第37話 彼は誰にも面子を立てない

彼女の言葉を聞いて、一郎は怒りに震えた。

彼は罵った。「この無礼者！」

彼は歩み寄り、一清の顔に向かって手を振り上げた。

全ての力が彼女の顔に降りかかろうとしていた。

誰もが冷たい空気を吸い込んだ。彼女の小さな顔は、皮膚を破ることはなくても、半日は腫れるだろう。

その時、一郎の手が止められた。

彼の手首は大きな手に強く挟まれ、動くことができなかった。

いつのまにか歩いてきた栗原朱墨だった。

黒のドレスコードは長く、気高かった。

誰もが驚きに満ちて彼を見た。

彼は誰だ？

　一郎はまだ怒っていて、ちらっと見上げると、見たこともない青年だった。

　このガキは誰だ？

なんという度胸だろう、谷口社長さえ挑発する勇気があった！

　その瞬間、彼は怒って言った。「なぜ俺を止めた？」

　朱墨は彼を一瞥し、氷のように冷たい声で言った。

「今日は少なくとも大事な日です。兼家家はこの劇を見るために俺をここに招待したのですか？」

そう言うと、彼はうんざりした表情で一郎の手を振り払った。

　彼は翔から渡されたハンカチを取り、手を拭いた。

一郎は数歩後ずさりしてよろめいた。

　立ち止まる間もなく、克之が興奮した面持ちで歩いてくるのが見えた。

「栗原社長、いらっしゃいましたね」

　この言葉が出た瞬間、現場は衝撃に包まれた。

　栗原社長？

栗原ということは、もしかして栗原家の人？

その場にいた人達が静かにつぶやいた。

「兼家家が栗原家を結婚式に招待したという話は前から聞いていましたが。ウソだと思っていましたが、まさか本当だったとは。招待されたのは、つまり栗原グループの社長、栗原朱墨ですよ！」

その場にいたお金持ちのお嬢様の多くが、こそこそ話していた。

彼女らは朱墨の綺麗な顔を見つめ、思わず顔を赤らめた。

「この栗原社長は、本当に若い才能の持ち主ですよ！」

「そうですね、栗原家の社長はとても上品で控えめだと前から聞いていたのですが、まさかこんなことが！」

彼らの目は輝き、心臓は太鼓を打つようだった。

もし栗原社長と結婚できたら、本当に前世で作ってきた幸運のようなものだった。

一清でさえ、彼を見ずにはいられなかった。

こんなイケメンがいるのだろうか？

彼に比べれば、彼女の隣にいた右京は暗くなって光が失われた。

容姿、体型、気質、家