1.「私の秘密-赤鬼-」佐行 院 仕事に追われ1日1日が過ぎてゆき、一般では「花金」と呼ばれる週末。明日からの土日という楽しい2日間をどう過ごそうか、それとも今夜どう楽しもうかを沢山の人たちが考えているこの時間帯、開いている店と言えば飲み屋やコンビニ、そして最近増えてきた24時間営業のスーパーぐらい。他には夜勤で働く人たちがいる工場などがちらほらとあり建物から明かりが漏れている場所がほとんどなく電灯の明かりが優しく照らされる夜の街で独身の冴えない眼鏡女子の会社員、赤江 渚(あかえ なぎさ)は家路を急いでいた。毎日朝の9時から出社しての8時間勤務、1時間休憩を含め18時が定時での退勤なのだがそういう訳にも行かない、金曜日は特になのだが帰り際に上司の取口(とりぐち)部長から必ずと言って良いほど呼び止められて書類を押し付けられ毎日の様に残業が加算されすぎており毎月60時間以上の計算となりため息の日々。正直三六協定はどこへやら・・・。ある週の金曜日、毎度の様に帰り際の渚を取口が呼び止めた。取口「渚ちゃーん、今週も頼むよ、うちのチーム書類が立て込んでいるから進めておかないとね。」渚「はーい・・・。」 正直言ってしまうと原因は取口による書類の記入ミスや漏れによるものなのだが、本人は早々と定時に上がり気の合う仲間と逃げる様に近くの繁華街へ呑みに行ってしまう。今週に至っては残業はタイムカードを切ってから行うようにとも言いだした。何て卑怯な奴なんだと、やはりブラック企業の従業員の扱いは酷いなと身をもって学んだ今日この頃。 そんな中、最近巷で噂になっている事があった。特に地元の暴走族や走り屋を中心になのだが『赤いエボⅢに見つかると警察に捕まる』との事だ。通称『赤鬼』。毎週金曜日の夜に県内の暴走族や走り屋のスポットとなっている山に4WD車1台で行っては暴走行為、走り屋行為をしている奴らを一掃しているらしい。正体は未だ不明で年齢や性別など諸々全てが分かっていない。一部の人間には『赤鬼は警察の人間だ』とも言われている。 会社でもその噂で持ちきりだった。丁度よく今日は金曜日。取口「皆聞いたか、先週の金曜日にまた『赤鬼』が出たらしいぞ。今夜も出るかもな。」女性「怖い、今夜は私も早く家に帰ろう。」渚「何言ってんの、今日も残業でしょ・・・。」女性「噂なんだけどさ、『赤鬼』
2.「最強になるために~社長令嬢の青春奪還物語~」佐行 院-①序章- 私立西野町高等学校、私服登校可能など自由な校風のこの学校に通う宝田 守(たからだ まもる)はまったりとした毎日を友人と共に過ごしていた。1コマ55分の授業を6コマ出席して幼馴染の女の子・赤城 圭(あかぎ けい)と帰る。それが守の日常。他の人と何ら変わらない普通の高校生。因みに、守と圭は同じ1年3組だ。 比較的新しい5階建ての校舎に体育館やグラウンド、また食堂があって皆が各々の時間を楽しく過ごしていた。 部活も勿論存在する。運動部や文化部、そして同行会、沢山ある。因みに守は帰宅部(面倒くさいから)、圭もそうだった。因みに運動部にはクラブハウス(部室棟)があった いつも昼休みは図書室で本を読んで過ごした。読書は大好きだ。自分ひとりの世界に入り込める。ゆっくりと本を読み没頭し、チャイムがなったら教室へと戻って授業。本当に普通の日常。 放課後は必ず寄って帰る場所がある、学校の敷地の一角に佇む「浜谷商店(はまたにしょうてん)」というお店だ。歩いてすぐだから守だけじゃなくて西野町高校に通う生徒はみな好んで寄っている。ご夫婦で経営されているお店で皆顔なじみである。ある意味第二の両親と言っても過言ではない。今日はおばちゃんが担当らしい。 守「おばちゃーん、いつものー。」 おばちゃん「あいよ、あんたもこれ飽きないねぇ。いつもありがとね。」 圭「おばちゃんコーラ無いのー?」 おばちゃん「ごめんねー、裏見てきてもいいかい?」 圭「もう喉カラカラだよー、早くー、死んじゃうよー。」 おばちゃん「そんなんで死ぬわけないだろ、待ってな。」 守は大好きなメンチカツとハムカツを頬張り、圭はコーラをぐいっと飲みながら歩いて帰る。それが僕たちの1日の締めくくりだった・・・、その時が来るまでは。 3学期の終業式の日、事件は起きた。 式を終えホームルームも終わり、守は圭と浜谷商店へと向かっていった。守「あれ食わなきゃ1日が終わらねえよな。」 圭「ウチも早くコーラ飲みたーい。」 守「またかよ、お前好きだよなー。」 いつも通り・・・のはずだった。圭「ねえ・・・、あれ・・・。」 浜谷商店のいつもは開いていた引き戸が完璧に閉まっている。貼り紙が一枚。「お客様各位 日ごろから
-②変化、そして異様- 春休みが過ぎて守たちは2年生になった。圭「今年も同じクラスといいね。」 守「嗚呼・・・、そうだな。」 圭「私、やっぱり出席番号1番かな」 守「そりゃそうだろう、名字が赤城だもんな。」 そんな何気ない会話を交わしながらゆっくりと学校へと歩を進めた。 学校につく前に浜谷商店の跡地に向かった。お店はすっかり無くなってしまい、そこには途轍もなく大きな豪邸が建っていた。 豪華そうな彫刻の表札の名前は「貝塚(かいづか)」。 守は「ふーん」と思いながら学校へと足を向ける。そんな守を圭が血相を変えて呼んだ。圭「大変!早く来て!」 守たちは校門へと走った。圭「学校名見て!!」守たちは目を疑った。場所を間違えたのかとも思った。 『私立 貝塚学園高校』 すっかり変わってしまっている。しかし校門に立っているのは確かに守たちの1年の時の担任だった湯村(ゆむら)先生だった。湯村「おはよう、どうした、早く入りなさい。遅刻するぞ。それとも転校でもするのか?」 湯村先生は冗談が好きだった、ただ決して面白かった訳では無かったが。しかし先生は生徒からの人気はあった。守も圭も先生が好きだった。湯村「ほら、早く体育館に行きなさい。全校集会の後クラスが発表されるからな、楽しみにしとけよ。」 言われるがままに体育館へと入る。何故かステージには玉座のような椅子が3つ置かれていた。守は友人の空口琢磨(からぐち たくま)を見つけ声を掛けた。守「おはよう、どうなってんだよこれ。」 琢磨「よう、守か。俺も何も知らなくてよ。それに何故かこんなジャージを渡されたんだが。」 そう言えば体育館に入る直前に名前を確認された後、守も圭も灰色のジャージの入ったビニール袋を渡された事を思い出した。周りを見回すと何人かはそれに着替えている。胸元には番号が書かれていた。まるで刑務所だ。よく見たら壁に「袋に入った服に生徒は全員着替えること」とあった。ちらほらと着替えを済ませた生徒が増えてきている。 時間が経過し先生の始業式開始の号令があったので全員集まった。ただクラスが分からないので皆まばらに散っている。湯村「そのままでもいいから聞いてくれ。皆気付いていると思うが今日から本校は『私立 貝塚学園高校』となった。新しく理事長に就任された貝塚社長の挨拶が
-③騒動・困惑- 「最後の」全校集会が終わり運動部の部員たちを中心にもうすぐなくなる部活動に所属する生徒たちが慌ただしく動き出した。何名かが気付いたようなのだがクラブハウスの前に大きな鉄球を吊るしたクレーンが2台、静かに刻々と近づく「1時間後」を待っていた。生徒①「早くしろー、大変だ!!早くしないと俺たちの物がなくなっちまうぞ!!」 生徒②「折角親父に買ってもらったバットをなくしてたまるか!!」 生徒③「ウチもラケットずっと置いてるのに!!」 生徒④「サイン入りのゴルフクラブを失ってたまるか!!」 生徒⑤「あたしあれが無いと・・・、あの枕が無いと寝れないの!!!」 生徒①~④「枕置いてんのかよ、家でどうしてんだよ!!」 余裕が少しあるのか何故かボケとツッコミが交錯している。一方その頃・・・。 部活に所属していなかった守、圭、そして琢磨は新しいクラスとなった2年1組の教室へと走った。琢磨「何はともあれ同じクラスになれてよかったな。」 少し笑みを浮かべて走る3人。琢磨は至っては何故かこの状況を楽しんでいる様に見える。階段をのぼり廊下を左に曲がって一番奥が2年1組の教室だ。教室に着くとすぐに異変に気付いた。「2年1組(結愛)」 3人が見た看板には個人名の「結愛」に文字が。守「どこかで見たことがあるな。」 圭「この名前・・・、確か出席番号1番の名前・・・。」 琢磨「この名前だっ・・・。」 女子「私(わたくし)の名前がいかがなされましたの?」 突然琢磨の声をかき消した声の正体は守たちが着ているジャージとはかけ離れた衣装を身に纏った女生徒だった。今にもふんぞり返りそうである。結愛「早くおどきになって、高貴な私をお通しにならないおつもり??」 圭「何よあん・・・。」 湯村「結愛お嬢様、大変申し訳御座いません。すぐに立ち退きますのでこの者らの無礼をどうかお許しくださいませ。」 守「先生何言ってんだよ!!こいつも俺たちと同じ生徒だろ!!」 湯村「こっちの台詞だ!!お前らこちらのお方をどなたと心得る!!我らの理事長であの年商1京円を誇る大企業貝塚財閥の貝塚義弘様のご息女、結愛お嬢様だぞ!!早くどけ!!」 結愛「先生大袈裟ですわ、私そこまで大した権限は持ち合わせておりませんのよ。では皆様ご免あそばせ。」 そう言うと教室のなかで一際
-④残酷な破壊と手紙- 守や結愛たちが教室で最初の補習の準備をしていると、クラブハウスや校内の部室から私物をさせてきた「元」部員達が続々と帰ってきた。荷物が多い生徒や少ない生徒、中には高価な宝飾品を持っていたものもいた。結愛が宝飾品に反応していたので多分本物だろう、どこのブランドの物かは想像もできないがかなりの高級品そうだ。必要なのかどうかは正直分からないものが正直な気持ちでこれらを先生たちが見たらどういう反応をするのだろうか、特に湯村先生が。 「以前」湯村先生には毎日決まって同じ食堂に食事を取りに行く習慣があった。自由な校風だったため、昼食を校外に食べに行っても大丈夫だった。守や琢磨もその食堂でちょこちょこ食事を行っていたので先生の事をよく見かけた。湯村先生本人は毎回同じメニュー「小ご飯とみそ汁」のセットをしみじみと噛みしめながら食べていた。小さめのお茶碗1杯のご飯と優しいお出汁の味が嬉しい温かなみそ汁。具材は豆腐と若布(わかめ)。そして店主自家製のお新香が付いて180円という価格。毎日そのセットを食べていた、ただ本人たちの給料日にはたまの贅沢にとポテトサラダや白身魚のフライといったおかずを一品食べる様にしていたらしい、本当にとてもうれしそうな表情をしながら。ただ、左手の薬指に指輪をしているので結婚はしているらしい、奥さんは忙しい人なのだろうか。もしくは高校生のおこづかい程度の価格で食事が提供されるこのお店で食事をしなければならない位厳しくされているのだろうか。しかし、詮索はよしておこう、いくら何でも本人が可哀そうだ。 さて、そんな湯村先生が先程の宝飾品を見ると自分が教師であることを忘れる位の気持ちになってしまうのは明白。守たちも呆然と立ち尽くしていた。いよいよ義弘が言っていた「1時間後」が来ようとしている。 まだ守たちは結愛を完全に信用している訳ではなかった。性格から見て結愛や海斗は義弘に反発している様だがやはり2人は貝塚財閥側の人間、いつ義弘側についてもおかしくはない。守「お・・・、お嬢様?」 結愛「ああ、結愛でいいよ。」 守「じゃあ・・・、結愛?一つ聞きたいんだけど。」 結愛「何だよ。」 守「俺たちはどうやって結愛の事を信用すればいいんだ?仮にも貝塚財閥の人間だよな、出来れば信用できるように誠意なものを見せて欲しいんだが。」 結愛「そうだ
-⑤疑問- 補習で静まり返った校舎、先日の火災(というより義弘の黒服たちによる計画的犯行)で全焼した校舎は跡形もなくなっていた。養護教諭の乃木(のぎ)が当然とも言える質問を投げかけた。乃木「理事長先生、少しよろしいでしょうか?」 義弘「どうした。」 乃木「育ち盛りとも言える生徒達に対して一切の飲食を禁ずるのは如何なものかと思うのですが。」 義弘「君は私の考えに、いや、私に反逆するのかね。」 乃木「いや、そんなつもりは。申し訳御座いません。」 義弘「構わないよ、そう思うのも無理はない。いや、養護教諭として当然の事だ。だったら人間がどうして空腹になるのかをご存じかね。」 乃木「食べて・・・、動くからです・・・。」 義弘「いいだろう、ではどこが動くからだ?」 乃木「全身ですか?」 義弘「いや、胃袋だ。人間が食物を食し、食道を通り胃袋に入った後、消化しようと動く。その時にカロリーを消費する、逆に言えば食さなければカロリーを消費しない。」 乃木「しかし女子は1日225・・・。」 義弘「女子は1日2250㎉、そして男子は2750㎉必要だ、しかしそう言った摂取を毎日のように続けるとどうなると思うかね。」 乃木「健康な・・・。」 義弘「健康?何をとぼけたことを言っているんだ君は。摂取を続けると起こりうるのは老化だ。」 乃木「でも昼休みをなくしてまで生徒が努力して夢を追うための栄養を奪うなんて・・・。昼休みをなくす必要は無かったはずでは?」 義弘「努力?夢?何を馬鹿な事を言っているんだ。大切なのはそんなものではない、数値と結果だ。そしてその数値たる結果を何が生み出すと思う、力だ。それも経済力と権力だ。世の中を動かしているのは何よりも金と運気だということを君も知っているだろう、乃木建設のお嬢さん・・・、それでもまだ努力や夢などと馬鹿な事をほざくかね、確か君の所は我が財閥の子会社だ、それに君が前回の赴任先で何をやらかしたのか、私が知らないとでもいうのかね、私が口止めしていなければ今頃・・・。」 乃木「では昼休みのけ・・・、いや申し訳御座いません。」 義弘「そのことも兼ねていずれは諸々を話すことになるであろうが、今は言えない。私が最強になり望みを全て叶えるために。」 乃木はずっと震えていた。かなりの圧力をかけられている様だ。どちらかと言うと「
-⑥考査と摸試- 時が流れ数か月、今の「貝塚」になって初めての中間考査となった。以前に比べ範囲が広く感じる上に授業時間が長くなったので当然のように制限時間が長かった。ただ範囲が広くなった分頭を悩ませる生徒が多数存在したがこの考査を突破しなければ進級が危なくなる。 ただ以前理事長の義弘が夏休みなどの長期休みを廃止してしまったので、危ぶまれるものが一つ、良いようで、いや悪いようで減ってしまっていた。今回の摸試は2日かけて6教科8科目の学力を競う、自信満々のものもいればそうでないものもちらほらといた。因みに生徒番号は胸元の番号で結愛と海斗は記入不要となっている。ただそこはやはり学校の先生が考えて作った考査、工夫を凝らした問題がいっぱいだ。 琢磨は2日目の最終科目・現代文の「傍線部(※)の人物像を絵で描きなさい。(色塗り不要)」の問題をじっくりと丁寧に描いて満足感いっぱいで居眠りを決め込んでいた。「(色塗り要)」だったら何人か色ペンを出そうと焦った生徒もいたろうに。若しくは授業中に「色は塗る必要がありますか?」と質問した生徒でもいたのだろうか。中学時代の美術の授業ではあるまいて、そんなに彩り必要とは思えない。もしかして先生が気を利かせて最後の最後にジョークでもかましたのだろうか。まぁ、気にしても仕方ないかという雰囲気と共に中間考査は終わりを告げた。終了のチャイムが鳴り響く。試験官は飛井。飛井「そこまで!後ろから回答用紙のみを回収するように。」 守「終わったー、とりあえず一安心だな。」 飛井「おい宝田、何を言っているんだ。」 次の言葉に全員耳を疑った。飛井「今から講師の方々による摸試だぞ、早く準備せんか!」 全員「何て?!」 結愛「親、お・・・、お父様はその様な事は仰っていませんでしたわよ!」 結愛は一応大人の前でのお嬢様モードでいようとしたが気が動転していたのかごちゃついている。この事は義弘が誰にも言わず秘密裏に行っていた様だ。飛井と入れ替わって乃木が入ってきた。問題用紙がかなりの分厚さとなり運ぶのが大変そうだ、教卓に音を立てて置いてから一呼吸ついて試験の開始を告げた。乃木「着席してください、今から数学の問題用紙を配りますがまだ開けないで下さい。」 守「どんだけの問題を詰め込んだらああなるんだよ。」 圭「かなり手の込んだ問題かもしれないね。そ
-⑦銃弾- 講師陣による摸試の2日目、摸試が始まるまでは全く関係ない(?)学校の授業が進んでいた。摸試が始まるまでの授業に身が入らずこっそり試験の準備を行う生徒がちらほらといた。いてもたっても居られないとはこういうことを言うのだろうか。守も教科書に補習に使っている問題集を隠しながらその場を過ごしていた。そこそこの緊張感と共に試験の時間を迎え、前日に行った中間考査の科目の試験問題が生徒に配られた。今回は試験監督が来る前に全教室の生徒が窓を全開にしていた、暑い日が続くので換気しないと試験なんてできやしない。しかし、試験監督として古文講師の茂手木(もてぎ)がやってくるとすぐに閉めるように指示をした。橘が昨日の様に吠える。橘「暑すぎて試験どころじゃねぇよ、開けさせてくれよ。」 茂手木「駄目だ、今すぐに全部閉めなさい。涼しいのは私たちだけでいいんだ。」 そう言うと懐から携帯用の扇風機を取り出し涼を確保し始めた。結愛がお嬢様モードで問いかける。結愛「私(わたくし)たちもですの?」 茂手木「お嬢様、申し訳御座いません。お父様のご意向です。」 結愛は静かに座ると橘に手を合わせてぼそっと「悪い(わりい)」と言った。茂手木が咳ばらいをして試験開始を告げた。頭を抱えだす生徒が多数いた。明らかに問題集に載ってない上に補習で習っていない問題ばかりで悩みながら試験問題を解いていった。 試験が終わり通常通りだと下校となる時間になった。生徒たちはほっとしながら鞄を抱え教室を出ようとしていた、すると試験監督をしていた湯村が静止した。湯村「何をしているんだ、今から昨日の試験を返していくぞ、全員席に就け。」 全員が渋々席に着くと試験の解答や正しい答え、そして試験結果に順位が書かれた書かれたプリントが各生徒に配られた。昨日の今日でここまで結果が出てくるとは流石貝塚財閥といったところか。どうやら各試験が200点満点で構成されており点数によってA~Dまでで評価が付けられた、これはまだ序章で湯村からまさかの説明があった。湯村「実はこの試験なのだがアルファベットで表示されている評価によって次のクラス編成を行っていく事になっているんだ、生徒の実力に合わせてクラスが構成されていき、これからの授業内容も少しづつ変わってくるだろうから頑張ることだな。」 全部が初耳で全員困惑した。しかも今は夜遅く
-70 出てきたのはまさかの人物- ダンラルタ王国の悪徳貴族であるクァーデン家に奴隷として捕まっていた巨獣人族の話を親身になって聞き入る国王のデカルト、少しも聞き逃さぬようにしたいので慎重に言葉を選んで質問していく。デカルト「恐れ入りますが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」奴隷「皆・・・、名前を奪われ番号で呼ばれていました。」デカルト「そうですか・・・、因みに奪われる前の物は覚えていますか?」奴隷「ガヒューでした、ガヒュー・パンドル。」デカルト「ではガヒューさん含め皆さん、これからは堂々とご自分のお名前を名乗って下さい。」 巨獣人族の者達の目には涙が。ガヒュー「よろしいのですか・・・。」デカルト「勿論、国王の名の下に許可致します。今日からあなた方はわが友、そして皆さんの雇口も探させて頂きましょう・・・。」ガヒュー「ありがとうございます、人生でこの上ない位の幸せです。」デカルト「これからどんどん、幸せで楽しい人生を共に歩みましょう。その為にも私に協力してくれますね?」巨獣人族達「お任せください、国王様!」デカルト「ではウィダン君・・・、皆さんの為に雇口を。恐れ入りますがガヒューさんはもう少しお話をお伺いさせて頂けますか?」ガヒュー「勿論でございます、国王様。」 デカルトはゆったりとした雰囲気で話しやすくする為にとガヒューにハーブティーを与えた、また果実で作ったフルーツタルトも横に添えている。両方とも素材からデカルトが作っている。デカルト「どうぞ、私が王宮の中庭で育てたハーブと果実を使ったハーブティーとフルーツタルトです。お召し上がりください、ただくれぐれも他の人には内緒にしてくださいね。」 ガヒューは震えながらティーカップを手にし、1口啜った。優しい味わいに心が安らいでゆく、そして横に添えられたフルーツタルトをナイフとフォークで器用に切って食べた。 ガヒューは2品の優しい味わいで落ち着いた様だ。ガヒュー「美味しいです、こんなご馳走久々で・・・嬉し・・・い・・・。」デカルト「お辛かったでしょう・・・、もう大丈夫ですからね。我々は味方です、すみませんが覚えている事をお教え願えませんか?」 ガヒューは使っていた什器類を置き、重い口を開こうとしていたのでデカルトは林田に電話を繋いだ。デカルト「私の友人です、ネフェテルサ王
-69 解放した理由- クァーデン家から解放した奴隷たちをデカルトに会わせる為、一先ず王宮へと連れて行った。レース場に行く前に彼らに入浴させた後、新品の衣服と沢山の食事を与える様にとデカルトから指示があったからだ。特に食事に関しては出せるだけ出して良いので奴隷たちが満腹になるまでとの通達だった。 ムカリトの同僚で同じく軍隊長であるバルタンのウィダンが数人のグリフォンと任務を遂行していた、ただデカルトの「出せるだけ出して良い」という通達が妙に引っかかっているのだが。奴隷「兵士さん・・・、良いのかい?こんなに良くしてもらって。」ウィダン「だ・・・、大丈夫だ。こうする様に国王陛下直々の指示があってな。それにしても全然食事を取っていなかったのか?王宮にあった食材の殆ど9割方出したんだが全部食っちまったじゃねぇか。」奴隷「まずい事をしてしまったならすまない、俺達元々巨獣人族(ジャイアント)なんだ。」 ウィダンは王宮や王国軍の者の普段の食事の数十倍の量を出したつもりだったのだが奴隷たちは全てをペロリと完食してしまった、しかも10分も掛からない内に。ウィダン「だからか・・・、大食いで有名だと聞いたが本当だったんだな。」奴隷「さっき兵士さんに聞かれた通り、捕まってから全く食事という物を与えられて無かった。我慢しながらの強制労働は本当に辛かったよ。決して満たされない空腹と喉の渇きに耐える事が出来ず、何人もの仲間が亡くなっていったんだ・・・。辛かったよ、友人が目の前で息を引き取るのを見るのは。」ウィダン「そうか・・・。思い出したくなかったら良いのだが、亡くなった方々はどうなった?」奴隷「ゴミの様に鉄の窯に入れられ、燃料として使われた。俺達の毛皮はよく燃えると知っているらしい。ぐっ・・・。」ウィダン「すまない・・・、悪かった。許してくれ。」 ウィダンは奴隷の両肩に手を置き、頭を下げた。2人は目に涙を浮かべている。ウィダン「それにしても初めて聞いたな、巨獣人族の毛皮がよく燃えるなんて。」奴隷「俺達は普段は魔法で人の姿やこのサイズを維持しているんだが、これも結構辛くてな。ただ獣人族の中でも俺達巨獣人族は寒い所に住むことが多いから、体表に沢山ある毛皮で体を温めながら過ごしていたんだ。たまにだが毛の1本1本にある油分を利用し、焚火をしてキャンプの様にバーベキュー等を
-68 協力と反抗- 羽田は警備隊に混ざり捜査を続けつつ、黒服に指示を出し魔学校の入学センターの担当者に取り調べを行う事にした。その前に、結愛の指示で当時の入学者リストをコピーし入念にチェックしていった。勿論、梶岡の名前は無い。首席入学者は「リラン・クァーデン」と書かれている。黒服からその事を聞くと羽田はすぐに結愛と林田に無線で伝えた、林田は驚きを隠せない。林田(無線)「クァーデンですって?!確かにそう書かれていたのですか?!」結愛(無線)「警部さん、何かご存知なのですか?」林田(無線)「ええ・・・、悪名高い事で有名でしてね。名誉の為なら何でもしでかすダンラルタ王国の貴族ですよ。少し私に時間を頂けませんか?」 林田は電話を取り出し、ある所に事情を話し始めた。電話の向こうの男性は快諾し、梶岡と話してくれると言った。男性(電話)「梶岡さんでしたか?私で宜しければ力になりましょう、お話をお聞かせ願えますか?」 梶岡は林田に話した自らの歴史を男性に話した、電話の向こうで男性は涙を流している。男性(電話)「そうですか・・・、大変でしたね。私にお任せ下さい、魔学校とクァーデン家に問い合わせてみましょう。」梶岡「あの・・・、貴方は?」男性(電話)「ダンラルタで八百屋を経営している者でして、知り合いが多いのです。」 林田は笑いを堪えた、有名な某時代劇で聞いた事のある様なフレーズだからだ。 数分後、警察署に来た羽田に梶岡を紹介して一緒に魔学校を調べる様に伝えた。羽田達がその場を離れると林田は男性に電話を掛けなおした。林田「国王様、宜しいのですか?あんな嘘をついて。」デカルト(電話)「構いませんよ、国王だと言うと身構えて話し辛くなってしまうでしょう。現にあなたもそうですから。」林田「はい?」 林田は以前飲み比べをした時にデカルトと連絡先を交換していたのだった。その時、自分達はもう友人なので気兼ねなく話してくれと言われていたのだ。林田「そうだな、デカルト。すまない、ただ他の人の前だったから許しておくれ。」デカルト(電話)「ひどい奴だな、忘れたのかと思ったぜ。」林田「とにかく頼むわ、一大事かも知れん。」デカルト(電話)「分かった、ただ俺は立場上レース会場を離れる訳にはいかんから軍の者に頼んでみるよ。」 今行われている伝統のレースは3国の国王が主催
-67 重い罰- 『丼』な『重い』罰を受ける犯人に林田は柔らかな表情と口調で質問してみた、キツめの口調で聞くと答えづらくなってしまうかも知れない、素直に答えてくれそうな内に聞いてみようと言う作戦だ。林田「どうだ、味は美味いか?知り合いの板前さんに頼んで作って貰ったんだ。俺大好きなんだ、カツ丼と親子丼に牛丼、そしてかき揚げ丼がよ。」 丼にたっぷりの白米が盛られ、上には黒豚のロースカツにネフェテルサ特産の若鶏で出来た親子丼の具材がかけられ横にカラッとサクサクに揚げられた大きなかき揚げと継ぎ足しの出汁で甘辛く煮詰められた牛肉が添えられている。料理の練習に余念のない焼肉屋で働くウェアタイガーのヤンチの特製丼で、お代はいらないからと御厨板長が試食を頼んできたのだ。犯人「こんなご馳走・・・、久々だよ。」林田「それな、本当は俺の昼飯だったんだぞ。」犯人「いいのか?俺、さっきも言ったが金ねえぞ。」林田「良いんだ良いんだ。目の前で腹を空かせている奴がいるとほっとけねぇ性格(たち)でな、許してくれ。それにしてもよっぽど腹減っていたんだな、もう半分も無いじゃんかよ。」犯人「美味すぎてな・・・、俺には勿体ねぇ・・・。死んだ両親に食わせてやりてぇ・・・。」林田「良かったら、お前さんの話を聞かせてくれないか?食べ終わってからで良いからよ。」 犯人は冷めない内にと口にどんどんと運んでいった、急ぎすぎて詰まらせかけている。ただ、まだ満腹感は来ていないみたいで勢いはおさまらない。林田「ははは、急ぐからだろ。今お茶を持ってきてやるから待っとけ。」 林田警部が冷蔵庫から麦茶を持ってきて犯人に1杯与えると、食らいつく様に一気に飲み干した。林田「少し気になったんだが、お前さん。この世界の奴では無いな?」犯人「ああ・・・、確かにそうだが何故分かった?」林田「俺と同じ匂いがしたんだよ、今更だが名前は?」犯人「梶岡だ・・・、梶岡浩章(かじおかひろあき)。」林田「梶岡か、実は俺も転生者なんだ。お前さんも俺と同じだから、日本の味を美味そうに食ってるんだな。」梶岡「いや・・・、実は日本での記憶は全く無くてな。」林田「良かったら聞かせてくれるか。」梶岡「長くなるぞ、レースを見なくて良いのか?」林田「後で何とでもするさ。」梶岡「ん?まぁ・・・、良いか。これは数年前、ここに俺を転
-66 一方で- 恋人たちが現場に戻って来たのはプニ達が爆弾を『処理』し終えてから十数分経過してからの事だった。2人は口の周りが不自然に明るく光り表情が少し赤くなっている、髪が少し乱れているのは言うまでもない。プニ「お前ら・・・、ううむ・・・。」 プニは仕事を再開すべきだと気持ちを押し殺した、何をしていたかだなんて正直想像もしたくない。 ただ林田警部が無線の向こうで呆れ顔になってしまっているのは確かだ、幸いケルベロスやレッドドラゴン達は気付いていないらしくその場を何としても納めなくてはと冷静に対処する事にした。 プニの無線機から林田警部の声が聞こえる、どうやら恋人たちは無線機の電源を切っていたらしい。林田(無線)「利通君・・・、そしてノーム君・・・、君らが無線機の電源を切ってまで2人きりになりたい気持ちは私も大人だから分からんでもないが・・・。」ドーラ「そんな・・・、照れるじゃないですか。」林田(無線)「ぶっ・・・。」 ドーラが林田に何をしたかはその場の全員が分からなかったが何かしらの攻撃がなされたらしい、多分ビンタに近い物だろう。取り敢えず林田は偶然を装う事にした、どう頑張ってもドーラが何かをした証拠が見つからないのだ。林田(無線)「失礼・・・。さてと、爆弾の方はどうなっているかね?」ドーラ「お父さ・・・、いや警部、1つがコインロッカーの中に見つかりました。爆弾処理班の方々によるとまだ複数個隠されているかとの事です。」林田(無線)「ノーム君・・・、まさかこの言葉を言う事になるとは思わなかったが、君にお父さんと呼ばれる筋合いは無いよ。取り敢えず見つかった爆弾はどうしたのかね?」利通「えっと・・・。」プニ「見つけた1個は俺達で処理したっす。」ケルベロス①「ただ競馬場内から爆弾の匂いがプンプンしますぜ、林田の旦那。」 相変わらずのキャラを保っているが仕事はしっかりと行っているので文句は言わないでおくことにした、別の者達には日を改めて。 一方、銃刀法違反の現行犯で逮捕した犯人をネフェテルサ王国の警察署に巡査が輸送し、それに合わせ警備本部にいた林田警部が一時的に署に戻り取り調べを行った。犯人によると自分は金で雇われただけだと言う、真犯人からは電話での指示を受けていたが非通知での着信だった為番号は知らないそうだ。そして分かった事がもう1つ、
-65 ヒーローはすぐそばに- 覆面の男は息を漏らしながら突き付けている小刀をドーラの顔にゆっくりと近づけ始めた。男「俺はゆっくりと嬲っていくのが好きなんだ・・・、無力な馬鹿どもの目の前でお前の顔に1つずつ傷を入れてやる・・・。」ドーラ「あんた・・・、誰を相手にしてるか分かってんの?私みたいなブスを人質にしたって仕方ないのよ。」男「俺はこの状況が好きなだけでお前が誰かなんてどうでも良いんだ・・・。ほらほら・・・、後ちょっとで傷が・・・、ぐはっ。」 小刀が顔まであと2cmとなった瞬間、男が小刀を落とし崩れ落ちた。 男に男性が微量だがスタンガン程度の電力がある雷魔法を喰らわせている。男性「ふっ・・・、間に合ったな・・・。」ドーラ「林・・・、田・・・、いや利通!!怖かった・・・!!」 利通の胸で涙を流すドーラは1人の刑事ではなく女性の顔をしていた。利通「てめぇ・・・、何人の女に手ぇ出してんだよ・・・。」 利通は小刀を持つ男に鋭い眼光を向けた。結愛「社内恋愛ならぬ、署内恋愛?」ドーラ「・・・ってあんた、何彼氏面してんのよ!!」結愛「違うんかい・・・。」ドーラ「いや、利通は正真正銘私の彼氏ですけど?」結愛「何やねん・・・、ってどうでもええわ!!」利通「わ・・・、悪い・・・。だって・・・、大好きなドーラに・・・、刃物が向けられているのを見て・・・、じっとおれんかって・・・。」結愛「何で関西弁やねん・・・、でお前が泣くんかい!!」 結愛がキツめのツッコミを見せた時、利通とドーラの無線機から声がした。林田警部からだ。林田(無線)「えっとな・・・、利通・・・、それとノーム君。君たちが以前から良い雰囲気になっていたのは署内全員が知ってはいたんだがね。そのやりとりの音声を署内の人間全員の無線に送る必要は無かったのでは無いのかな・・・、と私は思うのだよ。しかも貝塚社長の目の前で・・・、ねぇ・・・。」 利通とドーラは無線機のチャンネルを確認した、両方ともの無線機が署員全体への連絡に使う物となっている。 恋人たちは顔を赤くし2人仲良くその場から離れて行った、行き先はどこへやら・・・。 気を取り直して、プニ達は爆弾の処理に戻ろうとしたがその場にまだ男がまだいたのを忘れていた。 ケルベロスの1人が男を背後から取り押さえ、もう1人が懐から手錠を取り出
-64 この世界の爆弾処理班- 林田の指示を受け、ただちにドーラが連絡を入れるとダンラルタ王国警察から爆弾処理班が派遣され各国に散らばりもうすぐ到着するとの折り返しの連絡があった。 こっちの世界での爆弾処理班といえば重厚な装備を付けた正しく「爆弾のプロ」というイメージがある。 数十分後、軽装の男性が数名警備本部にやって来た。男性「お待たせっした、爆弾処理班っす。」林田「おいおいノーム君、こいつら本当に大丈夫なのか?」ドーラ「大丈夫ですよ、何せ彼らは火のプロですから。上級魔獣と上級の鳥獣人族(ホークマン)の集まりですよ。ここは私達にお任せください、警部は警備の指揮に戻られた方がよろしいかと。」林田「分かった、じゃあ任せるから随時報告を頼むな。」 林田警部はその場を離れ、逃げる様に競馬場周辺の警備隊と巡回し始めた。ダンラルタ王国警察から派遣された爆弾処理班は6名、内2名は上級鳥獣人族(アーク・ホークマン)で火属性に強いレイブン、そして人の姿をしたレッドドラゴンが2名と爆弾探し要因のケルベロスが2名、しつこい様だが全員かなりの軽装だ。 リーダーを務めるレイブンのプニは昔かなりのヤンチャだった為、少しチャラさがあった。プニ「んで、どっから調べます?」利通「プニー、久々だな。取り敢えずこの競馬場から頼むわ。」プニ「利通じゃねぇか、久しぶりだな!魔学校以来か、まさかお前と仕事するとはな。」結愛「プニ、俺達もいるぜ。」プニ「おお!!結愛に光明じゃねえか、結愛のキャラも相変わらず変わらねぇな!!」光明「俺達も捜査に手伝うから宜しくな。全社員一同、捜査に協力するぜ。」プニ「貝塚財閥だったか?えれぇデカい会社だもんな、心強いぜ。」利通「よし、そろそろ始めようぜ。」 テントを出て、ケルベロス達が嗅覚を利用して探し始めた。ケルベロス①「ふんふんふん・・・、さっきからずっと匂ってたけど分かるか?」ケルベロス②「この火薬臭い匂いだろ、お前も感じるか。」プニ「匂いなんて全然しねぇぞ、どっからだよ。」 ケルベロス達の案内で全員が競馬場内のコインロッカーへと向かって行った。南口にあるロッカーの45番、微かにだが確かにカチカチと音がしている。ケルベロス②「これ、開けれるか?」光明「任せろ、こういうのは得意だからな。」プニ「よっ、先生。待ってました。
-63 レースの裏で- レースは70周目に入ろうとしている、トップは未だキュルアが乗る⑨番車。他のチーム車両がピットストップを行っていく中でも彼は依然として行おうとしなかったので差がどんどんとついて行く、ピットスタッフに至っては交代で仮眠を取り出す始末だ。 そんな中、レースコースの周辺を3国の警察が協力して警備を行っていた。ネフェテルサ王国では林田警部が指揮を執り、息子で警部補の利通や刑事のノームこと、冒険者ギルドの受付嬢を兼任するエルフのドーラが参加していた。 コースの一部が併設されている競馬場にパトカーや覆面パトカーを止め警備本部のテントを設置して、林田警部がそこで街中の定点カメラ等の映像とにらめっこしていると1人の巡査が緊張で震えながら近づいて来た。手袋をした右手で1通の手紙を持っている。巡査「警部・・・、あの・・・、よろしいですか?」林田「ど・・・、どうした?顔が蒼ざめているぞ。」巡査「実はと申しますと、警部が乗って来られている覆面パトカーのミラーにこれが・・・。」 巡査から手紙を受け取るとゆっくりと開けて黙読した、切り貼りで作られた脅迫状で、こう書かれていた。-3国のレースコース周辺の各所とネフェテルサ王国にある貝塚学園小分校、そしてバルファイ王国の貝塚学園高等魔学校に爆弾を仕掛けた。最下位がゴールした瞬間に爆発する様に設定してある、解除して欲しければ現金1兆円用意しろ。またこの脅迫状を受けてレースを中止したり、爆弾の事を外部に漏らしたりすると即爆発のスイッチを押す。-林田「爆弾か・・・、しかも3国とはまた面倒な・・・。それにしても貝塚学園か、久々に聞く名前だな。確かネフェテルサの孤児院とバルファイ王国の魔学校がそこに当たると言っていたな。確か転生してくる数年前だったか・・・、あっちの世界で贈収賄の疑いで貝塚財閥の前社長が逮捕される直前に色んな作戦を経て最終的に全権を奪った今の社長夫婦がこっちの世界に転生した時に当時ボロボロになっていた2校を立て直したものらしい。前社長が理事長を務めた貝塚学園高校での独裁政治ぶりが露わになったが故に評判の落ちた学園や財閥を立て直すべく、今の社長が筆頭株主と協力して積極的な教育支援を行い今となってはあっちでもこっちでも文武両道の良好な学園となっていると聞く。確か・・・、貝塚財閥社長兼学園理事長の名前は・・
-62 寡黙なドライバーの過去- レースは50周目に差し掛かろうとしていた、依然トップは⑨番車で車を操る寡黙なドライバーはまだまだペースを上げて最速ラップタイムを更新していった。数年もの間、続いて来たレースだがここまでの記録が出たのは初めてだと言う。⑨監督「おいおい、疲れて来てないか?そろそろピットに入って交代していいんだぞ。」⑨ドライバー「まだ・・・、行ける・・・。と言うか、行きたい・・・。」⑨監督「そうか・・・、お前が良いなら良いが、無理だけはするなよ?」⑨ドライバー「ああ・・・、感謝する・・・。」カバーサ「未だに記録が更新されていきますが、それに連れドライバーさんもがどんどん寡黙になっていきます。」 コースのコツを掴んだのか、彼にとったら現在このレースはただのドライブ感覚となっていた。彼はフルフェイスの顔部分を上げ、傍らに置いていた煙草を燻らせ始めた。⑨監督「お前、このチームに来て今年で3年目だったはずだが大分貫禄が出て来たな。まさかレース中に煙草を吸う程の余裕まであるとは。」⑨ドライバー「ふぅー・・・(煙草)、駄目か?」⑨監督「駄目とは・・・、言わないけどさ。タイヤは平気か?」 ドライバーはタコメーター横のパラメーターにチラリと目をやった。⑨ドライバー「まだ・・・、走れる・・・。すまんが、一人にしてくれ。」⑨監督「ああ・・・、いつでも交代するから言えよ?」⑨ドライバー「分かった・・・。」 ドライバーは短くなった煙草を灰皿に捨てると新たにもう1本煙草を燻らせ始め、1人思い出に更け始めた。カバーサが実況席を通し彼の回想を音声に変えて観客全員に行き渡らせ始めた、ドライバーは気付いてないらしい・・・。⑨ドライバー(回想)「そうか・・・、俺もこのチームに入ってもう3年目か。あの頃の俺はこうやって走っているだなんて想像も付かなかっただろうな。確か異動は急な話だったはず、前は営業3課にいたはずだな・・・。ホント・・・、課長がうるさかったな。一応・・・、このチームがあるから会社に入ったんだが・・・。」課長(回想)「キュルア(⑨ドライバー)!お前は相変わらず役に立たん奴だな!お前だけだぞ、この3課でノルマを達成出来ていないのはよ!何もしない癖に椅子にドカッと座って飯だけはいっちょ前に食いやがってよ、次の異動とボーナスを楽しみにしているんだな