空気入れ変えよ。バスケのユニホーム干してあるや。こーやって並んでるのを見るのはやっぱツライな。欠番があるのなんて、ウチのコーコーぐらいじゃないかな。バスケのゼッケンなんて野球とかと意味違うのにね。
4番と7番と9番ない。ヒマワリ。
シオネ。 ココロ。三人があのシーズンに付けてたゼッケン。忘れらんないよ。
これ見るとあの事件のこと思い出しちゃうね。ウチらが高校三年の一学期、梅雨が始まったばっかのころ起こった女バス連続失踪事件のこと。 一番最初は、ヒマワリがいなくなった。 地区大会の練習でいつもより帰りが遅くなって、六道辻で一緒に帰った子とバイバイしたあと、いなくなっちゃった。ヒマワリのパパから捜索願いが出て、近くの池とか森の中とかも町の人総出で探したけど、見つかんなかった。 それからすぐに続けてシオネが、 梅雨が明けるころココロが行方不明になった。 あたしは、女バスのマネージャーってこともあったけど、 ヒマワリは、ミワちゃんもだけど、ちっさいころから家を行き来してよく遊んだ幼馴染だった。 ココロは家が近所だったからよく一緒に帰ってた。 シオネにはみんなには内緒の練習手伝ってもらってた。 だから、みんながいなくなって本当につらかった。 事件の後、ヘンタイに攫われたとか、カミカクシだとか、悪霊の仕業とかいろいろ言われたけど、結局誰一人見つからなかったから、いつの間にか事件はうやむやになってって、なんでかヒマワリのパパ達も捜索願い取り下げちゃてて。しまいには三人一緒に都会に家出したんだとか、そんな子は初めからいなかったとかいう大人まで現れたりして。そういうことにもウチらみんながキズついた。 ウチはこの町が超嫌いになってたから、高校卒業するとすぐに都会に出ようって、実はミワちゃん誘ったんだけど、ミワちゃん卒業式の時に言ったんだ、 「ヒマワリを待ってる」 って。ミワちゃんすごい強いと思った。でもウチはダメだった。はやく忘れたかったもん。「あなた、何してるんですか? そこで」 ドッキー! やっば。ウチ、どー見ても変質者かドロボーじゃん(冷汗)。 「あっれー? レイカ? レイカでしょ?」 よかったー、川田せんせーだ。 そうですー。レイカですー(安堵)。 「やっぱりそうだ。社会人の格好しててもレイカはすぐ分かるよ。そのスーツ似合ってるよ」 先生こそ。ブルズのタンクトップにホットパンツって、相変わらずデンジャラスですね。 「こっちに戻ったんだって?」 「はい。挨拶も来ないで、すいません」 「いいって。それより、お母様のこと聞いたよ。残念だったね」 「……」(こういう時の返事の仕方、ワカラナイ) 事件のあと、先生とよくここで話し合った。てか、いっぱいウチの話聞いてもらった。 「そっか、ユニホーム見てたのか」 「欠番のままなんですね」 「そうだね。それについては、つい最近も議論されたんだけど」 「ウチはやめた方がいいって思います。後輩には関係ないことだし。残すならもっと違う方法があると思います」 「うん。先生はちょっと違うけれど、大方はそんな意見なんだよ。でも」 「でも?」 「欠番継続を強く望む人がいるんだ」 「誰ですか?」 「ヒマワリのお父様。今の町長さんだよ」 ヒマワリのお父さんって、今、町長やってんのか。ウチの上長の上長の上長の上長くらい上長じゃね。 「被害者の方の意見は、なにより優先されるからね」 先生。被害者はヒマワリたちです。ヒマワリたち望んでますかね。 「大変ですね」 「うん。でも、これは先生たちのトール道だから」 懐かしー。 川田せんせーの口癖。何かってーと、「それはあなたのトール道よ!」。 そーだ、昨日の子のことそれとなく聞いてみよ。 「どうですか? 後輩たちは?」 「あー、レイカたちの頃に比べれば、やっぱね」 「そうですか」 「ヒマワリにはなんでも任せられた。あの子、頭よかったからね。シオネは天才。WNBAでも行けたレベル。ミワとナナミのゴール下は安心して
役場に着いたら、ミワちゃんから、 「こんど、みんなで集まろうってなって。レイカも帰って来たしって」 そう言われた。みんなっていうのは、女バスの仲間のことだけど、ドージにあの事件の当事者のことでもあるんだよね。だからアンマ気が進まない。会ったらきっと嫌なこと思い出してみんなどうにかなっちゃう。 役場のお風呂、いいお湯だった。ちょっと髪の毛まだ濡れてるっぽいな。夜、冷房効きすぎて寒いから、風邪ひかないようにしなくちゃ。雑草ジュース置いてある。ミワちゃんまたくれたんだ。サー仕事、仕事。 しまった、家にスマフォ置いて来たった。ったく、どーやって長い夜を過ごせってユーのよ。 今夜は特に暇だなー。ちょっと探検しよっと。このフロアだけならいいよね。気になってんのがあるんだ。あれなんだろーってずっと思ってた。フロアの真ん中に山椒の大木が生えてんの。人工のだけど。その下に女の人が寝てる銅像があるんだよね。 『遊女 みやぎの像』 だって。遊女ってなに? 説明書き「わがちをふふめおにこらや」だけだし。どういう意味だろ。スマフォないからググれないや。この人、宮木野神社に祭られてる人だよね。 辻沢の古い言い伝えで 志野婦神社の志野婦さんと宮木野さんは双子のヴァンパイア っていうのある。この像、寝てるのかな? 死んでるのかな? あれ、この顔どっかで見たことある。っていうか、知り合いに一人はいる顔だ。なんか親しみがわくよ。て言ったからって、くわ!って、目を明けて起きてこないでね。あそぼーなんて言っても遊んであげない。ウチ、仕事中だから。やっば、窓口に誰か来てる。置いてったよ。 気付かれないようにやってきて(歪曲)、 無言で(脚色)、 「特殊縁故結縁届」を窓口に(現実)。 初めてのお客様です。これを、窓口付きのパソコンに打ち込めば。あれ? ボタン押したのにな。ブーンて起動してこない。フツー、マウスいじったら画面が明るくなってさ、登録画面が出て来て、そこに内容を打ち込んで終わりっていうのじゃないのかな。おかしいな。そう言えば、ミワちゃん何か言ってたな。「何かあったら引き出し見ろ」だった。引き出しの
朝8時、家帰ってからすぐにベッドにもぐりこんで寝た。昨日の散歩のおかげで、すぐ寝ついたみたいなのに、まーた真昼間に目が覚めちゃったよ。もっと寝ないと仕事続けらんない。でも今日は涼すぃーね。過ごしやすそー。お風呂は役場で入るとして、トーチョーまで何してよっか。そっだ、居間の大画面でお父さんのビデオでも観よっと。あそこのは皿うどん(つい言いたくなるおやじギャグ)、もといサラウンドだから、迫力あるんだよね。 パパのコレクション、ちょっと古いんだ。なんせ16年前からそのまんまだから。ウチが観て面白いってのはアンマない。なにこれ。 『狼男アメリカン』 アメリカ人の青年が狼男になる話? 狼男に噛まれたらゾンビになるのか。ふーん、これにしょ。 着替えるのめんどくさいからパジャマのまんまでビデオ鑑賞。ママ生きてたら怒られたろうけど。ん? なんで、お味噌汁の匂い? ママが化けて出た? のわけないか。 なんか思い出しちゃった。お休みの日に遅く起きたら、ママがお昼の用意してて、こんな感じに、お味噌汁の匂いが漂っててさ。台所行ったら、ママが厭味ったらしく、「おそよー」なんて言って来て。くっそも面白くなくってカチンと来て。お腹すいてたのにわざとお昼食べなくて、ずっとTV観てママのこと無視してた。今思えばフツーの挨拶じゃん。オトナゲなかった、あの頃のウチ。なんでもママに逆らえばいいて思ってたふしがあるよ。 そっか、ニーニーの可能性も、ってないね。ゼッテーない。ウチがここを出る何年も前から一度も部屋から出てきたことなかったヤツが、ママが死んだくらいでカイシンしないっつーの。じゃー、だれって。ビンゴ! 高倉さんでしたー。 「こんちわー」 「お目覚めですか? 勝手に上がらせていただいております。聞けば徹夜のお仕事とか。大変でございますね」 「とか」だって。いきなりギャル語? なんか使い方違うし。 「は、はい」 会話続かない。 「よかったら、お食事をご一緒にいかがですか?」 ニーニーと? いやいやいや。ありえん案件だから。 「私とでございますが、お嫌ですか?」 高倉さんと? ひとんちで食事してんの、この人。いつもこーゆー感じだったの
ズーズズー。あーまずかった。ミワちゃんからマタマタもらった、ペンペングサ&タンポポ・ミルクココア。どれか一つにすりゃーいいじゃん。ペンペングサか、タンポポか、ミルクココアか。なんでいっしょにすんのよ。エグすぎるっての。まったく確信犯だよ、ドSのミワちゃんは。 しかし、あせるね。話すことない。高倉さんも一言もしゃべらないし。一緒って意味なくね? 「レイカ様は」 ビックしたー。しゃべったよ。あれ、高倉さんって、よく見っとキレーな人だ。色白で、ホソオモテっての? オバサンくさいお化粧直せばイケイケじゃね。特にそのチークは、ナンダカ。 「お役所にお勤めですとか」 またギャル語。どんだけウチとナレシタシミたいの? でも最近使わないから、その「とか」とかー。 「どちらの部署になりますでしょう」 「特殊戸籍課ってところです」 「まあ、ミワ様と同じところですね」 「知ってるんですか? ミワちゃんのこと」 「はい。よっく存じ上げておりますよ。お生まれになったころから」 「そんなに前からですか?」 「こちらでも、つい最近までご一緒させていただいておりました」 え? うちで? ミワちゃんが? 「はい。奥様がミワ様をいたくお気に入りで、しばらくお宅に住まわさせていらっしゃいました。ご一緒にお料理などされて、それはそれは可愛がられて。私にも『娘が帰ってきたようよ』と喜ば……、大変失礼いたしました」 「いいえ。いんんです。ウチは」 いいのに、高倉さん。すっごく申し訳なさそう。 「それって、いつごろの話ですか?」 「はい。レイカ様がお宅を出られてすぐに来られてたそうで、奥様が亡くなられるちょっと前まで」 ずいぶん長い間うちにいたってこと? ミワちゃんそんなこと何も言ってくれなかった。言いにくかったのかな? 「ゴチソー様でした。玉ネギ抜き牛丼おいしかったです」 「お粗末さまでございました。あ、そのままでどうぞ」 「いえ、洗います」 洗剤どれ使うのかな。この粉の使っちゃえ。蛇口はどっち?。アッツ。ネットーじゃん。 ま、いっか。ミワちゃんと
さあ、登庁の時間です。空、曇ってるな。天気予報でこれから雨って言ってたから傘持ってこう。 「行って来まーす」 「行ってらっしゃいませ」 なんか変な感じ。ガッコー行ってた頃みたい。あ、前園のオジサンだ。喪服来てどうしたんだろ? 「こんにちは」 「やあ、レイカちゃん」 「あのー」 「この格好かい? ヘイゾーが死んじゃってね。ペットの葬儀屋やら役場やら行って来た帰りさ」 「そうなんですか。病気だったんですか?」 「いいや、老衰だってさ。ここんとこずっと寝たきりだったんだよね」 どうりでウチが帰った時吠えてくれなかったんだ。 「残念ですね」 「ああ本当に。レイカちゃんもヘーゾウと仲良くしてくれてありがとね」 「いえ」 「じゃ」 オジサン泣いてた? 無理もないよ、15年も一緒だったんだから。サビシイヨ。へーちゃん。 バスやっと来た。 ゴリゴリーン。 「役場まで」 町の経済にコーケンするため、チャリ通やめてバス通にした。おっとあの二人、桃李女子高だ。紺の紐リボンとくるみボタンの丸エリ白ブレザーに長めの紺のスカート。腕にスモモの木のワッペン。「トーリ、モモイラザレバ」だっけ。なんでかトーリくんにモモが嫌われちゃってるヤツ。辻沢から通ってる子いるんだね。誇らしくもある。今年は東大京大に何人行ったのかな。見た目もどこか知的な感じする。でもおねーさん一言だけ言うね。引っ張ると埃の線になるから、その白い靴下はピシッと履こ(無言)。 「でね、あたしの姪っ子、双子なんだけど、まだ4才なの」 「お、可愛い盛り」 「そーなぬおー。めっちゃかわいいぬおー。二人ともほっぺがぷよぷよでー」 「そーか、かわいいのか。そのかわいいのがどした?」 「あ、そうそう。伯母さんが古い家の出だとかで、あんなちっさいのに、乳歯、わざと折っちゃったんだよ。二人とも。かわいそくない?」 「おー、かわいそーだ。で、なんで?」 「女の双子だからヴァンパイアにならないようにだって。バカげてるでしょ」 「へー、いまだにあるんだ。その割礼みたい
今夜も暇な窓口。雨、降りそーにないね。 「アメが降るー、アナタは来ないー」だれだっけこの歌口ずさんでたの。うわ! ブチョーのササマダラだ。やだやだ。思い出したくもない。 しかし、このノボリ目障りだわ。わざわざミニのまで作ってさ。「ゴマスリで町おこし!」(ミニ声)。やっぱヘン。この町は誰にヘツラッてんの? そーいえば、来るとき、三宅酒店の角でお葬式やってたな。こんな時間なら通夜じゃね? って思うけど、この町、なんでかお葬式、夜やるんだよね。本式でない仮のお葬式の「影隠し」っていうので出すことが多いからかもだけど。ま、例のシキタリってやつだね、きっと。 それで思い出した。前園さんのオバサンがいつか言ってたことがあって、お葬式って必ず三つ続くもんなんだって。小島さんのお母さん亡くなった時は、そのあとホントに二つ続いたんだよね。宮崎さんとこのオバーさんと、暮山さんの娘さん。あるのかねそーいうの。ママのお葬式の時も、「これで二つ目ね。この間、三輪さんの奥様が亡くなられてー」、なんて死神みたいな(オバサンごめんね)こと言ってたっけ。前園のオバサンはなんでも知ってるから、すっごく頼りになるけど、ある意味怖い存在だよ。てか、あと二つお葬式あるかも。 へー、ここの天井ガラス張りなんだね。気付かなかったや。昼間とかめっちゃ熱くなりそう。設計した人、何考えてんだろ。あ、動いた。何だろ。ガラスになんかが張り付いてる。暗いからよくわかんないけど。ケッコーおっきいから、うーん。カブトムシかな。手足があるみたいだから、ヤモリかも。あ、もう一匹いる。なんか絡み合ってる。アラー、お盛んですねー、小動物さんたち。それに比べてウチなんぞは、彼氏いない歴、イコール年齢だもの。ショボン。今何時? スマフォどこだっけ。カバンの中だった。まーた、モー。このスマフォ、反応ワルスギ。そろそろ寿命? コイツメ! コノ! コノ!。やっと反応した。二時半。まだまだ明けない夜明け。小動物さんたちは? あれ、一匹いなくなった。ブーンって飛んでったんだね。やっぱカブトムシだったんだ。 「アヴェックでランデヴューか。羨ましい」 ヴの発音、よだれでべちょべちょになるから嫌い。バ・ビ・ブでよくない? てか、いま誰言った? アヴェ
エレベーターはもう停まっちゃってるし。西棟の階段は外から入るのか。東棟の階段は中からだから、こっちから昇ってみよ。ぎ、ぎぎー。何か臭いね。生臭いっていうか、おえ、吐きそうになる。鼻摘まんでいこう。かつーん、かつーん、かつーん、かつーん、かつーん。ぎ、ぎぎー(効果音サービス)。疲れた。かなり昇ってきたな。足パンパンだよ。ここが最上階? 高い。めっちゃ気持ちいー。遠くに街の灯が見える。ウチが三年過ごしたN市かな。ホントにクローしたよ。結局彼氏の一人もできなかったし。 ウチがいた会社、ブラックとか言ちゃったけど、確かにサービス残業とかあったよ。けどちゃんとしたトコだった。セク原みたいのはホントに珍しくって、それなりに女の子をソンチョーしてくれるところだった。プロジェクトっていうのにも、君たちも戦力だからってユメカと一緒に参加させてくれたり。ウチら頑張った。朝夕2回のなっがーい会議とか毎回出席したし(今レジュメ、何《《チョー》》目ですか? のレイカちゃん笑)、何十部っていうレジュメ作るの手伝ったし(2《《チョー》》ホチキスのレイカちゃん)、みんなの夜食、遠くのコンビニまで買い出しに行ったし(8《《チョー》》コンビニのレイカちゃん)、ビックヤマダセンターにコピー用紙買いに走ったし(用紙《《チョー》》達のレイカちゃん)。チョーじゃねーし、シラベだし。 そのプロジェクトの打ち上げで、社長賞とかもらったのは、やっぱ中心の男の人たちだけだったけど、最後に、プロマネのササマダラ、じゃなかった、プロジェクト・マネージャーの笹部長から、今回の真の功労者はここにいる女の子たちですって言われて、みんなから拍手されて、頑張ってよかったねって、ユメカは喜んでたけど。 ……結局、女の子呼ばわりかよ。 そんで、飲み会の席とか男子だけであつまる場所では、ユメカとウチのことを爆貧問題(胸の大きさを漫才の爆笑問題にかけてるんだよ。バカでしょ)って陰口たたいてるの知って、怒りをトーリこして、すごくさびしい気持ちになった。その中にはちょっといいなって思ってた子もいて……。おんなじチームで働いてるのに、人のことそんなふうに言うのってどうかしてるって思わない? 女バスなら絶対ありえないもん。……してたか、ウチらも。 キツリツしてるな、こ
よかった。こっちは開くよ。う! 何このニオイ。古い倉庫の一番奥の濡れ段ボールが腐ったような。床もヌルヌルしててキモイし。人がいる。それもたくさん。階段に並んでる。こっち見た。例の偉い人たちみたいだけど何か変。みんな同じようにメタボバラに髪の毛少ない。あっちの人セーラー服着てるし。え、おじさんだよね。こっち来る、ワラワラと。これやばいやつだ。逃げよう。入った扉締まりそうになってる。ダッシュ!ギリセーフ、出れた。でも、締められない。何で? 向うからすごい力で押してるんだ。ダメ。耐えらんない。逃げなきゃ。追いかけてくるよ。わ! 反対側にも同じようなやつがいる。このままじゃ挟まれる。どっか隠れるところ! あそこに部屋が。扉開いてますように。 入れた。ドア閉めれた。あの人たちなんなの? みんなフィットネスボールから頭と手足出したみたいな体形して。もう追って来ないみたいだけど。でも静かになるまで待とう。 静かになったみたい。てか、何だろこの部屋。制服がいっぱい陳列してある。女子のものばっかだな。ん? この制服のDJって袖の刺繍、なんか見たことあるな。三つ葉のマークのも、これ東京の有名女子高のじゃね? かわいい。ヒナゲシの花のエンブレムって、これ成女工のだ。こっちはウチのコーコーの。夏冬ある。青洲女学館のまで。なんだろ制服ミュージアムかなんかかな。でなかったらセーフクオタのコレクションルーム? しかし、やたらムーディな部屋。ジュータンふっかふかだし。ソファーもなんか、ベッドみたい。天井ミラー張りって、ここはラブホか? ウチ、ラブホ行ったことないから知らないけど。 棚に木刀が置いてある。ライトアップして。この木刀真っ黒。ちょ、ちょっとだけ持ってみよう。わっ! なんかしびれた。これはエグイほうの武器だね。触っちゃダメなやつー、ってね。 正面の机の後ろに見覚えのある代紋が。辻の字に木ノ芽と山椒の実六つ。なんだ町のマークか。ひょっとして、ここは。 しかし仰々しい机だな。おっきすぎるよ。椅子でっか。名札があるね。ひっくりかえってる。どれどれ。えっとー、「辻川町長」! やっば、ここ町長室? ウチの上長の上長の上長の上長の上長くらい上長の部屋なの? はやく出、って痛ったー。今ゴツンて。何すんの? 頭なぐったの誰
あそこの二人は、控え目に牙付けて口に血のりシール貼ってるだけだけど、さっきすれ違った二人組なんか、全身ヴァンパイアコスプレだった。紫と赤の全身タイツ着てマントつけて。気合入ってんなーって、注目の的だった。二人ともスタイルよかったし。 ウチらジモティーは夜店で買ったヴァンパイアのお面、頭に乗っけておしまい。あー、そうね。あそこにもいるけど、沿線のJKは、制服にヴァンパイアメークってのが流行りみたい。お揃いコーデ、メンドーだからだと思うけど。けっこー、かわいい。スカートの丈つめて、ブットい足晒して。 ヒ! ちっさいおばーちゃんたち。チョー怖い。 「なんか、今年の志野婦の神輿、ちん(ピー)の形してるんだって」(ナナミ、ファール) 「やめてよー。ナナミ」 「セイラ、お前。何ぶりってんだ?」 「ないわ、辻沢の祭りは女祭りだよ」 「山椒の木の寄木造りって書いてある」 「レイカ、お前はどこの人だ。さっきからパンフばっか見て」 ケッコー面白いよ。 「山椒の木ってのは最悪だね。宮木野さんとこNGのはずなのに」 「どぃうこと?」 「宮木野さんは山椒の木の元で死んだから、神社に山椒は持ち込めないことになってる」 ふーん。そーいえば、役場の宮木野さんも山椒の木の下に寝転がってた。 「年女があの神輿に跨がるってパンフに書いてある。豊作祈願だって」 ちん(ピー)に女の子が乗るって、恥ずい。(レイカ、ファール1。反省) 「セイラ、今年、年女でなくてよかった」 「そーだねー。セイラは乗せらんないね」 「ミワちゃんは?」 「あたしは、別に気にしない」 「ちん(ピー)にのったミワの姿って、ワラエル」(ナナミ、ファール2) 「ウケル。そん時は、ナナミも同乗してるから。同い年、二人とも笑」 「レイカもそん時は年女だろ。ママハイ仕込みが」 「ほっとけや」 って、ナナミ、ヤマハイ仕込みでなくってママハイって言ってたんだ。ママの言うことハイハイ聞くって意味か。ウチ、そんなでもなかったよ。とくにコーコーの頃は。ナナミにテクニカルファールみとこ(ナナミ、ファール
今夜は三社祭です。ミワちゃんとナナミとセイラと来てる。カリンも誘ったけど仕事だって、こんな日に。かなりブラック、カリンの会社。ミワちゃんの黄色地に白い花柄の浴衣キレー。ナナミ、相変わらず肩幅広っろ。その浴衣おとーさんの? 渋すぎでしょ。セイラはいったいいつからそーいう趣味になった? ゴスロリ浴衣って。でもアンガイ似あっててカワイイ。ウチはママの拝借。ちょっとオトナな感じの赤地に黒い縦じまの浴衣。高倉さんにママの浴衣出してって頼んだら着付けまでしてくれた。《《おはしょり》》長すぎて腰紐高くしてるのは内緒。 三社祭は宮木野神社と志野婦神社のお祭り。二社しか参加しないのに三社っていうのは、カゲ社といって数揃えを入れてるから。二より三の方が縁起いいしょ。でも、三つ目は青墓の杜にむかーしあった青墓神社のことって言う人もいる。ホントのところは分かんない。ウチは俗説の、宮木野さんと志野婦さんの双子の姉妹の他にもう一人男の兄弟がいて、三社ってのが好き。 ウチは8年ぶりの三社祭。もとは4年ごとのお祭りで、ちょうど4年前にはあの事件があって中止になってた。でも、ミワちゃんたちは毎年参加だって。ヒマワリのパパが商店街振興を掲げて町長に当選してすぐの仕事が、三社祭を毎年開催に変えたこと。無理っていわれてたことを共催企業を募ることで実現したって。これはお祭りのパンフの受け売り。「ヤオマンの提灯と、三社祭の提灯、半々って感じ」「ほんとだー。んっぐぐ」「レイカ、お前、その腐れ牛乳好きだな。何本目だ?」「3本目。おいしーよ。あれ? なんて名前なんだっけ。ラベルない」「辻沢ダイゴ。あのノボリに書いてある」「ダンス・飲・ザ・辻沢ダイゴ!」「ほれ、レイカ。踊れ!」「あ、かっぽれ、かっぽれ」「なにそれ?」「知らない」 あぶな、人にぶつかりそーになった。あんなでっかいヴァンパイアの被り物二人でしてたら邪魔でしょに。てか、周りヴァンパイアだらけ。 宮木野さんと志野婦さんの双子姉妹がヴァンパイアって言い伝えをもとに、女の人はヴァンパイアの格好をして参加するように呼びかけてるんだって。二人一組でね。お揃いヴァンパイアコーデってやつ。
なんとか説明して、北村シニアマネに分かってもらった。「すまなかったね。いやー、勘違い。ここに座るのはみんなそーなのかと思ってしまって」 そんなのは、北村シニアマネだけでしょう。バランスボール、座りたくなくなった。「なに聴いてたの?」 これですか?「三味線の音がもれてたから」 スピーカーON。「あれ? 片っ方のイヤホン、渡して聞かせてくれないの? よく公園のベンチで恋人同士がやってるじゃない」 どうしてあんたと恋人同士みたいなことしなきゃならない? 変な親近感持ってもらっちゃ困るんだよ。ぢー仲間じゃないからな。「これ、宮司の奥さんの声に似てるな。三味線も?」 北村シニアマネお知り合いなんですか? 実は、役場のカルチャーで……。「やっぱりそうなんだ。懐かしいな。あの時、千福オーナーのところで宮司の奥さんにもお稽古つけてもらった」「二人だけかと」「千福オーナー三味線弾けないからね」 そうなんだ。「宮司の奥さんも美しい人でね。お姉さんだけあって」「え? お姉さんなんですか?」「そうだよ。双子のね。美しいと思わないかい?」 それは認めます。物腰がおちついているからそれなりのお年だとは思うけど、「20代に見えるくらい若々しいです」 大げさなようだけど、実際あたしとタメに見えることある。「そう、僕の時も20代に見えたけど。美人は年を取らないものなんだね」 20年前から年を取らない?「あの頃は、二人は仲睦まじくてね。まるで恋人同士のようだったんだよ」 まるで恋人同士。「ひょっとしてですけど、お師匠さんて千福オーナーのこと人に話すとき」「《《あの人》》って言うよ。弟だけどまるで彼氏みたいにね」「じゃあ、志野婦神社の土地の所有者って、千福オーナー?」「そうだよ。以前はもっとあったが今はあそこだけだよ」 お師匠さんのターゲット間違ってた。宮司さんでなくって、千福オーナーだった。なら、あの人がしてる危
志野婦神社の神輿完成報告して社長によろこんでもらうはずが、あたしが余計なこと言ったせいで、社長室の温度、2度くらい下がった感じ。「ヒビキ、あんた何言ってるの? 宮大工が一生懸命仕事するのは当たり前、納期までに完璧に仕上げるのは当たり前。違うか?」「そうです」「なら、どうしてご祝儀をはずまなきゃならない? わが社は仕事に見合った金を払ってないとでも?」「いいえ。十分払ってます」「あまいぞ、ヒビキ。《《ひさしぶりに女バス仲間に会って》》、仲良しごっこが懐かしくなったか?」 ユサのこと? ひさごのことまで知ってる? まさかね。「すみません」「どうせ、現場に言っちまったんだろ」「いいえ、それはしてません。社長に相談してからと」 今のは、ほんの軽口のつもりですし。「まあ、いいよ。とにかくおまえがやってるのは、ビジネスだ。金儲け。わかった?」「わかりました」「わかったら、行っていいよ」「しつれいします」 何年ぶりだろ怒られたの。 社長室出たらカワイがすり寄ってきた。「ねーさん。めずらしいですね。社長、昨日からナンカ機嫌悪いみたいっすよ。御神輿見に行ったらしいんすよ、できあがったの。それ見て怒ったんじゃないっすかね。だからあんだけ僕がチ〇コはまずいって……」 まとわりつくなよ。一人にしてくれねーかな。そっだ、厚生室行こう。なるほど、こういう時こうやってあの部屋が呼ぶんだ。知らなかったよ。あった、バランスボール。紫の復活してる。こっちは北村シニアマネ専用だから、あたしは黄緑のにしよー。ぶーらぶーら。ケツがこそばゆい。これ、本当に心の水平リーベ棒になるのかな。もちょっと、やっててみるか。そっだ、お師匠さんのベンベン節聞きながらやってみよう。〈ビエン、ビエン。なげきのむちもあにぇはなおー、ビエン。いもとがしぇなを、ビ、なで、ビ、おろしー、ビエン、おーお、そなやにおもやるももっとも。しかし。そなたがちちははに、なごおそやったみのかほおー。これこのあねをみやいのおー……〉やっぱ癒される、
女子会、結局参加した。シラベは置いといてみんな変わってなかった。修学旅行でフスマ破った張本人がシラベだったってのには納得。夜中に暴れ出したから、スオウさんとセンプクさんの二人掛かりで取り押さえたって、ははは。笑えない。高2の秋だよ、修学旅行って。例の件、センプクさんせっついたら餌やってるとこって、イミフ。 休み明け、出社早々やられた感。三社祭の公式飲料に乳製品だと? どこの誰が神輿担いで汗かいてミルクをがぶ飲みする? そこはビールとかせめてスポドリだろ?「でも、風呂上りの牛乳は格別って」 そうやってすぐに迎合するのは悪い癖だぞ、カワイ。「風呂上りじゃねーの、祭りなの」「ねーさん。とりあえず、名前考えましょ、これの」 名前すら決まってねーのよ。ついでに。ラベルとかポスターとかどうすれっての? 今から間に合わねーだろ。だれのごり押しだよ。「社長っす」 だよな。社長以外ないな。このタイミングでこれぶっこんで来れるのは。あ、社長出て来た。「ヒビキ、ゴメン。懇意の人がこれをどうしてもってさ」「商品名もまだないって」「できたばっかなんだよ。昨日。でも、おいしいから飲んでみてごらん、ホントに」 そーですね、「自分の体験を売れ!」(BY ジュース・ウェルチ)でした。うそ、ウェルチそんなこと言ってない。 ただの牛乳じゃないのは分かってる。やばい色してるんだけど、大丈夫なのかなホント。うえー、何これ。ミルクって言うより、チーズのような豆腐のような、それでいて甘くて、酸っぱくて、呑み込めない。「どう、おいしいでしょ」 おいしいですって、言いたいデスけどいまちょっと口の中に残ってるんで感想ひかえさせていただいていいですか?(無声) カワイ、お前、何とか言えよ、ん? どうした。ねーさん、苦しい(無声)。鼻から出てんぞ、牛乳。「とにかくうちはこれを大々的に売り出す。分かった?」「「ほぇーいす。」」 社長、宣言だけして帰って行った。「社長逆切れだったな。カワイ、名前何てしようか?」 「窒息牛乳。窒息ミルク。窒息ちち」 窒息から離れろ
ウチはセイラの本棚物色。うーん、ブンガクな本ばっかり。ダザイオサム。ニンゲンシカクの人。サカグチヤスゴ? 誰だっけ。サクラノシタとかの人か。ナカジマアツシ。おー、サンゲツキの人。高二の現代文で冒頭の文章を暗記させられた。「ロウセイノリチョーハハクガクサイエー、テンポーノマツネン、ワカクシテナヲコボーニツラネ、ツイデコウナンイニホセラレタガ、セイ、ケンカイ、ミズカラタノムトコロスコブルアツク、センリニアマンズルヲイサギヨシトシナカッタ」。覚えてるねー。この人発狂して虎になっちゃうんだけど、それが妙にリアルでみんなすごく真剣に授業受けてたよね。 ウチはしばらくの間はうとうとしながら、カリンとセイラがゲームしてるのを遠くのほうの出来事みたいに感じてた。ときどき、「すごい。カーミラ・アシュ、カイ・ドラキュラ、一撃」 とか、「こんなに早くメアリー・シェリーにたどり着くって」 とか、「黒幕はバイロン卿だと思ってたのに」「どうしてここで、ポリドリ?」 って、気になる名前が聞こえてた。トム・ホランドの『真紅の呪縛』面白かったな。パパの本棚にあったヴァンパイア小説で3番目くらいに。 なんて考えてたらウチはいつの間にか寝落ちしちゃってて、カリンが、「よっし裏ゲーム、ゲットー! 『スレイヤー・R』」 って叫んで、ビックリして起きた。いま何時ですかね。お日様出てますね。「3時間でクリアだって。さすがチート・モード」「『スレイヤー・R』はどんな感じ? カリン」「位置ゲーみたいだけど」「カリン見て。この地図、どこか分からないように省略してあるけど、位置許可してやると、ホラ、この地形、青物市場っぽい」「フィールドロケーションは辻沢なんだ」「辻沢で何をするゲームだと思う? モンスター集めて回るとか?」「まさか。モーケモンGOじゃないよ」 お二人さん、ウチには分からない世界の住人になってる。このままゲームをやり続けるって言うけど、ウチそろそろ。「どうしたの? 用事?」「ううん。PK」「なにそれ」「パンツ変えたい」
「十二時か、Vフェス終了。今回もだめだった」 ひさご出て三人で町をプラプラした。というより、セイラの家に行こうってことになって歩いてた。そしたら、道の向こうから、若い男が走って来て、「おーい、いたぞ!」 って、駅舎で山椒屋のオジサンがやったみたいな格好してる。すり鉢を頭に乗せてスリコギ持って。そしたら脇道からもおんなじよーなのが三人出てきてウチらを取り囲んだ。駅舎で見たときはなんかおかしかったけど、街なかだとあまりのぶっ飛びようにかえって怖い。「ターゲット!」「パツキン。真ん中のヤツ!」 セイラのこと?「いかにもだな」「どこの制服だ? 超レアなんじゃないか?」「おう、俺が見たことないってことは、かなりだ」 制服じゃないっしょ、明らかに。ぽいはぽいけど。「宮木野制服図鑑には載ってないぞ」 本のページ必死にめくってるやつ。「県北女子高御三家でもない」「他県のだろ?」「横の君たち! 今、僕らが助けてあげるから!」「さー、本性を現せ! このヴァンパイア」「バーカ! セイラは人間だよ」「しゃべった? ヴァンパイアが?」 向うがひるんだ瞬間、カリンが、「こんっの、キャベツに代わってお仕置きだ!」 って、キャベツの半キレ、先頭の男にぶん投げた。そのキャベツどこにあった?「いった!」「ちょっと、なにすんの」 スマフォ出した。なんなの? トーサツ?「待った。ピンの場所間違ってないか?」「あ、住所違ってる。ここ青物市場だってジャン」「おいおい、青墓だぞ、今夜の出現場所は」「青しかあってねーし」「マップ担当、しっかりしろよ」「ターゲット誤認。本隊は撤収する!」「「「スレイヤー!」」」「紛らわしいカッコすんな。ブスが!」 カリンが長芋を握りしめてる。だから、それどこに落ちてた?「やっかましー。なめてっとすり潰すぞ! こら!」「「「こえー」」」「先を急ぐぞ。夜は
「十二時か、Vフェス終了。今回もだめだった」 ひさご出て三人で町をプラプラした。というより、セイラの家に行こうってことになって歩いてた。そしたら、道の向こうから、若い男が走って来て、「おーい、いたぞ!」 って、駅舎で山椒屋のオジサンがやったみたいな格好してる。すり鉢を頭に乗せてスリコギ持って。そしたら脇道からもおんなじよーなのが三人出てきてウチらを取り囲んだ。駅舎で見たときはなんかおかしかったけど、街なかだとあまりのぶっ飛びようにかえって怖い。「ターゲット!」「パツキン。真ん中のヤツ!」 セイラのこと?「いかにもだな」「どこの制服だ? 超レアなんじゃないか?」「おう、俺が見たことないってことは、かなりだ」 制服じゃないっしょ、明らかに。ぽいはぽいけど。「宮木野制服図鑑には載ってないぞ」 本のページ必死にめくってるやつ。「県北女子高御三家でもない」「他県のだろ?」「横の君たち! 今、僕らが助けてあげるから!」「さー、本性を現せ! このヴァンパイア」「バーカ! セイラは人間だよ」「しゃべった? ヴァンパイアが?」 向うがひるんだ瞬間、カリンが、「こんっの、キャベツに代わってお仕置きだ!」 って、キャベツの半キレ、先頭の男にぶん投げた。そのキャベツどこにあった?「いった!」「ちょっと、なにすんの」 スマフォ出した。なんなの? トーサツ?「待った。ピンの場所間違ってないか?」「あ、住所違ってる。ここ青物市場だってジャン」「おいおい、青墓だぞ、今夜の出現場所は」「青しかあってねーし」「マップ担当、しっかりしろよ」「ターゲット誤認。本隊は撤収する!」「「「スレイヤー!」」」「紛らわしいカッコすんな。ブスが!」 カリンが長芋を握りしめてる。だから、それどこに落ちてた?「やっかましー。なめてっとすり潰すぞ! こら!」「「「こえー」」」「先を急ぐぞ。夜
おひさー。女バスの子たちとは卒業式以来。みんな元気そーでナニヨリ。ナナミは安定の肩幅だね。あれ? セイラやつれてない? 地元のシステム会社に就職したって聞いたけど、ソッカー。やっぱキビシーよね、実社会は。特に女子にはさ。ミワおかーさんだけだね、輝いてるの。ムセッかえるっての? ムネやけするっつーか。最近トミニ匂いがきっついな、ミワちゃんのそばいくと、くらくらするから離れて座ろ。ゴメンね。何これ?「あ、おとーしになりますー」 ゴマスリセットが? で、なんでみんなしてゴマスリし始めてんの? 席に着くなりゴリゴリゴリって、変じゃね? ナナミがゴリゴリゴリ。「ミワ、まゆまゆ誰に預けてきたの?」「ママ友。気楽に頼める人がいて助かる」「「「それ希少種。レッドデータ、イマドキ」」」「ところでセイラ、なんで金髪にした? 前の黒髪の方があんたらしくてよかったのに」「彼氏でもできたの?」「うん、そんなとこ」「似合ってるよ。セイラ」「ありがと。ミワ」「おまたせー」 カリン来たー。遅かったね。スーツにスラックス。かっこいい。ナナミがゴリゴリゴリ。「おー、カリン」 ミワちゃんが(以下、略)。「遅かったねー」 セイラが(以下、略)。「待ってたー」「仕事がね、たまっちゃってて」 ナナミが(以下、略)。「かせーでるね」「サービスありきっての? よう、レイカ。おひさ」「んっちわ」 みんな思ってたほどじゃなくてよかった。落ち着いてる感じ。やっぱ、四年も経つと忘れてくるのかな。さみしー気もするけど、事件が事件だから、これでいいよね。 エッグノックって初めて飲んだけど、おいしかったな。ミワちゃんがウチの前に次々置いてくれるんでいい気になって5杯も飲んじゃった。酔って寝ちゃったんだ、ウチ。ふわー。あれ? カリンとセイラだけだ。ミワちゃんたちは?「用事済ませて三〇分くらいしたら戻るって」「ナニやってるの、それ」「ゲーム」 すげないね