尚真は、意を決してもう一度メッセージを送ろうとした。だが——すでに向音にブロックされていることに気づいた。胸の奥に、じわじわと重い苦しみが広がっていく。こんなにも時間が経ったのに、彼女からの反応は、まるで凍てついたように動かない。「宿主様、この世界に降り立ってから半年が経過しました。攻略対象・向音の好感度は現在31%。初期値より9ポイント低下しています」システムの無機質な報告に、尚真はただ酒を呷って答えた。「分かってる」苦い酒が口元から溢れても、拭う気にもならなかった。鈍く痺れる心の痛みが、すべての感覚を押し潰していた。「もう一度だけ、彼女の家に行こう」ようやく自分を奮い立たせた尚真は、車を走らせ、向音のアパートの前に到着した。だがそこで出迎えたのは、ちょうど旅行から帰ってきたばかりの彼女と梨乃の姿だった。大きな荷物を抱える二人に近づき、思わず声をかけた。「手伝おうか?」「いりません。どうも」梨乃はひとことだけ言い捨て、尚真に視線すら向けなかった。向音も、ただ冷ややかに一瞥をくれただけだった。「何しに来たの?」「なんで、俺の連絡先をブロックしたのかが分からない」尚真は困惑した声で続けた。「お前に迷惑をかけた覚えはない。無理に連絡したわけでもない。ただ、ちゃんと話がしたかった。それだけなのに、それもダメなのか?」彼女の答えは、簡潔で明快だった。「ダメよ」荷物をすべて部屋に運び入れたあと、彼女は扉の前に立ち、尚真に向き直った。友人と話すときの柔らかな笑顔とは裏腹に、尚真に向けられる表情には一片の温度もなかった。「あなたを歓迎していない。ここは、あなたの居場所じゃない。過去は過去。もう終わったの。だから——もうこれ以上、私の人生に踏み込まないで」そして、彼のそばに歩み寄り、誰にも聞こえない声でそっと囁いた。「それに、私たちはもう離婚したのよ」離婚。その二文字が尚真の胸をえぐった。目がにわかに揺らぎ、苦しげに唇が動いた。「向音、俺、後悔してるんだ。もう一度やり直せないかな?この世界でなら、また結婚だってできる。だから——」「それ以上、言わないで」彼の言葉を、彼女は手のひらで遮った。「私たちは終わったのよ。尚真——帰って」彼女はそれきり、一度も振り返らずに去っていった。ドアが閉まる重い
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