51.「もしかして、浮気してたってこの俺さまだぞ。妻からもずーっと愛され続けてきたんだぞっ、なぁ~んて思ってた? 余所の女たちからモテモテの俺さまから離れられないだろ惚れた者負け……ほれほれっ、文句言わずこの俺さまにかしずいてりゃあいいんだ、とか。あなたの考えはそんなトコだったンじゃない?『そんなわけないっしょ』 ごめーんっ、それがそうでもなかったの。 あなたは、ずーっと昔に私のATMになってたのぉ。 好き勝手してきたのに突然の宣言。 ほんとっ、あなたってズルいよね。 周りの浮気を重ねた不良仲間が次々奥さんから熟年離婚されるのを間の当たりにして、突然今から妻だけに…… 最愛の妻だけに心を捧げて大切にしてゆくことを誓いますって、私や息子たち、義両親、私両親、友人知人集めて宣言するんだもん。 思わず咽(むせ)た。『なぁ~に言っちゃってんのって』 最愛の妻って? 『誰のことよ』 私思わず誰のことなんだって後ろを振り向いたよ。 それ、私のことじゃないわよねって。 あなたにいつから最愛の妻がいたの? 一度聞いてみたかったのよね。 ねぇ~、その最愛の妻って誰のこと? そんな人、いたの? 」「えっ、何を……君のことだよ、決まってるだろ葵のことに決まってるだろ? 何言ってるんだよ。 最愛の妻は葵、君のことだ。 君しかいない、昔も今も、」俺の声は震えていた。言いながら、心もとなかった。 だんだん、自分の思ってたこと今言ってることに自信がなくなっていた。「君がそれほど傷ついていたなんて……すまない。反省している だから、敢えて皆の前であんなふうに宣言もした。こっちに帰って来てくれないか! 今まで通り親子4人で暮らそう。 君の言うことには耳を傾け、大切にしていく。 家族旅行もたくさんして思い出作りもしていこう! 仕事もボチボチ減らしていって、君や家族と過ごす時間を増やしていくつもりだから。考え直してほしい」
52. あの日から、あなたのことを夫だと思ったことはない 愛情もなかったのだと、言い切った。 愛情もなかった……ほんとに? あったかもしれないし、今公言したようになかったかもしれない。 もうそんなことはどうでもいい、瑣末なことだ。 今の私には。 何より夫を傷付けてやりたいのだ。 コテンパンに! だから、愛情もなかった……でよいのだ。 「あなたがずーっと、私以外に余所の女と付き合ってたの25年間だからぁ、 少なくとも25年は待っててもらわないと無理。 今からだと軽く80才ちょい』越えになるから、お互い元気で ないと又、一緒に暮らせないわよ。 健康のためにちゃんと食事の献立に気を付けて長生きして下さい』 「それ、本気言ってるのか?」「本気もほんき。 だけど、どうせ待てないでしょうし……って、待たなくていいから。 あなたなら、今だってその辺歩いてるだけで好きすきぃ~ 付き合ってぇ~抱いてぇ~って、女が何人も出てきそうだし 若い子と誰に遠慮することなく、欲にまみれた人生をこれからも 続けていけばっ……!』 「待つよ、ずっと待つ。 君が俺の家に帰ってくれるまで80才までだって待つさ」 『Non,Non. ただ待つだけじゃダメっ! 清い身体で待ってないとね。病院へ行って男性機能使えないように手術してきてよ。できる? あなたのようなヤリマンの浮気男の代表みたいな人には 到底無理でしょ? これまで25年間、妻ひとりでは満足できず1000人切りまでかは 知らないけどそれだけ欲に貪欲だったんだから、死ぬよりつらい ことかもね。 できる? できないでしょ? だから、待たなくていいのよ。 この条件冗談で言ってるわけじゃないから。 この申し出の意味をちゃんと今理解出来てないと思うから 言っとく。 万が一、あなたと復縁したとしても私はあなたとSEXは しなくてもよいっていう意味に必然的になるよね。 復縁しても私は自由に生きるわよ。 何一つあなたに文句は言わせない。 80才にもなって流石に余所の男とSEX出来るとは思わないけど、 あなたへの嫌がらせでハッスルしちゃうかも。ハハハっ」 夫は途中から何も言えず、固まって私の破天荒な話を聞いていた。 面白いぐらい、顔を歪ま
53.「あなたとなんてよりを戻したくないの。でも、納得しないから納得できるように条件出してあげてるんじゃないの。 それになんなの? その執着。 愛してもない妻にどうしてそんなに執着するのか意味分かんないわ、全く。 家族、近所の人たち、親戚、知人、友人、もうあなたがしてきたことなんて知ってるんだし、私があなたの元を去ったからって誰も驚きやしないし、あなたを責めたりだってしないんじゃない? 25年だよ? 皆、遅いくらいだぜとは思うかもしれないけど。 あなたは何も気にすることはない。 私こそだよ。この25年間、皆からたぶん可哀想な奥さんって思われてきて、本当に私は気の毒な女なんだよ? あなたも私もナーンも失くすモノなんてないんだから。別々の人生を歩んだらいいのよ。分かった? 結婚直後から始まった数々の女性との浮気の証拠、流石に全部とはいえないけど、その手のプロに頼んでとった何人分かの証拠と最近のモノで言えば小野寺さんのモノも、ばっちり証拠を掴んでるから慰謝料も請求します。 話し合いが拗れた場合は弁護士を入れて裁判も辞さないつもり。 本気なのでちゃんと考えてください。 昔のモノは裁判で効力ないと思うけれどまぁ、裁判官の心証に訴えるのに少しは役立つと思うから、情報として一応提出するつもり。 あなたが私たち家族にどんなに非常で残酷な夫であったかが白日の下に曝されるわね。 あなたがほんの小さなことと考えていることを周りの人たちにJudgeしてもらえる機会でもあるわけ」 「葵、君の忌憚のない意見を聞く今のいままで本当にそこまで君を傷つけ悲しい思いをさせていたことに気付いてなかった。 ほんとにごめん、すまない。 昨年の宣言は本心だ。良い夫になる。 もっともっと君につくす。 だから、結論をそう急がず時間をくれないか。 よく話し合おう! 何も今からシングルになって働いて苦労しなくてもいいじゃないか。 今のままなら、経済的にも精神的にも俺が守ってやれる。 50才を過ぎてアラ還になって仕事するって思ってるより大変なことだ。」「貴司さん、どーしてそれを25年前に、まだまだ私たちが若かった頃に言ってくれなかったの? 聞きたいのは私のほう。 どうして60才間近になってからなの? 自分の老後の保
54. この後も延々と夫は"ナンダカンダ…… ソレデアレデ……"←グダグダ何か必死で話してた。 途中から、私の耳は夫の声をShut Outしてしまった。 私はコウやミーミのこと、畑の作物のこと、次は西島さんにどんな献立を考えてあげようかなとか、沙織さんたちと今度はいつ女子会しようかなとか、気が付いたらあちらでの生活圏のことばかり考えていた。 言うべきことは言った。「じゃ、よ・ろ・し・くぅ !」 私はそのまま息子たちと会わず、帰路に着いた。 ◇ ◇ ◇ ◇ 葵にとって俺の存在は虫ケラのように小さなどうでもいいモノになっていて、正直驚きを隠せなかった。 俺の異性に対する魔力は1mmも葵には効かないらしい。 彼女の前では60才手前の只のクソ親父に過ぎないようだ。 だんだん惨めにも思えてきたが、何とか口達者を自称している俺は妻を言いくるめようと、しゃべりまくった。 はぁ~、疲れた。 葵の目と耳には、俺の姿は映らず声は届かず……だったか! 敗北感が襲ってきた。 彼女はその辺に転がってる石よりも強固と思えるほどでその意志を曲げることなく、帰って行った。 はぁー、参った。 はぁー、疲れた。 ホント、疲れたぁ。 ほんとにぃ、アレ(葵)一体誰だよっ! 俺はテーブルに額を打ちつけ、凹んだ。 ◇ ◇ ◇ ◇ 姉貴の言ってたことが当たったってわけだ。 参ったわ。 女を舐めるんじゃないって吼えてたけど、ほんと俺葵のこと舐めてかかってたわ。 だが、離婚だけは何としても阻止したい。 理由(わけ)なんか、そんな小難しいことじゃないさ。 愛情がないのに執着するのはおかしいって言われたけど 決めつけんじゃないって、ほんとは声を大にして言いたかった。 俺は、葵を息子たちを……家族を捨てていいと思えるほど醒めているわけじゃないんだからな。 決めつけんなって! 見てくれだけで寄って来る女はいても、精神的に支えてくれるような女がどこにでも転がっているわけじゃないさ。 整理整頓の行き届いた居心地の良い部屋、健康に配慮された献立でできた美味しい食事、子供たちが健全に過ごすことのできる明るくて暖かい家庭、60才を迎えようとする俺に
55. 葵に付き合っている男がいるか興信所に頼むことにしよう。 自分でも最低なことは自覚している。 だが、妻だって以前の妻ではなくなってるんだ。 もし、少しでも怪しい関係の男がいたら男共々金銭的に追い込んで葵が自分の所へ戻って来るしかないようにしむける。 巷の浮気や不倫した女性達の末路はよく見聞きして知っていた。 夫や不倫相手の妻から慰謝料を請求され、挙句は間男(浮気or不倫相手)に捨てられ、必ずといっていいほど生活に困窮して夫に復縁を願い出るのが常で復縁を迫る言葉等、テンプレ化されているほどなのだ。 そう考えが纏まると、葵がどこかの誰かと付き合っていることを願うようにさえなっていた。 だがその一方で、他の男と仲良くしている妻を許せるだろうか?という問題にぶち当たり苦しくなった。 この頃の俺は、妻を散々苦しめてきたことを反省することもできず完全にトチ狂っていたようだ。そんな俺は即日興信所を探し、間もなく契約した。 ◇ ◇ ◇ ◇ 息子たちとは会わずにこちらの我が家に帰って来た。 少し気にしていたのだけれど、丁度というか良いタイミングで長男から連絡が入った。 次男と次の金曜の夜から2泊で私の顔を見に来るとのこと。 モチロン大歓迎。おいでませぇ~だよ。 ふたりなら、丁度良い。 私が仕事の間は家にいてゆっくりするなり、近隣を散策するなりふたりでゆっくり、こちらの素敵な景観を堪能してもらえばいいし、たった2泊とはいえコウやミーミとの生活は楽しんでもらえる自信がある。 本当に彼らとの生活を重ねる度、今まで動物のいない乾いた生活がどうして当たり前のようにできたのかを不思議に思うほど、素晴らしいものだから。 私は生まれ変わったら 農園とか果樹園とか自然と共に…… そして犬や猫たちと一緒に…… 幼少の頃から暮らしているような境遇に巡り逢わせてくださいと今の暮らしを幸せと感じる度に神様にお願いしている。
56. 心待ちにしていた金曜がほどなくして訪れた。 金曜の夕飯は、私が仕事でも作っているピザを息子たちに 振舞った。 仕事の合間に、3枚余分に焼かせてもらっていたので 息子たちと一緒に、自宅に帰るとすぐにオーブンに入れるだけで すぐに3人でピザを堪能することができた。 「かあさん、智也ずっと片思いしてた子に告白したけど 振られて、コイツ元気なくしてしまってさ。 それで気分転換も兼ねてかあさん家へ来たってわけ!」 「兄貴、改めて言われてオレ凹むわぁ~! オレの恋愛運は親父が根こそぎオレの分持っていってん だよ、ゼッタイ! 親父の子だってのに、どーしてこんなにモテないんだ?」 「それっ、、俺もほぼおまいと同じだから。 スッゲェー、お前の気持ち、言いたいこと分かるわ、マジで!」 「何度かごはん食べに行って、コンサートへも行ったりしてたから 脈有だっと思ってたんだけどなぁ~。 改まってちゃんとした交際を申し込んだから、他に気になる人が いるからごめんなさいって言われた」 『そっか、残念だったね。 だけど、女子と一緒にごはん行ったり、コンサートに行ったことは 智の経験値になってるし、無駄なことじゃなかったと思う……。 交際申し込んだこともね。 お父さんのモテ方が、異常なのよ。比べることない。 同じ血が流れてても、お父さんと違って貴方たちは女の子にモテ ないのかもしれないけど、ちっとも悲観することないのよ? この世でツガイになれる相手はたったひとりなんだから。 ひとり、そう、1人。 愛し、愛してくれる人がいたらいいの。 大勢にモテる必要なんて、ちっともない。 そしてね、人が皆がみんな、今生でそのたったひとりの人に 出会うことができるとは限らないっていうこともね、 知っておいてほしいの。 自分の好きな人が自分を見てくれないってこともあると思う。 好きな人と結ばれることのできる人、残念なことにできない人も いる。 いろんな条件の中で折り合いをつけながら生きていくの。 もちろん、逆もあるしね。 いくら好いてもらっても、応えられないってことも あるかもしれない』
57. こんな話を聞いたことがあるの。 研究職のA夫さんは、大学、大学院そして就職してからも 周りは男ばかりの環境の上、研究熱心で仕事一筋。 男女の色恋事にはトンと疎い人でね、結局恋愛での御縁は なくって親の勧める女性とお見合いして結婚したの。 真面目な人でね、余所の女性に余所見することもなく奥さんと 3人の娘さんたちを育て上げ、嫁に出した後も今まで通り仕事から 帰って来ると夜遅くまで書斎に籠もって研究のための文献を読んだり する日々で。 特に奥さんを喜ばすようなことを形や言葉に出してすることもなく 結婚後、そうしてきたように日々を粛々と過ごしていたのね。 子育ても専業の奥さんにまかせっきりで、典型的な日本の昭和頃 までの父親っていう感じできてて。 だけど、奥さんの子育てや日々の暮らしの中でのことには、いちいち 文句を言ったりして奥さんを不快にさせたりはしてなかったの でしょうね。 そして、やさしさもあったのだと思う。 だって、そのA夫さんの奥さんはね…… 旦那さんのことをとっても愛していたから。 ある夜のこと、A夫さんがいつものように書斎に籠もって研究のための 勉強をしていたら、お茶を持ってきた奥さんがお茶を机の上に 置くと同時にA夫さんの耳元で小さな声で『愛してる』って おっしゃったんだって。 恐らくいきなりの言葉に旦那さんの耳には--------------------------------------------------------アイシテル....ン? Aishiteru...Un? あいしてる...愛してるぅ? ホント? キキマチガエジャナイヨネ?--------------------------------------------------------だったんじゃないだろうか! 奥さんから告白された『愛してる』の言葉をどう受け止めれば いいのか、おたおたしたみたいだったから。 自分たちは大恋愛の末に結婚したわけでもないし、今でも週に2度ほど ある夫婦生活でも、互いに愛してるなどと言葉を交わしたことは 一度もなかったはず。 どういうことなんだ、これは? 妻の真意は? 言葉で伝えられたA夫さんは、オロオロ・ドキドキ。 奥さんの真意がどこに
58.「うん、かあさんの言ってる意味すごく分かる。 僕もそのたったひとりに早く出会えると いいんだけどね」 『出会えるといいわねぇ~。お兄ちゃんもね。 お付き合いすることに関しては難しいことなんてひとつもないの。 自分をさらけ出せて、相手のことも受け入れて互いが誠実に 向き合えばいいだけのこと。 自分のことしか考えられなくなると、ふたりの関係は 終わっちゃうからね。 それとね、良い出会いがなくても、焦らなくていいのよ。 どうしても結婚しなきゃいけないなんてコトでもないんだし。 少し寂しいかもしれないけど、ぼちぼち自分のペースで 人生を歩んでいけばいいと思うわ。』 「「かあさんと久し振りに話できて良かったよ」」 口を揃えてふたりが言った。 「私も。いつかこういう話、しておきたかったから」 息子たちは夫とは真逆のタイプで、片思いばかりでよく 振られるみたいだ。 でも、彼らは若いから、これから……これから。 だけどそんな息子たちを横目にいつかはと思っていたので 今回、私が今まで話したいと思っていたことをちゃんと 伝えることができて良かったと思う。 「かあさん、新しい生活にも慣れて本当に幸せそうだね。 かあさんに離婚を言いだされてから父さん、哀れなもんだよ」 そう、賢也が夫のことを切り出した。「そうなの? 逆だと思ったけどぉ? 大っぴらに行動できて、ウキウキかと思ってた」「表向きはね。いままでと同じように振舞ってはいるけど、何か 精気がないっていうか覇気がないというか。 雰囲気変わったよ、やっぱり。 だいぶ、痛手追ってるんじゃないかなぁ。 まあ、昔と同じようにモテる自分に酔ってるけど60才近いアラ還の 既婚モテ男なんかに近付いてくる女なんて、碌なもんじゃないし 所詮、遊び相手にしかならないんだよ。 仲の良い夫婦なら毎日穏や
67(番外編) お互いの気持ちを確認し合ったことで葵は前にも増して軽やかに西島と接することができるようになった。 自分の気持ちに素直に……。 心の中で毎日『大好きです』の言葉を西島に送るようになった。 日によってそれは『大好きっ』だったり『大好きなんです』だったり、『何でこんなに好きになっちゃったんだろう』だったりその時々の気分で変わる。 ◇ ◇ ◇ ◇ 程よい距離感で付き合って3年の月日が流れた。 西島さんへの好きの気持ちはちっとも減らなかった。 一緒に暮らすことの怖さや不安よりもたくさん側にいたい気持ちの方が勝るようになっていった。 七夕の日に『西島さんの奥さんになりたい』と書いて、差し入れのおかずを入れた容器の上にカードを貼り付け、袋に入れて何も言わずに西島さんにいつものように手渡しした。 いつもだったら次の差し入れ時に、洗ってある前の容器を受け取って帰るのだけれど、今回は翌日の朝一番に西島さんが家まで届けてくれた。 「ご馳走様! おいしかった。」 いつもの笑顔で西島さんはそう言ってくれた。 早朝届けてくれた容器を紙袋から取り出すと、わたしが願い事を書いた短冊の裏側が同じように貼り付けられていた。 そこには西島さんからのメッセージが書かれてあった。―― もう僕は3年前から願っていました。 こちらこそ、僕の奥さんになってください。―― たった2行だけれど、そのメッセージが私に 最高の幸せを運んでくれた。 ずっと待っていてくれた西島さんも私の願いを読んだ時今の私と同じように幸せを感じてくれたろうか!「じゃあ、行って来ます」「わざわざ届けに来てもらってありがとう! 行ってらっしゃい」 私をもういちど振り返り、西島さんは職場に向かった。 ―――― Fin. ――――
66『大好きな男性《ひと》と結婚して奥さんになって、楽しくて幸せな家庭を作るのが私の夢だった。 きっと女性なら皆《みんな》そうだと思うけど。 本気で向き合ってもらえてるんだぁ~って、再確認できて本当にうれしく思います。 ただ、元夫との長い結婚生活でかなりの人間不信になってしまってちゃんとした夫婦で居続けるということが……信じ続けるっていうのかなぁ、上手く言えないけど……人間社会での生きていく上での約束事にもう縛られたくないっていうか。 裏切られることが怖いんだと思うの。西島さん、私はあなたのことが好きだしずっと側にいて仲良くしていきたいのでこれからも宜しくお願いいたします。 プロポーズ、お受けします。 私も遊びなんかじゃないです。でも、仲の良い友人、恋人、この関係のままがいいような気がするので……どうでしょ?だめですか?』 「やっぱりね、そんな気がしてた。でも気持ちの上でのプロポーズは受けてくれて、ほっとしたよ。 こちらこそ、ありがとう。今の関係でこのまま仲良くしていけたらよいね。 でもいつか、君の中で入籍をしたいと思う日が来たらその時はちゃんと僕に言ってほしい」 『ありがとう、そうします』 今日は西島さんから私たちの気持ちを確認するようにリードしてもらってうれしかった。 私への気持ちが本気だと言われて、やっぱり女性として感激してしまった。 心から甘えられる恋人がいるって最高。 こんなおばさんになって、素敵な出会いが2つも訪れるなんて自棄を起こさずに生きてきて良かった。
65 . 番外編 毎晩、葵は僕に『大好きだよ涙が出るほど』って言うんだ。 そして、やさしく撫でてくれる。 ミーミがいつも『私は? ねえ、私は?』って葵に言う。 そしたら葵は『いい子だね、可愛いね、ミーミおいで~』ってミーミを抱っこするんだ。 にゃぁー『どうして大好きって言ってくれないの?』ってミーミが泣く。 僕は葵にとって特別な存在らしい。 葵の手はやさしくて、暖かい。 僕も葵が好きだ。 『にゃぁー』ってミーミが泣くと、僕はミーミのことをたくさん舐めてやって『いい子だね、大好きだよ~』って言ってやる。 そしたら、ミーミは落ち着くんだ。 最近、西島っていう人がちょくちょく家に来るようになった。 仲良さそうにしているけど、葵が西島さんに『大好きだよ』って言うのは、まだ聞いたことがない。 もしかして、どこか余所の場所で言ったりしてないだろうか! ◇ ◇ ◇ ◇ 「質問と言うか、提案と言うべきか君と意思確認しておきたいと思うことがある」 西島さんはそう言ってきた。 たぶん、あのことだと思った。 真面目な彼のことだからきっと……。「君との付き合いは遊びじゃないから、それをちゃんと証明する意味で確認したいことがあるんだ。 君さえOKなら、入籍してもいいぐらいには本気だ、君とのこと」「ありがと、そう言ってもらってとってもうれしいぃ~。 それって、プロポーズだよね? 違ってたら恥ずかしいけれど』 「いや、違ってなんかなくてその通りなんだけど。あぁ、今更この年で恥ずかし過ぎて、直截的な言いまわしは使えない……と言うか、断られるような気がして。 お伺いのような聞き方しかできないでいるのが、正直なところかな。 君も僕と一緒で遊びでこういう付き合いのできる人だとは思えないけど……でも、結婚を望んでの関係じゃないような気もするしで、できれば君の思っている気持ちを知りたいっていうのが一番。どう? 僕の勘は当たらずとも遠からずではない?」
64 (最終話) 普通は離婚したことなんて誰も進んで言いたがるようなことじゃ ないよね? だけど、私は気が付くと畑に向かって走っていた。 実際は自転車に乗ってたんだけども。 気持ち的には、自分の足で走っていたのだ。 とまれ…… 畑に居るその人に一番に伝えたくて。 離婚が成立したことを西島さんに報告した。 西島さんにとって私が離婚したことなど取るに、足らないことだと 分かっていてもどんなことでもいいから何か彼からの言葉が 欲しかったのかもしれない。 私は風が草花を揺らし続ける静寂の中でその時《彼の反応と言葉》を待った。 そしたら、早速西島さんからデートに誘われた。 デートと言い切るには、私の勝手な妄想が随分と入って いるのだけれど。 「じゃあ、今まで遠慮してたのですが、今度雰囲気の良いお店に 飲みに行きましょう。 帰れなくなったら、私の家に泊めてあげますから」 「ありがとうございます。 ぜひ、お供させていただきます」 そう返事をしたあと、私は畑で西島さんの姿を時々視界に入れつつすぐ いつものように作業をし始めた。 自然が醸し出すきれいな空気と、愛でている野菜たちが 閉じ込めようとしても出て来てしまう照れくささをすぐに 取り去ってくれるから。 心から湧いてくる喜びに私は浸った。うれしいお誘いがあって ……好きな人から誘われて …… Happyな気持ちになって …… 私と西島さんは、もちろん将来を約束している恋人同士ではない。 そんな決まりごとの関係なんて、くそくらえだ! 刹那的と言うのは例えが重苦しいからアレだけど、その一瞬々を 思い切りお気に入りの人と楽しく過ごすって何て素敵。 家に帰ったら絶対彼氏のコウと愛娘のミーミが待っててくれて 必ず~おきゃえり~にゃぁさぁ~い~って出迎えてくれる。 I Wish 私が願ってやまなかった幸せがすぐ側にある。 Happy Life...... 素晴らしい人生がI Love People... 愛お し い人たちが I Love My Cats.. そして愛しい猫たち ――――― Forever ―――― ※番外編へと続く→ 65話66話67話
63. 興信所の調査に貴司は落胆を隠せなかった。 きっと、何も事情を知らない調査員がこんな姿を見たら さぞかし不思議がったことだろう。 結果がクロなら分かるが、シロで落ち込むなんて日本中探しても 確実に自分くらいなものだろうから。 ここで往生際の悪いことをしてもどんどん自分だけがドツボに 嵌っていくであろうことはすでにこの頃、貴司は自覚していた。 結局自分だけは不倫や浮気で離婚された悪友たちの二の舞は 踏むまいと先手を打ったものの、ただの足掻きでしかなかったのだ。 どんなにこれからも葵と一緒にいたいと願っても……2度と 葵がこの家に、自分の元に、戻って来ることはないのだ。 葵のいないこれからの生活など貴司には想像もつかない。 今更何をと言われようとも、まだまだ心の整理が必要だ。 ◇ ◇ ◇ ◇ 夫の貴司と会い離婚を突きつけてからほどなくして あっさりと離婚が成立した。 今後私が困らないようにと、財産分与に追加して今までの お詫び料だと言って更に上乗せした分を夫が渡してくれた。 お金に汚い人でなかったことが救いだ。 年金分割も同意してくれた。 円満に話が進んだので、今後は息子たちの親という立場で スムーズにお付き合いできるのかな? と考えている。 『まっ、こればっかりはしようがないものね~』 夫から役所へ離婚届を出したと連絡受けた後、私は大きく深呼吸した。 この日をずっと待っていた。 長かった。 苦しかった。 切なかった。 そして……ようやくすっきりした。 私は小山内(おさない)葵に戻った。
62.遡って仁科貴司が初めて葵の様子を見に畑を訪れた日のこと。 男の自分が見ても水も滴るいい男。 醸し出すオーラからして違っている葵の夫が少し離れた 所に居る。 葵の夫仁科が来た時、たまたま道具と水を取りに行ってた 自分は、2人からはかなりの距離があった。 ふたりの遣り取りの雰囲気から、その場にはいない存在に なるよう努めた。 視界の端でその男を見た瞬間、知らぬ間に昔の思い出の中に ワープしていた。 その場面は子供が幼かった日の運動会で西島の今は亡き妻もいた。 仁科貴司が息子たちを伴って妻である葵と歩く姿を目にすると 余所の奥さんたちは色めきだった。 その様子を見ながら西島の妻は、私はあなたが一番と言ってくれた。 そう言われてうれしかったことを思い出した。 だがあの時、自分は冷静に考えた。 しかし、そんなふうに言ってくれる妻だってどちらに対しても 初対面で、自分かあの男かを選べと言われたなら、きっとあの男を 選ぶだろうと。 それが当然と思えるほどに、仁科は魅力的できれいな男だ。 それでもだ、余所の女房連中がキャーキャー騒ぐ中、あなたが 良いと言ってくれた愛しい妻が偲ばれた。 葵さんも独特の雰囲気を持つ、キュートな女性だ。一切毒のない女性で、派手に着飾って美貌をアピールする でなし、夫の横にいても高慢に振舞うでもなく、しとやかで 清楚な雰囲気を纏い、素敵に見えた。 あの少し毒さえあるような男には、派手で彫りの深い顔に 厚化粧をしているような美人が似合いそうなせいか、皆 奥さん連中は血迷い、 もしかしたら、あのきれいな男の横にいたのは私だったかも しれないと、勘違いしていたのだろう。 そんな雰囲気が彼女たちの言葉や態度から見てとれた。 その様子におかしいやら、あきれるやらしていたのを ふと思い出した。 ◇ ◇ ◇ ◇ 昔の思い出に浸っていたらいつの間にか、葵と貴司の姿が 見えなくなっていた。 仁科貴司はやはり今夜、葵の暮らす家に泊まって いくのだろうかと思った。 昨日は葵からお好み焼きの差し入れがあった。 自分の好きな豚肉がたくさん入っていた。 たくさん持って来てくれていたので、今日はみそ汁を付けて 食べるとするか。 手作りのお
61. 2人の関係は、真っ白と報告が上がってきた。 報告書を受け取った貴司は、加藤なる調査員からトドメのひと言を 言われる始末。「あんな素敵な奥さん、私が欲しいぐらいです。 大切になさって下さい。」 普通の人間なら、ここは喜びほっとするところなのだが 元々目的の方向性の違う貴司はガクっときたのだった。 内心では自分もこんな風な結末だろうことは、分かっていたのに。 念のため、録音したという畑でのふたりの会話を聞いた。 葵の声が弾んでいて楽し気だった。 息子たちと話している時の妻の様子に近いモノがあった。 相手に気を許し心を開いている様子を伺い知ることができた。 長年妻が自分に対してどんなに心を閉ざしていたのか 思い知らされる結果になってしまった。 今更、と言われるかもしれないが、いつの間にかこんなにも 妻の気持ちが自分から離れてしまっていたのだと気付いた。 自分は今まで何人の女たちと関わってきたのだろう。 だが、ひとりとして妻ほどに、自分の心を開いた相手はいない。 だが、どうもその妻に対しても俺は言うほど心を開いては いなかったのかもしれない。 きっと妻の方では俺に対して心と心を通わせ合えるような関係を 構築したかったのかもしれないが、俺は自らそれを打ち壊し続けて きたのだろう。 先日の妻の半端ない決意を聞いてしまった以上、焦るものの 妻に家へ帰って来てほしい、また元の家族で暮らそうと もはや言い出せない貴司なのだった。 ******** 特に主になって調査を進めていた加藤は、畑での男女を知るにつけ 今時珍しい実直な2人のファンになっていた。 ある夕暮れ時に見たふたりの姿が今も瞼に焼き付いている。 女性の方が猫を2匹連れて来ていた日のこと。 ふたりが水筒に入ったお茶で休憩していたら、それぞれの膝の上で 猫たちが一匹ずつ寝てしまい、ふたりは猫をそれぞれ自分の子供に するようにやさしく撫でる。 むろん、ふたりは無言だ。 そこには2人と2匹のやさしいたゆとう時間が流れていた。 男と女。 猫と仔猫。 しばらくの間、4つの存在は切り取られたアルバムの中の写真の ように異次元に飛んでいった。 それは美しく清らかな一枚の絵となった。 この
60. 私が他所の女性と付き合うのを止めるようどんなに頼んでも 分かったと言うだけで馬耳東風、止めようとしなかった夫に 絶望し渇いていた私。 ちょうどその頃、2才を少し過ぎた次男の智也が 台所の椅子に座っている私の側に来て私の頬に キスをしてくれるようになった。 『チュッ』 長男はそんなことをしたことがなかったので最初、すごく 吃驚した。 『₹ャァ ウレピー』 チュッとキスをした後、必ず私に言ってくれた言葉がある。 「おかあさん、しゅきっ ♡」 とてもとても幸せなひとときだった。 それは次男が5才か6才になるまで、結構長い間続いた。 夫からは決して得られない幸せの時間。 私だけを映す次男の瞳がとても愛おしかった。 ** 葵がそんな昔の想い出に浸っていた頃 ** 葵の夫である仁科貴司からの依頼で興信所が動いていた。 ありもしない葵の浮気を暴こうと、男関係を調べていたのである。 敏腕調査員、加藤は確信する。 白、シロ……まっしろ。 仁科貴司の奥さんには一切おかしな行動はない。 加藤と一緒に動いていた若手のスタッフ沢田と玉木も 揃って妻の葵のことをベタ褒め。 『ホレテマウワ』 夫なり妻なりが何か思うところがあって調査依頼して来ると 大抵の場合は、その何かおかしいと思う予感は当たっていることの 方が多いものだ。 今回のように何もないことは本当に珍しい。沢田+玉木: 「「この依頼者の旦那さん、いい奥さんで裏山(うらやば)しいなぁ~♡」」加藤: 「ちゃんと、羨ましいと言えっ」 別居している妻が心配でしようがないようだ。 奥さんは、畑を間借りしていて持ち主である小児科医、西島と よくその畑で一緒になる。 自分たちはその畑の数箇所で2人の会話が拾えるように高性能の ICレコーダーを畑のあちこちに取り付けていた。 後《のち》に回収してその会話を聞いた。 2人の会話はどこにでも転がっているような内容で、時々聞いている 者をもほっこりさせるような楽しくてユーモア溢れる話が あ
59. 「賢也、智也、私ね……愛すべき貴方たちふたりの息子を 授かれたことは本当に私にとって最高のプレゼントだって 思ってる。 だから、夫婦としてお父さんとは上手くいかなかったけど 全てが駄目だったってわけでもなかったと思うの。 今が一番大事だからね、一生懸命前向きに生きるわ。 ここに来るには、ちょっと時間が掛かるけれどいつでも来て。 おいしいモノ作って待ってるから」「ぜひそうする。 ほんと、ここは自然に恵まれていていいところだね。 仕事のことがなかったら、俺もこんなところで暮らしたいよ」 と賢也が言った。 『オレも年とったら、畑してみたい。かあさんがここで 根付いてくれてたら、将来こちらに住む拠点も移しやすそっ。そういう意味でも、かあさん、頑張ってくれよんっ』 と今度は弟の智也が続いて言う。 「西島の父ちゃんがその頃になったら隠居生活に入ってる かもしれんし。譲ってもらえんとも限らんから、おまえ 貯金しっかりしとけっ。」『おっしゃぁ~、お金溜めるべぇ~』 久し振りに会った息子たちはコウやミーミと戯れたり畑へも 一緒に行って野菜を収穫したり、自然を満喫して日曜の午後 帰って行った。 帰ってゆくふたりの背中を見つめ、彼らの行く末が幸多かれと 願わずにはいられなかった。 いつもじゃなくって、瞬間々なんだけどね 幼い頃の息子たちとの日々を思いし懐かしむことがある。 そんな中でも私の荒(すさ)んだ気持ちを解きほぐしてくれた 出来事は私の一生の宝だ。