海岸沿いの田舎町。 その小さな商店街の端にひっそり佇む個人葬儀屋。 まだ早朝だが、一人の少年が始発電車を目指して家を出た。 黒髪に白シャツ、濃紺のスラックス。どこにでもあるデザインの学生服。切れ長の眼差しが、既にギラついた太陽を眩しそうに見上げる。痩せ型で色白な印象の男子だ。「おっはよう ! 」 待ち伏せしていたかの様に道の反対側から声を掛けられる。「……なんだよ……眠いからほっといてくれ……」「知ってるよ。昨日の夕方来た方でしょ ? 私も今日は帰ったら花の方やんないといけないんだ」 そういい、少女は振り返る。 葬儀屋の少年 涼川 蛍は、浮かない面持ちで歩き出す少女を見下ろす。 彼女は幼馴染の古川 香澄。生花店の一人娘で、蛍の斎場の契約生花店である。 同じ高校の制服で、ショートカットのくせ毛がふわふわと揺れる。 昨日の夕刻、御遺体を受け入れることになり、今は葬儀場の準備中だ。自宅と事務所は一緒だが、ホールは別に建ててある。「おばさん困ってない ? かなり安くしてくれてるみたいだけど」「う、ううん ? そんなことないと思う ! 確かに流行りの花は高く売れるけど、こんな田舎じゃ何時でも売れるわけじゃないしね。安定してるのは蛍ちゃんの家のおかげだよ」 短髪の女子高生と長めの黒い前髪の蛍。 二人とも兄妹のように姿形が似ているが、性格は真逆だった。「絶対違うと思う」 個人の葬儀屋はピンキリだが、やはり経営者の人柄次第で客数は変わる。値段と規模だけなら大手の方が強いだろうが、個人店はどれだけ希望を叶えられるかや、故人の家の事情にどれだけ足を使えるかがかかってくる。 故にクチコミや町の人間の利用者が多い。 特に涼川葬儀屋では、特殊な葬儀や奇抜な葬儀を請け負う事も増えてきた。「流行りの花でお葬式をお願いしてくる人もいるし。葬式に菊を使ってる方が俺の家じゃ最早珍しいよ」「えー ? まだまだ菊は現役だよ。でもほら、大きい葬儀屋さんは造花も増えてるしね。 まぁ……いいじゃん ? 持ちつ持たれつ〜みたいな ? そりゃあ、私だってお隣のチーズケーキ専門店のお姉さんとか、斜め向かいのマッチョ坦々麺のお店の子に生まれたかったですぅ〜。 ま、ま、ま ! お互い頑張ろうぜ〜 ! 」「……あ〜……うるせぇって……」 二人、駅へ向かう。 三駅
Last Updated : 2025-04-14 Read more