紅黒の瞳に縛りつけられているかの如く、俺の意思では瞬きさえできない。今のは何かの呪文なのだろうか。
“ボヌルシオン”って何だ? 何を刻むって?強ばったままの身体は、息の仕方さえ忘れようとしている。すると、ぼんやりと輝いていた紅黒の瞳が通常の状態に戻り、俺の拘束はすぅっと解けた。
「ヌェーヴェル、貴方に選ばせてあげます。私とノーヴァ、どちらと契約しますか?」
「はぁ?」「どちらの血が欲しいですか?」「どういう事だ。お前らの血なんか欲しくないぞ。俺は人間だ。飲むわけないだろ」ヴァニルの言っている意味が分からない。どちらに飲んでほしいかでははく?
人間である俺が、血なんぞ欲するわけないだろう。「そうではありません。今から吸血鬼になっていただきます。飲んでもらう訳では無いので安心してください。強制的に傷口から流し込みます。言わば感染のようなものだと思っていただければ、幾分か解りやすいかと」
「······は?」「貴方が吸血鬼になれば死なないし、今より血も吸い放題です。同族の血はあまり栄養価がありませんが、元人間の貴方の血なら幾分かはマシでしょう。その分、多く吸って犯すことになりますが。何よりも、永遠に一緒に居られますしね。そして、遠慮なく犯せる。簡単な話だったんですよ。初めからこうしていれば良かったんです」ヴァニルは夕餉の献立を相談するかのように、つらつらと笑顔で並べ立てた。
「いや、いやいやいや。俺、吸血鬼にならねぇよ? 何言ってんだよ」
理解が追いつかず、戸惑いと素が出てしまう。
「選べ、ヴェル。いつまでもヴァニルと共有はできないんだ」
「何のルールだよ。俺は····選べない。お前らと3人で居るのは案外楽しかったから&middo「それにしても····ヌェーヴェルが我々をそんなに気に入っていたなんて、嬉しい限りですね」 俺を見てにたっと笑うヴァニル。無性に悔しさが込み上げた。「それは····身体だけだ」「····わかってますよ」 ヴァニルは、俺の返答に不服そうな面をした。「けど、その、なんだ····我儘言って悪いな。俺はお前に抱き潰されるのが、えっと····好き、だから····」「わかってますよ。たとえ身体だけだとしも、貴方は私を求めてる。私は、貴方が腕の中で快楽に表情《かお》を歪めるのを見れれば良い。今はそれだけで······」 今度は恍惚な表情を浮かべ、ヴァニルは俺の頬に指先を触れさせる。コイツ、こんなに表情豊かだったか?「お前、やっぱ変態だな。ほんっとブレねぇの、逆に凄いと思うぞ」「······はぁ、まったく貴方って人は····。ですがやはり、ヌェーヴェルを抱き潰すのは私だけがいいです」「は? 何勝手な事言ってんの? ボク、振られたワケじゃないんだからね。ボクも遠慮なくヴェルを抱き潰すよ」 ヴァニルとノーヴァのくだらない言い合いになど、付き合っていられない。「どうでもいいが、ノウェルはどうするんだ」「あぁ、あの人は手に負えませんね。いっそ、取り込んでしまえば良いんじゃないでしょうか」「取り込むって、アイツも混ざるって事?」「ヌェーヴェルが、ノウェルを殺すのを嫌がるから仕方ないでしょう。安心してください。私に良い
俺たちは、欲に忠実になるというヴァニルの提案を、ぐうの音も出せずに受け入れる他なかった。 だが、大きな問題がひとつ残る。 「俺は跡継ぎを作らにゃならん。家を継いで、子にまた継がせる責務がある。お前らと、この関係を永遠に続ける事はできないぞ。最悪、俺の人生が一区切りついてからの再考ということになるな」 我ながら、とんでもなく自分本位な事を言っているのはわかっている。だが、次期当主の座は譲れんのだ。「ヌェーヴェル、君は····女性を抱きたいのかい?」「当たり前だろう。俺は不能なわけじゃない」 寂しそうな顔で聞くノウェル。まだノウェルと交わってもいないのに、俺が悪い事を言っているような気分になるのは何故だ。「あっははは! ヴェルには無理でしょ。ボクたちに組み敷かれて潰されてるお前が女を抱く? はははっ。ヴェルはもう、女じゃイけないよ」「ノーヴァ、はしたない笑い方はよしなさい。ですが、私も同感ですね。ヌェーヴェルには不可能でしょう。私達が与える快楽の中でないとイけない身体になってるんですから」「やってみなきゃわからんだろうが!!」 俺を不能扱いしやがって。こうなったら意地でも女を孕ませてやる。「あのね、ヌェーヴェル。無理をして継がなくても良くないかい? 元々、お父上への復讐の為に継ぐつもりだったのだろう? 小さい頃は継ぎたくないと言っていたじゃないか。いっそ、グェナウェルに譲るというのはどうだい?」 グェナウェルとはすぐ下の弟だ。アイツは良い奴だが、少々頼りない。その下の弟、ランディージェのほうが野心に満ちている。確実に命を狙ってくるような性格で、普段から小さなトラブル絶えない。 なんなら、妹のパミュラのほうが、ランディージェよりも聡く穏やかで、それなりに向上心もある子だから後継に向いている。女でなければ、父さんはパミュラに継がせただろう。 しかし、今は俺が1番の候補なのだ。これを誰かにくれてやるつもりはない。これまで、俺を思い通りに操ってきた分、クソ親父の老後を俺が支配してやるんだ。絶対に泣か
翌日、俺は仕事で地方の薬草苑を尋ねていた。 そこの管理をしているのが、ブレイズという吸血鬼なのだ。彼は長い間、うちで作った人工血液を摂取している。 俺が生まれる前の事、父さんに拾われたのがきっかけらしい。血液の供給を条件に、無作為に人間を襲わないと誓ったそうだ。 ずっと、ヴァールス家で面倒を見ている。と言えば聞こえはいいが、実質監視下に置いているだけなのだ。 吸血鬼というのは美しい見た目を保つものだと思っていたが、彼の容姿はこの十数年ずっと初老の紳士のままだ。 曰く、人間に取り入らないのならば、美しくある必要はないのだと言う。「ブレイズさん、ご無沙汰しております」「おや、ヌェーヴェル様。ようこそおいでくださいました。今日は、何かご入用で?」「いくつか見繕って頂きたい物があります。それと、近況をお茶でも飲みながら」 俺は小さい頃から、彼の淹れる紅茶が好きだ。オリジナルブレンドで、ほろ苦い中にフルーティーな甘みがある。好きなのは味だけだが。「お待たせしました。ヌェーヴェル様は、昔からこれがお好きですね」「ありがとうございます。後に残る甘みが好きなんです。不思議と心が落ち着く。また茶葉を頂いて帰ってもよろしいですか」「勿論。薬草と一緒にご用意しましょう」「助かります」 心が疲れてしまった時、この紅茶を飲むと癒されるのだ。しがらみの中で生きていると、こういうささかな癒しが特段ありがたく思う。「ヌェーヴェル様は何かお悩みでも? お顔が沈んでおられるようですが」「はは····ブレイズさんにはいつも見透かされてしまいますね」「小さい頃から知っておりますから、些細な変化にも敏くなってしまうのですよ。私は、貴方の味方になれるのなら何だって····まぁ、爺の戯言だと思ってください」 優しい微笑みを浮かべて、俺を気遣ってくれる。これが本心ならば、それこそありがたいし心強いのだが。「いえ、貴方は本当の祖父
薬草苑を後にし、続いてタユエルの武器屋へ赴く。これは、まかり間違えば自殺行為になる。 奴は時々人間を襲う。ヴァニルよりも危険を孕んでいる奴だ。タユエルは、血を吸った人間を生かしておくようなことはしない。 流石に、ヴァールスの人間には手出しをしないようだが、俺は昔から確実に狙われている。これまで、何度誘われたことか。 キィィと重い木の扉を開ける。「いらっしゃ····ヴェルか。なんだ、犯されに来たのか」「違うわ阿呆。様子を見に来ただけだ。クソ親父から賜った仕事なんでな。じゃなかったらお前のトコになんか来ねぇよ」「ははっ、口の減らねぇガキだな。商品のほうは要らねぇのか? 新しいのが入ってるぞ」 タユエルはそう言って、俺に銃を一丁見せた。俺は、それを手に取って見定める。「重いな。試し撃ちはできるのか?」「あぁ、地下でなら」「······やめておく。お前の目にかなったのなら間違いはないだろう。それに、本当に襲われちゃかなわん」「つれねぇな。けどお前、その匂い····相手ができたのか」 あぁ、厄介だ。阿呆2人の所為で、吸血鬼からこの手の質問が増えた。「相手····まぁ」「嫡男が吸血鬼の相手してんのかよ。はぁ~····親父さんも気苦労が絶えねぇだろうなぁ」「クソ親父は知らない。片方が洗脳を使えるらしくて、家のヤツ皆を騙してる」「片方ってお前、2人居んのか」 しまった。口が滑った。これは面倒になりそうだ。「いや、違····お前に関係ないだろ」「あるね。俺ぁずっとお前にフラれ続けてんだぞ」「求愛された覚えはないがな」「何言ってん
「で、俺に血を吸わせろと?」「いや、人工血液を少し分けてもらえないだろうか。僕が自覚している事は、ヌェーヴェルとあの2人以外知らないだろう。だから、君にしか頼めなくてね。それに、君に負担をかけるのは嫌なんだ」 こいつらは揃いも揃って····。「バカかお前は。ほら、飲め」 俺は襟を開き、首筋を差し出した。「なっ、何をしているんだい!? やっ、ダメだよ。君の血は吸わない。際限なく吸ってしまいそうだから」「限界だと思ったら、殴ってでも止めてやるよ。お前がお母上のように摂食障害にでもなってみろ。隠し通せないだろう」「ヌェーヴェル····本当にいいのかい?」「俺が吸えと言ったんだぞ。俺だって、お前を大切に思っているんだ。愛だの恋だのではないがな!」 頬が熱くなった。我ながらアホらしいと思う。 ノウェルはおずおずと俺の肩を押さえ、首筋にそっと牙をあてがう。そして、グッと食い込ませると、ノウェルは初めて人間の血を啜った。 泣きながら、美味そうに吸い続ける。こいつの心情は計り知れんが、少し憐れに思ってしまったのは失礼だっただろうか。「んっ、ノウェル、もういいだろう····そろそろ、やめ····んぁっ」「んくっ、んっ、んっ、ぷはぁ····ごめんよ、ヌェーヴェル。もう少しだけ····喉の乾きが癒えないんだ」「待て、も、無理だって····はぁ··ん····」 ダメだ。目が回ってきた。殴って止めないと。だが、力が入らない。「ノウェル、その辺でやめておきなさい。まったく貴方は&middo
「ノウェル、ヌェーヴェルの血は美味しいですか?」 ヴァニルは、ノウェルに打ちつける腰を強めながら聞いた。「んっ··美味い······」「喉は大丈夫ですか?」「大丈夫だ。ヌェーヴェルの血を、飲めるのなら····こんな痛みなど、へでもない」 ノウェルは、喋る事もままならないほど夢中で俺の首筋に吸いついている。擽ったさもあるが、じんわりと馴染んだ痛みが気持ちいい。「ヴェルは結局、ボクらの事だ〜い好きなんだよね」 こいつらの喉が焼けている事がそれを証明していようとも、絶対に認めてやらない。「すっ、好きじゃ··ない」「強情だなぁ····いいよ、また言わせてあげるから」 ノーヴァは俺の奥を突き上げると、折檻するように言った。「ほら、正直に言わないと、吐いても奥やめてあげないよ。なんならボク、このまま大人になってみようか?」「んぶっ····馬鹿ヤロォ··んえ゙ぇ゙ぇぇっ····わがっだ、言うから゙、奥やめっ··ゔぇ゙ぇ゙ぇぇ」「ヌェーヴェル、あぁ可愛い····んぅっ····ヴァニル、もう、奥を突くな! 僕まで、ぇゔっ····吐いてしまう。せっかくヌェーヴェルの血をもらったのに····」「勿体ないのはわかりますが、吐けばいいでしょう。締まって気持ち良いですから」「馬鹿な事を言うな! ヌェーヴェルが、汚れてしまうでは、ない
ノーヴァも、この乱れた関係が存外気に入っているようだ。ノウェルを犯すのだって、実は楽しいらしい。ノーヴァの残虐性を目の当たりにする度、俺は少し玉が縮こまってしまうが。 さらに、今のノーヴァには没頭するものがあった。約束通りローズへ紹介し、共に薔薇を育てるようになったのだ。 この間、視察へ行った時も──「ノーヴァ、この薔薇の香りはどうかしら? 先週の物より上品な気がするのだけれど」「確かに、甘ったるいのにすっきりする感じだね」「そうでしょ? うふふ、貴方とこうして楽しめるなんて、すごく素敵だわ」「ボクも··すごく楽しい。何も考えないでローズと薔薇を愛でている時間は心が安らぐよ」「ノーヴァ、こちらへ来て」 ノーヴァの生い立ちを不憫に思うローズは、ノーヴァを我が子のようにそっと抱きしめた。ノーヴァもまた、そんなローズを母のように慕った。 まるで別人のように穏やかで、見たこともないほどしおらしいノーヴァを見て目を疑った。 ノーヴァにとって、ローズの話は興味深いものばかりだった。ヴァニルから学んだものと言えば、戦術や格闘術などが多く、まさに吸血鬼たる生き様そのもの。人間の真似事をして生きる為のものは少なかった。 それに反しローズは、礼節や人間と上手く付き合う為の、人間らしい心の在り方を多く教えた。 数ヶ月で、ノーヴァは見違えるほど心身共に成長していた。無作法で女王様のような面影はなく、立ち振る舞いから言葉遣いに至るまでが完璧な紳士だった。 これには、俺もヴァニルも驚いてた。 さらに驚いたのはノウェルの事。 本家主催のパーティーで、ノウェルは吸血鬼が流れる少年と出会った。名はイェールといい、ノウェルに一目惚れして猛アタックを続けている。イェールは2つ年下だが、単純なノウェルにいとも容易く上手く取り入った。 彼に流れる吸血鬼の血は、何代も経てとうに薄まっており大した力などない。だが、恋を覚えたイェールもまた、血に秘められた本能が少しずつ強まっている。 ノウェルが想いを寄せる俺に、イェールはいい印象を持っていな
今日も今日とて、夜も更けた月明かりの下。散歩と称しやってきた廃城で、俺はヴァニルに迫られている。 時々、2人で楽しみたいと連れ出されるのだ。毎度、後でノーヴァにブチ切れられるのだが。「なぁ、ここちょっと綺麗にしないか?」「そうやってまた時間稼ぎを······いや、まぁ、そうですねぇ」 ヴァニルは、周囲を見回して言った。「些か気にはなっていたのですが、貴方とここに来るとそれどころではなくなってしまって」 何がニコッだ。いつもそうやって誤魔化す。俺と出会った思い出の場所だから昂るとか吐かしてやがったが、このカビ臭さも石の冷たさと毛布の薄さも、いい加減うんざりだ。「此処を綺麗にするまでシない」「····なんですって?」 突如ヴァニルの雰囲気が恐ろしくなる。しかし、ここで負けてはいつもと同じだ。「絶対にシない! 汚いし硬いし冷たいし、嫌だ」「はぁ······子供ですか、貴方は。雰囲気《ムード》もへったくれも無いですね」「なんとでも言え。だいたい、この汚さでムードもへったくれもあるか! あのなぁ、俺だってちょっとは大事にされたりとか、その、良い雰囲気でシたかったりとか····恋人じゃなくても、甘い雰囲気を味わってみたりとかだなぁ····」 一体俺は、ごにょごにょと何をほざいているんだ。こんな事を言いたかったわけではないのだが····。「わかりました。少し待ってください」 そう言って俺を抱え、廃城の上空へと飛び上がったヴァニル。何をするのかと思えば、城に手を翳して呪文のようなものを唱え始めた。「おい、何する気だ」 俺の質問など
ノーヴァのちんこを喉奥にねじ込まれて目が覚めた。「んぶっ、ぉがッ、ぁ゙え゙っ····」「あ、起きた。おはよ、ヴェル」「お゙ぇっ、がはっ、ごぼぇっ····」「あぁ、ごめんごめん。喋れないよね」 ノーヴァはちんこを引っこ抜き、俺の前髪を掴んで持ち上げた。「おはよう、ヌェーヴェル」「お、おは····ゲホッゴホッゴホッ」「さ、もう1回いくよ。口開けて」 なんだかキレている様子のノーヴァ。挨拶を終えると、再び喉の奥まで一気に突っ込む。 チラッと視界に入ったのだが、俺の横にはノウェルが泡を吹きながら倒れていた。ヴァニルが俺のケツに腰を打ちつけながら、片手間に回復をしている。 どういう状況なんだ。「お前の所為だぞ、たらし野郎」 声の主を探すと、椅子に縛られたイェールが抜け出そうと藻掻いていた。「んんんっ!? ぅぶぇっ」 ノーヴァの腰を押して逃げようとしたが、頭を押さえられ逃げられなかった。 俺が激しく嘔吐くと、ノーヴァは嬉々として腰を強く打ち込む。昂った笑顔が厭らしくも愛らしい。だが、あまり見る余裕はない。「そのまま吐いていいよ。アッハハ、ヴェル、お漏らし止まんないね」「ノーヴァ、こちらも奥をヤりますよ。噛み千切られないよう、気をつけてくださいね」 言い終えるが早いか、ヴァニルが結腸をぶち抜いた。あまりの衝撃に目が眩み、ノーヴァのモノを咥えながら吐いた。と言っても、ごく小量の胃液が出ただけだったのだが。 どれだけ苦しかろうが嘔吐いていようが、ノーヴァは容赦なく俺の喉奥を抉り潰す。全く息ができなくなった俺は死を覚悟した。「ヴァニルさん、いい加減にしないとそろそろ死にますよ。どうせ、また回復すれば良いと思ってるんでしょうけど。まったく····愛する人に、
何度射精を受けたのかわからないが、俺が返事もままならなくなった頃、ようやくノーヴァが俺のナカから出ていった。「ノウェルも挿れたいですか?」 ヴァニルが、イェールに抱き潰されていたノウェルに聞く。「はぇ····ヌェーヴェルに、挿··れる····挿れ··たい」「はは。そんな状態で挿れられるんですか? 随分ヘロヘロで可愛らしくなってますけど」 嫌味を言うヴァニルへ、イェールが代わりに減らず口を叩く。「可愛く仕上がってるでしょう? オレ、気づいたんですよねぇ。ノウェルさんがそこの男たらしに挿れらんないくらい、抱き潰せばいいんだって。ね、ノウェルさん。もう勃たないですよね?」「んぐぅぅ····イェール、もう、奥抜くの、やだぁ····」「あっはは! イェールは見込みがありますねぇ。貴方は我々寄りだ。愛の奴隷となり存分に楽しみなさい」「アンタに言われなくても、ノウェルさんは俺のモノにしますよ」 ノウェルがイェールのものに····やはり、それは嫌だな。 俺は、遠退いていく意識を手放さないよう踏ん張りながら、心が呟いた言葉をそのまま口から零した。「ノウェルは、お前のモノには····ならない······」 ヴァニルとイェールが、ドスを利かせ『は?』と声を揃えた。「ヌェーヴェル、それは、どういう意味だい? だったら僕は····誰のモノなんだい?」「お前は、俺のモノだろ。違うのか?」 ノーヴァと入れ替わりに、再び俺のナカ
俺以外に笑顔を振り撒くことに少し腹が立つのは、ノウェルの言う通り俺がヴァニルを好いているからなのだろうか。これが、嫉妬というものなのか。「ほら、ヌェーヴェルもノウェルの方を向いてください。貴方の心がノウェルへ向いたとしても、今貴方のナカに居るのが誰なのか、しっかりとここで感じてください」 ヴァニルは俺の下腹部を握って言った。意図して爪を立てられ、皮膚にくい込んだそこからタラッと違う流れる。「イァ゙ァッ····」 痛みと快感が同時に走った。そこを刺激されると、俺の身体はイクように躾られているのだ。「やっ、あぁっ♡ ぅあ゙あ゙ぁぁっ!! 爪っ、痛゙いぃ! やめっ、腹を握るなっ──んはぁっ····ヴァニル、嫌だ、そのまま奥抉るなぁぁ!!!」 ここから、ヴァニルの容赦のない責めが始まった。 ノウェルと向かい合わせにされ、互いの漏らす嬌声を耳元で受けながら、腹の奥をぐぼぐぼ抉られ続ける。ケツも腹も麻痺してきて、段々と感覚がなくなり、叩きつけるような衝撃が脳まで痺れさせる。 それなのに、快感がやまないのは何故なのだ。「ヌェーヴェル、息しててくださいよ。まだまだ、これからなんですから、ねっ」「ンンッ、イ゙ッ、にゃぁぁぁぁっ!! もうらめらって、奥やらぁ!! も、もぉけちゅの感覚ないんらって。けちゅおかひくなってぅからぁ!!」「ヌェーヴェル、落ち着いて。大丈夫だから····ん、ふぅ····はぁ··ン····」 ノウェルが甘いキスをしてくる。どうしてくれよう、声を出さないと苦しいのに、口を塞がれてしまった。「あぁ··、締まりますね。喋れていないのも可愛いらしいです。ヌェーヴェル、ノウェルとのキスは気持ちイイですか?」「んっ、はぁっ&m
月明かりが眩い夜更け。俺に跨るヴァニルの顔がよく見える。無感情に作られた笑顔が、身震いしてしまうほど恐ろしい。「おや? ヌェーヴェル、震えてませんか? 寒いですか?」「違····お前が怖いんだよ」「そうですか。自業自得ですから、仕方ありませんね」「なぁ、何が気に食わなかったんだ? ノウェルと出掛けた事か? それとも、煽った事か?」 震える声で聞く俺を、蔑むような冷たい眼で見下ろす。愛だの恋だのと言っていた甘い雰囲気は何処へやら。 吸血鬼たる冷酷さが剥き出しになっている。その無機質な瞳からは、背筋が凍るような殺意を感じた。「全部です。慰みにノウェルを選んだ事も、あんな厭らしい顔で帰ってきた事も、全部。ですが、貴方は私を妬かせたかったんですよね。えぇ、充分妬いてますとも。その結果がこれです。満足ですか?」 饒舌に嫌味を垂れるヴァニル。嫉妬深さを知っていながら煽った、俺の落ち度である事は間違いない。けれど、それにしたって限度というものがあるだろう。 ヴァニルを部屋に迎え入れた途端ベッドへ放り投げられた。挙句、ヴァニルが腰の上に跨っているから、蹴って抵抗する事もできない。「ヴァニル、あまりヌェーヴェルに酷いことをするなよ。瀕死のヌェーヴェルを見るのは嫌なんだ」「大丈夫ですよ、ノウェル。この人、死にかけて感じてますから。貴方が、虫の息のヌェーヴェルを見るのが辛いのは知ってます。いつも目を伏せてますものね。しかしまぁ····ヌェーヴェルを連れ出した事、怒ってないわけじゃないですからね」 冷ややかな目でノウェルに言い置くと、ヴァニルは俺のケツをろくに解しもしないで捻じこんできた。 自分のブツのデカさを考えろ。そう言ってやりたかったが突然与えられた痛みに耐えきれず、思わずヴァニルに抱きついてしまった。「い゙っ··ンァ····ヴァニル、痛い··&mid
抵抗する余力もなく自ら穴を拡げ、勝手に振れてしまう腰がノウェル誘う。ノウェルを受け入れる体勢が、完璧に整ってしまったじゃないか。「いくよ。根元まで全部、いっきに挿れるからね。最奥で僕を受け止めて。ハァ····ンッ゙··愛してるよ、ヌェーヴェル····ヌェーヴェル····」「ひぎぃ゙っあ゙ぁ゙ぁあ゙あ゙ぁ!!! らめぇっ、腹裂けてるっ!! やらぁっ、腹あちゅい! ノウェルの精子あづいぃぃっ!!!」「んぐっ····そんなに可愛いと、射精が止まらないじゃないか」「バカッ!! どんらけ出すんらっ! あ゙ぁ゙ぁ゙~~っ····噴くの、止まんにぇぇぇ····」「ンッ、あぁっ······このままもう1回、いいかい?」 と言いながら、もう腰を振っているじゃないか。「ひぃっ、いいわけねぇだろ! ぬ、抜けよ····」 聞いたくせに、俺の言葉を無視するノウェル。その後も、欲望のままに俺を犯し尽くした。性欲で言うと、ノーヴァとヴァニルの間くらいだ。 俺は失神を繰り返し、気がつくと窓から朝陽が差し込んでいた。「ノウェ··もう、朝ら····いつまでヤッてんら······」「本当だ、心地いい朝だね。。すまない、君に夢中になりすぎていた。本当に、もうこれで最後にするからね」「嘘らろ····まらヤんのか&
ノウェルは屹立したそれを入り口に馴染ませると、俺の反応を見ながらゆっくり挿入した。「んぁっ····前立腺、ゆっくり擦るな····」「これ、気持ちイイね。あぁほら、どんどん溢れてくる」「勝手に出るんだから、しょうがないだろ。あぁっ! 待て、奥はダメだ」「すまない、痛かったかい?」「違う····すぐに、その、イッてしまうから····」「そうか、痛くないのなら良かった。けど、奥はもう少し解してから貫いてあげるね」「ふあっ、やめろって! 本当に、止まらなくなるからぁっ」 ノウェルは予告通り、奥をグリグリとちんこの先で解すと、一息に差し貫いた。「んあ゙ぁ゙ぁ゙ぁぁ!! やっ、ああぁっ····ダメだ、やめっ、ひあぁっ··止まんねぇ····」 潮を噴くのが止まらなくなり、ベッドも俺達もぐしょぐしょになってしまった。非常に気持ち悪い。これは何度やらかしても慣れない。 なのに、ノウェルは嬉々として奥を抉り続ける。「はぁ····ンッ、ヌェーヴェル、後ろから突きたい。そのまま体勢を変えられるかい?」 なんて聞きながら、強引に足を持ち上げて俺を半回転させる。俺はへばりながら、腕で支えてなんとか身体を捻じった。「お前のこと··だから、俺の顔を、見ながら··ヤりたがると··思ってた。んあ゙ッ····奥、も、やめろぉ····」「よく分かっているね。君の顔が見られないの
ノウェルの間抜けな微笑みを見て心臓が跳ね、抱き締めたいと思った。これは、俺がこいつに恋をしているからなのか。本当にこの気持ちの正体が、バカ2人とノウェルへの恋心なのだろうか。 到底認めたくないが、症状がノウェルの定義した“恋”には当てはまる。だとしたら、これは由々しき事態だ。性別どころか人数まで、俺はどこまでいい加減で不誠実なのだ。 こいつらに本気で心を奪われる事など、有り得ないと確信していたのに····。 これまでの俺は、女に限らず他人を信用しないで、家督を継ぐ事ばかり考えていた。だから、何かに心を揺さぶられようが、それはひと時の迷い事でしかない。そう思っていたのだ。 だからこそ、今まで真剣に考えてこなかった。恋などというものを、まさか自分ができるとも思っていなかった。憧れだけを残し、政略結婚をするのだろうと踏んでいたのだから。 こんなにも他人を自由に想う事ができたなんて、正直戸惑いを隠せない。しかし、ようやく向き合う決心をしたのだ。これまでの凝り固まった考えなど捨て、柔軟にこいつらと向き合いたい。だが····「俺は、お前の定義でいくとマズいんだ。ノウェルだけじゃなくて、ヴァニルとノーヴァにも恋をしている事になる。こんな不誠実なものが恋なわけないだろう」「確かに不誠実かもしれないね。けど、全部恋でいいんだよ。君は、僕達それぞれを想ってしまった。それだけの事さ。いずれ、僕を選んでくれればそれでいいんだよ」 愛情に見せかけた、傲慢でエゴイスティックな笑顔を俺に向けたノウェル。妖艶とも不気味ともとれるその厭らしい笑みに、俺はまた鼓動を高鳴らせる。「そんなの····選べるかわかんねぇ··から、約束なんてできない」「今はそれでもいい。君の心がほんの僅かでも、僕に向いてくれているのなら」 ノウェルは優しいキスをする。ノーヴァとヴァニルは滅多にしない、唇を重ねるだけのキス。キスって、こんなにも
俺は、ノウェルをイェールに盗られたくないのだろうか。胸を張って“好き”だとも言ってやれないのに。「君が僕とイェールの関係をハッキリさせたいのなら、僕はいつだってイェールを突き放すよ」 俺の頬に手を添え、迷わずに言い切ったノウェル。俺は、その言葉に安心してしまった。「イェールには申し訳ないけれど、君と愛を交わす為に利用させてもらっているだけなんだから。ヌェーヴェル、安心しておくれ。僕はいつだって君の思い通りに動くよ」「そ··んな事····俺が言える立場ではない。イェールの事はノウェルが決めればいい。でなければ、イェールに不誠実だろう」 ノウェルの目を見て言うことができない。どれほど卑劣な考えがよぎっているのか、自分でわからないはずがないのだから。「はは····君は本当に真面目だね。そして狡い。自分の気持ちは見ないフリしてしまうのだから」「そんなつもりじゃ····いや、そんな事はない。気づいたんだ。俺は自分の事ばかりで、お前達の好意を蔑ろにしていた」 ノウェルから逸らしている視線を、さらに落として続ける。俺はこれを、自身への戒めとして口にするのだ。「クソ親父みたいな人間にならないようにと思っていたのに、結局アイツと同じ事をしていたんだ。俺は、俺が許せない····」 ノウェルはそっと俺の肩を抱き、瞼に優しくキスをした。ふと、目が合う。俺に似た顔で、俺にはできない優しい目で俺を見つめる。「ヌェーヴェル、ベッドに行こうか」「······あぁ」 俺たちはたどたどしく触れ合う。2人きりでするのは初めてだ。だからなのか互いに緊張を隠せず、妙な遠慮を孕んでいる。「お前が挿れるのか?」「君、僕
感情が昂って喚いた俺を馬鹿にするように、ノーヴァは鼻で笑って言う。「ちっさ。前に聞いた時も思ったんだけどさ、ただの我儘マザコン坊やだよね」「ぶふっ····ノーヴァ、そんなはっきり言っては悪いですよ。幾らくだらない理由だからって····」「くだっ····お前らに俺の気持ちなんてわかんねぇよ! もういい。何もかも嫌だ。暫く俺の部屋には来るな!」 2人を追い出して、俺はベッドに倒れ込んで泣いてしまった。勝手に溢れて止まらなかったんだ。 心の傷を嘲笑われたの事や男として終わっていた情けなさ、他にもぐるぐる巡る様々な感情で気持ちがぐじゃぐじゃだった。 嫁探しは白紙に戻したい。けれど、跡を継ぐ事は諦めない。などと、そんな勝手が許されるはずはない。百も承知だ。 それでも、もう決めた事。後継問題は先送りにして、跡を継ぐ事に専念するしかない。後の事は継いでからどうにかすればいいのだから。 このくだらない実験に、意味があったのかは分からない。俺が傷ついただけな気もする。だが、できる事とできない事が分かっただけでも儲けものだ。今はそう思う事でしか、自分を慰められなかった。 どのくらい経ったのか、いつの間にか涙は止まり呆然と天井を眺めていた。何もかも投げ出して逃げてしまいたい。いっそ、今すぐ吸血鬼になってしまおうか。そう思った瞬間だった。 コツコツと遠慮がちに窓を叩く音。ノウェルだ。ノーヴァとヴァニルよりも小ぶりな羽をバタつかせている。 俺は無気力に窓を開け、思考など手放してノウェルを迎え入れた。「お前、飛べるんだな。いよいよ吸血鬼らしいじゃないか」「あはは、意地悪を言わないでくれよ。あまり試したことがないから、奴らほど上手くは飛べないんだけど····ってヌェーヴェル、もしかして泣いていたのかい?」 心配そうな困り眉になり、俺の目尻を親指で拭う。乾い