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第42話 気付かれない優しさ

一清は無言で、顔色を曇らせた。

落胆した声で、彼女は言った「確かに。」

一清でなければ、母親は死ななかっただろう。

朱墨は彼女を見て、急に胸が苦しくなった。

彼がまだ傍にいるのを思い出し、複雑な心境を抑えて感謝を伝えた「ありがとうございます。」

朱墨は眉をひそめて言った「なんでまた感謝するんだ? 必要ないって言っただろう。」

彼女の口の端が、浅い笑みを浮かべた。

朱墨は以前伝えていた。一清は彼に、感謝をする必要はないと。

でも彼女は、彼がそこまでするとは思っていなかった。

そして、彼は彼女を助けた。

彼女は体を前に傾け、彼に近づき、神妙な面持ちで尋ねた「栗原社長、あなたは本当にあの場所に私を探しに来たんじゃないですよね?」

一清の目には狡猾さが見え隠れし、子狐のような口調だった。。

朱墨は彼女の匂いを嗅いだ。優雅で温かみのある香りに、気を取られた。

彼女はとても素晴らしい香りだ......。

彼は無理矢理自分の意識を引き戻し、頭を振ってこう言った「本当だ。元々披露宴に招待されていて、行くつもりだった。その時偶然君に出会ったから助けたんだ。」

朱墨は途中で言いかけて、ゆっくりに立ち止まった。

彼女は、彼が自分の悲しみに触れたくなかっただけだと理解した。

一清はうなずき、自嘲した笑みを溢した。

彼女には他に気にすることがあるだろうか?

「実際、あなたは私を助けるべきではありませんでした。今晩あの場にいた人達は皆顔が知れてる人達です。さらにメディアもいました。 きっと表沙汰になるし、あなたのためにもならない。」

彼女の声は澄んでて美しく、成熟した女性の味わいがあった。

彼女の方に振り返ったとき、彼の目は熱くなった。

彼は口を開いたが、言葉を飲み込んだ。

再び口を開き「彼らが何と言おうと、僕は気にしない。 」と言った。

朱墨は肩をすくめ、無関心な顔をした。

珍しく彼が可愛い態度を取るので、一清はふっと笑いを溢した。

彼は少しぼんやりしている。

さっき、彼は実はこう言おうとし「もし君が助けを必要とするなら、いつでも力になる。」

ただ、今の二人の関係では、そう言うべきではなかったようだ。

一清は彼の心の中で何が起こっているのかわからなかった。

彼女の視線は流れ、彼女の口調は気合を入れたように彼にからかった。「私たちの栗
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