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第434話

作者: 夜月 アヤメ
三人は高級ブランドを取り扱うショッピングモールに到着した。西也は普段、あまりショッピングに出かけることはない。彼が普段使う腕時計はブランドから直接家に送られてきて、それを自分で選ぶことが多いし、スーツも彼の家に来てフィッティングをしてくれる。

でも、花は買い物に出かけるのが好きだ。自分で店を回って、手に取って選ぶのが楽しいし、賑やかな雰囲気も好きだった。宅配で届くよりも、店を歩き回る方が気分が良い。

「西也、後で買うときは、私のカード使ってよ。あなたが買わなくていいから」

若子はそう言いながら、ちょっと気を使っていた。ここに置いてあるものはすべて高価だし、西也が彼女に何か買ってしまうとかなりの金額になるだろう。結局、二人は偽の結婚なんだから、無駄にお金を使わせたくないと思った。

西也は苦笑いを浮かべて、「そんなこと言うなよ。偽の結婚だとしても、感謝の気持ちも込めて買わせてもらうよ」

「でも、ここは本当に高いんだよ。あなたにこんなにお金を使わせるのは申し訳ない」

「俺にとっては大したことないさ。それに、何も買わないと、父さんが怪しむからな」

「それなら......わかった。でも、高すぎるのは避けてね」

その時、花が横から口を挟んだ。「あー、若子、無駄に遠慮しないで。うちの兄ちゃん、金がありすぎて使いきれないんだから」

若子は右手に何も着けていなかった。

「そうだな、まだ指輪を買ってなかった。好きなのを選んで、買ってあげるよ。きっと役に立つから」

結婚指輪は必須のものだ。偽の結婚でも、若子はつけていなければならない。だから、彼女は頷いた。

三人はジュエリーショップに入り、店員が笑顔で近づいてきて、いろいろな種類のリングを紹介してくれた。

実は若子は、自分が本当に好きなリングを選ぶ気分ではなかった。ただ適当に一つ指さしただけだ。しかし、花がその横で口を挟み、これはダメ、あれはダメと言い続けた。若子は数回指を差しながらも、花に却下されてしまい、結局、だいぶ時間がかかってしまった。

その時、どこからか声が聞こえてきた。「藤沢様、この指輪はいかがですか?サイズを自由に調整できるので、指の太さに合わせて使いやすいですよ」

「藤沢様」という名前を聞いた瞬間、若子は少し驚いた。

彼女は思わず振り返って一瞬見ただけで、特に深い意味はなかった。ただ「藤沢」
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    「修......私はあなたを恨んだこともあるし、あなたに失望したこともある。でも、今はただ、あなたに会いたい。それだけでいいの。お願い、少しだけでも会って。せめて......この子に触れてほしいの」 若子は必死に訴えた。 しかし― 病室の中は、静まり返ったままだった。 若子の声が届いているはずなのに、修は何の反応も示さない。 その沈黙に、若子は焦りを覚えた。 彼女は思わず立ち上がろうとする。 「待って」 花がすぐに肩を押さえ、小さな声で制止した。 「座って。どんな話でも、座ったままでできるでしょう?」 若子は、花と約束していた―感情的にならず、彼女の言うことを聞くと。 仕方なく、彼女は再び車椅子に座り直した。 「修......お願い。会いたくないなら、それでもいい。だけど、一言だけでも返事をして。あなたはもう、お父さんなのよ。 あなたが今、これを知ってどれだけ怒っているか、想像できるよ。だって、あなたの子なのに、私はずっと隠してきたんだから......でも、今なら分かる。私は間違ってた。 修......お願い、声を聞かせて。どんなに私を恨んでもいい。でも、子どもには罪はないわ。 本当にごめんなさい。もっと早く言うべきだった。でも、約束する。子どもが生まれたら、最初にあなたが受け取るのよ。あなたはずっと、この子の父親よ。この事実は、誰にも変えられない。 私たちが離婚しても、子どもは二人で育てるわ。この子が『パパ』と呼ぶのは、あなたしかいない」 若子の涙が次々とこぼれ落ちる。 それを見た花は、すぐにバッグからティッシュを取り出し、そっと彼女の涙を拭った。 「若子、落ち着いて。約束したでしょ?深呼吸して」 花は彼女が泣き崩れることを心配していた。 このままでは、お腹の子にも影響が出てしまう。 それに、明日は手術だ。 花は、自分の判断で若子をここへ連れてきた。 もし彼女の体調が悪くなれば、その責任は自分にある。 若子はティッシュを受け取り、何度か深呼吸を繰り返した。 「......花、修はどうして何も言わないの?」 「たぶん......考えてるのよ。どう答えればいいのか、分からないのかもしれない」 「......」 「若子、今日は帰ろう?」 花は静かに提案

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    花は若子を乗せ、指定された住所へと車を走らせた。 そこは、高級なプライベート病院だった。 すでに面会時間は過ぎており、若子が修の病室に行こうとすると、看護師に止められてしまう。 仕方なく、若子は光莉に電話をかけた。 すると、光莉がすぐに病院へ連絡を入れ、若子が通れるように手配してくれた。 看護師は電話を受けた後、すぐに通行を許可する。 こうして、ようやく若子は修の病室の前までたどり着いた。 ―深呼吸。 彼の前に立つだけなのに、心臓が激しく鳴る。 そんな若子の緊張した様子を見て、花が言った。 「代わりにノックしようか?」 「いいえ、自分でやるわ」 若子は小さく息を吐き、花がそっと車椅子を押し出す。 そして、勇気を振り絞り、扉を軽くノックした。 ―修は、この扉の向こうにいる。 すぐそこに。 ドクン、ドクン、と胸が高鳴る。 しかし― 中から、何の反応もない。 彼はすでに眠っているのだろうか? 今、邪魔するべきではない? でも、ここまで来て、何もせずに帰るなんてできるわけがない。 「若子、大丈夫?無理しないで、やっぱり戻る?」 花が心配そうに問いかける。 「......ううん」 若子は首を振り、目を閉じて感情を整える。 そして、そっと口を開いた。 「修......私よ」 ―彼に、私の声が届くだろうか? 「入ってもいい?話したいことがあるの」 だが、部屋の中は沈黙を保ったまま。 やはり、彼は私に会いたくないのだろうか。 そうでなければ、こんなにも頑なに扉を閉ざすはずがない。 若子の胸に、不安が広がっていく。 私がここに来たこと、彼は怒ってる? 彼はもう私のことなんか見たくもない? 会うまでは、どんなに拒絶されても構わないと思っていた。 だけど、今、ほんの一枚の扉を隔てた距離になって、怖くなった。 心の中には、相反する二つの感情が渦巻いている。一つは、どうしても彼に会いたいという強い想い。もう一つは、彼の世界を乱してしまうのではないかという不安。 「修......私をどれだけ恨んでいても仕方ない。何も弁解しない。ただ......謝りたかった。 許してほしいなんて思ってない。でも、どうしても言わせてほしいの。 修...

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第721話

    花は車を走らせ、若子を乗せて病院へ向かっていた。 若子は何度も時間を確認し、焦りを募らせる。 「花、もう少しスピード出せない?」 「若子、気持ちは分かるけど、落ち着いて。ここ、制限速度があるの。もしスピード違反で警察に止められたら、もっと時間がかかるわよ?」 若子は深く息を吸い、無理やり気持ちを落ち着かせようとした。 もうすぐ修に会える。 それなのに、心がざわついて仕方ない。 そのとき― 「また雨が降ってきたわね」 花はフロントガラスに落ちる雨粒を見て、ワイパーを作動させた。 若子も窓の外を眺める。 雨粒が窓を伝う様子を見ていると、なぜか胸が締めつけられるような気分になった。 ―嫌な予感がする。 不安が、静かに胸を締めつける。 「若子、彼に会ったら、何を話すつもり?」 花がふと尋ねた。 若子は小さく首を振る。 「......分からない。ただ、今はとにかく彼に会いたいの。そのあとで、まず謝ろうと思う」 「でも、もし彼が許してくれなかったら?それどころか、会うことすら拒否されたら?」 「......」 若子は少しだけ考え込み、ぽつりと答えた。 「......それなら、扉の外からでも話すわ」 何があっても、彼に伝えなければならない。 彼女は妊娠していることを― どんな形でもいい。 修にこの事実を伝えるのは、彼女自身でなければならない。 もし誰か他の人から聞かされたら、修はどんな気持ちになるだろう? 怒り?失望?絶望? それなら、怒りをぶつける相手が目の前にいたほうがいい。 彼女が直接伝え、直接その怒りを受け止めるべきだ。 花はそれ以上何も言わず、車を走らせ続けた。 目的地までは、あと少し。 ナビの表示では、あと10分ほどで到着するはずだった。 ―だが、次の瞬間。 雨の中、突然人影が横切る。 「っ......!」 花はすぐさまブレーキを踏み込んだ。 キィィィィッ― 急ブレーキの衝撃で、若子の体がぐらりと揺れる。 だが、シートベルトのおかげで大事には至らなかった。 「何があったの?」 考え事をしていた若子は、状況が分からず花に尋ねる。 「若子、ここで待ってて。絶対に動かないで」 花はそう言うと、シートベルト

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第720話

    西也とノラはベッドに横たわったまま、ずっと若子の帰りを待っていた。 しかし、いくら待っても戻ってこない。 若子は一体どこに行ったんだ? 西也はスマホを手に取ろうとしたが、それはソファの上に置きっぱなしだった。 彼が起き上がろうとした瞬間― 「起きないでください」 付き添いの介護士が、厳しい口調で言い放った。 西也は眉をひそめる。 「......俺の給料で働いてるんだぞ。俺の言うことを聞け」 だが、介護士はまったく動じなかった。 「今は、奥さまが私に給料を払っています」 若子は出かける前に、すでに念押ししていたのだ。 西也は少し考え、交渉に切り替える。 「分かった。じゃあ、俺を起こしてくれ。ソファの上に財布がある。中の金、全部やる。若子には内緒だ、バレないように―」 「バレますよ」 ノラが布団をしっかり握りしめながら、真顔で言った。 「起き上がったら、お姉さんに報告します。介護士さんと共謀したら、それも報告します」 「お前......本気か?」 西也は信じられないという顔をする。 「このままずっとベッドに寝てるつもりか?」 ノラは唇を尖らせ、のんびりと言った。 「寝てるの、別に悪くないですよ?ベッドはふかふかだし、VIP病室って最高ですね。家のベッドより全然快適ですよ。それに、西也お兄さんも一緒ですし」 「お前......!」 西也は怒りで拳を握りしめた。 こいつ、本当にムカつく......! だが、若子の怒った顔を思い出し、ぐっとこらえるしかなかった。 彼女の本気度は冗談じゃない。 介護士は穏やかに言う。 「お二人とも、大人しく寝ていてくださいね」 西也は深いため息をつき、天井をじっと見つめた。 ノラはそんな彼を見て、ニヤリと笑う。 「やっぱり、お姉さんは先を読んでたんですね」 「何が嬉しいんだ?」 西也はイライラしながら言い返す。 「全部お前のせいだろ?余計なことをしたせいで、こんなことになってるんだぞ!」 「僕のせい?」ノラは無邪気な顔で首を傾げた。 「何もしてませんよ?」 「舌を噛んだのは誰だ?」 「......ああ、そのことですか」 ノラはあっさりと答える。 「でも、西也お兄さんだって頭痛の演技してた

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第719話

    「明日、手術を受けるの。お医者さんに、無理な移動はしないようにって言われたわ。お腹の子に影響があったら、大変だから......」 若子は心配そうに呟く。 本当なら、修に会いに行きたい。どんなことをしてでも、彼に会いたい。 でも、彼女のお腹には修の子どもがいる。 だからこそ、無謀な行動はできなかった。 「お兄ちゃんは、今日藤沢に会いに行こうとしていたことを知ってるの?」 花が問いかけると、若子は頷いた。 「知ってるわ。昨日の夜に話したの。でも、お医者さんに止められちゃって......」 「なるほどね......」 花はちらりと目を細め、何か考え込むように視線を動かした。 ......なんだか、ちょっと引っかかるな。 若子は考えれば考えるほど、気持ちが沈んでいく。 「明日の手術......無事に終わるといいけど......でも、それよりも修に会いたい......せめて、電話に出てくれれば......」 「若子、藤沢が今どこにいるか、分かるのよね?」 花の問いかけに、若子は反射的に頷いた。 「ええ、分かるわ」 「じゃあ、私が車を出して連れて行ってあげようか?」 「本当!?」 若子の顔が一瞬で輝く。 でも、すぐに冷静になり、心配そうにお腹を押さえた。 「でも、お腹の子どもが......お医者さんが―」 「それは、お医者さんが『万が一』を心配してるからでしょ?」 花は若子の言葉を遮り、説得するように言う。 「車椅子に乗せて、移動は私が全部やるから。車に乗るのも、降りるのも、私がちゃんとサポートするわ。あなたは一切動かないで、ただ座ってるだけでいいの。そうすれば、問題ないんじゃない?」 若子は花の言葉を聞いて、ぐらりと心が揺れた。 「......それなら、大丈夫かもしれない......」 でも、少し迷いが残る。 「念のため、お医者さんに確認したほうが......」 「お医者さんに聞いたら、『ダメ』って言われるに決まってるわよ。慎重な人たちなんだから。もし問題なくても、絶対に行かせてくれないわ」 花の言葉を聞いた瞬間、若子の心は決まった。 「......そうね。分かった、花、お願い。連れて行って」 ―ついに、会いに行く理由を見つけた。 もう迷わない。どん

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