帰ってきて数日が経った私は色々な手続きを終えた。まずは領民所に行って、失踪届を取り下げた。失踪届を取り下げに行くと、何故か思った以上に話がトントン拍子に進んで驚いた。「待ってましたよォ!!ラウル様から話は聞いてます!」兄さんが裏で手を回してくれていたようだ。「いやぁ、何でもアドルフには伝えちゃダメって言うじゃないですか。まぁ、アルデンテ一家を敵に回すのは辺境伯を敵に回すも同義なんでね。絶対伝える気なんかないんですが…」ニコニコ話してくるスタッフさんを見て私も思わず苦笑いをする。「な、なにか?」「いえ。パッと見は虫すら殺せそうな雰囲気なのに意外だなと思いまして…」そうだろうか。昔から兄さんたちと一緒に喧嘩ばかりしていたからか、そんな言葉を言われたのははじめてだ。「あっ、この書類にサイン下されば完了なんで!アドルフさんがこれからどうなるか今から楽しみにしてますね!」それじゃぁ。とにこにこしながら手を振るので私も手を振り返した。気の締まらない雰囲気のまま終わってしまった。早く終わったことをラッキーと思いながら、次は不動産屋へいく。「いらっしゃ…まってたよぉ!マウロから話は聞いてるよ。」いつから兄さんもマウロもこんな知り合いが増えたんだ…「今借りている家の解約だよね。あとここにサインしてくれれば終わりだから!」見るからにさっきと同じ流れだ。「なんでこんなに準備が…?」「そりゃ、アルデンテ一
「ついにこの日が来たな。」「そうだね。」「今からアイツらがどんな顔するのか…楽しみでならない。」兄弟で話していると父さんが 「お前らは加減ができないから程々にするんだぞ!」と呆れながら言う。 「そこは父さんと母さんの子だから安心してよ!」 自分の胸を軽く拳で叩いていうと。兄さんが「だから心配なんだよ。」と笑いながら言う。 喧嘩っ早い母さんと、普段は穏便なのに怒ると誰も簡単に止めることが出来ない父の子供なのだからだそうだ。「まぁ、その時はマウロがとめてくれるだろ?」「本当、こういう時だけ都合いいんだから。まぁ、エル姉が犯罪者になる前に止めてあげるよ。」4人で冗談を言いながら朝ごはんを食べているとあっという間に時間になった。 ⟡.·*.··············································⟡.·*. 私は1人でゆっくり、半年だけ住んだ家に向かって歩く。兄さんとマウロは少し後ろから着いてきてくれる算段だ。「懐かしいな。半年しか住んでいなかったがこんな街並みだったよ。」私は自分の家にたどり着くと、小さな呼び鈴を鳴らした。 そして呼び鈴を鳴らした瞬間、出てきたのは子供と女の人だ。 子供の年齢を見るに、下の子だろうか。そして女の人はガーナだろう。「こんにちわ。アドルフさんの知り合いのものなのですが久しぶりにこの街に帰ってきたので、挨拶でもと…」パッと見は大人しそうと言われることがよくあったし、話し方さえ気をつければ気付かれないだろう。「こんにちわ!!!」「こんにちわ。元気ね。お名前は?」子供が挨拶してくれたので私も挨拶をする。「ぼくはロッテ。5さい!!」 たしか聞いていた名前はメージだったはずだ。ということはやはり弟か。「そう、ロッテ君と言うのね。お父様はご在宅かしら?」「いるよ!ちょっとまってて。」ロッテは 扉の中へアドルフを迎えに行った。ガーナはと言うと… 何故か顔を真っ青にして私を見ていた。 「お父さん、早く早く。」 手を引かれているのか、「待ちなさい」という声と共にヨタヨタとした音が聞こえる。扉に向かって歩いてきているようだ。 そして扉が開いた瞬間、私は扉が閉まらないようにストッパー代わりに足を差し込んだ。「コンニチワ。アドルフさん?」「え、
「まぁ7年間のうち、初めの2年間は口約束の許嫁だ。2人が一緒に住んでいたという情報は集めてあるが…浮気については…許すとして…」そう言った瞬間2人の顔がパッ明るくなる。本当にわかりやすい。「問題はそこじゃないんだよ。子供だよ。子供がいることを黙ってましたよね?アドルフ君は…そして、結婚後も関係を続けていたと…2人は結婚されていたんですか?」結婚したあとに二人が一緒に店に来ていたと、証言は取れている。「結婚はしてないわ!!そうよね?アドルフ。」「《《結婚は》》ねぇ…。」確かに、この国では結婚する時に書類を提出しなくては行けない。籍を入れることはしていなくても、重婚する方法は他にもある。同棲を2年以上続けることだ。そうすることで事実婚という扱いになるが、既婚者がいての事実婚は認められていない。この国は愛妻家が多いこともあり、重婚は認められていない。もし重婚が発覚した場合は…重い罪に問われることとなるだろう。「お、お、おお前が帰ってこないから、失踪届を出したし、重婚にはならないはずだ。」「残念でしたね。失踪届けを出してもその後と処理をせず、そのままにしていた時点でアドルフくんは既婚者のままなんですよね。まぁ、その証拠に、あなた方には毎月《《私が》》魔物討伐で稼いだ銀貨30枚を5年間。計1800枚が支払われていたはずです。」支払われた金額の書類を一緒に渡す。「私は何も知らなかったの!結婚してることも知らなかったわ!」ガーナが叫び出す。そもそも誰も働いていないのに毎月銀貨30枚が届くのだ。善良な人であればこの違和感に気づいてアドルフに聞くものでは無いだろうか。「なるほど。ガーナさんは何も知らなかったんですね。でも…ざーんねーん!そんな言い訳通用すると思ったのか?」そこまで伝えると、兄さんが私の代わりに話しはじめた。「エルがいない間のことを調べた。お前らは知らないみたいだが…俺たちアルデン
認定証を突き出すとその紙を食い入るように見るアドルフ。まさかここまで来て自分の名前が載っているんじゃないかと思っているのか?「ほ、ほ、本当に名前が載っていない。」「当たり前だろ?お前は行ってないんだからな。因みにここまで支払った分は全て返してもらうからな。銀貨1800枚と家賃は毎月銀貨10枚だったから、5年分で600枚か。合計2400枚だな。」「そ、そんな大金どうやって…。」あくまでもこれは今まで私が支払ってきた分を返してもらう金額だと気づいているのだろうか。ここから重婚罪に、私を無理やり魔物討伐に送り込んだ罪もあるし、下手したら子供がいることを騙したまま結婚し、金だけむしり取っていた部分は詐欺罪にもあたるかもしれないだろう。まだその辺の話はひとつもしていないが…。「おばさんたちに頼みましょう。そのくらいすぐ出してくれるわ…」「あ、あぁ…そうだな。」素直に払おうとするところは認めなくもないが…まさか人頼みだとは思わなかった。「あぁ、アドルフくんのお義父さんから伝言を預かっているよ。お前とは縁を切る。今後一切関わる気は無い…とね。」「う、うううそだ!そんな事母さんが認めるわけないじゃないか!」何で母親なんだ!?そこは父さんだろ!?「あぁ、そのお義母さんからも伝言があるよ。自分の嫁をそんな風に扱う様な子に育てた覚えはない。もううちの敷居をまたぐな。だそうです。」「ほら、やっぱ……え…?」そもそも、許して貰えると思ったのか…この何年か働きもしなければ、
~ガーナ視点~小さい頃から私には幼なじみが3人いた。モーリーとナーガー、それに、アドルフだ。きっと私はこの中の誰かと結婚すると思っていたの。でも、ナーガーは好きな子ができたと去っていき、アドルフには許嫁ができた。モーリーだけは一緒にいてくれたけど、顔がタイプじゃなかった。それでも一緒にいてくれるならと思ったの。「だって自分だけを愛してくれるなんて…愛されているって実感できるでしょ?」小さい頃からアドルフも好きだと言ってくれていたけど、本当に私だけを愛してくれるのか、許嫁の方にいくか分からなかった…「勿論顔はあなたの方が好みだったし、愛していたのはアドルフだったのよ。でも貴方。そこの女と結婚しちゃったじゃない!」本当は私が貴方と結婚して、幸せに暮らすはずだったのに…私の夢はそこで1度全て崩れた。そう思ってたのだけど…「あなたとの子供がお腹に宿っていたの。これはチャンスだと思ったわ!また一緒にいれるんじゃないかって…」やっぱり、私の世界だもの。私が幸せでいないと行けない。これは神様が機会を与えてくださったのだと思った。「そして、メージが産まれたわ。」メージが産まれた時、アドルフは飛んで喜んでいたわ。けれど…アドルフは許嫁と結婚したと言って家に来ることがめっきり減ったの。すごく寂しかったわ。1人でメージを育てるのもすごく大変だった。そんな生活が半年くらい続いた頃だろうか。アドルフが家に尋ねてきたの。
⟡.·*.··············································⟡.·*.アドルフ視点。「待ってくれ!ガーナ。」俺が呼んでもガーナが振り向くことは無かった。ガーナのことはよく公園で見かけた。いつもボロボロな服を着て、それでも笑っている姿が印象的な子だった。子供だからか家の事情なんで全然知らなかったけど、俺の家とは全然違うということはわかった。だからだろうか。すごく気になったのは…いつしか毎日公園に行って遊ぶようになっていた。エルヴィールという許嫁が出来たあとも関係を断つことが出来なかったのは好きだったからなのか同情だったのかは分からない。ただ言えることはガーナが去った今、心の中に穴がぽっかりと空いたような気分だけだ。「ガーナに捨てられたところ悪いが、私も渡したいものがある。離婚届だ。あとは先程話した請求書に名前を記入してくれ。」エルヴィールは俺の気持ちなんか関係な
兄がメージとロッテの相手をしてくれている間に、私はアドルフに書類を渡す。「お前には慈悲というものがないのか…」兄に対してはあまり反抗的な態度を取らないのにやたら私には突っかかってくる。「その言葉そのままお前に返すよ。」正直言って、アドルフだけじゃなくガーナからも返済してもらうのが1番早かったのだが、そうしなかった理由がひとつある。ガーナのことはそこまで恨んでいなかったからだ。ぶっちゃけた話、アドルフとの結婚は親同士が決めたものだったし、好きかどうか聞かれたら普通と答えるくらいのものだった。「私は無理に結婚する気はなかったんだ。騎士団に2年間行く時点でお前に好きなやつができてもおかしくは無いと思っていたからな。それにお前が私を好きじゃないことくらい分かってたし、私自身も好きか嫌いか聞かれたら普通と答えるくらいだったしな。」それでも結婚しようと思ったのは、母さんが亡くなる直前に「エルには女の子として幸せになって欲しい」と言われたからだ。騎士団に入ると言った時、父さんは「やっぱりお前もか…」と言っていた。母さんの昔話をあまり聞くことがなかったけど、父さんの話的に母さんも騎士団にいたのではないかと思う。自分都合で騎士団に行くことにしたし、もしこの2年で、アドルフに別に好きな人ができたなら、その人と幸せになって欲しいなと思っていたくらいだ。だから正直に話してくれていれば、私は潔く身を引くつもりでいたし、そのまま騎士団にいてもいいと思っていた。だが…アドルフは結婚しようと言ってきた…「お前が金に目を眩ませなきゃこんなことにはなってな
~ルエル視点~エル隊長が居なくなって1週間くらい経ったころだろうか。この部隊も残り半年の任期で終わるという頃、急遽団長から呼び出された。「ダックワーズ団長。急に呼び出しなんて…僕何かしましたか…?」呼び出されるようなことは何もしていないはずだけど…。もしや、エル隊長が居なくなったことで魔物討伐数が落ちているからだろうか…。しかし、考えてみてほしい。そもそもあのエル隊長が1人で殴っては切り、殴っては切りを繰り返していたのだ。「魔物の討伐数が少ないとかでしたら…申し訳ないんですがエル隊長が居なくなったので…」「分かっている。呼んだのは別の内容だ。バルコ、連れてこい。」バルコ副団長が首根っこを捕まえて見たことの無い人をずるずると引き摺ってくる。「こいつが誰かわかるか。」この5年間見たことないからここにいた人では無いと思うけど、どこかで会ったことあっただろうか…。「いや、全く…誰ですかね?」「アドルフといえば分かるか?」「あぁぁぁぁぁ!!アドルフ?お前があのアドルフなのか!」アドルフと言う名前はこの魔物討伐部隊の中でかなり有名な名前だ。まさかそんなアドルフとこんな前線で会えるなんて思ってもみなかった。「ふぁ…ふぁぃ。あのアドルフが分かりませんが…アドルフです…」緊張しているのかやたら覇気のない話し方だ。「ルエル。お前の隊、最近欠員が出たばかりだろ。こいつを入れてやってくれ。」そう言って連れてくよう指示を出す団長を見て、何となく団長が考えていることの意図がわかった気がする。「わっかりましたぁ。僕は大隊長を務めてるルエルと言います。よろしくお願いします。」手を出して挨拶をすると恐る恐るその手を握り返した。アドルフを連れて隊の中に戻ると、皆がアド
騎士団に入ってから3年が経った。この3年は他の領地にある騎士団が魔物討伐に向かっているため、比較的平和な時間を過ごしていたように思う。騎士団に入ってから知ったことだが、この国では魔物討伐を率いる騎士団は領地ごとで順番になっていたようだ。たまたま私が行った時の魔物討伐部隊を率いていたのが自領のダグワール騎士団だったらしい。「団長、エルヴィール・アルデンテです。失礼いたします。」朝一で団長から呼び出された私は、急いで団長室へ向かう。「あぁ。待っていた。そこに座ってくれ。」団長に促されてソファに腰を掛けると、団長も前のソファに座った。「それで…話とは、何でしょうか?」最近、これといって呼び出されるようなことはしていないと思うのだが…確かに以前は訓練で女だとバカにしてきたやつを片っ端から倒していたが、それもかなり前の話で今は落ち着いている。今でも喧嘩を吹っかけてくるのは新兵くらいだ。「魔物討伐遠征に行くことになりそうなんだ。」「なんだ…そんなことか…また、何かしたのかと思っていたので安心しました。それで次の遠征期間はどのくらいでしょうか。」また5年とかかるのだろうか…それなら父さんたちに伝えてから行かないとまた大変なことになりそうだ。「…次は1年の予定だ。以前のように魔物が活性化しているわけではないし、調査してもし活性化しそうであれば早めに対処しておこうということになった。」1年なら、全然問題なさそうだ。活性化していないということであればそこまで強い魔物もいないだろう。「その、お前は寂しくないのか?ほら、俺に死んでほしくないと…以前言っていたじゃないか。」「なんで寂しくなるんです?それに今回の魔物討伐で死んでしまう予定があるのでしょうか…?」この人は何を言っているんだろうか。私も行くわけだし、寂しいも何もないと思うのだけど…確かに魔物討伐に行くのだ。急に
騎士団に入団してから1年が経った。入団してからすぐのころは確かに女だからとバカにされることが多かったが、いつからかバカにされることはなくなっていた。恐らく、アルデンテと家名を伝えれば初めからバカにされることはなかったのだろうと今になっては思う。「バルコ副団長。私のわがままで申し訳ございませんが、家名は伏せておきたいと思っています。」「どうして?エルの家名を伝えればほとんどの人が黙るはずだよ。」「だからですよ…やっぱりこれから長い付き合いになるわけですし、自分自身のことを見てほしいと思いまして…」アルデンテ一家の名前が偉大なのはここ数か月で何となくわかった気がするが、「アルデンテ家だから」と思われるのは少し嫌だったし、やっぱりエルヴィールとして見られたい。そう思ってこの一年はがむしゃらに頑張っていたら、いつの間にか、部隊長にまでなっていたのである…。そして、もう一つ…この一年は団長と約束していた通り、休みの日は一緒に食事をしたり、出かけたりした。この1年間で気づいた事といえば、団長は思っていた以上に抜けていることが多いということだった。仕事の時は皺やシミのない制服をきちんと着飾っているような人が、休みの日になると少しヨレっとした服を着ているという感じだろうか。きっと女性たちはこういったギャップに弱いのだろう。あとは食べ歩きをしているとトマトなどのシミがついてしまうことが多い…そんな姿もかわいいと感じる部分なのかもしれないが…普段のしっかりとした団長を知っている手前、なんだか少し恥ずかしい気持ちになってしまうことが強かった。今日もそんな団長と休みがかぶっているため、一緒に食事に行
「え?結婚ですか?」就職先がやっと決まり、明日から念願の騎士団で働けると喜んでいたのも束の間、団長が他にも話があると言うので待っていると、まさかの話だった…。「結婚ってあの結婚ですよね?」単刀直入過ぎて頭がショートする。離婚して半年は経ったが、まさか自分が告白されるなんて思っていなかった。いや、告白なのか?好きと言われた訳でもないが…「そうだ。その結婚だ…」もしかして早く結婚でもしろと言われているのだろうか。でも団長ならモテそうだし、女性が放っておかなさそうだが…「なぜ私なのでしょうか。団長でしたら引く手数多でしょう。」私はそのまま疑問に思ったことを直接聞く。バツイチだし、とうが立っているしどこもいい所がないと思うが…「お、お前のことが昔から好きなんだ。」好き!?私を?!昔って喧嘩しかしてなかったけど…。「はぁ。昔って喧嘩しかしていなかったと思いますが…そんな話とかしましたっけ?」「確かに、昔は喧嘩ばかりだったが、喧嘩の理由だってお前のことが多かったんだ。それにお前が楽しそうに喧嘩したり、魔物討伐している姿をみると胸が高鳴るというか…」え…?それはさすがに…「私に殴られたいってことですか?もしかしてそういう趣味をお持ちなんですか?」「ちがう!そうじゃない!ただお前の戦い方は清々しいほど真っ直ぐでかっこいいんだ。お前が戦っている姿を見てさらに惚れた。だから結婚してほしい。」何となく団長が言いたいことは、わかった。兎に角好きだから結婚したいということなのだろう。「私は、1度結婚に失敗しています。なのでもし次結婚するなら失敗はしたくないと思っています。」「あぁ…」結婚してみて思ったが、我慢する生活は良くないとつくづく思った。言いたいこと言ってお互いのことを尊重し合えるようなそんな関係がいい
応接室の中で待っているとガチャりと扉が開く音が聞こえる。私はその音が聞こえた瞬間立ち上がった。「待たせたな。」「とんでもないことでございます。こちらこそ、お忙しい中、急遽面接を行って頂きありがとうございます。」一言挨拶をしてから頭を下げる。「いい。頭をあげてくれ。それでは面接を始めようか。」「は…い…?あれ?だ、だ、だんちょう?」頭をあげると目の前には昨日も一緒にお酒を飲んでいたはずの団長が座っていた。「魔物討伐部隊では挨拶をしたが、ここでは初めてだったな。改めてオディロン・ダックワーズだ。ダックワーズ辺境伯領にあるダックワーズ騎士団長をしている。」団長が目の前にいることにびっくりしたが、自分も改めて挨拶しなくてはならないと思い、気を持ち直して挨拶をする。「改めまして。ダックワーズ団長。この度は面接の機会を頂きありがとうございます。私、エルヴィール・アルデンテと申します。先日、名誉なことに騎士爵を賜りました。特技は戦闘全般です。よ、よろしくお願いいたします。」「こちらこそよろしく頼む。仕事内容を話したいので座ってくれ。」いつも団長は鎧を着ていることが多かったからか、スーツを着ているのが少し新鮮だ。「失礼します。」私は団長に言われた通り、ソファに座ると団長も私の前に腰を下ろした。⟡.·*.··································&m
「いたたたたた…」昨日途中までは皆で騒いでいたのを覚えているけどいつの間にか寝てしまっていたようだ。椅子で寝てしまったせいか腰と頭がすごく痛い。頭は二日酔いのせいだろう…。周りにもそのまま寝てしまったのかイカつい男たちが店の中で雑魚寝している。少し伸びをしてから立ち上がり首や肩を軽く回すと、隣で眠っていたルエルが目を覚ました。「すまん、起こしたか?」「そんなことないですよ。おはようございます。隊長。」ルエルも横で伸びをする。そろそろ仕込みが始まる時間なのか、父さんたちも起きてきたようだ。「おい、お前らそろそろ起きろ。」「あぁぃぃ。おはようございます。」少し大きい声でみなに聞こえるように声をかけるとのそのそと起き上がる。団長と副団長が居ないところを見ると昨夜のうちに帰ったようだ。「そろそろ開店準備をする時間だから帰れ。」少し眠いのか目が空いていない人や二日酔いで頭を押えているものがいる。「ルエルは大丈夫なのか?」「僕は大丈夫ですよー!隊長こそ、昨日話したこと覚えてますか?」ルエルは昔からやたらと酒が強かった。皆が酔っ払っていてもそれを見ながら笑っているくらいでケロリとしている。「あぁ、準備が出来たら地図のところに向かうよ。」「よろしくお願いしますね!門番に僕の紹介できたことを伝えてもらえれば入れますんで!それじゃあ、そろそろお暇します。」「わかった。こちらこそよろしく頼む。また後でな。」面接の時に会えるか分か
「アドルフの話はこのくらいにしておいて、そろそろ隊長の話を聞きたいです。隊長は仕事決まったんですか?」「わ、わ、私か!?仕事はな…見つかりそうではあるのだが…」4人がこちらを同時にみて「やっぱりまだ見つかっていないのか…」というような顔をしてくる。失礼な奴らだ。今まで全く求職活動をしてこなかったわけではないんだ。ただ、自分に見合う仕事がなかった…というだけのこと。「そうなんですねー。見つかりそうだったならよかったです。もし見つかっていないのであれば、以前お話していたお仕事を紹介しようかなと思っていたんですけど…」ルエルはこちらをチラチラ見ながら話してくる。この顔は本当は紹介してほしいんでしょ?という目だ。「ゴホン。ル、ルエルもしよければ参考までに、その仕事の内容だけでも教えてくれないか?」「えぇ。参考ですか?そんなの面倒くさいですよ!守秘義務というのもありますし、ここではお伝えは難しいですね。それに隊長は仕事見つかりそうなんですよね?でしたら必要ないじゃないですか。」「た、たしかにそうなんだが…な…その…すまない…仕事はまだ決まっていないんだ…」正直言ってルエルが仕事を紹介してくれるというのは渡りに船だった。半年間色々面接は受けたもののうまくいかず、最近では本当に仕事ができるのかさえ不安になってくる始末だ。「最悪、自分で傭兵団を作るのかもありかなと思っていたところだ。」傭兵団に入ることも何度か考えたが、女性が入れる傭兵団は限られておりあまりいい噂を聞かな
何を仕事にしようか考えているとあっという間に3ヶ月が過ぎていた。その間は特に仕事をしていなかったが、今まで稼いだお金があったので何とかなった。実家でこのまま暮らし続けるなら、魔物討伐出もらった銀貨があれば仕事をしなくても全然生きていけるが、それはそれでアドルフ達と同じようになってしまうのが何となく嫌だった。10年間はアドルフからお金が帰ってくる予定だけど、戻ってこない可能性も大いにあるだろう。あくまでも予定であって、生き残れなければ意味が無いからだ。傭兵団に入ることも考えたが、入ってしまえばなかなか戻って来れないだろう。で、あれば衛兵の仕事をするか…だが、衛兵は男性のみの職場だ…仕事について考えていると、マウロが部屋にきた。「エル姉。今いい?」「どうしたんだ?」「ちょっとお店に顔出して欲しいんだけど…」今考えることで忙しいのに、なんで店に顔を出さなきゃ行けないんだ。「今考え事で忙しいから無理。」「どうせ考えても答えの出ないことをぐるぐると考え続けているんだろ。ここの所ずっとそうなんだから分かるよ。とりあえず気分転換だと思って出て。待ってるからね!絶対だよ!」それだけ言うとわざと大きな足音を立てながら階段を降りていった。「仕方ない…降りていくか。」私は寝間着から着替えて、髪をポニーテールに結んでから階段をおりていくと、洋食屋にしては珍しい大きな笑い声が沢山響いていた。「今日はなんだかうるさい…え…?」
アドルフと別れてから、3ヶ月ほど経った頃ルエルから一通の手紙が届いた。その手紙にはあと3ヶ月で任期が終わるということと、アドルフが使えなさすぎて皆にいつもバカにされているということ。そして、任期を終えたらアルデンテの洋食屋に寄るということだった。「あと3ヶ月か…長いな。」この3ヶ月、仕事などを探してみたもののなかなか見つからず…。何故か分からないが、「アルデンテの娘さんなんか恐れ多く雇えません。」と断られることが多かった。そもそもなんでこんなにアルデンテ家と知ると皆断るのか私には全然分からなかった。「そろそろ父さんか、兄さん、マウロに聞いてみるしかないか。」今まで聞かないようにしていたがここまで求職を断られることを考えると、知らないままにしておく訳には行かない。「父さん。今いいか?」「ん?なんだい?」早速話を聞こうと思い、父さんのところに行くと笑顔で迎えてくれた。「アルデンテについて教えてくれ。」「あぁ、いいよ。アルデンテとはパスタを少し歯ごたえが残る状態を言うんだよ。茹ですぎずに歯ごたえが少し残ることで触感も良くなるし血糖値の急上昇を抑えてくれると言われているんだ。」「へぇー。そうなんだ。」「って、そうじゃない!私が聞きたいのはこの家の事についてだよ。」アルデンテの意味くらい知っているのに、なんでここでアルデンテの話なんてしてくるんだ。ただ家の事を聞きたいだけだと言うのに…「だからアルデンテ家は今話した通りなんだよ。」私が少し首を傾げていると、兄さんが聞いていたのか話に割って入ってくる。「アルデンテ家はな。昔からやたらと身体が強いんだ。そして、喧嘩などの戦闘能力も高い。」確かに聞いたことがある。私たちの一家は昔から男性だけでなく女性も
目が覚めると、全く記憶のないところで横になっていた辺りを見渡すとどうやらテントのようだ。外からは野太い声の笑い声が聞こえてくる。「ここは…どこた…?」やたら頬の当たりが痛い気がするが…何があったんだろうか。「あぁ、起きたんですね。」テントが開き、そちらに目を向けると女性がいたら騒ぎ出すであろう顔面の持ち主がこちらへほほ笑みかけてくる。「あ、あの。ここは一体…」「ここですか?」俺の顔を見てなんだか納得したように、「ここはとても楽しいところですよ!」とだけ言ってテントの外に出ていった。後を追って外に出た方がいいのかと迷っていると男が笑顔で戻ってきて俺の首あたりを掴む。どこにそんな力があるのか、というような力で、「さっ!いきますよ~」と言うとズルズル引きずられた。外に出るとどうやら森の中にいるようだ…自分で歩くと言えないままき引きずられているとどうやらひとつのテントの前で止まった。「団長はいりますよー。」「あぁ。」団長と呼ばれているということは…騎士団かなにかだろうか…「よく来たな。アドルフ。」「ひゃ、ひゃぃい。」団長らしき人も相当お顔が整っていらっしゃる…。思わず緊張して声が裏返ってしまった。「ここがどこか分かっているか?」ここがどこか…森の中だということはわかるがそれ以外分からない俺は首を振った。「ふ。そうか