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第821話 利益のために彼を裏切った
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会社を辞めてから始まる社長との恋 第822話 彼女はそんなことできない
晋太郎がテーブルに置いたままのタブレットを見つけた紀美子は、少し疑問に思いながら手に取った。タブレットにはパスワードが設定されておらず、簡単に音声が流れるアプリを開くことができた。アプリには音声ファイルが表示され、その下には自動生成されたテキストがあった。自分の名前がそこに書かれているのを見て、紀美子は眉をひそめながらじっくりと読み進めた。最後まで目を通すと、紀美子は驚愕し、目を見開いた。貞則が、静恵に自分を殺させようとしている？！期限は半月だという。紀美子の背中には冷や汗がにじみ出てきた。動揺がまだおさまらないうちに、突然携帯が鳴った。紀美子はびっくりして振り向き、ベッドサイドに置いてあった携帯を手に取った。翔太からの電話だとわかり、彼女は急いで通話を取った。「兄さん」紀美子の声は少し震えていた。「紀美子、今どこにいる？」翔太は電話越しに焦った声で問いかけてきた。紀美子は答えた。「家にいるけど、どうしたの？」「貞則が静恵にお前を狙わせるつもりだ。紀美子、この期間はどこにも行かないで。静恵は俺が何とかするから！」翔太は真剣に言った。紀美子は言った。「晋太郎も同じ音声を受け取ったの？」紀美子の驚いていない様子に、翔太は聞き返した。「晋太郎から聞いたのか？」「違うの」紀美子は説明する。「彼のタブレットが私の部屋にあって、それを見たの」翔太は答えた。「このことは晋太郎にも伝えて。彼にもっと多くのボディーガードを手配させて。貞則の件は明日には解決する」「明日なのね？」紀美子は少し安心した様子で言った。「それなら、貞則が捕まれば私を殺す計画もおじゃんになるわね？」「そう簡単にはいかないんだ！」翔太は言った。「静恵は元々お前に恨みを持っている。何をしでかすかわからない。彼女は銃を持っているし、俺は賭けられない。お前を失いたくないんだ、わかるか？」紀美子は微笑んだ。「兄さん、わかってるわ。静恵の問題が解決されるまでどこにも行かない」翔太：「よし」電話を切った後、翔太は晋太郎に電話をかけた。すぐに晋太郎は電話に出た。翔太：「晋太郎、貞則が静恵に紀美子を狙わせようとしている。彼女に銃まで渡してね。この二日間で何とか静恵を解決しない
会社を辞めてから始まる社長との恋 第823話 俺の言う通りにしろ
影山からの電話だった。静恵は次郎が晋太郎に殴られたことを知らず、今回も次郎の電話だと思い込んでいた。次郎がなぜまたこの番号でかけてきたのか、彼女には分からなかった。静恵は電話に出た。影山は言った。「森川家での生活があまりに快適で、何をすべきか忘れたのか？」静恵は怒りがこみ上げてきた。「影山、もうとぼけないで！あんたが誰か、私が分からないとでも思ってるの？私を嘲笑って楽しい？」静恵は覚悟を決めた。どうせ貞則は今彼女を必要としているし、次郎がこれ以上何をできるというのか。電話の向こうで無言の沈黙が続いた後、影山は言った。「君は俺を誰だと思っているんだ？」「次郎でしょ？分かっているわ！いつまでごまかすつもり？私を傷つけるのはもう十分じゃないの？」静恵は感情を抑えきれず叫んだ。影山は低く笑って言った。「誰が俺を次郎だと言った？」その問いに、静恵は不安を感じた。「じゃあ、あんたは誰なの？次郎じゃないの？」「病院で次郎の今の状況を聞いてみるといい」影山は言った。静恵は眉をひそめた。「どういうこと？」「彼は晋太郎に殴られて病院送りだ。顎は外れ、鼻は骨折して、今は話すこともままならない」静恵は驚いて目を見開いた。次郎は、また病院に行くことになったのか？！じゃあ、電話のこの人は一体誰だ！？誰であれ、今は無礼な態度を取るわけにはいかない。影山の能力は、十分に警戒しなければならない。静恵はすぐに口調を和らげた。「ごめんなさい、ちょっと唐突だったわね。今日は何か用？」影山は言った。「佳世子の件はよくやった。これから何をするつもりだ？」静恵は探るように聞いた。「影山、失礼だけど、一つ聞いてもいい？何をしようとしているの？」以前は晋太郎を狙っているように見えたのに、今は紀美子を狙っているように感じた。「俺が何をするかなんて君が知ることじゃない」「じゃあ、影山が電話をかけてきたのは、次に何をするか聞くためだけ？」「君に、俺の計画を聞く資格があると思うのか？」静恵は深く息を吸い、感情を抑えて言った。「影山には何も隠せないわね。それなら、貞則が私に頼んだことを話すわ……」静恵は貞則の計画を話し、そして自分の懸念を伝えた。「晋太郎と翔太はこ
会社を辞めてから始まる社長との恋 第824話 距離を保つべき
藤河別荘。紀美子は心ここにあらずといった様子で食卓についていた。朔也が外から戻ってきたとき、彼女はまだぼんやりと座っていた。朔也はしばらく彼女を見つめ、それから彼女の目の前で手を振った。「G？」朔也は不思議そうに言った。「何を考え込んでるんだ？」紀美子は我に返り、ゆっくりと朔也を見上げた。「別に、あなたはご飯食べた？」「まだだよ」朔也は紀美子の隣の椅子を引いて席についた。「子どもたちは？」「上で遊んでるんじゃない？」紀美子は淡々と答えた。彼女は無心に茶碗の中の白米を一粒ずつ口に運んだ。「G、悩み事があるようだね！」朔也は見抜いたように言った。「でも、今の君は何も話してくれないみたいだ」そう言うと、朔也は心苦しそうにため息をついた。紀美子は黙って箸を置いた。「ただ、あなたにあまり心配をかけたくないだけよ」「俺は君の友達だよ！」朔也は真剣な様子で言った。「少しでも何か手伝えることがあれば、本当に助けたいんだ」紀美子は微笑んで言った。「工場と会社のことを任せられるだけで、私は十分嬉しいの」朔也は舌打ちをし、さらに何か言おうとしたが、突然外から車のエンジン音が聞こえてきた。紀美子は晋太郎が帰ってきたと思い、さっと振り返り急いで立ち上がって玄関に向かった。朔也は嫉妬交じりに言った。「G、もう少し控えめにしてよ！晋太郎が戻ってくるのがそんなに嬉しいの？俺が帰ってきたときはそんなに歓迎してくれないじゃないか！」紀美子は振り返らずに言った。「彼に用があるの」朔也はむっとして顔を支え、ぶつぶつと文句を言った。「彼だけが大事なのか。友達なんてどうでもいいってか、ふん！」紀美子はドアを開けて外に出たが、目の前に現れたのは晋太郎ではなく、悟だった。以前から悟は何の前触れもなく来ることがあったが、今の紀美子は少し違和感を感じた。しかし、もう外に出てしまった以上、戻るのも気が引けるため、仕方なく近づいて声をかけた。「悟、どうして来たの？」悟は手に薬箱を持って微笑みながら答えた。「忘れたの？毎年、君の家に薬を取り替えに来ているじゃないか」紀美子は薬箱を見て一瞬ぼんやりした。「ごめん、すっかり忘れてた……」悟は海外にいたときから、毎
会社を辞めてから始まる社長との恋 第825話 彼の命を危険にさらすな
藤河別荘の前で。晋太郎は肇に用事を伝えるため、一人で車を運転して戻ってきた。紀美子の家の近くに差し掛かった時、晋太郎はまだ工事中の別荘に目をやった。彼は紀美子が気づかないうちに中を覗いて工事の進行状況を見ようと、別荘の前で車を止めた。晋太郎は車を降り、庭に足を踏み入れた。階段を上がろうとしたその時、紀美子の別荘の庭に立っている二人の人影が目に入った。振り向くと、背を向けている悟と、その前に立っている紀美子であった。悟が何かを言った後、突然手を上げ、少し身を屈めて紀美子に近づいた。紀美子も特に避ける様子はなく、まるで二人がキスしようとしているように見えた！晋太郎は瞬間的に冷たい怒りを全身に感じた。彼はくるりと向きを変え、足早に階段を下りて紀美子の庭へと歩み寄った。その時、悟の手はまだ紀美子の頬に触れていた。晋太郎の額には怒りで血管が浮き出しており、怒声で叫んだ。「お前たちは何をしているんだ？！」晋太郎の声に驚き、紀美子と悟は同時に彼声のする方を見た。紀美子は険しい顔をした晋太郎を見てから、髪に落ちた葉を取ってくれた悟を見た。紀美子はすぐに理解した。晋太郎は誤解している！悟は体を起こし、淡々とした様子で晋太郎を見た。「森川社長、何か誤解をされているのでは？」言葉が終わると同時に、晋太郎は悟の方へと大股で近づいてきた。その陰鬱な気配に紀美子は心臓が締め付けられる思いだった。次の瞬間、紀美子が晋太郎を止める暇もなく、晋太郎は悟の顔に拳を振り下ろした。紀美子は驚いてすぐに前に出て制止した。「晋太郎、あなた正気なの？！悟は何もしていないわ！」「何もしてない？」晋太郎は怒りに燃える目で紀美子を睨みつけた。「俺が何も見てないとでも思うのか！？まだ俺を騙そうとするのか！」紀美子は慌てて晋太郎の腕を引いた。「落ち着いて、説明させて！さっきは葉っぱが……」「俺は自分の目しか信じない！」晋太郎の表情は冷ややかだった。「紀美子、お前には本当に失望した！！」そう言い放ち、彼は紀美子の手を振り払って、歯を食いしばりながら大股で立ち去った。紀美子は急いで追いかけた。「晋太郎！違うの！あなたの思っているようなことじゃない！お願いだから、落ち着いて話を聞いて！」
会社を辞めてから始まる社長との恋 第826話 お父さんは電話に出ないの？
悟は紀美子の目をじっと見つめ、「心配なら佑樹に彼の居場所を追跡させることもできるし、探しに行くこともできるよ」と言った。紀美子は一瞬驚いたが、すぐに我にかえり、「うん、わかった。帰りは気をつけてね！」と言って、別荘へと走り出した。悟は別荘の入り口に一人残された。紀美子の背中を見つめたまま、静かに佇んでいた。しばらくそのまま見つめた後、悟は自分の車に向かって歩き始めた。別荘の中では、紀美子は風のように2階へ駆け上がっていった。朔也は目を大きく見開いて彼女を見て、「おい！君は風の子か？！そんなに速く走るなんて！」と叫んだ。紀美子は何の返事もしなかったため、朔也は戸惑いながら外を見た。晋太郎が戻ってきたはずなのに、紀美子は急に感情的になってどうしたのだろう？朔也は困惑しながら別荘の外へ出て、ボディガードにさっきの状況を尋ねた。2階にて。紀美子は子供たちの部屋のドアを開けた。パソコンの前に座っていた念江と佑樹は驚いて飛び跳ねた。カーペットの上で携帯電話をいじっていたゆみも、急いで携帯を服の中に隠した。「お母さん、どうしたの？」佑樹はすぐに落ち着きを取り戻し、紀美子の様子を見て心配そうに尋ねた。紀美子はパソコンを見ながら、佑樹に近づいて冷静に言った。「佑樹、位置情報を追跡できる？」佑樹は頷いた。「お母さん、誰を探すの？」「お父さん？」念江も尋ねた。「そう、今すぐ彼の居場所を調べて。彼が、私と悟のことで誤解して、ものすごいスピードで運転していったから心配なの。早く探して！」紀美子は急いで言った。佑樹の表情は次第に真剣になり、「わかった、今すぐ調べる」と言った。「お母さん」ゆみが紀美子のそばに来て、冷え切った指先をつかんだ。心配そうに紀美子を見上げて、「お父さん、電話に出ないの？」と尋ねた。紀美子はゆみに目を向けてしゃがみ、「そうだよ、ゆみ。心配しないで。お母さんはすぐに彼を探しに行くから」と言った。ゆみは少し唇を噛み、手を服の中に入れて携帯電話を取り出し、紀美子に差し出した。紀美子は驚いて、「たとえお兄ちゃんの携帯を使っても、彼は電話には出ないよ」と言った。「違うの……」ゆみは口ごもりながら言った。「これ……これはお父さんが私に買ってくれた携帯……
会社を辞めてから始まる社長との恋 第827話 彼を手放すわけにはいかない
突然、耳元に鋭いクラクションの音が響いた。晋太郎はハッと顔を上げたが、その瞬間、車内から紀美子の声が聞こえてきた。「晋太郎、冷静になって、聞いて……」「ドン——」紀美子が言い終わらないうちに、携帯電話から耳が痛くなるような衝突音が響いた。瞬間、紀美子の頭の中は真っ白になった。「晋太郎……」紀美子の顔色は徐々に青ざめ、晋太郎の返事を待たずに震えながら「森川……晋太郎？」とただ呼びかけた。「お母さん！」佑樹が言った。「見つけた！彼は浜江大通りにいる、今、車が止まった！」「パタ——」紀美子の手から携帯電話が落ちた。突然、不吉な予感がした。呆然と立ち上がったまま、涙は止まらずに流れ落ちた。子供たちは心配そうに紀美子を見つめ、一斉に呼びかけた。「お母さん……！」紀美子はまるで魂を失ったように、ふらふらと寝室から飛び出した。子供たちは彼女を追いかけて叫んだ。「お母さん！」「お母さん、そんなことしないで、パパは大丈夫だよ、絶対に大丈夫だから！」ゆみはすでに怖くて泣いていた。念江は言った。「お母さん、冷静になって。パパは運転が上手だから、絶対に大丈夫だって！」佑樹が続けた。「彼は運がいいから、絶対に大丈夫だよ、お母さん、一人で行かないで！」紀美子は子供たちの声が聞こえないようで、階段を急いで駆け下りた。しかし、最後の一段のところで足を滑らせ、そのまま階段から転げ落ちてしまった。その音を聞いて、朔也が急いで駆け寄ってきた。紀美子が涙で濡れた顔で起き上がるのを見て、朔也はすぐに彼女を支えた。「G、どうしたの？」紀美子は朔也の腕をつかみ、震えながら言った。「朔也、運転して。一緒に晋太郎を探しにきて！」朔也は事の重大さを察し、「何があったの？！」と聞いた。「聞かないで！お願い！」紀美子は泣き崩れながら叫んだ。「私を浜江大通りに連れて行って！」「わかった！」朔也は彼女を支え、「今すぐ連れて行くから、落ち着いて！」と言った。道中では、紀美子は感情が崩壊し、泣き続けた。晋太郎が事故に遭ったことを考えると、胸が痛くて呼吸ができなかった。彼に何もあってほしくなかった。彼に自分がどれだけ愛しているか、どれだけ大切に思っているか、まだ伝え
会社を辞めてから始まる社長との恋 第828話 彼は死んだ
近づくにつれて、紀美子は恐怖で足がすくんだ。 めまいがし、胃が痛み吐き気が襲ってきた。 人混みに入った瞬間、周りの人の話す声が耳に入った。 「どんなに速く走ってたんだ？車がこんな風に壊れるなんて！」 「人が中に取り残されてる。もうダメかもしれない」 「地面に血が広がってる。生き残るのは難しいだろう……」 「ご冥福をお祈りします……」 彼らの言葉が耳に入った瞬間、紀美子の視界は暗くなり、その場に倒れ込んだ。 紀美子を支えられなかった朔也も、顔色が徐々に悪くなっていった。 彼は後ろから来たボディガードに言った。「彼女を頼む、俺は様子を見てくる！」 ボディガードは「わかりました！」と答えた。 朔也は人混みに飛び込んでいった。 紀美子は魂を失ったようにその場に座り込んでいた。 耳鳴りがし、頭は全く回らなくなっていた。 晋太郎…… 死んだんだ…… 彼は彼女と子供たちを置いて去ってしまった…… 自分が彼の命を奪ったのだ。彼を殺してしまった！ ボディガードは紀美子の様子を見て、複雑な表情で言った。「気を強く持ってください」 紀美子は一瞬目を見開いた。 そして、突然、地面から立ち上がり、人混みの中に向かって歩き出した。 彼の遺体を引き取らなければならない。彼を一人にはさせない…… 彼のそばにいなければ、彼は一人でつらいに違いない…… 紀美子は人混みに向かおうとしたが、まだ二歩も進んでいないのに、足が再びもつれてしまった。 その瞬間、横から一人の影が飛び出してきて、彼女を抱きしめた。 その懐かしい香りが鼻に入り、紀美子は一瞬ぼんやりしたが、徐々に理性が戻ってきた。 晋太郎…… 紀美子は急に振り返り、自分を抱きしめている男性を見た。 その顔を見た瞬間、目の涙が再び溢れ出した。 「晋太郎？」 信じられない思いで彼を見つめて言った。「あなたなの？本当にあなた？」 晋太郎は、彼女がひどく苦しんでいる姿を見て、心が痛んだ。「ごめん、心配をかけた」 その声を聞いた瞬間、紀美子の涙腺は解き放たれた。 彼女は晋太郎の胸に飛び込み、彼の腰にしがみついて泣き叫んだ。 「死んだと思
会社を辞めてから始まる社長との恋 第829話 あなたに真相を知られたくない
晋太郎の声が震えていた。 ついに紀美子がこの言葉を口にしたのだ！ 彼女はやっと全てを信じてくれた。 この日晋太郎は、長い間待ち続けていたことを実感した…… 晋太郎は優しく紀美子を抱きしめた。 彼女の細長い目は少し赤なっていた。「必ず君と子どもを一番幸せにするから」 …… 翌日。 紀美子は朝早く電話の音で目を覚まし、それに伴い晋太郎も目を開けた。 紀美子はスマートフォンを手に取ると、「晴」という名前を見て、咳払いをしてから電話を受けた。 晴の焦った声が聞こえてきた。「紀美子、あの日病院で一体何があったの？」 紀美子は黙った。「……」 晴は、病院で調査していたのか？ しかし、彼の今の話し方からは、何も分かっていないようであった。 紀美子は起き上がってから言った。「もし何も調べていないのなら言うけど、佳世子はあなたに真相を知られたくないんじゃないかな」 「晋太郎は君のそばにいるの？」晴が尋ねてきた。「彼にスマホを渡してくれない？」 紀美子は少し迷ったが、晋太郎が起き上がりスマホを受け取った。 「何かあったのか？」晋太郎が尋ねると、晴は答えた。「晋太郎、医療スタッフに一言伝えてもらえないか？佳世子の病歴を俺に見せてもらえないか？」 「分かった」晋太郎はためらわずに答えた。 紀美子は唇を噛み締め、何も言わなかった。 電話を切った後、晋太郎はスマホを紀美子に返した。 紀美子は何も言わず、布団をめくって下に降りようとしたが、晋太郎は彼女の腕を掴んだ。「君は佳世子のために、僕は晴のために。僕の考えを理解できるはずだ」 紀美子は振り返り彼を見た。「もしあなたたち二人が原因を自分たちで調べ上げたのなら、私は関係ない。私が佳世子を裏切ったことにはならない」 彼女は正直、晋太郎と晴がこの件を知ってほしいと思っていた。 佳世子にこんな大きな苦痛を一人で背負わせたくはなかった。 晋太郎は手を放した。「子供たちを起こしてくる」 「うん」 紀美子は先に身支度を整え、階下に降りた。 彼女は別荘を出て、佳世子に電話をかけた。 しばらくして、佳世子がやっと電話に出た。「紀美子」
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会社を辞めてから始まる社長との恋 第1099話 行っちゃうの？
「ないよ！」ゆみは首を振った。「横山隼介という人に会いに行って、夕飯を食べさせてもらっただけ。他には何もなかった」「横山隼介？」紀美子は不思議そうに尋ねた。すでにこの人物を調べていた佑樹が説明した。「亡くなった木村沢彦の幼なじみだ」ゆみは頷き、沢彦と花音のことを紀美子に話した。紀美子はまだ美月の行動が理解できず、ゆみに向かって言った。「ゆみ、次からは簡単に他人について行っちゃだめよ」ゆみは小さな唇を尖らせた。「わかったよ」傍でずっと黙っていた霊司が尋ねた。「ゆみ、あの横山隼介は君に理由を話してくれたか？」ゆみは力強く頷き、隼介の話を霊司に伝えた。「よし、それなら明日この件を解決しよう」「おじいちゃん、これが終わったら私たちは行っちゃうの？」「うん」霊司は言った。「もうすぐ学校が始まるから、帰らないと」ゆみは焦って言った。「おじいちゃん、学校が始まるまでまだ5日もあるのに、どうしてそんなに急ぐの？」ゆみがどう尋ねても、霊司は彼女に何も答えなかった。仕方なく、紀美子は四人の子供たちに先に二階で遊ぶように言った。彼らが去った後、紀美子は霊司に尋ねた。「小林さん、どうしてそんなに急いで帰るのですか？」「誰かが子供に近づこうとしているんだ。悪意はないだろうが、子供はまだ小さい。彼女を何かに巻き込ませるわけにはいかない」「誰かがゆみに近づこうとしていると？」紀美子は尋ねた。「誰？美月の背後にいる人ですか？」霊司は頷いた。「心配しなくていい。その人はゆっくりと君たちに何かを知らせようとしているだけだから」紀美子がさらに詳しく聞こうとすると、霊司は言った。「あまり多くは話せないが、彼らが君たちに近づくいてくるのは良いことだ。でも、気をつけて。良いことには悪い面もある。君の周りには警戒すべき人たちがたくさんいるから、決して油断してはいけないよ」紀美子は霊司が誰のことを指しているのか分かっていた。彼女はゆっくりと頷いた。「小林さん、もう一つ聞きたいことがあるんですが」「何を聞きたいかはわかっている」霊司は言った。「君は運のある人だ。ただ、君が望む運はまだ来ていない。辛抱強く待つんだ」翌日。霊司は早々に美月に電話をかけ、ゆみを
会社を辞めてから始まる社長との恋 第1098話 仕事の邪魔をした
「交通事故だ。その日の夜、彼は花音にプロポーズしに行くと言っていたが、途中で事故に遭ったんだ。驚いたことに、花音もその夜に事故に遭ったんだ」ゆみは驚いて尋ねた。「花音さんはどうやって事故に遭ったの？」「警察の話では、酔っ払いに出くわし、暴行された後に殺されたらしい。口を塞がれて窒息死したんだ」ゆみは驚き、ゆっくりと目を大きく開いた。なるほど、花音の体に傷が見当たらなかったのは、このためだったのか。「君たち……沢彦とどんな関係があるんだ？この事件はもう10年近く前のことだ。どうして今さら私に聞くんだ？」隼介は不思議そうに彼女たちを見た。「あなたに聞きに来たのは、解決すべき問題が起こったからよ。理由はあまり詳しく話せないわ」美月はそう言うと、カバンから一束のお金を取り出し、隼介に渡した。それから、遠くのボックス席をちらりと見て、すぐに視線を戻した。隼介は急いで断った。「お金はいらないよ！ただ話しただけだ！」「仕事の邪魔をしたから」美月は言った。「このお金を受け取ってください。私は人に借りを作るのが好きじゃないの」ゆみがまだ二人の会話を見ていると、小さなカバンの中の電話が鳴った。彼女は電話を取り出し、紀美子からの着信だとわかると、電話に出た。「ママ」ゆみは呼びかけた。紀美子は焦って尋ねた。「ゆみ、どこにいるの？まだ遠藤さんと一緒なの？」ゆみは美月を見て答えた。「うん。でもおばさんは私に悪いことはしてないよ。レストランで人に会って、ちょっと話を聞いてるだけ」それを聞いて、紀美子は安堵の息をついた。「無事ならいいけど、もしママの迎えが必要だったらいつでも電話してね」「わかったよ、ママ」電話を切ると、紀美子は軽く眉をひそめて電話を置いた。佳世子は彼女を見つめた。「紀美子、何か悩んでるの？」紀美子は美月がゆみを連れ出したことを佳世子に話した。「そう言われると確かに変だね！」佳世子は手元の仕事から手を離して言った。「美月は小林さんを呼んで仕事を頼んだのに、どうしてゆみ一人を連れ出したのかな？ゆみがちゃんと話せるかどうかはともかく、彼女はゆみと親しいの？」紀美子は首を振りながら答えた。「だから、彼女の行動の意図が全くわからない」「美月はまだ謎
会社を辞めてから始まる社長との恋 第1097話 あなたに任せた
念江は聞き終わると尋ねた。「ゆみ、君はこれからずっとこういうことに関わっていくのかい？最初はただ自分を守るためだと言ってたじゃないか」「これが自分を守ることなんだよ！」ゆみは自分の目を指さした。「私は霊眼を持っている。おじいちゃんは、私が生まれつきこの道で生きていくべきだと言った。自分を守るというのは、あの連中が私の体に近づかないようにすることにもなるの。彼らがやってくるのには、必ず理由がある。だから、彼らの問題を解決してあげれば、彼らは自然に私を困らせなくなるんだって」ゆみの話を聞いて、佑樹と念江は互いに顔を見合わせた。「まあ、僕たちには理解できない。君がやりたいならやればいい。ただ、病気にならないようにね」そう言うと、佑樹は本題に戻った。「今度は誰を探すんだ？」「沢彦の友達、できればとても親しい友人の連絡先がほしい」「本当に面倒だな！」ゆみは大人びた様子で佑樹の肩を叩いた。そしてわざとらしくため息をつきながら言った。「お兄ちゃん、この件はあなたに任せたよ……」「生意気だ！」そう言う佑樹の顔には笑みが浮かび、ゆみのために人を探し始めた。夕方。ゆみは突然見知らぬ電話から受けた。彼女は電話に出て、幼い声で尋ねた。「もしもし？どちらさまですか？」「私よ、遠藤美月」美月は説明した。ゆみは驚いた。「おばさん、どうして私に電話を？何か用事があるの？」「木村沢彦の情報を見つけたんだけど、この人はもう亡くなっているの。でも、彼の親友を見つけた。一緒に聞きに行かない？」ゆみは不思議そうに尋ねた。「どうしておじいちゃんじゃなくて私を誘うの？」「おばさんがあなたを連れ去って売り飛ばすんじゃないかと心配してるの？」美月は笑って尋ねた。「そうじゃないよ。おばさんは悪い人には見えない」「10分後に藤河別荘に着くから、出てきて待ってて。家族に一言言っておいてね、私が子供を誘拐したと思われたら困るから」美月は笑いをこらえきれない様子だった。「わかった」ゆみは出かける前に、ぐにゃぐにゃの字で書いた付箋を寝室と霊司の部屋のドアに貼った。外に出ると、ちょうど美月が到着した。ゆみは車に乗り込み、警戒しながら彼女を見た。「おばさん、絶対に私を誘拐しないよね？私は警
会社を辞めてから始まる社長との恋 第1096話 演劇学院
そう言うと、ゆみは怒って寝室を出ようとした。ドアを開けた瞬間、佑樹が口を開いた。「名前は何だ？」ゆみは足を止め、一瞬で笑顔になり、嬉しそうに戻ってきた。「へへ、木村沢彦だよ！」「都大演劇学院だな？」「そうそう！兄ちゃん、お願い！」二人の様子を見て、念江は笑いをこらえた。「ファイアウォールを突破するのを手伝おうか？」「もちろん！」佑樹は言った。「二人でやれば早いから。この騒がしい子を静かにさせるためにね」ゆみは無理やり笑顔を作った。少し我慢すれば……10分も経たないうちに、佑樹のパソコンには一人の男の情報が表示された。ゆみはつま先立ちでその男の写真を見た。容姿は花音が言った通りだった。情報欄の名前もまったく同じだった。「この人を探してどうするんだ？」佑樹は不思議そうに尋ねた。「知り合いか？」「後で理由を話すね。まずこの人の住所と連絡先を教えて！」佑樹と念江はまた忙しく動き、ようやく沢彦の詳細な情報を引き出した。しかし、沢彦の情報には一行で「死亡」とはっきり書かれていた。それを見て、佑樹はようやくおかしいと感じ、傍のゆみを見た。ゆみも茫然としていた。「え……彼も死んでるの？！」「ゆみ！」佑樹は真剣な顔で尋ねた。「君は一体何をしているんだ？『も』死んでるってどういうこと？！」ゆみは怒鳴られてふんっとした。「教えない！」そう言うと、ゆみは寝室から飛び出した。佑樹が追いかけようとすると、念江は彼を引き止めて言った。「佑樹、ゆみが学んでいるのはもともとこの方面のことだ。僕たちには手が出せない。余計なことはしない方がいいよ」「彼女がまたあの不浄なものと関わって、また熱を出したらどうするんだ？」佑樹は不機嫌そうに尋ねた。「おじいちゃんがいるから、問題ないよ」「……」佑樹は言葉を失った。すぐに、ゆみは沢彦がすでに亡くなっていることを霊司に伝えた。霊司は眉をひそめた。「どうやら、イタチ様に頼んで事情を聞いてもらうしかないようだ」イタチ様は、ゆみも知っている。東北では、五大仙家の一つとして知られている。霊司はバッグから線香を取り出し、自分で持ってきた米と茶碗で簡易的な線香立てを作った。線香に火をつけ、米に挿
会社を辞めてから始まる社長との恋 第1095話 彼を見つける
ゆみはぼんやりと霊司を見つめた。霊司は女性に向かって言った。「彼を見つける方法を考えてみる」「わかった。私は杉本花音(すぎもと はなね)。彼を見つけたら、ここに来て私の名前を呼んで」そう言うと、女性は彼らの目の前から消えた。ショッピングモールを離れ、車に乗り込んだ後、美月は霊司に何が起こったのかを尋ねた。霊司が状況を説明すると、美月の表情は次第に深刻になった。「この場所は以前、古い住宅地で、それが取り壊された後に私たちがこの土地を購入しました。その女性はこの場所に長い間留まっているのかもしれませんね。この土地の運に影響はありませんか？」「心配ない」霊司は率直に言った。「問題が解決すれば大丈夫だ」美月は安堵の息をついた。「彼女が探している人は木村沢彦という名前ですね……」美月は沢彦の情報を霊司と確認した。「そうだ。遠藤さんは彼を見つけられるか？」「帝都で人を探すのは私にとっては簡単なことです。一日あれば、情報を提供できると思います」「おばさん、すごい！」ゆみは褒め称えた。「さっき私たちが彼女に話しかけているのを見て、怖くなかったですか？」美月は笑った。「おばさんはその人の姿すら見ていないのに、どうして怖がるの？目の前に現れないと怖くないわ。それに、幽霊より人間のほうが怖いでしょう？」ゆみは言った。「そうね、幽霊はせいぜい人を驚かせるだけ。人間が一番怖いの。今でもママの周りにまとわりついている悟みたいにね。彼はパパを殺したんだから！」美月は軽く笑った。「ただの虫にすぎない」「？？？」ゆみは疑問に思った。その言い方……おばさんの方が悟より強いってこと？藤河別荘に戻ると、ゆみは霊司について客室に入った。霊司は笑って彼女に尋ねた。「俺について来てどうしたんだ？兄ちゃんたちと遊びに行け」「おじいちゃん、一つわからないことがあるの！」ゆみは言った。「言ってごらん」「お守りのことなんだけど、どうしておじいちゃんは私に話を続けさせなかったの？花音姉さんが沢彦を見つけられないのは、きっと沢彦が彼女が来るのを恐れて、このお守りを使って彼女を遮断したからだよね？つまり、沢彦が花音姉さんを殺した」霊司は笑ってゆみの頭を撫でた。「ゆみは賢いが、それ
会社を辞めてから始まる社長との恋 第1094話 お金を撒く
霊司は眉をひそめた。「8月6日に変更しなさい。その日は犬と相克するので、犬年生まれの人は来てはいけない。開業当日はできるだけ盛大に、音を大きくし、供え物のテーブルを設け、豚の頭と酒を必ず準備すること。残りは果物でいい。最も重要なのは、開業前日に外でお金を撒くことだ」「お金を撒く？」美月は理解できずに尋ねた。「お金を撒くとはどういう意味ですか？」「いわばお年玉を配るようなものだ」霊司は言った。「一つは供え物を燃やし、二つ目はお金を出す。周囲のすべての生き物に、この場所が君たちに占拠されたことを知らせ、まずは通路のためのお金を送る。二つ目のお金というのは、ここは確かにいい場所であるが、お金というものは生み出したいなら使うことも学ばなければならない。小さなお金を捨てれば、大きなお金は自然に戻ってくる」美月は驚きを隠せなかった。風水にこれほど多くの意味が含まれているとは思わなかったからだ。彼女は霊司の言葉を一つ一つメモしながら言った。「小林さん、あなたが来てくれたおかげです。そうでなければ、私たちは本当に理解できなかったでしょう」美月と霊司がまだ話していると、ゆみの視線が突然北西の方角に向かった。ある影が小道に漂うのを見て、ゆみは急いで霊司の服の裾を引っ張った。「おじいちゃん！」霊司は下を向いて尋ねた。「どうした？」ゆみは先ほど影を見た方向を指差して言った。「あそこに、不浄なものがある！」霊司は軽く眉をひそめた。「行こう」彼らが歩き出すのを見て、美月は案内板を見て不思議に思った。トイレ？あそこに何か不浄なものがあるの？三人が小道の入り口に着くと、ゆみは再びその影を見た。今度は、その影がはっきりと彼女の目の前に漂っていた。その女性は赤い衣装を身にまとい、滝のように長い黒髪を背中に垂らし、顔の化粧は精巧で不気味な雰囲気を醸し出していた。霊司もはっきりとそれを見て、眉をひそめて言った。「お前は、行くべき場所に行かず、ここをうろついて何をしようというのだ？」傍らで、誰もいない通路を見ている美月は心の中で疑問を抱いた。この二人は一体誰と話しているのだろう？赤い衣装の女性は冷たく彼らを見つめた。「私は彼らがお金を稼ぐのを邪魔しない。しかし、私にも私のやるべきこ
会社を辞めてから始まる社長との恋 第1093話 答えを聞かせて
悟は目を伏せた。「もしこんなことが起こらなかったとしても、君の心に俺はいなかっただろう？」「もしもなんてない！」そう言うと、紀美子は振り返って別荘の中に入ろうとしたが、悟が彼女の手首を掴んできた。紀美子は振りほどこうとしたが、悟はまったく手を離す気配がなかった。彼はその、透き通るほど澄んだ、奥底に苦しみを滲ませた目で紀美子を見つめた。「ただ、答えを聞かせてほしい……」「答えなんてない！」紀美子は彼の言葉を遮った。「あなたは私の人生をめちゃくちゃにしたのに、どうして私から何かを得ようとするの？！悟、あなたには心がない！残酷よ！」その言葉を残すと、紀美子は彼の手を振り払い、別荘の中に入った。そのドアが再び二人を隔てるのを見て、悟の心は千本の針で刺されたように痛んだ。紀美子が死のうとしているのを見た瞬間、彼は自分が彼女に対してどんな感情を抱いているのかを悟った。彼女を失うことを恐れ、彼女が自分の目の前から完全に消えてしまうことを恐れている。この感情を心から追い出そうとしたが、いつも、紀美子とS国で過ごした日々を思い出してしまう。笑い合い、語り合った日々。いつも温かくて穏やかだった。それこそが自分が望んでいた生活だった。そんな日々を、ただ紀美子と共に過ごしたい。他の誰とでもなく、彼女でなければ受け入れられない！しかし今、最も大切に思う人は自分を悪魔のように見ている。悟は苦笑した。これは報いなのか？一方、その頃。美月と霊司、そしてゆみは、まだ開業していない新しいショッピングモールに到着した。目の前のショッピングモールを見て、ゆみは驚嘆した。「このショッピングモール、すごく広い……」美月は笑いながら説明した。「そうね、現在帝都で最も広いショッピングモールは、この『H』モールよ」三人は話しながらモールの中に入った。美月は、霊司とゆみを連れて一階全体を見て回り、尋ねた。「小林さん、ここにはどのように風水を守るべきでしょうか？」霊司は装飾を見回してため息をついた。「遠藤さん、この場所はもう風水師に見てもらっているでしょう？どうしてわざわざ俺を呼んだのですか？」美月の目には一抹の驚きが浮かんだ。「小林さん、ご覧の通り、このショッピングモールはとても
会社を辞めてから始まる社長との恋 第1092話 行こう
「わかりました」紀美子は言った。「それでは、まずゆみに食事をさせます」そう言うと、紀美子はゆみを連れて朝食を食べに行った。ちょうど食べ終わった頃、霊司の携帯が鳴った。彼は数言話すと、ダイニングから出てきたゆみを見て言った。「迎えが来たぞ。行こう」ゆみは眠そうな表情のまま頷いた。「わかった、おじいちゃん」そう言うと、ゆみは紀美子を見上げて言った。「ママ、おじいちゃんと出かけるね」「うん、ママが玄関まで送ってくよ」三人が別荘を出ると、目の前にはとても目立つ赤いSUVが停まっていた。ドアが開き、サングラスをかけた女性が車から降りてきた。その女性の顔の半分を見た瞬間、紀美子の心にどこか懐かしい感覚がよぎった。女性がサングラスを外すと、紀美子はそれが美月だと気づいた。彼女がどうして小林さんと知り合いなの？？美月は霊司に挨拶をすると、紀美子を見て言った。「入江社長、偶然ですね。またお会いするとは」「遠藤さん、あなたが小林さんの依頼主だとは思いませんでした」霊司は二人を見て言った。「知り合いだったのか」「入江社長とは一度お会いしただけです」そう言うと、美月は紀美子に向かって言った。「入江社長、私は小林さんに頼んで土地を見てもらう予定なので、あまり時間がありません」紀美子は頷いた。「わかりました。娘のことをよろしくお願いします」美月の視線は紀美子のそばに立つゆみに注がれた。彼女の目には驚きの色が浮かび、やがて目を細めて笑いながら言った。「こんにちは、お嬢ちゃん」ゆみは美月に手を差し出した。「こんにちは、おばさん。私はゆみです。よろしくお願いします！」美月は軽くゆみの手を握った。「はい、それではゆみちゃん、私と一緒に行きましょうか？」「はい」ゆみは応え、紀美子に言った。「ママ、行ってきます！」紀美子はゆみの頭を撫でた。「おじいちゃんとおばさんの言うことをよく聞いてね。ママはここで待ってるから」「分かった」すぐに、ゆみと霊司は美月に車に乗り込んだ。彼らが去った後、悟の車が別荘の前に現れた。紀美子は眉をひそめ、悟が車から降りて来るのを見た。紀美子は冷たい声で尋ねた。「何の用？」悟は手に持った薬を差し出した。
会社を辞めてから始まる社長との恋 第1091話 正義の味方
紀美子は傍で遊んでいる四人の子供たちを見ながら尋ねた。「ゆみも行くのですか？」「もちろん行った方がいい。この子は賢く、才能もある。たくさん自分で見聞きするのが一番だ」「じゃあ、明日車を手配して送ります。だいたいどの辺りですか？」霊司が話そうとしたところで、紀美子はまた言った。「小林さん、私の好意を受け取ってください。こんなことで遠慮しないでください」「いや、そうじゃない。相手が迎えに来ると言っているんだ。迷惑はかけないよ」「そうなんですか……」紀美子は言った。「じゃあ、今夜はうちに泊まってください。明日相手に迎えに来てもらいましょう」「それじゃあご迷惑……」「全然迷惑じゃありませんよ」一方、その頃。ゆみは紗子の隣に座って尋ねた。「紗子、お兄ちゃんたちはあなたをいじめてない？」紗子は笑って尋ねた。「どんなのがいじめなの？」ゆみは唇を尖らせて考えてから言った。「あなたに怒鳴ったり、偉そうな顔をしたり、口答えしたりすることよ！」紗子は思わず佑樹を見て、どう説明しようかと考えた。ゆみは彼女がすぐに返事をしないのを見て、声を大にして言った。「いじめてるのね！！」紗子は慌てて説明した。「違うよ、ゆみちゃん、私……」「佑樹！！」紗子が話し終わらないうちに、ゆみは佑樹に向かって叫んだ。佑樹は彼女を見つめた。「何？」ゆみは偉そうに腰に手を当てて問い詰めた。「どうして紗子に怒鳴るの？」それを聞いて、佑樹は紗子を見た。紗子はすぐに首を振り、何も言っていないと示した。佑樹は冷たく笑って、ゆみに尋ねた。「帰ってきたばかりで、正義の味方になったの？」ゆみは言った。「紗子はこんなに良い子なのに、どうしていじめるの？女の子には優しくしないと、将来彼女ができなくなるよ！」佑樹は口元を引きつらせた。「ママにそっくりそのまま聞かせてみる？外で、悪いことばかり覚えてきたのか？」「私はあなたのために言っているのよ。将来お嫁さんが来てくれなかったらどうするの？」「心配ない。念江がお嫁さんを連れてきてくれる」二人の会話を聞いて、佳世子は驚いて彼らを見た。「あなたたち、こんなに小さいのにもうそんな結婚のことを考えているの？！念江、好きな子がいるの？おば
