「翔真、1000万円貸してくれない?」 賑やかだったバーの個室が、一瞬で静まり返る。 彼の顔が見る間に険しくなり、深い瞳がまっすぐ私を射抜く。 「1000万?何に使うんだ?」 口を開きかけた私を遮るように、彼の隣に座っていた桐生翔真(きりゅうしょうま)の幼馴染の早乙女美織(さおとめみおり)が噴き出すように笑い声をあげた。 「ほらね、私が言った通りだったでしょ?こういう子って、一見可憐なふりして、結局は金を引き出すことばかり考えてるのよ。翔真、まだ信じられない?」 美織の声が続く。 「真実の愛だとか言ってたけど、ほらね。結局、金が大事なんじゃない」 その上、彼女は得意げに私を嘲笑う。 私はただ黙って翔真を見つめる。彼は美織の言葉を黙って聞いているだけで、視線ひとつ動かさない。 翔真の反応を見た周りの人たちは、目に驚きの色を浮かべていた。 美織のこともあって、この界隈の人たちはみんな私を嫌っている。 みんな、私が美織の元のポジションを奪ったと思っているのだ。 図々しくも自分にふさわしくない場所に入り込んだと見られている。 普段は翔真が私をしっかり守ってくれるから、みんな表向きには「お義姉さん」と気軽に呼んでくれる。 でも今日は翔真が何も言わないのを見て、みんな大胆になり始めた。 「七瀬さん、よくもまぁそんな大金を要求するもんだな」 「桐生さんの金は湯水のように湧いてくると思ってんのか?」 最初に口火を切った誰かの後を追うように、他の人たちも口々に言い始める。 「だからさ、貧乏人となんか付き合うと大変なんだよな。結局、俺たちが救済隊みたいになる」 「特に、見た目無害そうな奴ほど要注意だぜ。金せびる時だけは容赦ないからな」 「七瀬さん、銀行強盗でもやったほうが早いんじゃないか?」 中には下品な冗談を口にする者もいた。 「いっそ俺のところに来ない?二百万なら出すけど、どうだ?」 翔真はただ眉をひそめるだけで何も言わない。冷たい沈黙が空気を支配している。 そんな中、美織がわざとらしく「あらあら」と声を上げた。 「この子、ただお金が欲しいだけみたいじゃない。売り物扱いなんてかわいそうだから、あんまり追い詰めちゃダメよ?」 その顔には嘲笑の色が隠しきれていなかった。 まる
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