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第550話

Author: リンフェイ
「家電製品だって、全部あなたが買ったものじゃないわよ。勝手に持って行かないでちょうだいよ」

佐々木母は唯月に全部の家電を持ち去られるのを心配していた。

「おばさん、安心して。私がお金を出して買ったもの以外には一切触らないから。もし何か足りないものがあったら、遠慮なく私に言って」

佐々木母は鼻を鳴らし、黙っていた。

「プルプルプル……」

俊介の携帯はまた鳴り出した。

社長からの着信だとわかり、俊介は慌てて電話に出た。

電話で社長に何を言われたのかわからないが、俊介の表情が急に険しくなり、慌てて返事をした。「社長、用事はもう済みましたので、今すぐ会社に戻ります。どうして注文が突然キャンセルされたんですか。わかりました、社長、ご安心ください。必ずその注文を取り戻します」

電話を切ると、俊介は両親に言った。「父さん、母さん、会社に急用があるから、タクシーで帰ってくれないか」

そして、唯月に言った。「唯月、今夜十時までに荷物をまとめて出て行ってくれよ。俺はその時間に帰るから」

言い終わると、俊介は急いでその場を離れた。

唯月に「お元気で」の一言も言わなかった。

俊介の両親は息子の慌てて行った後ろ姿を見送った。佐々木父は唯月姉妹を一瞥したが、何も言わず、妻を連れてタクシーを探し、家へ帰ろうとした。

唯花は姉を車に乗せ、荷物を運びに行った。

「お姉ちゃん、どうやら彼の仕事がうまくいっていないみたいね」

唯花は元義兄が上司の電話を受けた時の驚いたような顔を見逃さなかった。

「彼が今の地位まで行けたのはお姉ちゃんのおかげかもよ。お姉ちゃんが人が良いから神様に家族が守られていたってことだよ。だからお姉ちゃんが傍にいなくなると、彼はすぐ谷底に落ちていくことになるんだわ」

唯花は心からそう望んでいたのだ。

ある男が成功できるためには、後ろにちゃんとできる妻がいることだ。こういう妻がいるからこそ、男たちは何の心配もなく、全力で仕事ができるのだ。こういう女性はお年寄りたちによく言われるいい嫁なのだ。

唯月は淡々と言った。「彼の仕事なんてどうなってもいいの。どうせ私はもうちゃんとお金をもらったから。

唯花、私が落ち着いたら、結城さんにあのお友達を呼んできて、食事に招待させてね。あの方はたくさん助けてくれたから。あの証拠がなかったら、俊介はきっと何の恐れもな
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    彼らの家には貸出している不動産がたくさんあり、家賃をもらうだけでもちゃんと食べていけるということを誰が想像できるだろう?牧野家はまさにこれだ。「やっぱり、九条さんと付き合ってみるように勧めてみよう。彼女も九条さんと親しくなれば、きっと愛が芽生えるはずよ」明凛から悟について聞いた後、唯花は悟と明凛が似た者同士だと感じた。二人とも賑やかなのが好きで、悟から一番早く面白いゴシップが聞けるだろうし。「悟に聞いたんだ。彼は牧野さんが印象深い女性だって言ってたぞ。少し時間をあげればきっと行動するよ。今はもうすぐ年越しだろう、社員全員が忙しいから、悟のような立場の人はなおさらだ。年明けの休みに入れば、彼も余裕があって、プライベートに費やす時間ができるよ」彼が出張している間、悟は辰巳と一緒に会社を管理しなければならないから、当然忙しくなるのだ。唯花は頷いた。彼女も明凛が結婚して遠くに行ってしまうのが嫌だった。もし明凛が悟とうまくいけば、そう、理仁にもメリットがあるのだ。彼は悟のバックアップがあり、昇進や昇給もでき、唯花たちは今よりも裕福になるだろう。だがしかし、なんだか友達を売ってお金を稼いでいるようだが……夫婦二入は赤い糸を引く話で盛り上がり、唯花は時間だと気づいて、フェイスパックを外しに立ち上がり、洗面所へ行った。暫くして洗面所から出てくると、まっすぐベッドに向かい、ベッドに上がりながらスリッパを脱いだ。彼女はベッドに横になると、隣のスペースを叩いて理仁に言った。「理仁さん、早くこっち来て。抱き付いて温まりたいの。そうしたらよく寝れるから」理仁は顔色が暗くなった。「俺のことをホッカイロか何かと思っているの?」「ホッカイロは時間がきたら冷めるけど、理仁さんならずっと温かいし、ホッカイロより長持ちで便利なのよ」理仁「……」彼は近づき、彼女の隣に寝た。横向きになって彼女に向き合い、軽く彼女の頭を叩いた。「俺は君にとってただの暖を取るものなのか?他にないの?」「今の私にはほかに何が考えられるっていうの?」唯花は自然に彼の胸に潜り込んだ。「暖房をつけようって言ったら、乾燥して耐えられないってあなたが言ったでしょ?最近特に寒いし、あなたに抱きついて暖かくするしかないよ」ドアと窓をきっちり閉めても、やはり寒い。最大の原因は彼

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    「唯花さん、神崎夫人とのDNA鑑定結果はもうすぐ出るだろう?」理仁は素早く話題を変えた。これ以上自分のゴシップを聞きたくなかったのだ。彼はただのろけたくて、インスタで自分がもう結婚したというアピールをしただけなのに、まさかこんな大事になるとは思わなかった。妻まで彼のゴシップに一日中夢中になっている。「姫華が明日結果を取りに行くって」理仁は「そう」と返事し、すぐに言った。「もし結果で神崎夫人と血縁関係があるとわかったら、きっとまた会うことになるだろう。俺はたぶん行けないんだ。明日から出張だから」唯花は顔を上げて彼を見た。「出張に行く必要はなくなったかと思った」理仁は無言で彼女を見つめた。やはり、彼女は自分が早く出張に行くのを待っているようだ。出張から戻った時、彼女が彼の顔すら覚えてなかったらどうすればいいんだ?「チケットはもう予約したの?何時のフライト?空港まで送るよ。明日早く起きて、荷物をまとめてあげるね」唯花は自分がよくできる妻だと思った。夫が出張するのに、荷物をまとめて空港まで送ってあげるのだから。「午前十時三十五分のフライトなんだ。送ってくれなくていいよ。先に会社へ資料を取りに行かないと。その後、同僚と一緒に会社の車で空港に向かうよ」唯花は頷いた。これなら彼女の手間も省けるのだ。「神崎夫人との鑑定結果が出たら、メッセージを送ってくれる?出張中は忙しくて、深夜にならないとメッセージをチェックする暇がないかも。でも送ってくれれば必ず見るよ」「わかった。結果が出たらすぐ教えるよ」理仁がわざと出張中は深夜まで働くと言ったのは、唯花が昼間に電話をかけてきた時、姫華も同席している可能性を考慮していたからだ。「ところで、明凛と九条さんのことなんだけど、私たちもっとあの二人を押してみる?今日、明凛は九条さんの本当の役職を知って、レベルが高いって尻込みし始めたのよ」理仁は「それはあの二人のことなんだから、俺らは見守るだけでいいよ。紹介してあげた後はどうなるか、彼ら次第だろう」と言った。唯花は笑った。「そうよね。自然の成り行きに任せるといいね。あの二人は本当にお似合いだと思うの。うまくいってほしいわ」明凛は悟にあまり興味がないようだった。悟もそれほど積極的ではなかった。たぶん仕事が忙しいのだろう。

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第574話

    一日中、ずっと結城社長が実は既婚者であり、愛妻家でもあるというゴシップを見ていた唯花は、夜ドレッサーの前でフェイスパックを貼りながら理仁に言った。「今日は一日中ずっと結城社長の噂を聞いたのよ」理仁は「うん」と返事し、何事もなかったように聞いた。「どんな噂?」「知らないの?」唯花は振り向いて彼を見た。「結城社長が実は既婚者ということを公表したけど、その奥さんが誰なのか誰も知らないんだって。姫華の話だと、上流社会ではもう大騒ぎになってるそうよ。理仁さん、あなた結城グループで働いているでしょ?情報とか持ってない?社長夫人は一体誰なの?芸能記者たちが長い間会社の前で待ち構えていたけど、結局何も掴めず、仕方なく諦めて帰って行ったそうよ」理仁は椅子を引き寄せ、妻の傍に座り、彼女がパックを貼っているのを見た。そして、そのパッケージを取り、ブランド名を確認した。それはなかなかいいブランドで、値段も高い。「姫華にもらったのよ。普段あまり使ったことないけど、今夜使ってみるわ」それを聞くと、理仁は眉をひそめて言った。「これから神崎さんからもらったスキンケア用品を使わないで。普段どんなブランドを使っているか教えて、俺が買ってあげるから」「姫華からたくさんもらったの。使わないともったいないわよ。それに、姫華は女の子だよ?それでもヤキモチ?」理仁は手を伸ばし、指で彼女の顔をつついた。「君が俺を心の第一位に置いてくれるまでは、誰であろうと君の視線を俺から奪ったらヤキモチを焼くよ」「ふふ、前に『ヤキモチなんか絶対焼かない!』って言ってたのはどこの誰なのかしらね?」理仁「……」「理仁さん、早く教えてよ。社長夫人は誰なの?」理仁はおかしそうに笑った。「うちの社長のことに興味ないって言わなかった?」「全く興味がないわけじゃないけど、わざわざ聞き回ったりはしないよ。だって私と結城社長は全く別世界の人間のようなものだからね。あなたは結城グループで働いているのに、社長に会うのも難しいんだから。私なんて一生会えないでしょう。だから、彼の噂なんてわざわざ聞き回る気がないのよ。でも、今回の件はあまりにも話題になってたから、ちょっと聞いてみたいだけ。一番重要なのは、姫華が社長夫人が誰かを知りたがっているってこと」理仁は警戒して尋ねた。「神崎さんは

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第573話

    「その幸運な方は一体どこのお嬢様でしょうかね?」玲凰は答えが得られないとわかっていながら、それでも尋ねた。妹が誰に負けたのか知りたがっているのだ。理仁は玲凰を暫く見つめて、口を開いた。「神崎社長、これは俺のプライバシーですから、お答えできませんな」やはり答えてくれなかった。玲凰はその結果を受け入れ、怒らず落ち着いて微笑んだ。「結城社長は本当に奥様を大切にしていますね」「妻と結婚する時、彼女を愛し、守り、一生彼女一人だけ愛すると誓いましたから」玲凰「……結城社長は奥様にぞっこんですね」妹の姫華はやはり理仁と縁がなかったのだ。結構前から妹に理仁のことを諦めるよう説得していたが、妹がそれを聞き入れなかったから、今はこうして苦しんでいるのだ。玲凰は心の中でため息をついた。もし理仁が姫華を愛してくれるなら、彼はもちろん妹を支持し、結城グループとの不仲な状況を解消するために全力を尽くすつもりだった。なぜなら、それは理仁が誰かを愛すると絶対浮気しない人だということを知っているからだ。理仁に愛された女性は、一生溺愛される。同時に、もし理仁が裏切られたら、彼は一生立ち直れないだろう。「神崎社長も奥様にぞっこんでしょう?奥様はいつも幸せそうですね。神崎さんも周りでは有名な愛妻家だと知られていますよね」最愛の妻の話題になると、玲凰の目元が優しくなり、微笑みながら言った。「結城社長のおっしゃった通り、俺も結婚した時、妻を愛し、守り、一生愛すると誓いましたよ」「ご夫婦の仲良しさが羨ましいですよ。いつか時間があったら、どうすれば神崎社長のような愛妻家になれるか、ぜひ教えていただきたいですね」周りの人たち「……」不仲な二人が一緒に座り、どうすれば愛妻家になれるかを話し合うシーンなど、到底想像はできなかった。玲凰は笑った。「結城社長はもう立派な愛妻家ですよ」そうでなければ、わざわざ立ち止まって話したりしないだろう。暫く沈黙してから、理仁はまた微笑んだ。彼は玲凰に「こちらへどうぞ」というジェスチャーをしながら言った。「せっかく神崎社長がうちのホテルにいらっしゃったんですから、食事をご一緒しませんか」玲凰は自分の顧客へ視線を向けた。相手はすぐ返事した。「結城社長とご一緒できるとは光栄ですよ」食事だけして商談

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第572話

    ペンを置くと、悟は窓側に近づき、下を見下ろした。会社の入り口の前に、うじゃうじゃ待ち構えている記者たちを見て、ぶつぶつと言った。「本当に根性があるな。昨晩から今までずっとあそこに待ち構えてやがる。理仁も理仁で、珍しくのろけてこんな大袈裟にアピールするとはね」天地をひっくり返したような騒動なのに、肝心の理仁の奥様は相変わらず平穏な日常を送っている。理仁は妻を完璧に守っていた。会社の社員は大体唯花に会ったことがあるが、誰一人としてそのことを口に出す者はいない。結城家の人間ならさらに言うまでもない。メディアにどんなに詰め寄られても、誰も一言も何も言わなかった。今日、星城の上流社会では、誰もが人と会うたびに、最初に口に出すのは必ず「結城社長の奥様は誰か知っていますか」という言葉だった。ビジネスの商談の場でさえ、最後お開きになったら、取引先たちが「結城社長の奥さんは一体どの方ですか」と聞かずにはいられない状況だった。悟もこの状況に対して煩わしいと思っていた。彼は理仁と最も親しいから、多くの人が彼から情報を聞き出そうとしていたのだ。あいにく、彼は一番知りながら、何も語れない立場なのだ。これほどの騒動を引き起こした張本人である理仁は、いたって穏やかで、普段通りに仕事をこなしていた。昼休みになると、いつものようにボディーガードに囲まれてスカイロイヤルホテルまで行き、日高マネージャーに電話で唯花の好物の料理を届けるように頼んだ。ついでに、花屋で花束を買って一緒に送るように依頼した。唯一、予想外だったのは、ホテルの入り口で玲凰と出くわしたことだった。神崎グループも傘下にホテルを所有している。玲凰と理仁はライバル同士だった。普段なら、玲凰は絶対スカイロイヤルに来るはずがない。今日は玲凰は顧客とのビジネスのためここに来ていたのだ。顧客がスカイロイヤルでビジネスのことを話し合おうと頼んだのだろう。二人の社長はホテルの前で止まり、周りの空気も一瞬凍り付いた。理仁の後ろにはボディーガードたちが、玲凰の後ろには神崎グループの管理職の社員と秘書が数名いた。両方の威圧感はどちらも相当なものだった。二人の後ろにいる人たちは、その二人が対峙したとたん、無意識にその場で止まった。玲凰の視線は真っ先に理仁の左手へ向かった。その薬指

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