王宮で夜会が開催されている中、すぐそばの庭園の隅で、イグナス様が女性と抱き合い、キスを交わしている。 ディアス侯爵令嬢のマリアナは、目に涙を浮かべながらその様子を木の陰から見ていると、背後から声をかけられた。「人の逢引きを覗くのは、さすがにやめたら?」 今、このタイミングで話しかけられても冷静になんて返せないし、話し声を聞かれてイグナス様に覗いていることを知られるのも困るわ。「私のことは気にしないでください。 今、この光景を目に焼き付けているんですから。」「どうして、そんな必要があるの?」 その人は更に質問を重ねて、一向に立ち去ってくれる気配がない。「もう、静かにしてください。 あなたに関係ないでしょ。」 私はしつこく話しかけられることに苛立ちを覚え、後ろを振り返る。 そこには、グルフ侯爵令息シスモンド卿という貴族ならば誰もが知るほどの美しい男性が、立っていた。 シスモンド卿は、紫色の瞳と白金の髪が輝き、スラリと背が高くどれをとっても女性の憧れの男性だった。 その彼がよりにもよってこんな時に、私に話しかけている。 夜会などで遠くに見かけることがあっても、人気のある彼とは今まで話したことなんて、一度もなかったのに。 タイミングが悪過ぎる。 まずい。 ということは、後ろには彼に憧れる取り巻きの女性達がついてきているのかも知れない。 私はつうっと冷たい汗が、背中を流れるのを感じた。 私は慌てて、シスモンド卿の後ろを見渡すが誰もいない。 良かった。 こんな姿をみんなに見られたら、私が恋人の逢引きを覗いて泣いていたことが、貴族中の噂になってしまうところだった。 何とかそれだけは回避できたことにほっと一息ついて、少し気持ちが落ち着いて彼に向き合う。「シスモンド卿でしたか。 初めてお話しますね。 私はマリアナと申します。 できれば、私と会わなかったことにして、この場を離れていただけると助かります。」 私は丁寧に話して、この場からお引き取りいただこうと思った。「僕の名前を知っているの? 嬉しいな。 君がどうしてこの光景を見続けなければいけないのかその理由を教えてほしい。」 シスモンド卿は私から目を逸らすことなく何故か、質問を重ねる。「失礼ですが、私とあなた様は何も関係ありませんよね。 私が何
Terakhir Diperbarui : 2025-04-03 Baca selengkapnya