ずっと、ヴァールス家で面倒を見ている。と言えば聞こえはいいが、実質監視下に置いているだけなのだ。
吸血鬼というのは美しい見た目を保つものだと思っていたが、彼の容姿はこの十数年ずっと初老の紳士のままだ。 曰く、人間に取り入らないのならば、美しくある必要はないのだと言う。「ブレイズさん、ご無沙汰しております」
「おや、ヌェーヴェル様。ようこそおいでくださいました。今日は、何かご入用で?」「いくつか見繕って頂きたい物があります。それと、近況をお茶でも飲みながら」俺は小さい頃から、彼の淹れる紅茶が好きだ。オリジナルブレンドで、ほろ苦い中にフルーティーな甘みがある。好きなのは味だけだが。
「お待たせしました。ヌェーヴェル様は、昔からこれがお好きですね」
「ありがとうございます。後に残る甘みが好きなんです。不思議と心が落ち着く。また茶葉を頂いて帰ってもよろしいですか」「勿論。薬草と一緒にご用意しましょう」「助かります」心が疲れてしまった時、この紅茶を飲むと癒されるのだ。しがらみの中で生きていると、こういうささかな癒しが特段ありがたく思う。
「ヌェーヴェル様は何かお悩みでも? お顔が沈んでおられるようですが」
「はは····ブレイズさんにはいつも見透かされてしまいますね」「小さい頃から知っておりますから、些細な変化にも敏くなってしまうのですよ。私は、貴方の味方になれるのなら何だって····まぁ、爺の戯言だと思ってください」優しい微笑みを浮かべて、俺を気遣ってくれる。これが本心ならば、それこそありがたいし心強いのだが。
「いえ、貴方は本当の祖父
薬草苑を後にし、続いてタユエルの武器屋へ赴く。これは、まかり間違えば自殺行為になる。 奴は時々人間を襲う。ヴァニルよりも危険を孕んでいる奴だ。タユエルは、血を吸った人間を生かしておくようなことはしない。 流石に、ヴァールスの人間には手出しをしないようだが、俺は昔から確実に狙われている。これまで、何度誘われたことか。 キィィと重い木の扉を開ける。「いらっしゃ····ヴェルか。なんだ、犯されに来たのか」「違うわ阿呆。様子を見に来ただけだ。クソ親父から賜った仕事なんでな。じゃなかったらお前のトコになんか来ねぇよ」「ははっ、口の減らねぇガキだな。商品のほうは要らねぇのか? 新しいのが入ってるぞ」 タユエルはそう言って、俺に銃を一丁見せた。俺は、それを手に取って見定める。「重いな。試し撃ちはできるのか?」「あぁ、地下でなら」「······やめておく。お前の目にかなったのなら間違いはないだろう。それに、本当に襲われちゃかなわん」「つれねぇな。けどお前、その匂い····相手ができたのか」 あぁ、厄介だ。阿呆2人の所為で、吸血鬼からこの手の質問が増えた。「相手····まぁ」「嫡男が吸血鬼の相手してんのかよ。はぁ~····親父さんも気苦労が絶えねぇだろうなぁ」「クソ親父は知らない。片方が洗脳を使えるらしくて、家のヤツ皆を騙してる」「片方ってお前、2人居んのか」 しまった。口が滑った。これは面倒になりそうだ。「いや、違····お前に関係ないだろ」「あるね。俺ぁずっとお前にフラれ続けてんだぞ」「求愛された覚えはないがな」「何言ってん
「で、俺に血を吸わせろと?」「いや、人工血液を少し分けてもらえないだろうか。僕が自覚している事は、ヌェーヴェルとあの2人以外知らないだろう。だから、君にしか頼めなくてね。それに、君に負担をかけるのは嫌なんだ」 こいつらは揃いも揃って····。「バカかお前は。ほら、飲め」 俺は襟を開き、首筋を差し出した。「なっ、何をしているんだい!? やっ、ダメだよ。君の血は吸わない。際限なく吸ってしまいそうだから」「限界だと思ったら、殴ってでも止めてやるよ。お前がお母上のように摂食障害にでもなってみろ。隠し通せないだろう」「ヌェーヴェル····本当にいいのかい?」「俺が吸えと言ったんだぞ。俺だって、お前を大切に思っているんだ。愛だの恋だのではないがな!」 頬が熱くなった。我ながらアホらしいと思う。 ノウェルはおずおずと俺の肩を押さえ、首筋にそっと牙をあてがう。そして、グッと食い込ませると、ノウェルは初めて人間の血を啜った。 泣きながら、美味そうに吸い続ける。こいつの心情は計り知れんが、少し憐れに思ってしまったのは失礼だっただろうか。「んっ、ノウェル、もういいだろう····そろそろ、やめ····んぁっ」「んくっ、んっ、んっ、ぷはぁ····ごめんよ、ヌェーヴェル。もう少しだけ····喉の乾きが癒えないんだ」「待て、も、無理だって····はぁ··ん····」 ダメだ。目が回ってきた。殴って止めないと。だが、力が入らない。「ノウェル、その辺でやめておきなさい。まったく貴方は&middo
「ノウェル、ヌェーヴェルの血は美味しいですか?」 ヴァニルは、ノウェルに打ちつける腰を強めながら聞いた。「んっ··美味い······」「喉は大丈夫ですか?」「大丈夫だ。ヌェーヴェルの血を、飲めるのなら····こんな痛みなど、へでもない」 ノウェルは、喋る事もままならないほど夢中で俺の首筋に吸いついている。擽ったさもあるが、じんわりと馴染んだ痛みが気持ちいい。「ヴェルは結局、ボクらの事だ〜い好きなんだよね」 こいつらの喉が焼けている事がそれを証明していようとも、絶対に認めてやらない。「すっ、好きじゃ··ない」「強情だなぁ····いいよ、また言わせてあげるから」 ノーヴァは俺の奥を突き上げると、折檻するように言った。「ほら、正直に言わないと、吐いても奥やめてあげないよ。なんならボク、このまま大人になってみようか?」「んぶっ····馬鹿ヤロォ··んえ゙ぇ゙ぇぇっ····わがっだ、言うから゙、奥やめっ··ゔぇ゙ぇ゙ぇぇ」「ヌェーヴェル、あぁ可愛い····んぅっ····ヴァニル、もう、奥を突くな! 僕まで、ぇゔっ····吐いてしまう。せっかくヌェーヴェルの血をもらったのに····」「勿体ないのはわかりますが、吐けばいいでしょう。締まって気持ち良いですから」「馬鹿な事を言うな! ヌェーヴェルが、汚れてしまうでは、ない
ノーヴァも、この乱れた関係が存外気に入っているようだ。ノウェルを犯すのだって、実は楽しいらしい。ノーヴァの残虐性を目の当たりにする度、俺は少し玉が縮こまってしまうが。 さらに、今のノーヴァには没頭するものがあった。約束通りローズへ紹介し、共に薔薇を育てるようになったのだ。 この間、視察へ行った時も──「ノーヴァ、この薔薇の香りはどうかしら? 先週の物より上品な気がするのだけれど」「確かに、甘ったるいのにすっきりする感じだね」「そうでしょ? うふふ、貴方とこうして楽しめるなんて、すごく素敵だわ」「ボクも··すごく楽しい。何も考えないでローズと薔薇を愛でている時間は心が安らぐよ」「ノーヴァ、こちらへ来て」 ノーヴァの生い立ちを不憫に思うローズは、ノーヴァを我が子のようにそっと抱きしめた。ノーヴァもまた、そんなローズを母のように慕った。 まるで別人のように穏やかで、見たこともないほどしおらしいノーヴァを見て目を疑った。 ノーヴァにとって、ローズの話は興味深いものばかりだった。ヴァニルから学んだものと言えば、戦術や格闘術などが多く、まさに吸血鬼たる生き様そのもの。人間の真似事をして生きる為のものは少なかった。 それに反しローズは、礼節や人間と上手く付き合う為の、人間らしい心の在り方を多く教えた。 数ヶ月で、ノーヴァは見違えるほど心身共に成長していた。無作法で女王様のような面影はなく、立ち振る舞いから言葉遣いに至るまでが完璧な紳士だった。 これには、俺もヴァニルも驚いてた。 さらに驚いたのはノウェルの事。 本家主催のパーティーで、ノウェルは吸血鬼が流れる少年と出会った。名はイェールといい、ノウェルに一目惚れして猛アタックを続けている。イェールは2つ年下だが、単純なノウェルにいとも容易く上手く取り入った。 彼に流れる吸血鬼の血は、何代も経てとうに薄まっており大した力などない。だが、恋を覚えたイェールもまた、血に秘められた本能が少しずつ強まっている。 ノウェルが想いを寄せる俺に、イェールはいい印象を持っていな
今日も今日とて、夜も更けた月明かりの下。散歩と称しやってきた廃城で、俺はヴァニルに迫られている。 時々、2人で楽しみたいと連れ出されるのだ。毎度、後でノーヴァにブチ切れられるのだが。「なぁ、ここちょっと綺麗にしないか?」「そうやってまた時間稼ぎを······いや、まぁ、そうですねぇ」 ヴァニルは、周囲を見回して言った。「些か気にはなっていたのですが、貴方とここに来るとそれどころではなくなってしまって」 何がニコッだ。いつもそうやって誤魔化す。俺と出会った思い出の場所だから昂るとか吐かしてやがったが、このカビ臭さも石の冷たさと毛布の薄さも、いい加減うんざりだ。「此処を綺麗にするまでシない」「····なんですって?」 突如ヴァニルの雰囲気が恐ろしくなる。しかし、ここで負けてはいつもと同じだ。「絶対にシない! 汚いし硬いし冷たいし、嫌だ」「はぁ······子供ですか、貴方は。雰囲気《ムード》もへったくれも無いですね」「なんとでも言え。だいたい、この汚さでムードもへったくれもあるか! あのなぁ、俺だってちょっとは大事にされたりとか、その、良い雰囲気でシたかったりとか····恋人じゃなくても、甘い雰囲気を味わってみたりとかだなぁ····」 一体俺は、ごにょごにょと何をほざいているんだ。こんな事を言いたかったわけではないのだが····。「わかりました。少し待ってください」 そう言って俺を抱え、廃城の上空へと飛び上がったヴァニル。何をするのかと思えば、城に手を翳して呪文のようなものを唱え始めた。「おい、何する気だ」 俺の質問など
俺とノウェルは今、向かい合いながら手を繋ぎ、それぞれケツを掘られている。俺はヴァニルに、ノウェルはイェールに。 俺が願った心地よい関係なんて、刹那の夢物語だったのだ。イェールが混じったことで、上手く混じり合っていた澱みが掻き乱された。「ヌェーヴェル··んんっ····こんなかたちでも、僕はね、君とこうして、愛を交える事ができて、とても幸せだよ。君はっ、んぁ····どうだい?」 嬌声混じりに幸福を語ったノウェル。そして、聞くまでもないほどバカな事を聞いてくる。「最悪だ! こんなの、どう考えても狂ってるだろ! ちょっ、ヴァニル待て!! 奥挿れるな、ぅぶっ、お゙っ、ん゙え゙ぇ゙ぇぇ」「あぁ、苦しそうに吐くヌェーヴェルも愛らしい。僕の事を少しでも好いてくれれば、僕は幸せなのだけど──ひぁっ····イェール、もう少し優しくシてくれないか。ヌェーヴェルに愛を囁けない」「ノウェルさん····貴方、今誰に突っ込まれてるかわかってます? オレですよっ!」「んあ゙ぁ゙ぁぁっ!! ダメだイェール。奥を抉らないでぇっ──」 どうしてこうなっているかって? 全部ノーヴァが悪いんだ。 遡ること数時間前。 今日も今日とて、退屈したノーヴァが俺をからかって遊んでいた。激務に追われているこの俺を、だ。本当に迷惑な奴。 ローズの教育で紳士的になったと思っていたが、それはただの余所行き用だった。俺たちの前では、依然として我儘で女王様の様な振る舞いを見せる。 書類に目を通している時だって、お構いなしに話し掛けてくるノーヴァ。何度言っても、これをやめる気はないらしい。「ボク、ヴェルの事諦めたわけじゃないからね」「は? ンな事知ってるよ。あー、待て。この書類で最後だから、あと少し黙ってろ」「やだよ。だって、ヴェルとヴァニルがずっ
戯言ばかり言うヴァニルをはっ倒してやりたいが、力の差は歴然。俺に反抗や抵抗をする術はない。 けれど、黙って受け入れるのも癪だ。「挿れねぇって! 俺は女で童貞捨てる予定なんだよ! 何が悲しくて男で卒業せにゃならんのだ」「はは。女より、ココのほうが具合がいいですよ。格段に」 ヴァニルがガチガチに滾ったそれを、俺のケツに押し当てて言う。そして、ゆっくりと俺のナカを拡げて入ってきやがった。「んぁ····知らねぇよ。とりあえず、ノーヴァで卒業なんて、絶対に嫌だっ」「強情だなぁ。ほ〜ら、ボクのナカ、ヴェルが初めてだよ? 挿れてくれないのぉ?」 ケツを開いて誘ってきやがる。まったく、どこでこんな破廉恥な言動を覚えてくるんだ。 ····200年も生きてりゃ知ってるもんなのか?「い、挿れない····絶対挿れないからなっ!!」「残念。そもそもねぇ、ヴェルが女を抱くの許した憶えないから。はーい、いただきま~す」 後ろから俺に突っ込んでいるヴァニルが両脇を抱え、腰が引けているのに無理やり上体を起こす。「や、やめろ····ふざけるのも大概に──んぁ····」 バカみたいに元気いっぱい滾っている俺のちんこを、ノーヴァのケツがぐぷぷっと飲み込んだ。「ふっ、あぁっ····んぅっ、キツ··ちんこ痛ぇ····」「初めてなんだからしょうがないでしょ」「ヌェーヴェルの初めても、喰い千切られそうなくらいキツかったですよ」「うるせ··待て、動くな。もう出ちまう! あぁぁっ、ヴァニルも動くなぁぁ!! ひあぁぁぁっ!!
快楽にしか興味のない吸血鬼共。奴らとの乱れた関係に休止符を打つべく、俺は嫁探しに本腰を入れようと決意した。 翌日、早速父さんに嫁を探すと言ったら、既に見繕っていたのだと候補のリストを渡された。どれも、名家の令嬢ばかり。名と権力にしか興味がないような女ばかりなのだろう。 そう思うとウンザリするが、1人くらい俺自身を好いてくれる女がいるかもしれない。理想は捨てきれん。できれば、相思相愛となりたいのが本音だ。けれどこの際、高望みなどしていられない。 俺は、リストの中から数人にチェックをつけて返却した。それを見て鼻で笑われたのは癪に触ったが、跡を継ぐ準備の為だと思いグッと堪えた。 見合い当日。 ダメだと言ったのに、朝方まで機嫌の悪いヴァニルに犯されていた。その所為で腰がめちゃくちゃ痛いのだが、これしきの事で倒れているわけにはいかんのだ。 俺は腰とケツの痛みに耐え、長々と喋る父さんと相手方の母親に愛想笑いを返す。互いの紹介を終えると、俺は見合い相手と2人きりにされた。 1人目の候補者は、お偉い政治家《オッサン》の娘。名は確か、ジョジュリーン。見た目はかなり美しいが、どうにも所作が気に入らない。きっと、普段はステーキも自分で切らないのだろう。そういう感じだ。 当たり障りのない話をしてくるので、適当に返事を返す。よく喋るこの女は、家の自慢話とヴァールス家の話ばかり。俺に興味が無いことなど、話し始めて数分で悟った。「ヌェーヴェル様は、ご兄妹とは仲がよろしいのですか?」「ええまぁ、それなりに。すぐ下の弟と末の妹は、僕に懐いていて可愛いですよ。だから、つい甘やかしてしまって」「そうなのですね。是非一度、お会いしてみたいですわ」「はは。そうですね、是非一度····」 最後は兄妹仲の確認。結局、俺個人についての質問などひとつも無かった。 きっと、残りの候補たちも似たり寄ったりなのだろう。そう思うと流石に心が折れそうだ。 俺だって、人並みに夢を見ていた。いつかフワフワした愛らしい女性に愛されたいと願っていたは
ノウェルは屹立したそれを入り口に馴染ませると、俺の反応を見ながらゆっくり挿入した。「んぁっ····前立腺、ゆっくり擦るな····」「これ、気持ちイイね。あぁほら、どんどん溢れてくる」「勝手に出るんだから、しょうがないだろ。あぁっ! 待て、奥はダメだ」「すまない、痛かったかい?」「違う····すぐに、その、イッてしまうから····」「そうか、痛くないのなら良かった。けど、奥はもう少し解してから貫いてあげるね」「ふあっ、やめろって! 本当に、止まらなくなるからぁっ」 ノウェルは予告通り、奥をグリグリとちんこの先で解すと、一息に差し貫いた。「んあ゙ぁ゙ぁ゙ぁぁ!! やっ、ああぁっ····ダメだ、やめっ、ひあぁっ··止まんねぇ····」 潮を噴くのが止まらなくなり、ベッドも俺達もぐしょぐしょになってしまった。非常に気持ち悪い。これは何度やらかしても慣れない。 なのに、ノウェルは嬉々として奥を抉り続ける。「はぁ····ンッ、ヌェーヴェル、後ろから突きたい。そのまま体勢を変えられるかい?」 なんて聞きながら、強引に足を持ち上げて俺を半回転させる。俺はへばりながら、腕で支えてなんとか身体を捻じった。「お前のこと··だから、俺の顔を、見ながら··ヤりたがると··思ってた。んあ゙ッ····奥、も、やめろぉ····」「よく分かっているね。君の顔が見られないの
ノウェルの間抜けな微笑みを見て心臓が跳ね、抱き締めたいと思った。これは、俺がこいつに恋をしているからなのか。本当にこの気持ちの正体が、バカ2人とノウェルへの恋心なのだろうか。 到底認めたくないが、症状がノウェルの定義した“恋”には当てはまる。だとしたら、これは由々しき事態だ。性別どころか人数まで、俺はどこまでいい加減で不誠実なのだ。 こいつらに本気で心を奪われる事など、有り得ないと確信していたのに····。 これまでの俺は、女に限らず他人を信用しないで、家督を継ぐ事ばかり考えていた。だから、何かに心を揺さぶられようが、それはひと時の迷い事でしかない。そう思っていたのだ。 だからこそ、今まで真剣に考えてこなかった。恋などというものを、まさか自分ができるとも思っていなかった。憧れだけを残し、政略結婚をするのだろうと踏んでいたのだから。 こんなにも他人を自由に想う事ができたなんて、正直戸惑いを隠せない。しかし、ようやく向き合う決心をしたのだ。これまでの凝り固まった考えなど捨て、柔軟にこいつらと向き合いたい。だが····「俺は、お前の定義でいくとマズいんだ。ノウェルだけじゃなくて、ヴァニルとノーヴァにも恋をしている事になる。こんな不誠実なものが恋なわけないだろう」「確かに不誠実かもしれないね。けど、全部恋でいいんだよ。君は、僕達それぞれを想ってしまった。それだけの事さ。いずれ、僕を選んでくれればそれでいいんだよ」 愛情に見せかけた、傲慢でエゴイスティックな笑顔を俺に向けたノウェル。妖艶とも不気味ともとれるその厭らしい笑みに、俺はまた鼓動を高鳴らせる。「そんなの····選べるかわかんねぇ··から、約束なんてできない」「今はそれでもいい。君の心がほんの僅かでも、僕に向いてくれているのなら」 ノウェルは優しいキスをする。ノーヴァとヴァニルは滅多にしない、唇を重ねるだけのキス。キスって、こんなにも
俺は、ノウェルをイェールに盗られたくないのだろうか。胸を張って“好き”だとも言ってやれないのに。「君が僕とイェールの関係をハッキリさせたいのなら、僕はいつだってイェールを突き放すよ」 俺の頬に手を添え、迷わずに言い切ったノウェル。俺は、その言葉に安心してしまった。「イェールには申し訳ないけれど、君と愛を交わす為に利用させてもらっているだけなんだから。ヌェーヴェル、安心しておくれ。僕はいつだって君の思い通りに動くよ」「そ··んな事····俺が言える立場ではない。イェールの事はノウェルが決めればいい。でなければ、イェールに不誠実だろう」 ノウェルの目を見て言うことができない。どれほど卑劣な考えがよぎっているのか、自分でわからないはずがないのだから。「はは····君は本当に真面目だね。そして狡い。自分の気持ちは見ないフリしてしまうのだから」「そんなつもりじゃ····いや、そんな事はない。気づいたんだ。俺は自分の事ばかりで、お前達の好意を蔑ろにしていた」 ノウェルから逸らしている視線を、さらに落として続ける。俺はこれを、自身への戒めとして口にするのだ。「クソ親父みたいな人間にならないようにと思っていたのに、結局アイツと同じ事をしていたんだ。俺は、俺が許せない····」 ノウェルはそっと俺の肩を抱き、瞼に優しくキスをした。ふと、目が合う。俺に似た顔で、俺にはできない優しい目で俺を見つめる。「ヌェーヴェル、ベッドに行こうか」「······あぁ」 俺たちはたどたどしく触れ合う。2人きりでするのは初めてだ。だからなのか互いに緊張を隠せず、妙な遠慮を孕んでいる。「お前が挿れるのか?」「君、僕
感情が昂って喚いた俺を馬鹿にするように、ノーヴァは鼻で笑って言う。「ちっさ。前に聞いた時も思ったんだけどさ、ただの我儘マザコン坊やだよね」「ぶふっ····ノーヴァ、そんなはっきり言っては悪いですよ。幾らくだらない理由だからって····」「くだっ····お前らに俺の気持ちなんてわかんねぇよ! もういい。何もかも嫌だ。暫く俺の部屋には来るな!」 2人を追い出して、俺はベッドに倒れ込んで泣いてしまった。勝手に溢れて止まらなかったんだ。 心の傷を嘲笑われたの事や男として終わっていた情けなさ、他にもぐるぐる巡る様々な感情で気持ちがぐじゃぐじゃだった。 嫁探しは白紙に戻したい。けれど、跡を継ぐ事は諦めない。などと、そんな勝手が許されるはずはない。百も承知だ。 それでも、もう決めた事。後継問題は先送りにして、跡を継ぐ事に専念するしかない。後の事は継いでからどうにかすればいいのだから。 このくだらない実験に、意味があったのかは分からない。俺が傷ついただけな気もする。だが、できる事とできない事が分かっただけでも儲けものだ。今はそう思う事でしか、自分を慰められなかった。 どのくらい経ったのか、いつの間にか涙は止まり呆然と天井を眺めていた。何もかも投げ出して逃げてしまいたい。いっそ、今すぐ吸血鬼になってしまおうか。そう思った瞬間だった。 コツコツと遠慮がちに窓を叩く音。ノウェルだ。ノーヴァとヴァニルよりも小ぶりな羽をバタつかせている。 俺は無気力に窓を開け、思考など手放してノウェルを迎え入れた。「お前、飛べるんだな。いよいよ吸血鬼らしいじゃないか」「あはは、意地悪を言わないでくれよ。あまり試したことがないから、奴らほど上手くは飛べないんだけど····ってヌェーヴェル、もしかして泣いていたのかい?」 心配そうな困り眉になり、俺の目尻を親指で拭う。乾い
俺は、嫁探しの話を白紙に戻そうと模索していた。あまり時は無い。早々に理由を考え、どうにかして父さんを言いくるめなければ。 そう思っていた、見合いを終えた日の夜。「ノーヴァ、今日は勘弁してくれ。本気で言い訳を考えにゃならんのだ」「話はわかったけどさ、何にしても試しておかなきゃダメでしょ」 と、ノーヴァは俺のちんこを弄りながら言う。「試すたって····この間、お前のケツでイけたじゃないか」「お尻じゃ赤ちゃんデキないでしょ。バカなの? それに、ヴァニルに挿れられてたし。女でイク気ないじゃん」「うっ··あ、あるわ! で····なぜ手でするんだ? また女体化するんじゃないのか?」「あー····初めから女の姿がいい?」「まぁ、な。どうせ童貞は奪われたんだ。もう気にしなくていいなら、楽しめるものは楽しまなきゃ損だろ」「ヴェルさぁ、ホント欲に忠実すぎない? かつて出会ったどんな人間より素直に貪欲だよ」 褒めているのか貶しているのか知らないが、ノーヴァは呆れ顔で女に変身し、いよいよ女の身体をいただく流れになった。にしても、この緊張感は何だ。 どういうわけか震えが止まらない。震えている事がバレないよう慎重に触れてゆく。その所為か、思うように事を運べない。 悔しいが、ノーヴァの手解きに従い進めてゆく。「ん····そろそろ挿れていいよ。ヴァニルは手を出しちゃダメ。実験が終わるまで、上手に“待て”できるよね?」「わ、わかってます····」 俺の背後に近づいてきていたヴァニルは、ゴクッと息を呑み引き下がった。ノーヴァのこんなにも破廉恥で妖艶な姿を見れば、誰だって従わざるを得ない。 あまりにも残酷な結果だったの
流石に、本気で俺を睨むヴァニルにはビビった。調子に乗り過ぎたかもしれない。「お前、眼がシャレになってないぞ····。わかった、なら吸血だけは──」 ヴァニルは俺の後ろ髪を鷲掴むと、大きく見開いた目で見つめながら、ポツリポツリと言葉を刺してきた。「念の為、はっきり伝えておきますが。貴方が他の誰かを愛するなんて、私は嫌なんですよ。どれほどの衝動を抑え耐えているか····ましてや、貴方の子なんて見たくもない。なんなら嫁をくびり殺してやりましょうか?」 そう言ったヴァニルの顔は、怒りつつもとても哀しそうだった。申し訳ない気持ちと共に、こいつを裏切ってしまうような罪悪感が湧き上がった。おかげで、いつもの憎まれ口も叩けない。 何もかもがどうでもよくなって、ただヴァニルにこんな顔をさせたくないと思うだけだった。本心の知れない女や俺に関心を持たない女より、俺を求めてくれるこいつらと生きるほうが幸せなのかもしれない。そう思わざるを得なかった。「嫁····そんなに嫌か?」 ヴァニルの頬を指で撫でながら問う。俺から触れるなんて、随分心が参っているようだ。 俺から触れた事に驚いたのか、いつもの胡散臭い穏やかな目に戻ったヴァニルは俺の手を握って言う。「嫌ですよ。貴方は、慕う相手が目の前で他の誰かに奪われるのを、指を咥えて見ていられるんですか?」「そんな事··できるわけ、ない····よな」 俺は自分の事ばかり考えて、こいつらの気持ちを軽んじていた。今更だが、己の身勝手さに辟易する。「悪かった。俺は父親への復讐ばかり考えて、跡を継ぐ事に固執していた。何より、お前たちの気持ちに甘えて蔑ろにして、俺が一番なりたくない人間になっていた」 俺自身が過ちを認め詫びたからとて、こいつらを傷つけた事実は変わらない。だから、これから誠意を持って向き合う
「貴方は本当に女運がないというか····。めげずに希望を探すのは勝手ですけど、そんなに焦らなくてもいいんじゃないですか? まだ若いんですし」 しれっと隣に座り、さりげなく腰を抱く。こんなところ、人に見られたら言い訳のしようがない。 なのに、今はこいつに触れられているのが心地良いと思ってしまう。「人間が若いのなんて一瞬なんだよ。それと、お前に若いなんて言われると子供扱いされているようで腹が立つ」「まぁ、私からすれば人間なんて、老人と言えど子供のようなものですからね。ヌェーヴェルなんてまだまだひよっ子ですよ」 俺を気遣っているのか、いつもより軽い口調で話すヴァニル。今は、その優しさに絆されていたい。「そのひよっ子相手に変態かましてんじゃねぇよ。はぁ····流石、300超えてるジジイは年季が違うな」「喧嘩売ってます? あ、そうだ。こんなしょうもない話をする為に来たんじゃないんですよ」「どうした、何か問題でもあったのか?」 ヴァニルは深刻そうな顔をして、振り出しにもどるような事を聞いてきた。「いえ、確認しておきたくて。ヌェーヴェルは嫁を迎えたら、私達との関係を終わらせるつもりですか?」「あぁ····その事か。一時的に中断って感じだな」「終了ではなく中断··ですか。ご希望の期間は?」 終了ではないとわかりホッとしたのか、中断と聞いて腹を立てたのか。あるいはその両方か。なんとも複雑そうな表情をしている。「これは俺の我儘だ。俺が吸血鬼になるって話も併せてな」 はて、と顔に書いている。キョトンとした間抜けな顔も美しいのが、実に腹立たしい。 だからと言うわけではないが、俺は堂々たる態度で俺の希望を伝える。「俺の子供が独り立ちしてから··とかでもいいか? 子供ができたら、それに対しての責任は果たさにゃならんだ
快楽にしか興味のない吸血鬼共。奴らとの乱れた関係に休止符を打つべく、俺は嫁探しに本腰を入れようと決意した。 翌日、早速父さんに嫁を探すと言ったら、既に見繕っていたのだと候補のリストを渡された。どれも、名家の令嬢ばかり。名と権力にしか興味がないような女ばかりなのだろう。 そう思うとウンザリするが、1人くらい俺自身を好いてくれる女がいるかもしれない。理想は捨てきれん。できれば、相思相愛となりたいのが本音だ。けれどこの際、高望みなどしていられない。 俺は、リストの中から数人にチェックをつけて返却した。それを見て鼻で笑われたのは癪に触ったが、跡を継ぐ準備の為だと思いグッと堪えた。 見合い当日。 ダメだと言ったのに、朝方まで機嫌の悪いヴァニルに犯されていた。その所為で腰がめちゃくちゃ痛いのだが、これしきの事で倒れているわけにはいかんのだ。 俺は腰とケツの痛みに耐え、長々と喋る父さんと相手方の母親に愛想笑いを返す。互いの紹介を終えると、俺は見合い相手と2人きりにされた。 1人目の候補者は、お偉い政治家《オッサン》の娘。名は確か、ジョジュリーン。見た目はかなり美しいが、どうにも所作が気に入らない。きっと、普段はステーキも自分で切らないのだろう。そういう感じだ。 当たり障りのない話をしてくるので、適当に返事を返す。よく喋るこの女は、家の自慢話とヴァールス家の話ばかり。俺に興味が無いことなど、話し始めて数分で悟った。「ヌェーヴェル様は、ご兄妹とは仲がよろしいのですか?」「ええまぁ、それなりに。すぐ下の弟と末の妹は、僕に懐いていて可愛いですよ。だから、つい甘やかしてしまって」「そうなのですね。是非一度、お会いしてみたいですわ」「はは。そうですね、是非一度····」 最後は兄妹仲の確認。結局、俺個人についての質問などひとつも無かった。 きっと、残りの候補たちも似たり寄ったりなのだろう。そう思うと流石に心が折れそうだ。 俺だって、人並みに夢を見ていた。いつかフワフワした愛らしい女性に愛されたいと願っていたは
戯言ばかり言うヴァニルをはっ倒してやりたいが、力の差は歴然。俺に反抗や抵抗をする術はない。 けれど、黙って受け入れるのも癪だ。「挿れねぇって! 俺は女で童貞捨てる予定なんだよ! 何が悲しくて男で卒業せにゃならんのだ」「はは。女より、ココのほうが具合がいいですよ。格段に」 ヴァニルがガチガチに滾ったそれを、俺のケツに押し当てて言う。そして、ゆっくりと俺のナカを拡げて入ってきやがった。「んぁ····知らねぇよ。とりあえず、ノーヴァで卒業なんて、絶対に嫌だっ」「強情だなぁ。ほ〜ら、ボクのナカ、ヴェルが初めてだよ? 挿れてくれないのぉ?」 ケツを開いて誘ってきやがる。まったく、どこでこんな破廉恥な言動を覚えてくるんだ。 ····200年も生きてりゃ知ってるもんなのか?「い、挿れない····絶対挿れないからなっ!!」「残念。そもそもねぇ、ヴェルが女を抱くの許した憶えないから。はーい、いただきま~す」 後ろから俺に突っ込んでいるヴァニルが両脇を抱え、腰が引けているのに無理やり上体を起こす。「や、やめろ····ふざけるのも大概に──んぁ····」 バカみたいに元気いっぱい滾っている俺のちんこを、ノーヴァのケツがぐぷぷっと飲み込んだ。「ふっ、あぁっ····んぅっ、キツ··ちんこ痛ぇ····」「初めてなんだからしょうがないでしょ」「ヌェーヴェルの初めても、喰い千切られそうなくらいキツかったですよ」「うるせ··待て、動くな。もう出ちまう! あぁぁっ、ヴァニルも動くなぁぁ!! ひあぁぁぁっ!!