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4-9.レイカ、夜間窓口業務になじむ

last update Last Updated: 2025-04-04 18:00:05

 さあ、登庁の時間です。空、曇ってるな。天気予報でこれから雨って言ってたから傘持ってこう。

「行って来まーす」

「行ってらっしゃいませ」

 なんか変な感じ。ガッコー行ってた頃みたい。あ、前園のオジサンだ。喪服来てどうしたんだろ?

「こんにちは」

「やあ、レイカちゃん」

「あのー」

「この格好かい? ヘイゾーが死んじゃってね。ペットの葬儀屋やら役場やら行って来た帰りさ」

「そうなんですか。病気だったんですか?」

「いいや、老衰だってさ。ここんとこずっと寝たきりだったんだよね」

 どうりでウチが帰った時吠えてくれなかったんだ。

「残念ですね」

「ああ本当に。レイカちゃんもヘーゾウと仲良くしてくれてありがとね」

「いえ」

「じゃ」

 オジサン泣いてた? 無理もないよ、15年も一緒だったんだから。サビシイヨ。へーちゃん。

 バスやっと来た。

ゴリゴリーン。

「役場まで」

 町の経済にコーケンするため、チャリ通やめてバス通にした。おっとあの二人、桃李女子高だ。紺の紐リボンとくるみボタンの丸エリ白ブレザーに長めの紺のスカート。腕にスモモの木のワッペン。「トーリ、モモイラザレバ」だっけ。なんでかトーリくんにモモが嫌われちゃってるヤツ。辻沢から通ってる子いるんだね。誇らしくもある。今年は東大京大に何人行ったのかな。見た目もどこか知的な感じする。でもおねーさん一言だけ言うね。引っ張ると埃の線になるから、その白い靴下はピシッと履こ(無言)。

「でね、あたしの姪っ子、双子なんだけど、まだ4才なの」

「お、可愛い盛り」

「そーなぬおー。めっちゃかわいいぬおー。二人ともほっぺがぷよぷよでー」

「そーか、かわいいのか。そのかわいいのがどした?」

「あ、そうそう。伯母さんが古い家の出だとかで、あんなちっさいのに、乳歯、わざと折っちゃったんだよ。二人とも。かわいそくない?」

「おー、かわいそーだ。で、なんで?」

「女の双子だからヴァンパイアにならないようにだって。バカげてるでしょ」

「へー、いまだにあるんだ。その割礼みたい
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    Last Updated : 2025-04-08
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    Last Updated : 2025-04-10
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    Last Updated : 2025-04-11
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    Last Updated : 2025-04-12

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     さっきまでと違い、やたらと暗い画面で静止画像かと思うほど動きがない。でもよく見ていると何かが画面の底で蠢いている。しばらくすると、蠢いていたものがゆっくりと立ち上がり、何かを手にぶら下げながら立ち去って行って動画が終わった。さっきのとこれとの違いは、ウエアラブルカメラの映像と設置カメラの映像であるところだ。暗すぎて細かいことは分かりにくいけれど、画面からは言いようのない背徳感が滲み出している。 「闇の匂いする」 「だよね。だからヒビキに観てもらおうって」 「ユサって広報だったよね。何か知ってるんでしょ」 「知らないの」 「知らないって。それでどうやってこのプロダクトのこと広報してんの?」 「広報の仕事って言っても、ポスターの印刷頼んだり、ユーザ宛てのメールの文書作ったりするだけだもん。だからほとんど蚊帳の外」  なんだ、使えないか。 「これでも頑張ったんだよ。なんとか食い込もうと思って。でもダメだった、ヒビキと違って」  あたしはそうならないように、うんとアタマ働かせてやって来たけどね。 「それでも、他の人が知らない余計なことは知ってる」  聞きたかない。 「だから、この動画アップしたのは、カイチョーって言える」  なに泣いてんだよ。こいつのこういうところが嫌なんだ、ホント。  それから観られるだけ観たけど、どれもこれも同じような動画だった。フィルターがかかってる? 「ヒビキ分かる? カイチョーの投稿にパターンがあるの」 「パターン?」 「うん。短期間のうちに3回あげたら、1、2ヵ月空けてまた短期間で3回あげてる」  タイムラインをhoukeikamenで検索して、日付でソートするとユサが言うとおりのパターンが見て取れた。 「ホントだ。よく気づいたね」 「システムやってると、タイムスタンプにはうるさくなるんだよね」  なるほど、習性ってやつか。 「ユサんところの社長SNSってあるじゃない。あれって見てる?」 「カイチョーの『桜の森の満太郎のつぶやき』? 見てない。一、二度見たけど、許せな

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   5-3.ヒビキは引き続き調査する

     画面はSNSっぽくタイムラインに投稿が並んでる。 「記事中の動画リンクはYSSの 『ゴリゴリ動画』 に飛ぶようになってるんだけど」  ある記事のリンクを踏んで動画に飛ぶと、屋外らしき暗い場所で数人がムジャキにすり鉢かぶってスリコギ振り回してる動画が表示された。フラッシュモブとか、盆踊りとかに見えなくもないけど、中の人たちの必死な顔からそうでないのが分かる。 「この人たち、『スレイヤー・V』に出てくるキャラの名前を口にしてて、それと戦ってるつもりらしいの」 〈カイ・ドラキュラはこれで3体目の討伐です。ヒル人間はミッションレベルが上がるたびに手ごわくなってきます。しかし、わが隊は徹底したタッチアンドアウェー攻撃で対抗しています。ヴァンプオブチキン隊でした〉 〈がんばれー、臆病ヴァンパイア〉〈負けるなー〉〈氏ぬなー〉〈いや、むしろ氏んで来い!〉 「これって、『スレイヤー・V』をリアルにやってるふうなんだよね」  リアルにって『スレイヤー・V』はヴァンパイア狩りのアクションゲームだったはず。するとターゲットはヴァンパイアなんだけど、それらしきものは画面の中には見当たらない。そっかARか。拡張現実ってやつだ。画面に映ったキャラがあたかもそこにいる感じでプレー出来るやつ。スマフォかざしてる風でもないから、グラス系のデバイスかなにか着けてARキャラを見てる?  〈やられました。負傷者多数。我々の裏をかいて横道から数体のカーミラ・アシュ、カイ・ドラキュラが連携して襲ってきました。なんとか討伐しましたが、ヒル人間はかなりの知能を持っているかと。大丈夫か? 肩の傷は深そうだぞ。あ、厚木エンデバー隊でした〉  〈やられたか。けが人で済んでよかったな〉〈クロキジ隊ってのがこの間全滅したのを見たぞ〉〈動画は削除されました(中の人)〉〈あちらさんも攻勢かけてきてる?〉 今の人、肩押さえて痛がってるけど、演技? それとも同士討ち? 「レベルが13になると、それまでのヒル人間殲滅からギキ討伐にステージがアップするの」 「ギキ?」 「『スレイヤー・V』で上級ヴァンパイアのこと。それをこのゲームでは芸妓の妓と鬼と書い

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   5-2.ヒビキは引き続き調査する

     なんなのこんな夜中にユサのやつ。家に来いってから家のある隣町かと思ったら、青物市場で一人住まいしてるってじゃない。青物市場ったら旧本社の近所っしょ。なんか生臭くさそうで行きたくないんだけど。  車、路駐だけど大丈夫かな。ここらへんコインパーキングないから仕方ないけど。 ここか。すっげー、タワマンじゃん。そういえばここ、「キムタクが住む予定」って噂になったタワマンだ。こんなイナカにキムタク住むわけないのに駅前の一等地にタワマン建つとどこでも噂んなるよね。サーフィンの拠点とか近くに親戚がいるとかまことしやかなディテールがついて。ふーん。エントランスがオートロックで監視カメラ付きなのね。おーいユサ、来たよ(無声)。見えてんのかな、あのカメラ。お、開いた。で、最上階までエレベーターで行って、廊下の一番奥の扉の呼び鈴を押すっと。 なかでドカドカ音がして、ちょとたってインターフォンから、 「今開けるね」  扉が開いて顔出したしたのは、うっすら化粧したユサ。 あんだ? その恰好は。すっけすけのガーゼみたいなの着て。おっぱい見えてんぞ。 「どうぞ、入って」 「おじゃま」  ピンク系のインテリアが鼻に着くリビングに通された。 「ごめんね、急に呼び出して。多分、ヒビキは分かってると思うけど、さっきまでカイチョーがここにいてさ」  なるほど、それで子ネコの写真がひっくり返してあるわけだ。ん? この部屋なんか変な臭いする。あたし乙女だから何の臭いか分かんないや。 「人がシャワー浴びてる間に、あたしのパソコンでインターネット見てたみたいで。カイチョー、開いたページ閉じないでネットする癖あって、帰ったあともそのまんまになってたからブラウザのタブ一つ一つ開いて見てたら、ほとんどがエッチなサイトだったんだけど、その中に気になるサイトがあって」  相変わらずユサの話はグダグダだな、で? 「これ、『スレイヤー・V』をクリアするとアカウントもらえる会員制のSNSで、 『スレッター』 っていう」  だから? 「ちょっと観てみて。なんか調べてるんでしょ。カイチョーのこと」  

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   5-1.ヒビキは引き続き調査する

     電話だ。スオウさんから。珍しいな。 「はい。あー、分かるよ。おひさ。まあまあ忙しいかな。うん。シラベが帰って来たんだ。いや、知らなかった。そうなんだ。ひさごで、来週の金曜日に。時間は遅めで。うん。分かった。じゃ」  それにしてもスオウさんは未だに通話オンリーなんだな。女バスでSNSグループ作ろうってなった時、スオウさんがそんなオタクなことするならバスケ部辞めるってなって、結局女バスはいつも電話連絡だった。女バスで集まるの卒業以来か。情報収集できるから今回は行ってみようか。シラベに会うの、気が重いけど。 先週は仕事が忙しくてお休みしたから2週間ぶりのジョーロリ講座。お師匠さんってば、 「いいのよー。真似してくれればー」  って言うんだけど、何言ってんのかが分からないのに、どうやって真似しろっての? 最初の最初に、サワリのところだけ録音させてもらえたけど、それさえ聞き取れてないのに。 録音していいですかって言っても、 「覚えられるわよー」  って許してくれない。だから、全然進まないんだよね。勘亭流みたいな太い字で書かれたテキストも全然読めないし。結局また、テキスト1ページ分も進まなかった。 「ヒビキさんは、いい香りがします」  え? 「取り入れたばかりの洗濯物みたいな」  おテントウさまの香りってやつですか? それは褒めていただいたんでしょうか? 「それでヒビキさん。あの人のことはどうなりましたでしょう?」 「引き裂けたかと」  浮気相手を告訴って話振ったら、あの巫女さん泣きだしちゃって、宮司さんにムリヤリだって。駅前のスイーツ屋さんで、はいはいって感じで話聞いて、パンケーキプリンアラモード食べさせて帰しただけだけど。 「はて? そのような感触はなかったような」 「そうなんですか?」 「あの人に何かあれば、すぐにこの胸に響きますので」  えー、なんかすごい。強い絆で結ばれてる二人なんだ。それなのに、宮司さんってばサイテー。

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   4-15.レイカ、夜間窓口業務になじむ

     役場に着いたらミワちゃんから、 「レイカ、あんた何したの? 町長さんに呼ばれてるよ」  ウチが? ウソ。町長室に忍び込んだのばれたのかな。やだなあの、ラブホみたいな部屋に行くの。 「トントン。すいませーん。お呼びだとかー」  「どうぞ」  女の人の声。秘書さんかな。 「シツレーします」  暗い部屋。カーテン閉まってる。外まだ明るいのに。 「こちらの、ソファーに掛けてお待ちください。町長、今呼んできますので」  出てっちゃった。あれ? 制服コレクションなくなってる。ってか、まったく別の部屋だ。フツーに町長さんの部屋。ウチ、この間は違う部屋に入ったんだろか。あー、同じ位置に黒木刀がある。机のバカでっかさも一緒だし、天井は、鏡じゃないな。絨毯は虎皮って、イマドキ。暗くてよくわからなかったからな。 奥の扉がバーンって開いて、すごい勢いで入ってきた背広のおじさん。ウチの前にドカって座っていきなりしゃべりだした。 「お待たせ。いやー、呼びだてしてすまなかったね。アナタの課はトップダウンでアタシが作ったもののひとつだから、なんたらかたら」  すっごいしゃべる、この人。ヒマワリのパパだよね。背高くって痩せてて、ちょっと見いい男だけど、頭がね。こんなにハゲちらかしちゃってて残念。あー、どこかで見たことあるって思ったら、ヒマワリの捜索の時、陣頭指揮取ってた人じゃない。あたしら女バスも助けになりたいって街中の捜索に協力したんだ(青墓へは連れてってもらえなかった)。あの時はたしか辻川助役ってよばれてた。あ、すみません(小声)。お茶出してもらちゃった。秘書さん、顔よく見えなかったけど、お肌真っ白。どこの美白化粧品使ってんだろ。あとで聞いてみよ。ズズー、アッツ。舌やけどした。 「アタシは、アナタの母上とは昔からの知り合いでね。それはお美しい方だった。それがね、あんな亡くなり方をするなんて。ご愁傷様でしたね」 「もにょごにょごにょ」(超小声)。  こういうときなんて返事すればいいのか分かんない。 「とにかく、美しい方でね。アタシが若いころ、まだヤッチャ場で小僧をしていたころだ。腐った菜っ葉にまみれてね」  ヤッチャ

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