け取り建物内で呑み食いを行っている。 しかし・・・、何かが変だ。ギルドに捕獲した魔獣を買い取ってもらったり、討伐したその場で魔獣の素材を剥ぎ取ったり、もしくは依頼者から報酬として素材を受け取り武器や防具を作っている様子が無い。魔獣の肉を食べている様子もなく普通に畜産業が存在している。冒険者達が農民たちからの依頼で魔獣の駆除をしているとの事だが駆除した魔獣はどうしているのだろうか。 700年以上生き、経験を重ねた上級魔獣達は東門から街へ出入りし人に混じって生活を共にしている。 では、それ以外はどうしているのだろうか。冒険者ギルドでドーラに聞いてみる事にした。 ドーラ「何言ってんですか、討伐なんかしちゃったら協定違反になってしまいますよ。」光「協定違反・・・、ですか。」 この世界に来てからそこそこ経っているはずだし、一応就職の為とは言え自分も登録しているが初耳だ。光は顔が赤くなり、ギルドから逃げ出して勢いのままに林田家に『瞬間移動』した。 部屋の床を箒で掃いていたネスタが驚きながら言った。ネスタ「ひゃぁっ!誰だい、いきなり入って来るなん・・・、光ちゃんかい?」光「はぁ・・・、はぁ・・・、ネスタさん・・・、はぁ・・・、すみません・・・、はぁ・・・、お水を・・・、はぁ・・・、下さい・・・。」 光は水を受け取ると一気に飲み干しお代わりを要求した。5杯、いや6杯程飲んでやっと落ち着いた光はネスタからチョコを貰って一部始終をほぼ早口気味になりながら話した。ネスタ「なるほどね・・・、知らなかったと言ってもね、そう言われても仕方ないわ。」光「協定違反ってどういうことですか?」ネスタ「あのね・・・、光ちゃんがこの世界に来る数年前の事さね。ネフェテルサ・バルファイ・ダンラルタの3国間で『魔獣愛護協定』ってのが制定されたんだよ。それ以前は素材目的の奴もいたけど殺戮目的で自由に暴れていた冒険者が多くてね、多くの種類の魔獣達が絶滅したんだ。その影響で上級魔獣にならずに死んでいった魔獣達が後を絶たなかったから3国の街での商売の売り上げがガクッと下がったりしてね。特に王
-㊶ギルドにて- 3国間で結ばれた『魔獣愛護協定』の影響で冒険者ギルドでは他の冒険者に混じり王国軍の将軍達が毎日警戒をしている、警察も協力してこの協定を全ての冒険者が大切なルールとして守ってくれるようにセキュリティを万全としている。その対策の1つとしてギルドマスターの認可のもと、刑事のドーラが看板娘兼受付嬢を務める様になった。ドーラが働く受付には「『魔獣愛護協定』により魔獣から剥ぎ取った素材や肉、魔獣の死体、そして各種罠で捕獲した魔獣自体の買取はお断りさせて頂いておりますのでご了承ください」と書かれた大きな看板を掲げてもいる。 一応、出入口には「警察官巡回時立寄所」の立札を掲げていて、真実なのだが一部の冒険者が疑ってしまっている。ただ冒険者たちに警戒されないようにドーラや将軍達は粗悪な者たちがうろついていても平然を装う様にしていた。冒険者「お姉ちゃん、嘘ついちゃいけないよ。今日1日いるけど警察官なんて1人も来ないじゃん。」 ドーラは体を微細に震わせながらも笑顔で対応しているドーラ「何を仰っているんですか、私だって警察署の方々がいついらっしゃるか分かりませんし毎日制服を着た方々が来られるとは限りませんから。まあまあ気にせずゆっくりと呑んで行って下さいよ、あなた方のパーティーには隣国のギルドマスターから賞賛のお手紙と特別報酬が出ているので今日は私に1杯奢らせて下さい。」冒険者「嬉しいね、お言葉に甘えさせてもらうよ。」 ドーラはほっと一息つくと通常業務に移った。農民や住民、他国から来ている行商人などから毎日多数の依頼が冒険者ギルドに寄せられているのでそれらを振り分けたり斡旋したりなど大忙しだ。それに光と同じで就職の為だという人が多数なのだがギルドへの登録希望者も後を絶たない、ただこれは平和だという証拠だ。 そんな中、後ろに並んでいたどこからどう見ても『ヒャッハー!』なあの世界からやって来たように見える冒険者達が2人やって来た。どうやら兄貴分と弟分らしい。冒険者兄「お姉ちゃん、ここ冒険者ギルドだよなあ。僕達お願いがあるんだぁ。」ドーラ「何でしょうか、私で宜しければ承りますよ。」 ドーラはあくまで冷静に対応している。冒険者達は各々のアイテムボックスから大量の荷物を取り出して言った。他国での依頼で討伐したのだろうか、全て魔獣の死体だ。そう、この国ではご法
-㊷警察と王国軍、そして国民の友好関係-林田「では将軍、宜しくお願い致します。」将軍「かしこまりました。林田警部、お勤めご苦労様です。」 将軍の先導で冒険者達が王宮の下にある牢へと運ばれる、この国では刑務所や拘留所は王国軍の管理下となっているので常に連携を強く保っているのだ。将軍「そうだ、思い出しました。林田警部・・・、ちょっとお耳を・・・。」林田「どうしました?」 林田が将軍に耳を貸す、将軍が耳打ちで何かを伝えると林田警部は顔をニヤつかせ了承した。ドーラ「あの2人ったら・・・、相変わらずね。」 呆れた表情をしているドーラをよそに林田と共にニコニコしながら将軍が大隊長に犯人の連行を指示し、周辺で静かにしていた冒険者に向けて一言。林田・将軍「皆さん、お騒がせしました。今日は私たちの奢りです、じゃんじゃん呑んで下さい。」冒険者達「流石だぜ、いつも気前がいいな。2人に乾杯!」 冒険者達は片手に持ったジョッキを2人に向けて振り上げた、張り詰めていた空気が一気に朗らかになる。 ギルドの従業員からジョッキを受け取った林田はビールを飲み干した。将軍「林田警部、この後お仕事では?」林田「いや、休日出勤です。全く・・・、優秀な犯人ですよ。ねぇ、ノーム刑事・・・。」ドーラ「あ、いや、あの・・・、空いたジョッキ回収しまーす。」 警察署直通のベルと押し間違え、どうやら休日を満喫しようとしていた上司を呼び出してしまったと思われるその犯人のエルフはそそくさとした様子で客席へと逃げて行った。 女性「ニコフ、あんたも休みなんだろ?遠慮しないで吞みなって。」 女性の声に引かれる様に役目を終えた私服の将軍・ジェネラルのニコフが涙目になりながら振り向くと、パン屋で働く鳥獣人族で光の同僚であるキェルダがいた。仕事終わりにドーラから連絡を受けた光が林田の奢りで一緒に呑もうと誘っていたのだ。光「ニコフって・・・、キェルダ!!いくら何でも将軍に失れ・・・。」ニコフ「キェルダ・・・、会いたかった・・・。デート行けなくてごめん!」光・林田「え?!」キェルダ「こいつ・・・、あたしの彼氏。」ニコフ「ど、どうも・・・、お初にお目にかかります。お、王国軍でニコフをしてます、将軍と申します。いつも彼女と林田さんからお話を伺っており・・・。」キェルダ「何であんたが硬くなってん
-130 新しい仕事の為- タンクに珠洲田がある程度魔力を貯めておいてくれたので、渚はごく少量の魔力を流したのみでエンジンを起動する事が出来た。先程も聞いたのだが日本にいた頃と全く変わらないけたたましい排気音、渚の頬には感動の涙が流れていた。渚「懐かしいね・・・、またコイツで走れるんだね。」シューゴ「大きくてかっこいいですね、これが乗用車ってやつですか?」 シューゴもまた「乗用車は貴族の乗り物」と言う考えの持ち主で、すぐ目の前で見るのは人生初めてだそうだ。因みに本人の免許は林田警部の妻・ドワーフのネスタと同様に「軽トラ限定」となっていて、正直今の屋台のサイズはギリギリらしい。渚「これは・・・、スポーツカーって言った方が良いのかもしれませんね・・・。」 シューゴは初めて見たエボⅢをちらちらと見ながらも気を取り直し、屋台を追加する上で確認する事が1点あったので説明をしながら確認した。シューゴ「渚さん、ギルドカードをお見せして頂けますか?」 渚は取得したばかりのギルドカードを見せた。シューゴ「これは冒険者ギルドのカードですね。実は・・・、屋台を増やす上でまず考慮しないといけない事が一点、この国では「屋台」も「個人事業主・商店」の扱いになります。今回の様に2台目と言う名の「支店」の場合でもです。普通に企業やお店に雇われて働く場合は冒険者ギルドへの登録だけで十分ですが、今回の場合は前者なので「商人兼商業者ギルド」に登録する必要があるんです。渚さんはこちらのカードはお持ちでは無いですか?」 シューゴは商人兼商業者ギルドのギルドカードを見せながら聞いた。勿論初見なので首を横に振る渚、それにまだ必要な物や登録事項があった。いずれにせよギルドカードは偽造不可能なので必須となる、ただ渚とたまたまだがこの場に来たばかりの光は全くもってチンプンカンプンだった。シューゴ「そして最も重要なのは車です、ギルドで商用登録した上で屋台として造られた軽トラ等を購入する必要があるんです。」渚「光、知ってたかい?」光「うん・・・、全部初耳。」 取り敢えずだが屋台をするのだから車を用意する必要がある事は分かった、ただたった今職を失いシューゴと屋台をする事になった渚には正直資金が無かった。 渚は隣にいた光に、小声で毎日欠かさず大盛りの夕飯を作る事を条件に資金を貸してほしいと相談
-129 渚の転職- 電話を切った渚は震えながらシューゴに尋ねた。渚「シュ・・・、シューゴさん・・・。拉麵屋台って私にも出来ますかね?」シューゴ「あの・・・、どうされました?」渚「どうしましょう・・・。今の電話勤め先の八百屋さんの大将なんですがね、自分達ももう歳だから店を畳むって言ってるんです。」 急な知らせに動揺を隠せない渚はあからさまに震えていた、八百屋の店主によると一応渚の次の就職先は探すとの事なのだが念の為に自身でも探してみて欲しいと通達してきたのだ。 たった今、新メニューの開発に協力してもらった恩義がある。それに2台目の拉麺屋台に乗るのが女性だと話題と良い宣伝になりそうだ。シューゴ「渚さん、免許証はお持ちですか?」渚「勿論、こちらです。」 渚は日本で取得した運転免許証を見せた、今更だが日本語はこの世界の言葉に訳されて見えている。 シューゴは渡された免許証をしっかりと確認し、返却した。シューゴ「なるほど、ウチの屋台のトラックはMTなんだけど大丈夫ですか?何ならATをご用意致しますが。」渚「大丈夫です、日常的にMTに乗って・・・。」 その時外から聞き覚えのあるけたたましい排気音がし始め、渚の言葉をかき消してしまった。シューゴ「な・・・。何ですか、この音は?」渚「えっと・・・、愛車と言う名の証拠品が来ました・・・。」 窓の外を見ると、駐車場に洗車を終えピカピカになった真紅のエボⅢが爆音と共に到着した。車内から珠洲田が手を振っている。 渚はシューゴの手を握り、この世界の仕様になった愛車を迎えに行った。 自然の流れでだが、渚は思わずシューゴの手を握ってしまった事に気付くのに少し時間が掛かった。その上自分で気づいた訳では無い。珠洲田「なっちょ・・・、いつの間にこの世界で彼氏が出来たんだ?」渚「えっ・・・?あっ、ごめんなさい。本当にごめんなさい。」 渚は慌てて手を放し、シューゴに何度も何度も謝った。シューゴ「構いませんよ・・・、まだ独身ですし・・・。」珠洲田「あれ?よく見たら拉麵屋台の店主さんじゃないですか、どうしてなっちょと一緒にいるんですか?」渚「あの・・・、ここはこの人の・・・。」シューゴ「今日からウチの屋台で働いてもらう事になったんです。」 渚は震えながらゆっくりとシューゴの方に振り向きじっと目を見た。渚「
-128 新メニューと渚の驚愕- とにかく辛く仕上げたこの焼きそば、光が渚の遺伝で辛い物好きになるのも納得がいく。渚「ウチは昔、決して裕福とは言えなかったんだがね。せめて夕飯は豪華にしようとインスタントの焼きそばに残った豚キムチとウインナーを入れて、少しだけでも豪華に見せる様にしてたんだ。」 当初はまだ幼少だった光用に普通のソース味の焼きそばを作っていたのだが、渚自身の分として作っていたこの「辛い焼きそば」に興味を持った小さな光に恐る恐る少しだけ与えるとハマってしまったらしくそれから「何か食べたいものは?」と聞かれるとこの焼きそばをねだる程になっていた。 それから渚はこの焼きそばを酒の肴に、まだ未成年だった光はご飯のお供にしてよく食べていたのだ。 光はこの焼きそばの作り方を聞くことが出来ないまま渚が亡く・・・、いや渚と生き別れになってしまったので代用品としてあのツナマヨをよく食べていたんだそうだ。 その事を聞き、林田が号泣していた。林田「泣かせてくれるじゃないですか・・・、やはり私は罪深き男・・・。」渚「林田ちゃん、何を泣いているんだい。もう、伸びちまうから早く食べちまおうよ。」光「懐かしの味、頂きます!!」 辛子マヨネーズを麺に絡ませ一気に啜ると辛さがガツンとやって来て食欲をそそった、豚肉と一緒に食べると少し甘みのある脂が麺にピッタリだ。白米や酒が進む。 ソースの絡んだウインナーを食べるとそれも白米と酒に合うので最高の組み合わせだ。皆一気に完食してしまいそうになった時、店の出入口が開きある男性が入ってきた。レンカルドの兄で拉麺屋台店主、シューゴだ。少し落ち込んでいるっぽいが。レンカルド「兄さん、どうした?」シューゴ「レンカルド、実は相談が2つあって。その内の1つなんだが俺も新メニューを考えようと思っててな・・・。ん?この香りは?」レンカルド「あそこにいる渚さんが拘りの、そして娘の光さんとの思い出の味として作ってくれた焼きそばだよ。良かったら食べてみる?」 レンカルドがシューゴに自分の皿を差し出すと香りに料理の誘われ1口、決して豪華だとは言えないその料理の味に刺激され感動した兄は渚にお願いした。シューゴ「渚・・・、さんでしたっけ?このお料理のレシピをお教え願えますか?」渚「何を仰っているんですか、決して料理なんて呼べない代物ですの
-127 渚の拘り- 林田は友人であるデカルトに唐突なお願いをした。ただ相手は隣国の王、表情はおそるおそるといった感じだ。林田「デカルト、すまん・・・。少しお願いがあるんだがいいか?」デカルト「ん?どうした、のっち。」林田「ははは・・・、もう良いか。この新メニューの値段を決めてくれないか?」 店主のレンカルドが決めかねているので国王の権限で決めてしまって欲しいとの事なのだ。デカルト「俺は良いけど・・・。店主さん・・・、宜しいのですか?かなり拘って作っておられるとお聞きしましたが。」レンカルド「何を仰いますやら。1国の王様にお決め頂けるとはこの上ない幸せ、どうぞ宜しくお願い致します。」 価格を決めるヒントとして1つ質問してみる。デカルト「確か・・・、お兄さんの作られる拉麺のスープを使っておられるのですよね?お兄さんのお名前をお伺い出来ませんか?」レンカルド「兄・・・、ですか?シューゴと申しますが。」 メニュー表のパスタの欄を改めて見直しながら考え始めた。デカルト「パスタ料理の平均価格から見てそうですね・・・、「シューゴさん」だから1500円でいかがでしょうか?」レンカルド「あ・・・、ありがとうございます。光栄でございます。」 レンカルドが涙ながらに感謝を伝える横でデカルトが話題を変えようと「拘り」について聞いてみる事にしてみた。デカルト「そう言えば他の皆さんは何か拘っておられる事はありませんか?結構拘っておられる品を食べたので是非と思いまして。」渚「そうですね・・・、うちは「焼きそば」でしょうか。光、覚えているかい?あんたも女子高生だった時から好きだったインスタントの焼きそばに豚キムチを入れたやつ。」光「あれね、いつ作っても麺がやわやわになっちゃうやつ。いつもウインナーを入れてくれてたのを覚えてるよ、母さんの影響で辛い物が好きになったきっかけだったな。」 かなり腹に来ているはずの林田が唾を飲み込みながら渚に尋ねた、この世界の住民は皆美味い物に目が無い。林田「美味そうですね、宜しければ作って頂けませんか?」渚「私は構いませんが、店主さん良いんですか?」レンカルド「大丈夫ですよ、魔力保冷庫の中にある食材も良かったらお使いください。」渚「恩に切ります。んっと・・・、韮と豚の小間切れ肉、それとキムチはあるから後は「あれ」と「あれ」
-126 飲食店に拘る理由- 店主が思い出に浸っていると勢いよく出入口のドアが開いた、ドアを開けたのは愛車の修理を待つ渚の娘・光だ。店主「ごめん光ちゃん、今「準備中」というか休憩してたんだよ。」光「こちらこそごめんなさい、レンカルドさん。車屋の珠洲田さんに母の場所を聞いたらここだって聞きまして。」 光は懐からハンカチを出して汗を拭った、息を整えようとするとレンカルドがお冷を渡した。レンカルド「ほら、これ飲んで。それにしても光ちゃんのお母様だったんですね、何となく雰囲気が似ていた訳だ。」渚「こちらこそ娘がお世話になっています。」レンカルド「いえいえ、何を仰いますやら。光ちゃんはここの常連になってくれましてね、いつも美味しそうに私の料理を食べてくれるんです。」 料理と聞いて渚は先程の昔話について疑問に思っていた事をレンカルド本人にぶつけてみた、不自然すぎる事が一点。渚「そう言えば先程ヨーロッパや日本の洋食屋で修業をしたと仰っていましたが、どうやってそう言った国々に?」レンカルド「私が18歳になったばかりの頃です。実は兄が祖父の拉麺屋台の修繕とスープの再現に勤しんでいた傍らで、私は不治の病に倒れ入院先の病院で意識と霊魂の一部のみが異世界に飛ばされていたんです。そして現地の料理人見習の方に一時的に憑依する形でその方と一緒に洋食の修業をし、終わった頃に私本人として復活致しました。意識と霊魂の一部が自分自身の体に戻ったのですが、異世界で学んだ技能などははっきりと覚えていたのでこの経験を是非活かそうとこの飲食店を始めました。」光「初めて食べた時に何処か懐かしさを感じたから常連になっちゃったって訳。」男性「あのー・・・、とても良い話をお聞かせ頂いた後に恐縮なのですが、私はずっとほったらかしですか?」 光は後ろに振り返り、飲食店に来た目的等をやっと思い出した。レンカルドの話につい聞き入ってしまっていたのだ。 焦りの表情を見せながら一緒に連れてきたその男性を急いで招き入れた。光「あ、ごめんなさい。珠洲田さんの所に行ったらこの人がいてね、一緒に連れて行ってくれって頼まれたんだ。」デカルト「来ちゃったー。」林田「デカ・・・、ダンラルタ国王様。どうしてこちらに?」 周囲に他の人がいるので林田はいつも通り名前で呼びかけたが急いで言い直した。デカルト「のっ
-125 兄弟の頑固な拘りと料理- 渚はふと疑問に思ったことを店主にぶつけてみた、店内が不自然な位にスープの匂いで満たされていたからだ。渚「お店で出されるんですか?」店主「いえ、軽トラを改造した屋台で各国を放浪して売っているんです。」 ふと窓の外を見ると木製の屋根と煙突が付いた軽トラがあった、ぶら下がっている赤提灯に「拉麺」と書かれている。店主「屋台で販売する事が兄の拘りみたいでして、1箇所に留まりたくないそうなんです。」渚「お2人で拉麺屋をするおつもりは無いんですか?」店主「自分は自分で洋食の修業をしてきましたので大切にしたいんです。」渚「そうですか・・・。」 匂いの素となっていたスープの入った寸胴鍋を軽トラに乗せると兄らしき男性はまた何処かへと行ってしまった。 お店では再びハンバーグの香りがし始めた。店主は何故か「営業中」の札を「準備中」に返すと渚たち以外にお客がいない店内で店主が珈琲を淹れ始めた、自分用だろうか。ただ不自然なのは他にもカップが数個。 全てのカップに珈琲を淹れると渚たちが座るテーブルへと持って来た。店主「実はそろそろ休憩にしようかと思っていたんです、こちらの珈琲は私からご馳走させて頂きますので良かったらちょっと昔話にお付き合い願えますか?」 そう言うと淹れてきた珈琲を配膳し、他のテーブルから持って来た椅子に座り語りだした。店主「私達兄弟は学生の頃に祖父母を亡くしましてね。当時2人はずっと、昼間に小さな町工場を経営しながら夜に拉麵屋台をやっていたんです。私も兄もたまに食べていた2人の拉麺が大好きだったんですよ。ただ私も含め先祖代々そうなのですが、バーサーカーが故の頑固さで休みなくずっと働いていたが故に祖父は過労で倒れてそのまま・・・。 あ、バーサーカーと言っても我々は全く好戦的ではないのでご安心を。 実は私達の両親は私達が小学生の頃に離婚しましてね、2人共父に引き取られたんです。ただ父は務めていた会社が倒産してから全く働くこと無く酒と煙草、そしてギャンブルばかりしていました。 そんな中、祖母は私達に苦労をさせまいと1人になってもずっと町工場と屋台を続けていました。そんな祖母も祖父の後を追う様に急病に倒れ亡くなりました。 せめてもの感謝の気持ちとして2人の工場と味を残していきたいと兄が父に町工場を存続する様に説得
-124 大将の秘密の工房- デカルトが王宮からネフェテルサ王国に向かって飛び立った頃、ロラーシュ大臣によって一時的にだが鉱石がすっからかんになった採掘場を見てゴブリンキングのリーダー・ブロキントは一言呟いた。ブロキント「見た感じ美味そうに食うてたけど、そんなに美味いもんなんかいな・・・。言うてしもたらあれやけど石やで。」 味を一応想像したけど全くもって美味しいイメージが湧かない。 その時、たまたま近くを通った屋台から聞こえたチャルメラの音を聞き、魔法で誘われたかの様に腹をさすりながら食べに行った。ブロキント「大将ー、1杯くれまっか。」大将「あいよ、椅子出すからちょっと待っててくれな。」 大将は軽トラを改造した屋台から小さな椅子を数脚持ち出すとその一つに座るように誘った、ブロキントがそれに座るとスープの入った寸胴に火にかけ徐々に熱を加えていく。 丁寧に血を拭き取った豚骨と鶏ガラから丹念に煮だしたスープが香りだし食欲を湧かせる。大将「兄ちゃん、麺の硬さは?」ブロキント「粉落としで頼んま。」 採掘場で働くゴブリン達は皆歯応えのある硬い麺を好んだ、特にブロキントは茹でた後も生麺の香りがする粉落としを好んだ。2~10秒ほどで湯から上げるので名前の通り表面の打粉を落とすだけの茹で方。 濃い目の醤油ベースのタレを丼の底に入れ、香りの迸るスープを注いだ後茹でたての麺を湯切りして入れる。具材はもやしにシナチク、ナルト、そして豚肩ロースを丸めて作った特製の大きな叉焼。この叉焼は先程の醤油ダレで煮込み味を染み込ませている。大将「お待ちどうさん、待ってもらったから叉焼おまけしてあるよ。」ブロキント「それはおおきに、頂きますぅ。」 普段は2枚入れている叉焼を3枚にしてくれている美味そうな拉麺を前に、リーダーが割り箸を割り感動の1口目に入ろうとすると腹を空かせた部下たちが続々と屋台の席を埋めていった。ブロキントはおまけ分の大きな叉焼を急いで口に入れた、トロトロの食感と肉汁が舌を楽しませる。大将「ほらよ、絶対に合うぞ。」 大将が笑顔で白く光る銀シャリを渡すとブロキントは一気にがっついた。素直に合う、本当に合う。因みに炊飯器は太陽光発電で動く様にし、降水時でも大丈夫な様にバッテリーに繋いでいる。ゴブリン「リーダー早いでんな、ずるいですわ。大将、わいらにも一つ
-123 鉱石蜥蜴の正体と謝罪- 採掘場に潜み、その場のミスリルをメタル代わりに食べ尽くしてしまったが故に本人も気づかぬ内に鉱石蜥蜴(メタルリザード)の上級種である希少鉱石蜥蜴(ミスリルリザード)になっていたのはダンラルタ国王の側近である食いしん坊のロラーシュ大臣であった。 大臣を含む鉱石蜥蜴(メタルリザード)種の者達は人間や他の魔獣と同様の食物を普通に食べても体質的には問題ないのだが、デカルトはロラーシュ本人がたまにこっそり他の採掘場でメタルを勿論迷惑を掛けない程度におやつとして食べていた事を黙認していた。しかし、どうやら普通のメタルに飽きてしまったらしくぶらっとこの採掘場に来て1口ミスリルを食べたら一気にハマってしまったとの事だ。夢中になっていたが故に気付けば1週間ずっと食べ続けてしまっていたそうだ。 因みに王宮で大臣をしている位なのだから勿論人語を話せるのだが、正体がバレない様に敢えて人語を無視している事もデカルトは知っている。 別にミスリル鉱石自体は翌日にまた出現するので生産的には問題ないのだが流石に食べ過ぎだ、これは酷い。一先ずデカルトは採掘場のリーダーであるゴブリンキングのブロキントに頭を下げ小声で一言。デカルト「ブロキントさん、王宮の者がご迷惑をお掛けし大変申し訳ございません。心よりお詫び申し上げます。」ブロキント「国王はん、そんなんやめて下さい。誰だって美味いもん見つけたら独り占めしたくなるもんです。」デカルト「そう仰って頂けると幸いです。ご迷惑をお掛けしたゴブリンさんや発注元の方々にも王宮から謝罪させて下さい。勿論、1週間分の御給金は上乗せして王宮から支払わせて頂きます。」ブロキント「逆に申し訳ないです・・・。」デカルト「それ位のご迷惑をお掛けしたのです、せめてもの謝罪です。さてと・・・。」 デカルトはロラーシュに気付かれない様にこっそりと近づき、物陰に潜んだ。因みにロラーシュがまだ人語を理解しないフリを続けているのでデカルトは『完全翻訳』で話しかける事にした。ロラーシュ「誰だ・・・、誰がちょこまかと動いているんだ。コソコソせずに出て来い・・・。」デカルト「分かりました、ただ随分と長いおやつタイムですね。1週間も王宮に出勤できない程美味しい鉱石だった用ですね、大臣。」ロラーシュ「その声は・・・。こ・・・、国王様!!何故
-122 作業不可の理由と古き友人- 珠洲田からの連絡によるとこの国の車はエンジンの起動の為に予め魔力を貯めるタンクがあり、渚のエボⅢの様な乗用車は軽に比べて1まわり大きいのだがそのタンクを作るためのミスリル鉱石が足らないとの事なのだ。 この世界においてミスリル鉱石はそこまで希少という訳では無いのだが、全体の採掘量の8割以上を占めるダンラルタ王国での生産が滞りがちになっており、珠洲田自身も必要なので1週間前から採掘業者に何度も発注しているのだが全くもって品物が届いていないというのだ。 今までは軽自動車での作業ばかりだったので在庫で何とか持たせていたのだが、今回はエボⅢなのでどうしても追加が必要になる。 林田は状況を確認すべくある友人に連絡を取る事にした。林田「もしもし、今電話大丈夫か?」友人(電話)「のっちー、久々じゃん。」林田「デカルト・・・、それやめろと前から言ってるだろ。」 そう、林田が連絡を取ったのはダンラルタ国王でありやたらと「のっち」と呼びたがるコッカトリスのデカルトだ。デカルト(電話)「それは置いといて何か用か?」林田「実はな・・・。」 すぐさま珠洲田から聞いた事を報告し、ダンラルタ王国におけるミスリル鉱石の状況が知りたいと伝えた。デカルト(電話)「何だって?!それは迷惑を掛けて申し訳ない。すぐに王国軍の者と調べて来るから待ってくれ。何分俺も初耳だ、状況を知る必要があるから俺自身も出る事にしよう。待ってくれているお客さんにも俺の方から謝らせてくれ。」林田「すまない、宜しく頼む。」 デカルトは電話を切るとすぐに王国軍の者を呼び出した、応じたのは軍隊長のバルタン・ムカリトとウィダンだ。デカルト「南の採掘場の現状を知りたいので一緒について来て頂けますか?」ムカリト「勿論です。」ウィダン「かしこまりました、国王様。」 3人は王宮を出るとすぐに南の採掘場に向かって飛び立った。そこではゴブリン達が日々採掘作業に勤しんでいて、唯一人語を話せるゴブリンキングのリーダー・ブロキントが指揮を執っていた。 3人は採掘場の出入口の手前に降り立つと早速ブロキントに話を聞くことにした。ブロキント「お・・・、王様。おはようさんです。」 ブロキントは何故か関西弁を話した。デカルト「ブロキントさん、おはようございます。我々がここに来たのは他