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第 20 話

Author: 一笠
夜、輝は時間通りに凛を迎えに来た。

目的地に着くと、きらびやかなバーの看板を見て、凛は内心ためらった。

「こんな場所、私には似合わないんじゃないかしら?」

「どうして似合わないんだ?」

輝は何も言わず、凛の手を引いて車から降りた。「友達が中で待ってるんだ!」

凛は仕方なく、輝の後について中に入った。轟音のような音楽と香水の香りが一気に押し寄せてきた。

人混みをかき分けてVIP席に着くと、凛が状況を把握する間もなく、輝は凛の隣に座らせ、友達を一人ずつ紹介し始めた。

凛はバーに来たことがなく、チカチカする照明に目がくらみ、誰一人としてよく分からず、ぎこちない笑みで対応するしかなかった。

「これがお
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