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第324話  

 由佳はまだスキーに不慣れで、雪の坂を下る際に転んでしまい、なかなか立ち上がれなかった。

ちょうど颯太が近くにいて、滑ってきて由佳を助け起こしてくれた。

由佳はストックで体を支え、目の雪を払って颯太に「ありがとう」と言った。

颯太は照れくさそうに笑いながら、「いえいえ、その……お姉さん、LINEを追加してもいいですか?」と言った。

由佳が同意しなかった場合に備えて、 颯太はすぐに説明を加えた。「クリーニング代を渡したいと思って」

由佳は「いいですよ。帰ったら高村さんに送らせます」と答えた。

颯太は嬉しそうに笑い、尖った小さな犬歯を見せながら「はい!ありがとうございます、お姉さん!」と言った。

ノルウェーでは昼が長く、夜が短いため、午後三、四時にはもう暗くなってしまう。

スキー場は早くから明かりが点灯し、雪の中が明るく照らされていた。

彼らはスキー場で五時過ぎまで過ごし、帰る時には疲れ切っていたが、心の中では疲れを感じることなく、むしろとても爽快だった。

帰りのバスで、高村さんは由佳の疲れた顔を見て、しかしリラックスした表情を見て、肩をポンと叩きながら笑って言った。「どう?スキーはたのしかった?」

由佳は頷きながら、「今日はとても楽しかったです」と答えた。

「そうでしょ?何も考えずに楽しむのが一番。あと一ヶ月後に帰ったら、山口さんのことなんてすぐに忘れちゃうよ!」

由佳は笑った。

その話を聞いた颯太は、由佳と高村さんの会話から、高村さんが言う山口さんが由佳の元彼氏であるとなんとなく推測した。

高村さんは 颯太に向かって話しかけた。「颯太くん、どこの大学ですか?」

颯太は「ボストンカレッジです」と答えた。

高村さんは驚いて眉を上げ、「留学しているのですか、それとも……」と尋ねた。

颯太は言った。「十二歳の時に家族と一緒にM国に移住しました」

そのため、彼は国内のネットにはあまり関心を持たず、由佳や清次のことは全く知らなかった。

「グリーンカードは取得しましたか?」

颯太は頭を振り、「今年の年末に帰国する予定です。これからは特に問題がなければ国内に暮らすつもりです」と答えた。

「どうして?向こうでの生活は良くないのですか?帰国しようと思った理由は?」

颯太は考え込みながら言った。「決して悪くはありません。ただ、親が自分の国に帰
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