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図書館にて①

last update Last Updated: 2025-03-31 17:30:54

帝都大図書館は帝国内でも最大級の大きさらしく見上げるほどの高さがあった。

日本でも国立図書館はあるがそれを遥かに凌駕する建物の大きさだ。

さぞかし蔵書の数は多いのだろうと僕は胸を弾ませた。

中に入るとこれまた巨大な棚に本がギッシリと詰められていて何処を見ればいいのか悩んでしまう程だった。

「さてと、この中から目的の本を見つけるのは至難の業だ。というわけで司書の所に行こうか」

図書館には司書がおり、特殊な魔法を習得しているらしい。

なんでも求める本が何処にあるか分かるという司書としての職業でなければ役に立たない魔法だそうだ。

「ああ、君。ここに神域に関する事が書かれた本はあるかな?」

「はい、少々お待ち下さい」

司書は頭の上に魔法陣を浮かべると目を瞑る。

しばらく待つと司書の目が開き手元の紙に本のタイトルと場所を記してくれた。

「こちら神域について書かれた本は全部で三冊となります」

これだけ膨大な数の本があったたったの三冊。

それだけに神域は謎に包まれているという事だ。

紙に記された場所で本を取るとその場で数ページ捲る。

悲しい事に僕は文字が読めない。

代わりにアレンさんに読んでもらうと、少し難しい表情になった。

「うーん……抽象的な事しか書かれていないね。他の二冊も探してみよう」

どうやら満足いく内容ではなかったらしい。

目的の本を探すのもなかなか大変だ。

何処を見渡しても本の壁。

場所は紙に記載してくれているとはいえ、その場所にも何冊もの本が並べられている。

やがて見つけた二冊目もやはりアレンさん曰くあまり必要としない情報しか載っていなかったらしい。

 

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