彼の憧れた人
熊谷智史が私にプロポーズした時、電話がかかってきた。
近くにいた私には、向こう側の声がはっきりと聞こえた。
「智史兄ちゃん、けがしたの、足が痛いよ」
「パチン!」智史は戸惑いなく指輪の箱を閉めて、「明日香がけがした、また今度にしよう」
そう言い残して、周りの人の驚いた視線の中で駆け出した。
私は明日香に会ったことはない、でも耳にタコができるほど彼女のことを聞いた。食事の時、智史は明日香が甘いもの好きを言い出すし、私が服を選び時には、彼女が薄紫色が好きだと知った。
このことでよく智史と喧嘩したが、彼はいつも、「お前は嫉妬心が強すぎるよ、誰だって憧れてた人くらいいるだろう?彼女は俺の過去だ、お前だけが俺の未来」
だから、私は自分に惚れていた清水俊也に連絡した。「結婚しよう」