旅館にお泊りした次の日。荷物を旅館から宅配してもらうことにしたアヒルさん一行は、せっかくなので帝都を観光していくことにしました。帝都にはたくさんのお店が立ち並び、たくさんのアヒルたちで賑わっていました。その様子にカラスの子とコッコちゃんは目を輝かせましたが、人混みが嫌いなアヒルはちょっぴり辟易です。「あれはなにかあ?」「これはなにぴよ?」 なんにでも興味を示す2人のお世話をしていると、不意に後ろから声がかけられました。「お、王子!? 王子ではありませぬか!?」「?」 三人が振り返ると、そこにはおじいさんカラスがいました。「おお、そのご尊顔! 間違いなく王子! よくぞご無事で!」「かあ? かあはノワールかあ。おうじなんて名前じゃないかあ」「なにをおっしゃいます。ほらこれをお持ちください」 おじいさんカラスは黒い宝石を取り出してカラスの子にもたせました。するとびっくり。宝石が光りだしました。「それは王家の秘宝〝ヤタガラスの眼〟、王族がもったときだけ光輝くのです」「……かあ? じゃあかあは王子なのかあ?」「そうです。王子は誘拐されたショックで記憶が混乱しているのでしょう。ですがどうか国にお戻りを。そして王となって民を導いてください」「王になるって、今の王様……19代目カラス王はどうしたのくわ?」 さすがにアヒルさんが話に割り込みます。「それが……」 おじいさんカラスは声を潜め、アヒルさんにだけ聞こえるように答えました。「実は王子が誘拐されるときに王様もお后様も……その……」 それでアヒルさんは察しました。カラスの子はほんとにひとりぼっちなのだなと。「ともかく王子。急いでカラスの国に……」「いやかあ! かあはアヒルさんたちと一緒にいるかあ!」「王子……」「いやかあ! いやかあ!」「そう嫌がるなノワール。案外居心地いいかもしれんくわよ」「でもいやかあ……」「……仕方ないくわね。くわも一緒にいってやるくわ」「かあ!? でもアヒルさんはほかの国が苦手なんじゃ……」「くわ。でもおまえのためだからがんばるくわ」「ならぴよもいくぴよー! 王宮にいけばごちそう出るよね!」「もちろんです。王子の帰還を祝してパーティーを開きます」「やたああぴよおお!」 こうして一行は、一路カラスの国へ向かうのでした。
カラスの国の王宮についたアヒルさん一行は大変な歓待をうけました。カラスの子は奇蹟の生還を果たした王子様として。アヒルさんはそのカラスの子を助けた英雄として。コッコちゃんは……まあお客様として。 そんなこんなで三人は王宮のひろーいベッドの上でまくらを並べて横になっていました。カラスの子とコッコちゃんはぐっすりでしたが、アヒルさんは一人考え事をしていました。(王子様くわ……王様になるにしろならないにしろ。これから大変なのは間違いないくわ……) アヒルさんは決めました。カラスの子がどんな選択をしようとも、自分がカラスの子を支えようと。◆◆◆ そして次の日、おじいさんカラスがアヒルたちの部屋にやってきました。「王子。どうか王となっていただけませぬか」「でも……」「お願いいたします! 民が待っているのです!」「かあ……」 カラスの子は悩んでいるようです。因みにコッコちゃんはまだ寝ています。なのでアヒルさんがカラスの子に優しく言いました。「くわ。おまえがどんな選択をしてもくわはおまえの味方だ。すきな道を選べ」「かあ……! わかりましたかあ! かあ王様になるかあ!」(王様になればアヒルさんに恩返しもできるはずかあ!)「おお! 20代目カラス王ノワール様! どうぞ、王冠です」 王冠をかぶったカラスの子はついに20代目カラス王となりました。
「カラス王様。最初のお仕事はいかがいたしましょうか」 おじいさんカラスが聞きました。「かあ。かあはアヒル帝国に大変お世話になったかあ。まずは皇帝アヒルさんにお礼をしにいかあと思うかあ」「わかりました。会談の準備をすすめます」「かあ、アヒルさんもついてきてくれるかあ?」 アヒルさんはうなずきました。「ぴよ! コッコちゃんもいくぴよ! 皇帝アヒルさんがくれる食べ物はおいしいって聞くし!」 コッコちゃんも行く気まんまんです。「わかりました。ではアポイントメントをお取りします」◆◆◆ それから数日後、アヒルさん、カラスの子、コッコちゃん、おじいさんカラスはアヒル帝国の宮殿の前にやってきました。大きな門が開かれると、皇帝アヒル自らお出迎えしてくれました。「カラス王殿、ようこそくわ!」 皇帝アヒルは挨拶としてカラスの子にハグをしました。それからアヒルさんに声をかけます。「おぬしがカラス王殿を助けてくれたらしいな。大儀くわ!」「もったいないお言葉ですくわ」 アヒルさんはぺこりとお辞儀しました。「では応接間まで案内するくわあ」 気さくな皇帝アヒルに連れられて、一行は宮殿に入りました。きらびやかで立派な宮殿にカラスの子とコッコちゃんはあちこちきょろきょろきょろ。そうしている間にメイドアヒルの手によって応接間の扉が開かれました。先を歩く皇帝アヒルが上座に座ります。「よいしょくわ。さあ、みなさんお座りくださいくわ」 コッコちゃん、カラスの子、アヒルさんの順番で手近な椅子に座りました。おじいさんカラスはカラスの子の斜め後ろに立ちました。「かあかあ。この度はお目通り?いただけてうれしいです皇帝アヒルさま。改めまして20代目カラス王ですかあ」 カラスの子がたどたどしく挨拶します。「くわくわ。くわこそ初めての訪問先にくわが国を選んでくれてうれしく思うくわ」「アヒルさんやこの国にはたくさんお世話になりましたかあ。故郷と思ってますかあ」「くわ、くわが国と民はカラス王殿にどううつりましたかな」「みんないい人かあ。カラスとアヒル、もっと仲良くなりたいですかあ」「くわ。くわもみんな仲良くがいいと思うくわ。みんな兄弟姉妹くわ。そうくわ!」 皇帝アヒルは羽をぽんと打ちました。「20代目カラス王の就任のお祝いとして盛大なお祭りを両国合同でやろうく
「ぴよの故郷にいこーよぴよ!」 カラスの子が王様の仕事にすこしなれたころ、とつぜんコッコちゃんが言い出しました。カラスの子もアヒルさんも困惑しましたが、コッコちゃんが言い出したら聞かない性格なのを理解しているため、次のお休みの日にお忍びでコッコちゃんの故郷である〝にわとりの里〟に向かうことにしました。 にわとりの里はアヒル帝国から見て東にあり、朝日とともに大きな鳴き声がとどろくことから、朝の里とも呼ばれています。「ついたよついたよ! ここがぴよの故郷!」 コッコちゃんは里の入り口で楽しそうに踊りだします。「くわあ。ここに来るのはひさしぶりくわあ」「アヒルさんはここに来たことがかあ?」「くわ。まあ入り口までだがなあ」「さあ! いくぴよ!」 コッコちゃんはしゃべる二人の羽をつかんでずんずん進みます。まずは商店街をぶらりと散策です。「ここは里でいちばんの商店街ぴよ! そしてこれがあーー!」 コッコちゃんは三人分の飲み物を買ってきます。「ひよこの里名物! 生みたて卵のミルクセーキぴよ!」 ひよこから受け取ったアヒルさんとカラスの子は顔を見合わせてからストローを口にします。「あまい!」 二人は同時に言いました。「ぴよぴよ。それがいーのぴよー!」 コッコちゃんはおいしそうにごくごく飲むのでした。 そうしてひよこたちが歩いていると、ひときわ大きなにわとりに守られた、おしゃれなにわとりの一団をみかけました。「あ、あのにわとりたちはこの里で一番偉いうこっけーさんたちぴよな。ぼでーがーどをしているのは、里で一番つよいしゃもさんぴよ。ぴよもうこっけーさんみたいにきれーなにわとりになりたいぴよ!」 コッコちゃんの説明を聞きながら、アヒルさんとカラスの子は一団を眺めるのでした。◆◆◆ そしてコッコちゃんは自分の巣へ2人を案内しました。元気よく巣の扉を開けます。「ぱぱー! ままー! ただいまぴよー!」「あらあらこけこけコッコちゃん。おかえりなさい。……あら、そちらはこけ?」「ブランとノワールぴよ!」「こけ? ノワール? そういえば最近即位されたカラスの国の王様がそんな名前だったような?」「ぴよ? カラス王本人ぴよよ?」「こ、こ、こけえええええええ!?」「ぴよよ、今日ぴよの巣に泊めるからー」 コッコちゃんはいつでもどこでもマイペースな
この世界のどこかに、アヒルたちが平和に暮らしている国がありました。その国の名前はアヒル帝国。とてもやさしい皇帝アヒルが治めている国です。そんな国の外れ、カラス王国との国境付近の森に、1羽で住んでいる変わり者のアヒルがいました。名もなきアヒルはある日、森の中で小さな小さなカラスの子どもと出会いました。これは変わり者だけどやさしいアヒルさんと、小さな小さなカラスの子どもの楽しい日常のお話です。 さてさてカラスの子どもを自宅に連れ帰ったアヒルさんですが、まずなにをすればいいのかわかりません。アヒルさんにはつがいはおらず、もちろん子育ての経験もありません。ともかくカラスの子どもが弱っていることはわかるので、どこかケガをしていないか調べることにしました。 あちこちきょろきょろ。あちこちさわさわ。あちこちツンツン。特にケガはなさそうです。喉が渇いているのかもしれない。アヒルさんはグラスに水を注ぐと、カラスの子の口元に差し出します。でもカラスの子に飲む元気はないみたい。困ったアヒルさんはグラスにストローを差し、そのストローの先端をカラスの子のくちばしに差し込んでみました。すると弱々しくですが、カラスの子は水を吸ってくれました。お水を飲んで少し落ち着いたのか、カラスの子の呼吸が穏やかになり、アヒルさんもひと安心です。 次はなにかを食べさせた方がいいだろうか。アヒルさんは考えます。とりあえずお庭に出ると立派なリンゴの木からひとつ実をもいでくると、皮ごとすりおろしてみました。それを木でできたスプーンでカラスの子のくちばしの中にいれてみます。カラスの子はゆっくりとですがリンゴを飲み込みました。そうしてリンゴを食べさせ終わると、アヒルさんはカラスの子を自分のベッドに寝かせました。その顔を心配そうに覗き込みながらその夜は更けていくのでした……。
ツンツン。ツンツン。 何かがアヒルの頭をつついています。 ツンツンツン。 ――は……! アヒルさんは目を覚ましました。どうやら看病をしながらベッドに突っ伏して寝てしまっていたようです。 寝不足のお目目を翼でこすると、ベッドから起き上がったカラスの子がいました。「くぅわあ!」 カラスの子は元気いっぱいです。アヒルも思わず笑顔になりました。「元気になったくわか」「くわ! くわ! あなたがかぁのパパですか?」「くわ!?」 アヒルさんは慌てて首を左右に振ります。「違うくわ! くわはアヒル! おまえはカラスくわ!」「アヒル? カラス?」 カラスの子はよくわからないらしく首をかしげます。「じゃあかぁのパパとママは?」「知らないくわ」 アヒルさんの冷たい言葉にカラスの子の瞳に涙が溜まります。「くぅわあ! くぅわあ!」 とうとうカラスの子は大声で泣きだしてしまいました。「くわわ! わかったくわ! カラスの国の国境まで連れて行ってやるからパパとママを探すくわ!」「くぅわ?」 アヒルさんはカラスの子をどうにか泣き止ませると、彼を伴い国境へと続く森を歩きます。しばらく歩いているとカラスの子が言いました。「……おなかすいた」 アヒルさんは仕方ないなあと思いながらリンゴの木を探すと実をひとつ取ってやりました。それを半分に割ると片方を差し出します。「ほら、朝ごはんくわ」「くぅわ!」 2羽はリンゴをしゃくしゃく食べながら森を歩きました。「見えた。あれが国境くわ」 国境付近にたどり着くと、アヒルさんはカラスの子の背中を軽く押しました。「くぅわ?」「ここからさきはくわはいけないくわ。1羽でいくわ」「くぅわあ……」 カラスの子はさみしそうに鳴くと、また瞳に涙を溜めます。また泣かれては敵わない! アヒルは慌てて逃げ出します。「くぅわ……!」 逃げ出したアヒルさんをカラスの子は必至に追いかけます。でも慌てて走ったからでしょう。脚が絡まって転んでしまいました。その痛みでカラスの子はまた泣いてしまいます。 その姿を不憫に思ったアヒルは走るのをやめてカラスの子のところに戻るとケガの具合を見てやりました。「くわ。ケガはしてないから大丈夫くわ」「くぅわ……。かぁ……アヒルさんと一緒がいいかあ」「くわわ……」 アヒルさんは困ってしまい
カラスの国との国境付近から帰ってきたアヒルさんとカラスの子は、お茶を飲みながらお話していました。「どうしてアヒルさんはカラスの国まで行ってくれないの?」 カラスの子が尋ねます。「……くわは外の国が嫌いくわ」「どうして?」「……くわも昔はほかの国で暮らしていたけど、ひどい目にあったくわ。もう二度とほかの国にはいきたくないくわ」「かあ……」 2人の間に気まずい雰囲気が流れます。そのとき、アヒルさんの家のドアがノックされました。カラスの子は不思議そうにしていましたが、アヒルさんはまたかといった感じで立ち上がりました。アヒルが扉を開けるとそこにはにわとりの子、つまりひよこがいました。「ぴよよー! 遊びにきたぴよ!」「……まあ、あがるくわ」 わが物顔で家にあがったひよこはカラスの子を見てびっくり仰天。ひよことカラスの子は見つめ合います。しばらく見つめ合ったあとカラスの子は椅子から立ち上がりました。ひよこも動きます。ひな同士なにか通じ合うものがあったらしく2人は抱き合いました。そんな様子を見てまあ大丈夫そうかと思ったアヒルは、夕食の準備をするために台所に向かいました。「おまえだれぴよ?」 ハグを終えたひよこが尋ねます。「かあ! かあはノワールかあ!」 アヒルさんにもらった名前を胸をはって名乗ります。「ぴよ! ぴよはひよこのコッコちゃんぴよ!」 2人は手と手、もとい羽と羽をつかんで踊りだします。 2人がそんなことをしている間、アヒルさんはというと台所でパーティーのごはんを作っていました。包丁でお野菜トントントン、おなべでみんなまとめてぐつぐつぐつ、ひでんのスパイスをさらさら~。 あらなんだかとっても良いにおい。ノワールとコッコちゃんも台所を覗き込みます。やがてアヒルさんがお皿に山盛りのごはんとおなべの中身を盛ってくれました。 仲良く3人分です。「ほら、カレーパーティーするくわよ」 アヒルの一声にひよこは当たり前のように食卓につきました。カラスの子は少し不思議そうにしながらも食卓につきます。「いただきます! おいしいぴよ!」 さっそくカレーを食べたひよこは大喜び。それを見たカラスの子も恐る恐る食べてみます。「かあ! ぴりぴりするけどおいしい!」「くわわ。いっぱい食べておっきくなるくわよ」 わいわいとにぎやかな夕食はしばらく続く
「じゃあねえぴよー!」 カレーを食べ終えたコッコちゃんは楽しそうに家路につきました。それをアヒルさんとカラスの子は見送ります。 コッコちゃんが見えなくなると、アヒルさんは言いました。「さて、くわは水浴びして寝るくわ」「水浴び?」 ぺちぺちと歩くアヒルさんの後ろを、カラスの子はちょこちょこついていきます。アヒルさんは家の裏手にある池にぽちゃんと入ります。そしてすいすい泳ぎながら身体をきれいにしていきます。 それに対してカラスの子は初めての池におっかなびっくりです。まずは覗き込んでみました。自分の顔が映ります。それから羽でちょんと触ってみます。みなもが揺れて映ったカラスの子の顔が歪み、また冷たい感触が伝わってきました。 意を決したカラスは、アヒルさんの真似をして池にダイブ! しかしカラスは水鳥ではありません。当然なれない池で泳げるはずもなくバシャバシャとおぼれかけてしまいます。「かあ! かあ!」 そんなカラスの子を見たアヒルさんはすーっと近づき、カラスの子を池の浅い部分に連れて行ってやりました。ここなら足がつくのでカラスの子もおぼれずに水浴びができました。「かあ……」 落ち着いたカラスの子は一息つきます。そんなカラスの子にアヒルは水をあびせ、綺麗にしていきます。カラスの子は気持ちよさそうです。「さあ、そろそろ上がるくわ」 池から岸に上がったカラスは身体を震わせて水を払います。カラスの子も真似するように岸に上がり、身体を震わせて水を払います。そうして2人は仲良く家路につくと、一緒のベットに入りました。「……おやすみノワール」「かあ。おやすみなさいアヒルさん」 2人はすぐに眠りに落ちました。アヒルさんはカラスの子を抱きしめながら寝ていました。カラスの子もアヒルさんに抱き着きます。 まだまだであったばかりですが、2人の間には確かな絆が生まれつつあるようです。
「ぴよの故郷にいこーよぴよ!」 カラスの子が王様の仕事にすこしなれたころ、とつぜんコッコちゃんが言い出しました。カラスの子もアヒルさんも困惑しましたが、コッコちゃんが言い出したら聞かない性格なのを理解しているため、次のお休みの日にお忍びでコッコちゃんの故郷である〝にわとりの里〟に向かうことにしました。 にわとりの里はアヒル帝国から見て東にあり、朝日とともに大きな鳴き声がとどろくことから、朝の里とも呼ばれています。「ついたよついたよ! ここがぴよの故郷!」 コッコちゃんは里の入り口で楽しそうに踊りだします。「くわあ。ここに来るのはひさしぶりくわあ」「アヒルさんはここに来たことがかあ?」「くわ。まあ入り口までだがなあ」「さあ! いくぴよ!」 コッコちゃんはしゃべる二人の羽をつかんでずんずん進みます。まずは商店街をぶらりと散策です。「ここは里でいちばんの商店街ぴよ! そしてこれがあーー!」 コッコちゃんは三人分の飲み物を買ってきます。「ひよこの里名物! 生みたて卵のミルクセーキぴよ!」 ひよこから受け取ったアヒルさんとカラスの子は顔を見合わせてからストローを口にします。「あまい!」 二人は同時に言いました。「ぴよぴよ。それがいーのぴよー!」 コッコちゃんはおいしそうにごくごく飲むのでした。 そうしてひよこたちが歩いていると、ひときわ大きなにわとりに守られた、おしゃれなにわとりの一団をみかけました。「あ、あのにわとりたちはこの里で一番偉いうこっけーさんたちぴよな。ぼでーがーどをしているのは、里で一番つよいしゃもさんぴよ。ぴよもうこっけーさんみたいにきれーなにわとりになりたいぴよ!」 コッコちゃんの説明を聞きながら、アヒルさんとカラスの子は一団を眺めるのでした。◆◆◆ そしてコッコちゃんは自分の巣へ2人を案内しました。元気よく巣の扉を開けます。「ぱぱー! ままー! ただいまぴよー!」「あらあらこけこけコッコちゃん。おかえりなさい。……あら、そちらはこけ?」「ブランとノワールぴよ!」「こけ? ノワール? そういえば最近即位されたカラスの国の王様がそんな名前だったような?」「ぴよ? カラス王本人ぴよよ?」「こ、こ、こけえええええええ!?」「ぴよよ、今日ぴよの巣に泊めるからー」 コッコちゃんはいつでもどこでもマイペースな
「カラス王様。最初のお仕事はいかがいたしましょうか」 おじいさんカラスが聞きました。「かあ。かあはアヒル帝国に大変お世話になったかあ。まずは皇帝アヒルさんにお礼をしにいかあと思うかあ」「わかりました。会談の準備をすすめます」「かあ、アヒルさんもついてきてくれるかあ?」 アヒルさんはうなずきました。「ぴよ! コッコちゃんもいくぴよ! 皇帝アヒルさんがくれる食べ物はおいしいって聞くし!」 コッコちゃんも行く気まんまんです。「わかりました。ではアポイントメントをお取りします」◆◆◆ それから数日後、アヒルさん、カラスの子、コッコちゃん、おじいさんカラスはアヒル帝国の宮殿の前にやってきました。大きな門が開かれると、皇帝アヒル自らお出迎えしてくれました。「カラス王殿、ようこそくわ!」 皇帝アヒルは挨拶としてカラスの子にハグをしました。それからアヒルさんに声をかけます。「おぬしがカラス王殿を助けてくれたらしいな。大儀くわ!」「もったいないお言葉ですくわ」 アヒルさんはぺこりとお辞儀しました。「では応接間まで案内するくわあ」 気さくな皇帝アヒルに連れられて、一行は宮殿に入りました。きらびやかで立派な宮殿にカラスの子とコッコちゃんはあちこちきょろきょろきょろ。そうしている間にメイドアヒルの手によって応接間の扉が開かれました。先を歩く皇帝アヒルが上座に座ります。「よいしょくわ。さあ、みなさんお座りくださいくわ」 コッコちゃん、カラスの子、アヒルさんの順番で手近な椅子に座りました。おじいさんカラスはカラスの子の斜め後ろに立ちました。「かあかあ。この度はお目通り?いただけてうれしいです皇帝アヒルさま。改めまして20代目カラス王ですかあ」 カラスの子がたどたどしく挨拶します。「くわくわ。くわこそ初めての訪問先にくわが国を選んでくれてうれしく思うくわ」「アヒルさんやこの国にはたくさんお世話になりましたかあ。故郷と思ってますかあ」「くわ、くわが国と民はカラス王殿にどううつりましたかな」「みんないい人かあ。カラスとアヒル、もっと仲良くなりたいですかあ」「くわ。くわもみんな仲良くがいいと思うくわ。みんな兄弟姉妹くわ。そうくわ!」 皇帝アヒルは羽をぽんと打ちました。「20代目カラス王の就任のお祝いとして盛大なお祭りを両国合同でやろうく
カラスの国の王宮についたアヒルさん一行は大変な歓待をうけました。カラスの子は奇蹟の生還を果たした王子様として。アヒルさんはそのカラスの子を助けた英雄として。コッコちゃんは……まあお客様として。 そんなこんなで三人は王宮のひろーいベッドの上でまくらを並べて横になっていました。カラスの子とコッコちゃんはぐっすりでしたが、アヒルさんは一人考え事をしていました。(王子様くわ……王様になるにしろならないにしろ。これから大変なのは間違いないくわ……) アヒルさんは決めました。カラスの子がどんな選択をしようとも、自分がカラスの子を支えようと。◆◆◆ そして次の日、おじいさんカラスがアヒルたちの部屋にやってきました。「王子。どうか王となっていただけませぬか」「でも……」「お願いいたします! 民が待っているのです!」「かあ……」 カラスの子は悩んでいるようです。因みにコッコちゃんはまだ寝ています。なのでアヒルさんがカラスの子に優しく言いました。「くわ。おまえがどんな選択をしてもくわはおまえの味方だ。すきな道を選べ」「かあ……! わかりましたかあ! かあ王様になるかあ!」(王様になればアヒルさんに恩返しもできるはずかあ!)「おお! 20代目カラス王ノワール様! どうぞ、王冠です」 王冠をかぶったカラスの子はついに20代目カラス王となりました。
旅館にお泊りした次の日。荷物を旅館から宅配してもらうことにしたアヒルさん一行は、せっかくなので帝都を観光していくことにしました。帝都にはたくさんのお店が立ち並び、たくさんのアヒルたちで賑わっていました。その様子にカラスの子とコッコちゃんは目を輝かせましたが、人混みが嫌いなアヒルはちょっぴり辟易です。「あれはなにかあ?」「これはなにぴよ?」 なんにでも興味を示す2人のお世話をしていると、不意に後ろから声がかけられました。「お、王子!? 王子ではありませぬか!?」「?」 三人が振り返ると、そこにはおじいさんカラスがいました。「おお、そのご尊顔! 間違いなく王子! よくぞご無事で!」「かあ? かあはノワールかあ。おうじなんて名前じゃないかあ」「なにをおっしゃいます。ほらこれをお持ちください」 おじいさんカラスは黒い宝石を取り出してカラスの子にもたせました。するとびっくり。宝石が光りだしました。「それは王家の秘宝〝ヤタガラスの眼〟、王族がもったときだけ光輝くのです」「……かあ? じゃあかあは王子なのかあ?」「そうです。王子は誘拐されたショックで記憶が混乱しているのでしょう。ですがどうか国にお戻りを。そして王となって民を導いてください」「王になるって、今の王様……19代目カラス王はどうしたのくわ?」 さすがにアヒルさんが話に割り込みます。「それが……」 おじいさんカラスは声を潜め、アヒルさんにだけ聞こえるように答えました。「実は王子が誘拐されるときに王様もお后様も……その……」 それでアヒルさんは察しました。カラスの子はほんとにひとりぼっちなのだなと。「ともかく王子。急いでカラスの国に……」「いやかあ! かあはアヒルさんたちと一緒にいるかあ!」「王子……」「いやかあ! いやかあ!」「そう嫌がるなノワール。案外居心地いいかもしれんくわよ」「でもいやかあ……」「……仕方ないくわね。くわも一緒にいってやるくわ」「かあ!? でもアヒルさんはほかの国が苦手なんじゃ……」「くわ。でもおまえのためだからがんばるくわ」「ならぴよもいくぴよー! 王宮にいけばごちそう出るよね!」「もちろんです。王子の帰還を祝してパーティーを開きます」「やたああぴよおお!」 こうして一行は、一路カラスの国へ向かうのでした。
遅くまで海で遊んだアヒルさんたちは、アヒルさん御用達の海辺のお宿に向かいました。少し古そうな宿を見てコッコちゃんは一言。「ぼろっちいぴよなあ」「文句があるなら帰れくわ」 慣れた様子でチェックインするアヒルさんをしり目に、カラスの子とコッコちゃんは宿の中をきょろきょろ。外見はぼろいけど、中はしっかりお掃除されていて綺麗でした。「ほら部屋いくぞ」 鍵を受け取ったアヒルさんに連れられて部屋に入ったカラスの子とコッコちゃんはオーシャンビューの窓からの景色に歓声をあげます。「ぴよー! 夜の海きれいぴよー!」「かあかあ!」 はしゃぐ二人をしり目にお茶をいれたアヒルさんは静かに一服するのだった。そうして思い思いに時間を過ごしていると夕飯が運ばれてきた。海の幸と山の幸がふんだんに使われた夕食。メインはタイの煮つけでした。「いただきます!」 三人は競い合うようにおいしい夕飯を食べるのでした。◆◆◆ お腹いっぱいごはんを食べた三人はしばらく部屋でゴロゴロしていたが、おもむろにアヒルさんが立ち上がりました。「風呂いくわ」 コッコちゃんも慌てて起き上がります。「ぴよも!」 カラスの子もつられて立ち上がります。「かあ!」 こうして三人は連れ立ってお風呂に向かいました。「ここの貸切風呂は最高くわよ」 アヒルさんはそう言いながら貸切風呂のドアを開けました。みんなが中に入ってから鍵を閉めると、脱衣場のかごに浴衣をおきます。そしてお風呂場の扉を開きます。「ぴよお!」「かああ!」 そこにはオーシャンビューのお風呂が広がっていました。思わずコッコちゃんとカラスの子はダッシュします。しかし湯船に飛び込む前にアヒルさんに捕まります。「まずはかけ湯くわ」「?」 コッコちゃんとカラスの子は首をかしげますが、アヒルは容赦なく湯船の温泉を二人にかけます。「ほら入っていいくわよ」「ぴよおおおお!」「かあああああ!」 コッコちゃんとカラスの子は勢いよく湯船にダイブします。ほんとはマナー違反ですが、貸切風呂なのでアヒルさんは多めに見ることにしました。自身もかけ湯をするとゆっくりと湯船につかって一息です。ゆったりと海を眺めるアヒルさん。温泉で泳ぐコッコちゃんとカラスの子。飛び跳ねる水しぶきがアヒルさんの顔に何度も何度もかかり、アヒルさんはぷるぷる震えます。そし
夏のとある暑い日。またひよこのコッコちゃんがアヒルさんの家を訪ねてきました。「ぴよー! 海いくぴよ!」 ひよこは水着にうきわにシュノーケルにゴーグル。泳ぐ気満々です。「しょうがないくわね……。いくかノワール」「海? よくわからないけどいくかあ!」 アヒルさんとカラスの子も海パンを履くとコッコちゃんを伴ってまずは川に向かいます。「かあ? ここは川かあよね? 川が海なのか?」「川を下ると海にいけるのくわ」 そういってアヒルさんはもってきたゴムボートを膨らませると、カラスの子とコッコちゃんを伴って乗り込みました。「かああああああ!!」 カラスの子の絶叫とともに激流川下りは始まりました。アヒルさんは慣れた調子でゴムボートを操ります。「ぴよおおおおお!!」 因みにコッコちゃんはアトラクション感覚で楽しんでいました。◆◆◆「かあ……かあ……」 カラスの子がさけびつかれた頃、ようやく浜辺につきました。パラソルを立てて拠点を作ったアヒルさんとコッコちゃんはさっそくあそび始めます。それを見たカラスの子も負けじと海に突撃します。三人は仲良く海水をかけあいます。ふいにカラスの子の口に海水が入ります。「かあ! しょっぱいかあ!」「海水だからねぴよ!」 ひとしきり海あそびをすると海の家でひとやすみ。かき氷でリフレッシュです。アヒルさんは練乳、コッコちゃんはレモン、カラスの子は宇治金時です。カラスの子は初めて食べるかき氷に感動してぱくぱくぱく、あたまキーンです。「かあ! 頭いたいかあ!」「急いで食べちゃだめくわよ」 今度はスイカ割りです。目隠ししたカラスの子は右へ左へふーらふら。「右右右ー! 左左左ー! 上上下下右左ABぴよ!」 コッコちゃんの適当な指示でカラスの子は右往左往。仕方なくアヒルさんがガイドします。「もっと右。そこくわ!」 ぽこん カラスの子の力では割れませんでしたが、見事スイカを叩くことには成功しました。海の家で包丁を借りてスイカを切ったアヒルさんは、コッコちゃんとカラスの子にスイカを配りました。海を眺めながらスイカを食べているともう夕暮れ。海に沈むきれいな夕陽を眺めながら、三人はたっぷりと海を満喫するのでした。
カラスの子がアヒルさんと暮らし始めてからしばらくたったとある日、またひよこのコッコちゃんがやってきました。コッコちゃんは浴衣姿です。「ぴよよー! 今日は花火大会ぴよ! みんなでいくぴよ!」「……花火大会。もうそんな時期くわか」「かあ? はなびってなあに?」「花火はね! お空にぱあん! 打ちあがってぴかあ! と光ってきれいなんだよ!」「かあ?」 コッコちゃんの感覚的な説明に、カラスの子はますます首をかしげてしまいます。「まあ行ってみればわかるくわ」 そういうとアヒルさんはタンスをガサゴソと漁り、カラスの子にサイズの合いそうな浴衣を出してやりました。「ほら、くわの昔の浴衣くわ。ひよこに着せてもらえくわ」「ぴよー!」 コッコちゃんに連れられてカラスの子は黒い浴衣に着替えました。「それじゃあいくわよ」 アヒルさん、コッコちゃん、カラスの子が連れ立って花火大会の会場にいくと、そこには多くのアヒルたちと、たくさんの出店が出ていました。おいしそうな食べ物のにおいにカラスの子とコッコちゃんのお腹がなります。「よーし! まずはあれをたべるぴよ!」 コッコちゃんはさっそくたこやきを買います。「あふ……! あふ……!」 カラスの子は初めて食べるたこやきの熱さに目を白黒させます。「次はこれぴよ!」 コッコちゃんは綿菓子を買ってきます。「ふわふわあまぁあい……!」 カラスの子は綿菓子の甘さにとろけてしまいました。そうやってお腹を見たしたあと、カラスの子がなにかを見つけます。「アヒルさん。あれはなあに?」「くわ? ああ、あれは射的くわな。銃で景品を打ち落とすとそれがもらえるのくわ」「へえー」 カラスの子は興味津々といった様子で射的の景品を眺めます。そしてひとつの商品に目を奪われます。それはデフォルメされたアヒルのぬいぐるみでした。「カラスのぼっちゃん。やってみるくわい?」 ハチマキをした的屋のおっちゃんアヒルがカラスの子に声をかけます。カラスの子はいったんアヒルさんの顔を伺いましたが、アヒルさんもうなずいてくれました。そこでカラスの子はおこづかいから300円を出して的屋のおっちゃんアヒルに渡しました。「ほい。玉は5発だ。よーく狙うんだぞ」「かあ!」 パン!パン!パン!パン! カラスの子は4発の弾丸を発射しましたが、目標のアヒルの
翌日。 残り物のカレーを朝ごはんに食べたアヒルさんとカラスの子は、森へ出かました。アヒルさんは大きな荷物を背負っています。「アヒルさん。それなあに?」「くわ。残ったカレーくわ」 そんな会話をしながら2人は歩きます。てくてくてく。よちよちよち。すると前方の茂みが揺れました。カラスの子は緊張します。 がさ!! なんと現れたのは大きなくま! 2メートルはありそうな巨体にカラスの子はびっくり仰天です。慌ててアヒルさんの後ろに隠れます。 対してアヒルさんはのんきにくまさんに挨拶しました。「おお、くまきち。探したくわ」「おお、アヒルさん。今日は何だね」「カレーくわ」 アヒルさんとくまさんの会話を恐る恐る見守るカラスの子。その間にアヒルさんとくまさんはカレーとシャケを交換してしまいました。大きくてまるまる太ったシャケです。「じゃあなくわ」「うむ」 くまさんが森の奥に去っていくと、カラスの子はほっと一息です。「さあて新鮮なシャケをもらったし、さっそくくうわあ」「かあ!」 アヒルとカラスの子は木の枝を集めました。「でもどうやって火をつけるかあ?」 カラスの子が尋ねます。「これくわ」 アヒルさんは火打石を使って焚火をつけました。焚火の炎にシャケを投げ込み、ほどよく焼けたら軽く塩をふります。それだけでシャケはたいへんなごちそうになりました。「いただきますくわ」「かあ!」 アヒルさんとカラスの子はさっそくシャケを食べました。新鮮なシャケがおいしくて2人はにっこり笑顔です。あっという間に食べ終えた2人は、そのまま焚火の前でお昼寝をするのでした。
「じゃあねえぴよー!」 カレーを食べ終えたコッコちゃんは楽しそうに家路につきました。それをアヒルさんとカラスの子は見送ります。 コッコちゃんが見えなくなると、アヒルさんは言いました。「さて、くわは水浴びして寝るくわ」「水浴び?」 ぺちぺちと歩くアヒルさんの後ろを、カラスの子はちょこちょこついていきます。アヒルさんは家の裏手にある池にぽちゃんと入ります。そしてすいすい泳ぎながら身体をきれいにしていきます。 それに対してカラスの子は初めての池におっかなびっくりです。まずは覗き込んでみました。自分の顔が映ります。それから羽でちょんと触ってみます。みなもが揺れて映ったカラスの子の顔が歪み、また冷たい感触が伝わってきました。 意を決したカラスは、アヒルさんの真似をして池にダイブ! しかしカラスは水鳥ではありません。当然なれない池で泳げるはずもなくバシャバシャとおぼれかけてしまいます。「かあ! かあ!」 そんなカラスの子を見たアヒルさんはすーっと近づき、カラスの子を池の浅い部分に連れて行ってやりました。ここなら足がつくのでカラスの子もおぼれずに水浴びができました。「かあ……」 落ち着いたカラスの子は一息つきます。そんなカラスの子にアヒルは水をあびせ、綺麗にしていきます。カラスの子は気持ちよさそうです。「さあ、そろそろ上がるくわ」 池から岸に上がったカラスは身体を震わせて水を払います。カラスの子も真似するように岸に上がり、身体を震わせて水を払います。そうして2人は仲良く家路につくと、一緒のベットに入りました。「……おやすみノワール」「かあ。おやすみなさいアヒルさん」 2人はすぐに眠りに落ちました。アヒルさんはカラスの子を抱きしめながら寝ていました。カラスの子もアヒルさんに抱き着きます。 まだまだであったばかりですが、2人の間には確かな絆が生まれつつあるようです。