銀司は黒いベルベットの指輪ケースを握りしめていた。中には揃いの結婚指輪――鳩の卵ほどの大きさのダイヤがきらめき、目を奪う輝きを放っている。彼は周囲の好奇の視線も神父の困惑も無視するように、美鈴へとまっすぐ歩み寄った。足取りは固く、迷いがなかった。すると、オーケストラが止まった。神父も呆然としてしまった。教会は水を打ったように静まり返った。挙式の最中に、もう一人の新郎が現れるなんて――誰もが息を飲んだ。「銀司?」美鈴は瞬きを忘れた。もう杏に場所を譲ったはずなのに。なのに、なぜ今?それもまさかの結婚式に?反射的に藤正の前に立ちはだかり、眉をひそめて言い放った。「何の用?今日は私たちの結婚式よ。邪魔しないで」「結婚式?」銀司は唇を歪めて笑った。「俺が別れを承知した覚えはない。お前たちの結婚なんて、さらに認めない。杏の件は説明する。だからまず……俺と来てくれ」不敵な笑みを浮かべながら、彼は美鈴の手首を強く掴んだ。その顔には狂気じみた表情が浮かんでいた。「放して!」美鈴は激しく手を振り払い、顔を背けた。「もういいの。あなたを愛してないって、わからないの?もう終わったんだよ。子供みたいなわがままで式を台無しにしないで」「わがまま……?」銀司の目が一瞬、揺れた。必死の思いが、彼女にはただの「わがまま」に見えるのか。「違うんだ」声が震えた。「美鈴、まだ終わってない。俺たちは……」銀司の目は真っ赤になり、冷たい顔に崩れそうな笑みが浮かんだ。次の瞬間、彼は美鈴の頬を強引に掴み、唇を奪おうとした――ドン!鈍い音が教会に響いた。藤正の拳が銀司の頬骨に直撃した。その一撃で銀司の体はのけぞり、頬はすぐに腫れ上がり、口角から血が滲んだ。「ふざけるな!美鈴がもう入籍した。式も終わりに近いんだ。俺の妻に何をするつもりだ!諦めろ」藤正はそう言い、もう一発殴ろうと追いかけた。しかし銀司はわざと傷ついた腕でその拳を受け止めた。血が腕を伝って流れ、見るも痛々しい赤だった。だが彼は少しも気にせず、むしろ唇をゆがめて笑った。「痛いな、美鈴」わざと傷ついた腕を見せつけるように袖をまくり、赤黒い血を滴らせた。地面に落ちた血のしずくが、教会の床を汚した。
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