「じゃあねえぴよー!」
カレーを食べ終えたコッコちゃんは楽しそうに家路につきました。それをアヒルさんとカラスの子は見送ります。
コッコちゃんが見えなくなると、アヒルさんは言いました。「さて、くわは水浴びして寝るくわ」
「水浴び?」
ぺちぺちと歩くアヒルさんの後ろを、カラスの子はちょこちょこついていきます。アヒルさんは家の裏手にある池にぽちゃんと入ります。そしてすいすい泳ぎながら身体をきれいにしていきます。
それに対してカラスの子は初めての池におっかなびっくりです。まずは覗き込んでみました。自分の顔が映ります。それから羽でちょんと触ってみます。みなもが揺れて映ったカラスの子の顔が歪み、また冷たい感触が伝わってきました。 意を決したカラスは、アヒルさんの真似をして池にダイブ! しかしカラスは水鳥ではありません。当然なれない池で泳げるはずもなくバシャバシャとおぼれかけてしまいます。「かあ! かあ!」
そんなカラスの子を見たアヒルさんはすーっと近づき、カラスの子を池の浅い部分に連れて行ってやりました。ここなら足がつくのでカラスの子もおぼれずに水浴びができました。
「かあ……」
落ち着いたカラスの子は一息つきます。そんなカラスの子にアヒルは水をあびせ、綺麗にしていきます。カラスの子は気持ちよさそうです。
「さあ、そろそろ上がるくわ」
池から岸に上がったカラスは身体を震わせて水を払います。カラスの子も真似するように岸に上がり、身体を震わせて水を払います。そうして2人は仲良く家路につくと、一緒のベットに入りました。
「……おやすみノワール」
「かあ。おやすみなさいアヒルさん」
2人はすぐに眠りに落ちました。アヒルさんはカラスの子を抱きしめながら寝ていました。カラスの子もアヒルさんに抱き着きます。
まだまだであったばかりですが、2人の間には確かな絆が生まれつつあるようです。翌日。 残り物のカレーを朝ごはんに食べたアヒルさんとカラスの子は、森へ出かました。アヒルさんは大きな荷物を背負っています。「アヒルさん。それなあに?」「くわ。残ったカレーくわ」 そんな会話をしながら2人は歩きます。てくてくてく。よちよちよち。すると前方の茂みが揺れました。カラスの子は緊張します。 がさ!! なんと現れたのは大きなくま! 2メートルはありそうな巨体にカラスの子はびっくり仰天です。慌ててアヒルさんの後ろに隠れます。 対してアヒルさんはのんきにくまさんに挨拶しました。「おお、くまきち。探したくわ」「おお、アヒルさん。今日は何だね」「カレーくわ」 アヒルさんとくまさんの会話を恐る恐る見守るカラスの子。その間にアヒルさんとくまさんはカレーとシャケを交換してしまいました。大きくてまるまる太ったシャケです。「じゃあなくわ」「うむ」 くまさんが森の奥に去っていくと、カラスの子はほっと一息です。「さあて新鮮なシャケをもらったし、さっそくくうわあ」「かあ!」 アヒルとカラスの子は木の枝を集めました。「でもどうやって火をつけるかあ?」 カラスの子が尋ねます。「これくわ」 アヒルさんは火打石を使って焚火をつけました。焚火の炎にシャケを投げ込み、ほどよく焼けたら軽く塩をふります。それだけでシャケはたいへんなごちそうになりました。「いただきますくわ」「かあ!」 アヒルさんとカラスの子はさっそくシャケを食べました。新鮮なシャケがおいしくて2人はにっこり笑顔です。あっという間に食べ終えた2人は、そのまま焚火の前でお昼寝をするのでした。
カラスの子がアヒルさんと暮らし始めてからしばらくたったとある日、またひよこのコッコちゃんがやってきました。コッコちゃんは浴衣姿です。「ぴよよー! 今日は花火大会ぴよ! みんなでいくぴよ!」「……花火大会。もうそんな時期くわか」「かあ? はなびってなあに?」「花火はね! お空にぱあん! 打ちあがってぴかあ! と光ってきれいなんだよ!」「かあ?」 コッコちゃんの感覚的な説明に、カラスの子はますます首をかしげてしまいます。「まあ行ってみればわかるくわ」 そういうとアヒルさんはタンスをガサゴソと漁り、カラスの子にサイズの合いそうな浴衣を出してやりました。「ほら、くわの昔の浴衣くわ。ひよこに着せてもらえくわ」「ぴよー!」 コッコちゃんに連れられてカラスの子は黒い浴衣に着替えました。「それじゃあいくわよ」 アヒルさん、コッコちゃん、カラスの子が連れ立って花火大会の会場にいくと、そこには多くのアヒルたちと、たくさんの出店が出ていました。おいしそうな食べ物のにおいにカラスの子とコッコちゃんのお腹がなります。「よーし! まずはあれをたべるぴよ!」 コッコちゃんはさっそくたこやきを買います。「あふ……! あふ……!」 カラスの子は初めて食べるたこやきの熱さに目を白黒させます。「次はこれぴよ!」 コッコちゃんは綿菓子を買ってきます。「ふわふわあまぁあい……!」 カラスの子は綿菓子の甘さにとろけてしまいました。そうやってお腹を見たしたあと、カラスの子がなにかを見つけます。「アヒルさん。あれはなあに?」「くわ? ああ、あれは射的くわな。銃で景品を打ち落とすとそれがもらえるのくわ」「へえー」 カラスの子は興味津々といった様子で射的の景品を眺めます。そしてひとつの商品に目を奪われます。それはデフォルメされたアヒルのぬいぐるみでした。「カラスのぼっちゃん。やってみるくわい?」 ハチマキをした的屋のおっちゃんアヒルがカラスの子に声をかけます。カラスの子はいったんアヒルさんの顔を伺いましたが、アヒルさんもうなずいてくれました。そこでカラスの子はおこづかいから300円を出して的屋のおっちゃんアヒルに渡しました。「ほい。玉は5発だ。よーく狙うんだぞ」「かあ!」 パン!パン!パン!パン! カラスの子は4発の弾丸を発射しましたが、目標のアヒルの
夏のとある暑い日。またひよこのコッコちゃんがアヒルさんの家を訪ねてきました。「ぴよー! 海いくぴよ!」 ひよこは水着にうきわにシュノーケルにゴーグル。泳ぐ気満々です。「しょうがないくわね……。いくかノワール」「海? よくわからないけどいくかあ!」 アヒルさんとカラスの子も海パンを履くとコッコちゃんを伴ってまずは川に向かいます。「かあ? ここは川かあよね? 川が海なのか?」「川を下ると海にいけるのくわ」 そういってアヒルさんはもってきたゴムボートを膨らませると、カラスの子とコッコちゃんを伴って乗り込みました。「かああああああ!!」 カラスの子の絶叫とともに激流川下りは始まりました。アヒルさんは慣れた調子でゴムボートを操ります。「ぴよおおおおお!!」 因みにコッコちゃんはアトラクション感覚で楽しんでいました。◆◆◆「かあ……かあ……」 カラスの子がさけびつかれた頃、ようやく浜辺につきました。パラソルを立てて拠点を作ったアヒルさんとコッコちゃんはさっそくあそび始めます。それを見たカラスの子も負けじと海に突撃します。三人は仲良く海水をかけあいます。ふいにカラスの子の口に海水が入ります。「かあ! しょっぱいかあ!」「海水だからねぴよ!」 ひとしきり海あそびをすると海の家でひとやすみ。かき氷でリフレッシュです。アヒルさんは練乳、コッコちゃんはレモン、カラスの子は宇治金時です。カラスの子は初めて食べるかき氷に感動してぱくぱくぱく、あたまキーンです。「かあ! 頭いたいかあ!」「急いで食べちゃだめくわよ」 今度はスイカ割りです。目隠ししたカラスの子は右へ左へふーらふら。「右右右ー! 左左左ー! 上上下下右左ABぴよ!」 コッコちゃんの適当な指示でカラスの子は右往左往。仕方なくアヒルさんがガイドします。「もっと右。そこくわ!」 ぽこん カラスの子の力では割れませんでしたが、見事スイカを叩くことには成功しました。海の家で包丁を借りてスイカを切ったアヒルさんは、コッコちゃんとカラスの子にスイカを配りました。海を眺めながらスイカを食べているともう夕暮れ。海に沈むきれいな夕陽を眺めながら、三人はたっぷりと海を満喫するのでした。
この世界のどこかに、アヒルたちが平和に暮らしている国がありました。その国の名前はアヒル帝国。とてもやさしい皇帝アヒルが治めている国です。そんな国の外れ、カラス王国との国境付近の森に、1羽で住んでいる変わり者のアヒルがいました。名もなきアヒルはある日、森の中で小さな小さなカラスの子どもと出会いました。これは変わり者だけどやさしいアヒルさんと、小さな小さなカラスの子どもの楽しい日常のお話です。 さてさてカラスの子どもを自宅に連れ帰ったアヒルさんですが、まずなにをすればいいのかわかりません。アヒルさんにはつがいはおらず、もちろん子育ての経験もありません。ともかくカラスの子どもが弱っていることはわかるので、どこかケガをしていないか調べることにしました。 あちこちきょろきょろ。あちこちさわさわ。あちこちツンツン。特にケガはなさそうです。喉が渇いているのかもしれない。アヒルさんはグラスに水を注ぐと、カラスの子の口元に差し出します。でもカラスの子に飲む元気はないみたい。困ったアヒルさんはグラスにストローを差し、そのストローの先端をカラスの子のくちばしに差し込んでみました。すると弱々しくですが、カラスの子は水を吸ってくれました。お水を飲んで少し落ち着いたのか、カラスの子の呼吸が穏やかになり、アヒルさんもひと安心です。 次はなにかを食べさせた方がいいだろうか。アヒルさんは考えます。とりあえずお庭に出ると立派なリンゴの木からひとつ実をもいでくると、皮ごとすりおろしてみました。それを木でできたスプーンでカラスの子のくちばしの中にいれてみます。カラスの子はゆっくりとですがリンゴを飲み込みました。そうしてリンゴを食べさせ終わると、アヒルさんはカラスの子を自分のベッドに寝かせました。その顔を心配そうに覗き込みながらその夜は更けていくのでした……。
ツンツン。ツンツン。 何かがアヒルの頭をつついています。 ツンツンツン。 ――は……! アヒルさんは目を覚ましました。どうやら看病をしながらベッドに突っ伏して寝てしまっていたようです。 寝不足のお目目を翼でこすると、ベッドから起き上がったカラスの子がいました。「くぅわあ!」 カラスの子は元気いっぱいです。アヒルも思わず笑顔になりました。「元気になったくわか」「くわ! くわ! あなたがかぁのパパですか?」「くわ!?」 アヒルさんは慌てて首を左右に振ります。「違うくわ! くわはアヒル! おまえはカラスくわ!」「アヒル? カラス?」 カラスの子はよくわからないらしく首をかしげます。「じゃあかぁのパパとママは?」「知らないくわ」 アヒルさんの冷たい言葉にカラスの子の瞳に涙が溜まります。「くぅわあ! くぅわあ!」 とうとうカラスの子は大声で泣きだしてしまいました。「くわわ! わかったくわ! カラスの国の国境まで連れて行ってやるからパパとママを探すくわ!」「くぅわ?」 アヒルさんはカラスの子をどうにか泣き止ませると、彼を伴い国境へと続く森を歩きます。しばらく歩いているとカラスの子が言いました。「……おなかすいた」 アヒルさんは仕方ないなあと思いながらリンゴの木を探すと実をひとつ取ってやりました。それを半分に割ると片方を差し出します。「ほら、朝ごはんくわ」「くぅわ!」 2羽はリンゴをしゃくしゃく食べながら森を歩きました。「見えた。あれが国境くわ」 国境付近にたどり着くと、アヒルさんはカラスの子の背中を軽く押しました。「くぅわ?」「ここからさきはくわはいけないくわ。1羽でいくわ」「くぅわあ……」 カラスの子はさみしそうに鳴くと、また瞳に涙を溜めます。また泣かれては敵わない! アヒルは慌てて逃げ出します。「くぅわ……!」 逃げ出したアヒルさんをカラスの子は必至に追いかけます。でも慌てて走ったからでしょう。脚が絡まって転んでしまいました。その痛みでカラスの子はまた泣いてしまいます。 その姿を不憫に思ったアヒルは走るのをやめてカラスの子のところに戻るとケガの具合を見てやりました。「くわ。ケガはしてないから大丈夫くわ」「くぅわ……。かぁ……アヒルさんと一緒がいいかあ」「くわわ……」 アヒルさんは困ってしまい
カラスの国との国境付近から帰ってきたアヒルさんとカラスの子は、お茶を飲みながらお話していました。「どうしてアヒルさんはカラスの国まで行ってくれないの?」 カラスの子が尋ねます。「……くわは外の国が嫌いくわ」「どうして?」「……くわも昔はほかの国で暮らしていたけど、ひどい目にあったくわ。もう二度とほかの国にはいきたくないくわ」「かあ……」 2人の間に気まずい雰囲気が流れます。そのとき、アヒルさんの家のドアがノックされました。カラスの子は不思議そうにしていましたが、アヒルさんはまたかといった感じで立ち上がりました。アヒルが扉を開けるとそこにはにわとりの子、つまりひよこがいました。「ぴよよー! 遊びにきたぴよ!」「……まあ、あがるくわ」 わが物顔で家にあがったひよこはカラスの子を見てびっくり仰天。ひよことカラスの子は見つめ合います。しばらく見つめ合ったあとカラスの子は椅子から立ち上がりました。ひよこも動きます。ひな同士なにか通じ合うものがあったらしく2人は抱き合いました。そんな様子を見てまあ大丈夫そうかと思ったアヒルは、夕食の準備をするために台所に向かいました。「おまえだれぴよ?」 ハグを終えたひよこが尋ねます。「かあ! かあはノワールかあ!」 アヒルさんにもらった名前を胸をはって名乗ります。「ぴよ! ぴよはひよこのコッコちゃんぴよ!」 2人は手と手、もとい羽と羽をつかんで踊りだします。 2人がそんなことをしている間、アヒルさんはというと台所でパーティーのごはんを作っていました。包丁でお野菜トントントン、おなべでみんなまとめてぐつぐつぐつ、ひでんのスパイスをさらさら~。 あらなんだかとっても良いにおい。ノワールとコッコちゃんも台所を覗き込みます。やがてアヒルさんがお皿に山盛りのごはんとおなべの中身を盛ってくれました。 仲良く3人分です。「ほら、カレーパーティーするくわよ」 アヒルの一声にひよこは当たり前のように食卓につきました。カラスの子は少し不思議そうにしながらも食卓につきます。「いただきます! おいしいぴよ!」 さっそくカレーを食べたひよこは大喜び。それを見たカラスの子も恐る恐る食べてみます。「かあ! ぴりぴりするけどおいしい!」「くわわ。いっぱい食べておっきくなるくわよ」 わいわいとにぎやかな夕食はしばらく続く
夏のとある暑い日。またひよこのコッコちゃんがアヒルさんの家を訪ねてきました。「ぴよー! 海いくぴよ!」 ひよこは水着にうきわにシュノーケルにゴーグル。泳ぐ気満々です。「しょうがないくわね……。いくかノワール」「海? よくわからないけどいくかあ!」 アヒルさんとカラスの子も海パンを履くとコッコちゃんを伴ってまずは川に向かいます。「かあ? ここは川かあよね? 川が海なのか?」「川を下ると海にいけるのくわ」 そういってアヒルさんはもってきたゴムボートを膨らませると、カラスの子とコッコちゃんを伴って乗り込みました。「かああああああ!!」 カラスの子の絶叫とともに激流川下りは始まりました。アヒルさんは慣れた調子でゴムボートを操ります。「ぴよおおおおお!!」 因みにコッコちゃんはアトラクション感覚で楽しんでいました。◆◆◆「かあ……かあ……」 カラスの子がさけびつかれた頃、ようやく浜辺につきました。パラソルを立てて拠点を作ったアヒルさんとコッコちゃんはさっそくあそび始めます。それを見たカラスの子も負けじと海に突撃します。三人は仲良く海水をかけあいます。ふいにカラスの子の口に海水が入ります。「かあ! しょっぱいかあ!」「海水だからねぴよ!」 ひとしきり海あそびをすると海の家でひとやすみ。かき氷でリフレッシュです。アヒルさんは練乳、コッコちゃんはレモン、カラスの子は宇治金時です。カラスの子は初めて食べるかき氷に感動してぱくぱくぱく、あたまキーンです。「かあ! 頭いたいかあ!」「急いで食べちゃだめくわよ」 今度はスイカ割りです。目隠ししたカラスの子は右へ左へふーらふら。「右右右ー! 左左左ー! 上上下下右左ABぴよ!」 コッコちゃんの適当な指示でカラスの子は右往左往。仕方なくアヒルさんがガイドします。「もっと右。そこくわ!」 ぽこん カラスの子の力では割れませんでしたが、見事スイカを叩くことには成功しました。海の家で包丁を借りてスイカを切ったアヒルさんは、コッコちゃんとカラスの子にスイカを配りました。海を眺めながらスイカを食べているともう夕暮れ。海に沈むきれいな夕陽を眺めながら、三人はたっぷりと海を満喫するのでした。
カラスの子がアヒルさんと暮らし始めてからしばらくたったとある日、またひよこのコッコちゃんがやってきました。コッコちゃんは浴衣姿です。「ぴよよー! 今日は花火大会ぴよ! みんなでいくぴよ!」「……花火大会。もうそんな時期くわか」「かあ? はなびってなあに?」「花火はね! お空にぱあん! 打ちあがってぴかあ! と光ってきれいなんだよ!」「かあ?」 コッコちゃんの感覚的な説明に、カラスの子はますます首をかしげてしまいます。「まあ行ってみればわかるくわ」 そういうとアヒルさんはタンスをガサゴソと漁り、カラスの子にサイズの合いそうな浴衣を出してやりました。「ほら、くわの昔の浴衣くわ。ひよこに着せてもらえくわ」「ぴよー!」 コッコちゃんに連れられてカラスの子は黒い浴衣に着替えました。「それじゃあいくわよ」 アヒルさん、コッコちゃん、カラスの子が連れ立って花火大会の会場にいくと、そこには多くのアヒルたちと、たくさんの出店が出ていました。おいしそうな食べ物のにおいにカラスの子とコッコちゃんのお腹がなります。「よーし! まずはあれをたべるぴよ!」 コッコちゃんはさっそくたこやきを買います。「あふ……! あふ……!」 カラスの子は初めて食べるたこやきの熱さに目を白黒させます。「次はこれぴよ!」 コッコちゃんは綿菓子を買ってきます。「ふわふわあまぁあい……!」 カラスの子は綿菓子の甘さにとろけてしまいました。そうやってお腹を見たしたあと、カラスの子がなにかを見つけます。「アヒルさん。あれはなあに?」「くわ? ああ、あれは射的くわな。銃で景品を打ち落とすとそれがもらえるのくわ」「へえー」 カラスの子は興味津々といった様子で射的の景品を眺めます。そしてひとつの商品に目を奪われます。それはデフォルメされたアヒルのぬいぐるみでした。「カラスのぼっちゃん。やってみるくわい?」 ハチマキをした的屋のおっちゃんアヒルがカラスの子に声をかけます。カラスの子はいったんアヒルさんの顔を伺いましたが、アヒルさんもうなずいてくれました。そこでカラスの子はおこづかいから300円を出して的屋のおっちゃんアヒルに渡しました。「ほい。玉は5発だ。よーく狙うんだぞ」「かあ!」 パン!パン!パン!パン! カラスの子は4発の弾丸を発射しましたが、目標のアヒルの
翌日。 残り物のカレーを朝ごはんに食べたアヒルさんとカラスの子は、森へ出かました。アヒルさんは大きな荷物を背負っています。「アヒルさん。それなあに?」「くわ。残ったカレーくわ」 そんな会話をしながら2人は歩きます。てくてくてく。よちよちよち。すると前方の茂みが揺れました。カラスの子は緊張します。 がさ!! なんと現れたのは大きなくま! 2メートルはありそうな巨体にカラスの子はびっくり仰天です。慌ててアヒルさんの後ろに隠れます。 対してアヒルさんはのんきにくまさんに挨拶しました。「おお、くまきち。探したくわ」「おお、アヒルさん。今日は何だね」「カレーくわ」 アヒルさんとくまさんの会話を恐る恐る見守るカラスの子。その間にアヒルさんとくまさんはカレーとシャケを交換してしまいました。大きくてまるまる太ったシャケです。「じゃあなくわ」「うむ」 くまさんが森の奥に去っていくと、カラスの子はほっと一息です。「さあて新鮮なシャケをもらったし、さっそくくうわあ」「かあ!」 アヒルとカラスの子は木の枝を集めました。「でもどうやって火をつけるかあ?」 カラスの子が尋ねます。「これくわ」 アヒルさんは火打石を使って焚火をつけました。焚火の炎にシャケを投げ込み、ほどよく焼けたら軽く塩をふります。それだけでシャケはたいへんなごちそうになりました。「いただきますくわ」「かあ!」 アヒルさんとカラスの子はさっそくシャケを食べました。新鮮なシャケがおいしくて2人はにっこり笑顔です。あっという間に食べ終えた2人は、そのまま焚火の前でお昼寝をするのでした。
「じゃあねえぴよー!」 カレーを食べ終えたコッコちゃんは楽しそうに家路につきました。それをアヒルさんとカラスの子は見送ります。 コッコちゃんが見えなくなると、アヒルさんは言いました。「さて、くわは水浴びして寝るくわ」「水浴び?」 ぺちぺちと歩くアヒルさんの後ろを、カラスの子はちょこちょこついていきます。アヒルさんは家の裏手にある池にぽちゃんと入ります。そしてすいすい泳ぎながら身体をきれいにしていきます。 それに対してカラスの子は初めての池におっかなびっくりです。まずは覗き込んでみました。自分の顔が映ります。それから羽でちょんと触ってみます。みなもが揺れて映ったカラスの子の顔が歪み、また冷たい感触が伝わってきました。 意を決したカラスは、アヒルさんの真似をして池にダイブ! しかしカラスは水鳥ではありません。当然なれない池で泳げるはずもなくバシャバシャとおぼれかけてしまいます。「かあ! かあ!」 そんなカラスの子を見たアヒルさんはすーっと近づき、カラスの子を池の浅い部分に連れて行ってやりました。ここなら足がつくのでカラスの子もおぼれずに水浴びができました。「かあ……」 落ち着いたカラスの子は一息つきます。そんなカラスの子にアヒルは水をあびせ、綺麗にしていきます。カラスの子は気持ちよさそうです。「さあ、そろそろ上がるくわ」 池から岸に上がったカラスは身体を震わせて水を払います。カラスの子も真似するように岸に上がり、身体を震わせて水を払います。そうして2人は仲良く家路につくと、一緒のベットに入りました。「……おやすみノワール」「かあ。おやすみなさいアヒルさん」 2人はすぐに眠りに落ちました。アヒルさんはカラスの子を抱きしめながら寝ていました。カラスの子もアヒルさんに抱き着きます。 まだまだであったばかりですが、2人の間には確かな絆が生まれつつあるようです。
カラスの国との国境付近から帰ってきたアヒルさんとカラスの子は、お茶を飲みながらお話していました。「どうしてアヒルさんはカラスの国まで行ってくれないの?」 カラスの子が尋ねます。「……くわは外の国が嫌いくわ」「どうして?」「……くわも昔はほかの国で暮らしていたけど、ひどい目にあったくわ。もう二度とほかの国にはいきたくないくわ」「かあ……」 2人の間に気まずい雰囲気が流れます。そのとき、アヒルさんの家のドアがノックされました。カラスの子は不思議そうにしていましたが、アヒルさんはまたかといった感じで立ち上がりました。アヒルが扉を開けるとそこにはにわとりの子、つまりひよこがいました。「ぴよよー! 遊びにきたぴよ!」「……まあ、あがるくわ」 わが物顔で家にあがったひよこはカラスの子を見てびっくり仰天。ひよことカラスの子は見つめ合います。しばらく見つめ合ったあとカラスの子は椅子から立ち上がりました。ひよこも動きます。ひな同士なにか通じ合うものがあったらしく2人は抱き合いました。そんな様子を見てまあ大丈夫そうかと思ったアヒルは、夕食の準備をするために台所に向かいました。「おまえだれぴよ?」 ハグを終えたひよこが尋ねます。「かあ! かあはノワールかあ!」 アヒルさんにもらった名前を胸をはって名乗ります。「ぴよ! ぴよはひよこのコッコちゃんぴよ!」 2人は手と手、もとい羽と羽をつかんで踊りだします。 2人がそんなことをしている間、アヒルさんはというと台所でパーティーのごはんを作っていました。包丁でお野菜トントントン、おなべでみんなまとめてぐつぐつぐつ、ひでんのスパイスをさらさら~。 あらなんだかとっても良いにおい。ノワールとコッコちゃんも台所を覗き込みます。やがてアヒルさんがお皿に山盛りのごはんとおなべの中身を盛ってくれました。 仲良く3人分です。「ほら、カレーパーティーするくわよ」 アヒルの一声にひよこは当たり前のように食卓につきました。カラスの子は少し不思議そうにしながらも食卓につきます。「いただきます! おいしいぴよ!」 さっそくカレーを食べたひよこは大喜び。それを見たカラスの子も恐る恐る食べてみます。「かあ! ぴりぴりするけどおいしい!」「くわわ。いっぱい食べておっきくなるくわよ」 わいわいとにぎやかな夕食はしばらく続く
ツンツン。ツンツン。 何かがアヒルの頭をつついています。 ツンツンツン。 ――は……! アヒルさんは目を覚ましました。どうやら看病をしながらベッドに突っ伏して寝てしまっていたようです。 寝不足のお目目を翼でこすると、ベッドから起き上がったカラスの子がいました。「くぅわあ!」 カラスの子は元気いっぱいです。アヒルも思わず笑顔になりました。「元気になったくわか」「くわ! くわ! あなたがかぁのパパですか?」「くわ!?」 アヒルさんは慌てて首を左右に振ります。「違うくわ! くわはアヒル! おまえはカラスくわ!」「アヒル? カラス?」 カラスの子はよくわからないらしく首をかしげます。「じゃあかぁのパパとママは?」「知らないくわ」 アヒルさんの冷たい言葉にカラスの子の瞳に涙が溜まります。「くぅわあ! くぅわあ!」 とうとうカラスの子は大声で泣きだしてしまいました。「くわわ! わかったくわ! カラスの国の国境まで連れて行ってやるからパパとママを探すくわ!」「くぅわ?」 アヒルさんはカラスの子をどうにか泣き止ませると、彼を伴い国境へと続く森を歩きます。しばらく歩いているとカラスの子が言いました。「……おなかすいた」 アヒルさんは仕方ないなあと思いながらリンゴの木を探すと実をひとつ取ってやりました。それを半分に割ると片方を差し出します。「ほら、朝ごはんくわ」「くぅわ!」 2羽はリンゴをしゃくしゃく食べながら森を歩きました。「見えた。あれが国境くわ」 国境付近にたどり着くと、アヒルさんはカラスの子の背中を軽く押しました。「くぅわ?」「ここからさきはくわはいけないくわ。1羽でいくわ」「くぅわあ……」 カラスの子はさみしそうに鳴くと、また瞳に涙を溜めます。また泣かれては敵わない! アヒルは慌てて逃げ出します。「くぅわ……!」 逃げ出したアヒルさんをカラスの子は必至に追いかけます。でも慌てて走ったからでしょう。脚が絡まって転んでしまいました。その痛みでカラスの子はまた泣いてしまいます。 その姿を不憫に思ったアヒルは走るのをやめてカラスの子のところに戻るとケガの具合を見てやりました。「くわ。ケガはしてないから大丈夫くわ」「くぅわ……。かぁ……アヒルさんと一緒がいいかあ」「くわわ……」 アヒルさんは困ってしまい
この世界のどこかに、アヒルたちが平和に暮らしている国がありました。その国の名前はアヒル帝国。とてもやさしい皇帝アヒルが治めている国です。そんな国の外れ、カラス王国との国境付近の森に、1羽で住んでいる変わり者のアヒルがいました。名もなきアヒルはある日、森の中で小さな小さなカラスの子どもと出会いました。これは変わり者だけどやさしいアヒルさんと、小さな小さなカラスの子どもの楽しい日常のお話です。 さてさてカラスの子どもを自宅に連れ帰ったアヒルさんですが、まずなにをすればいいのかわかりません。アヒルさんにはつがいはおらず、もちろん子育ての経験もありません。ともかくカラスの子どもが弱っていることはわかるので、どこかケガをしていないか調べることにしました。 あちこちきょろきょろ。あちこちさわさわ。あちこちツンツン。特にケガはなさそうです。喉が渇いているのかもしれない。アヒルさんはグラスに水を注ぐと、カラスの子の口元に差し出します。でもカラスの子に飲む元気はないみたい。困ったアヒルさんはグラスにストローを差し、そのストローの先端をカラスの子のくちばしに差し込んでみました。すると弱々しくですが、カラスの子は水を吸ってくれました。お水を飲んで少し落ち着いたのか、カラスの子の呼吸が穏やかになり、アヒルさんもひと安心です。 次はなにかを食べさせた方がいいだろうか。アヒルさんは考えます。とりあえずお庭に出ると立派なリンゴの木からひとつ実をもいでくると、皮ごとすりおろしてみました。それを木でできたスプーンでカラスの子のくちばしの中にいれてみます。カラスの子はゆっくりとですがリンゴを飲み込みました。そうしてリンゴを食べさせ終わると、アヒルさんはカラスの子を自分のベッドに寝かせました。その顔を心配そうに覗き込みながらその夜は更けていくのでした……。