2日後、九条薫は家を売却した。時価10億円の物件を、相手は5億6000万円にまで値切った。佐藤清は相手の強欲さを罵った。しかし、九条薫は歯を食いしばって「売る!」と言った。お兄さんは一刻を争う状況だった。弁護士費用に加え、九条家には莫大な借金があった。様々なプレッシャーの中、九条薫には他に選択肢がなかった。家を売却した後、彼女はなんとか九条時也に面会した。九条時也。端正な顔立ちで、以前はどこに行っても多くの令嬢に追いかけられていた彼だが、今はやつれた様子だった。彼はガラス越しに九条薫と話した。「水谷燕(みずたに つばめ)という弁護士に会いに行け」「薫、彼は俺の力にも、お前の力にもなってくれる」......九条薫は詳しく聞きたかったが。面会時間が終わり、九条時也は連れ戻されることになった。彼は妹を見ながら、名残惜しそうな視線を向けた。妹の九条薫は、幼い頃から九条家の宝だった。なのに今は、家のために苦労している。九条時也は新聞を読んでいた。九条薫の状況は、彼には手に取るように分かっていた。帰る時、九条薫は立ち上がり、鉄格子を強く握りしめた。指の関節が白くなっていた。「お兄さん......お兄さん......」九条時也は人差し指を唇に当て、声に出さずに言った――「元気で」九条薫は彼が連れ戻されるのを見送り、しばらくして、ゆっくりと椅子に座った。水谷燕......そう、彼女は何としても水谷燕を見つけなければならない。......九条薫が拘置所を出るとすぐに、研修所の担当者から電話がかかってきた。相手はとても丁寧な口調で彼女を「奥様」と呼び、今は人材を募集していないと言ってきた。九条薫は電話を静かに切った。これは藤堂沢の仕業だろう。彼は彼女を無理やり連れ戻そうとしている。彼女は藤堂沢が自分に愛情を持つようになったとは思っていなかった。彼はただ、身の回りの世話をしてくれる妻が必要なだけだ。藤堂グループの株価を安定させるための看板が必要なだけだ。九条薫自身は、彼にとって何の価値もない女だった。携帯電話の着信音が鳴った。彼女は画面を見ると、知らない番号だった。電話を取ると、藤堂沢だった。彼の声は、いつものように冷たく気高い。「薫、話をしよう」真昼。9月の強い日差し
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