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All Chapters of PSYCHO-w: Chapter 1 - Chapter 3

3 Chapters

1.目玉

 海岸沿いの田舎町。 その小さな商店街の端にひっそり佇む個人葬儀屋。 まだ早朝だが、一人の少年が始発電車を目指して家を出た。 黒髪に白シャツ、濃紺のスラックス。どこにでもあるデザインの学生服。切れ長の眼差しが、既にギラついた太陽を眩しそうに見上げる。痩せ型で色白な印象の男子だ。「おっはよう ! 」 待ち伏せしていたかの様に道の反対側から声を掛けられる。「……なんだよ……眠いからほっといてくれ……」「知ってるよ。昨日の夕方来た方でしょ ? 私も今日は帰ったら花の方やんないといけないんだ」 そういい、少女は振り返る。 葬儀屋の少年 涼川 蛍は、浮かない面持ちで歩き出す少女を見下ろす。 彼女は幼馴染の古川 香澄。生花店の一人娘で、蛍の斎場の契約生花店である。 同じ高校の制服で、ショートカットのくせ毛がふわふわと揺れる。 昨日の夕刻、御遺体を受け入れることになり、今は葬儀場の準備中だ。自宅と事務所は一緒だが、ホールは別に建ててある。「おばさん困ってない ? かなり安くしてくれてるみたいだけど」「う、ううん ? そんなことないと思う !  確かに流行りの花は高く売れるけど、こんな田舎じゃ何時でも売れるわけじゃないしね。安定してるのは蛍ちゃんの家のおかげだよ」 短髪の女子高生と長めの黒い前髪の蛍。 二人とも兄妹のように姿形が似ているが、性格は真逆だった。「絶対違うと思う」 個人の葬儀屋はピンキリだが、やはり経営者の人柄次第で客数は変わる。値段と規模だけなら大手の方が強いだろうが、個人店はどれだけ希望を叶えられるかや、故人の家の事情にどれだけ足を使えるかがかかってくる。 故にクチコミや町の人間の利用者が多い。 特に涼川葬儀屋では、特殊な葬儀や奇抜な葬儀を請け負う事も増えてきた。「流行りの花でお葬式をお願いしてくる人もいるし。葬式に菊を使ってる方が俺の家じゃ最早珍しいよ」「えー ? まだまだ菊は現役だよ。でもほら、大きい葬儀屋さんは造花も増えてるしね。 まぁ……いいじゃん ? 持ちつ持たれつ〜みたいな ? そりゃあ、私だってお隣のチーズケーキ専門店のお姉さんとか、斜め向かいのマッチョ坦々麺のお店の子に生まれたかったですぅ〜。 ま、ま、ま ! お互い頑張ろうぜ〜 ! 」「……あ〜……うるせぇって……」 二人、駅へ向かう。 三駅
last updateLast Updated : 2025-04-14
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2.共鳴

「香澄ちゃんは ? 」「あいつも親が来るって」「そうか……」 重明が運転する軽トラの中、二人はぎこちない会話をしていた。「……仏さん、見たのか ? 」「たまたま通りかかったから」 重明は自分の言いたいことが纏まらなかった。自身の子が人と違った嗜好を持っていたら…… ? 親は矯正するべきか。どう矯正するのかも分からない。無理に強制したら、隠れて、更にエスカレートする事も考えられる。 そもそも蛍は、外では何もトラブルを起こしたことなどない。勉学も上の中。家業だって手伝っている。経理を任せても、金をくすねる事なども無かったし、それを面倒見ていた従業員からも好かれていた。 口数少なく、遺族の前に出すには無愛想すぎるが、女性社員は皆口を揃えて「男の子はみんなそんなもの、今はそういう年なだけだ」と言う。 一方、蛍は重明の重い会話にうんざりとした様子で車のテレビ音量をあげる。『速報です。今朝方、東湊駅前の旅館の屋上から飛び降りた女性の身元が判明しま……』 反射的に、重明は別のチャンネルに切り替える。「どうせ朝見て知ってる事を、今更隠さなくても……」「見る必要なんかない。 いいか ? 負の死より美しい死をいつでもイメージするんだ。 御遺体がどんなでも、俺たちに求められるのは、いつでも美しい最後だ。それをプロデュースする事」『今日は暑くなりそう〜。皆さん洗濯物は本日がオススメです〜。続いては全国ニュースでーす』「俺たちは、いろいろな御遺体を相手にする。老人も、まだ喋れないような赤子の時もあれば、突然の事件で命を奪われた人、今日みたいな自ら命を絶つ人いろいろだ。 だが、皆平等に送り出す。 皆平等に、綺麗にして、最高の状態で人生の最後を任される誇りのある仕事なんだ」 蛍にとっては聞き飽きた言葉だった。父親の仕事は尊敬している。職場環境も決して大きくない個人の葬儀屋。少ない従業員数でも皆が人生の最後に力を注ぐ素晴らしい仕事だ。 しかし重明の言葉には、やはり出てしまう。自分の中にある獣を恐れた言葉の切れ端。故に蛍も余計につっけんどんに返事をしてしまう。「……皆平等と言うなら戒名も一律料金にすりゃいいのに」「おめぇ、そんな話してる訳じゃねぇ ! 」「湊駅で降ろして。図書館で勉強してから帰るよ」「……」 蛍には理解出来ている
last updateLast Updated : 2025-04-14
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3.素材パーツ

「蛍 ! 蛍ちゃん〜 ! 」 内陸部の山林地域に存在する廃校。 木造建築で、学校を利用した再生カフェや当時の学生気分が味わえるイベントを開くとして、去年どこかの資産家に買い取られたという噂が流れた。 しかし、いつまで経ってもカフェどころか、廃校は放置されていた。 蛍とルキが到着すると、香澄が縋り付くように駆け寄ってきた。その身体に拘束は無い。制服のままという事は下校途中、親と合流する前に連れて来られたのだろう。汚れや服の乱れも無かった。「ケイも来るって部下に連絡したんだけど、その子信じなくてさぁ……手をやいたみたいだ」 ルキが黒服達の乱れた髪と汚れたスーツを見て苦笑する。「蛍ちゃん、どこにいたの ? こいつら誰なの !? 」「香澄、冷静に」「なんでぇっ !? なんで落ち着いてられるのっ ! 」 泣き出す香澄を見てルキはクスクスと笑う。「そうだよね〜 ? 不安だよね ? 今のはケイが酷いよ。ちゃんと心配してやらないとさぁ〜」「心配はしてますよ」「香澄ちゃん、もっとケイと無事を確認し合ったりしたかったよねぇ ? 」 ヘラヘラと笑うルキに、香澄は噛み付かんばかりに睨みつける。「あぁ、ごめん。俺の言う言葉じゃないか !  さぁ、皆さんこっちに来て」 ルキの他に、部下が二人横に付く。更に蛍と香澄の背後、逃走防止に二人の黒服がついた。電気は通っているものの古いせいか今にも消え入りそうな光量だ。 通されたのは一階、校舎中央の階段下。 校舎は二階建で、中央階段から東と西に教室が存在する。 一階の中央階段前は校長室だが、そこにはあらゆる監視モニターがある様子だった。即席のケーブルが束になり、閉まりきれない扉の隙間から液晶が見える。学校の内部が映し出されているようだ。 蛍がその場へ来るとすぐに黒服が防火シャッターを締め、簡易取り付け型の鍵をする。逃げ道を防ぐのだろう。くぐり戸はあるが、完全に溶接されている。「何をするんだ ?」「そう焦らず、ね ? 」 ルキと黒服以外に、蛍、香澄、他二人がいた。「さ、自己紹介だ !  君からどうぞ ! 」「ひっ…… ! 」 香澄より酷く怯えている女性。 エキゾチックな派手目の服装だが不潔感がない。激しくかかったスパイラルパーマが個性的で、そばかすのある素肌感が穏やかな印象の面持ちだ。
last updateLast Updated : 2025-04-16
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