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魔導王⑩

last update Last Updated: 2025-04-20 17:00:29

宿に戻ると既に準備が整っているのかみんな馬車の前で談笑していた。

クロウリーさんが小粋なトークでもしてるのか、会話の中心にいるのは魔導王だった。

「お待たせ、さあ行こうか!」

「おお、カナタ似合っているではないか!ふむふむ……機能的でありながら魔法防御にも秀でているときたか。流石はリオンの商会じゃな」

クロウリーさんのお眼鏡にも叶ったようで概ねいい評価だった。

アカリは無言でグッと親指を上に向けてポーズをとる。

似合っているらしい。

「あら、案外似合っているのね。いいじゃないの、ちょっと奇抜だけれど」

「奇抜……なんですねやっぱり。これ僕のいた世界では凄く普通の服なんですが」

こっちの世界の人からしてみれば奇抜に映るようだ。

まあ僕としては着慣れた服だし機能も盛り込まれているし構わないけど。

「いいわね!日本にいたのを思い出すわ!」

フェリスさんは日本を懐かしんでいるが、ついこないだまでいたんだから懐かしさもクソもあったものではない。

雑談もそこそこに馬車へ乗り込みいよいよ出発する。

ここからは長旅だ。

平和的に事が進んでくれればいいが、結界を強引にこじ開けるのだからそう上手くはいかないだろう。

「クロウリー、馬車には結界を張ってくれたかい?」

「当然じゃ。中級程度の魔物なら触れただけ消滅するわい」

とんでもなく恐ろしい会話が耳に入って来たが、聞こえなかったフリをしておこう。

……魔物じゃなくて人間も触れたら消滅するんじゃなかろうか。

ルフランの街をもう少し堪能したかったな。

店も色んな種類があった。

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