その精神病者と行こう、私は退く のすべてのチャプター: チャプター 11

11 チャプター

第11話

ある日のこと、精神科の外来を通りかかると、光子の姿が目に入った。 彼女は髪もボサボサ、目は虚ろで、生気のない姿だった。 その前には幸吉が立っていた。 眉間にシワを寄せ、不機嫌そうな顔をしている。 さらにその後ろには、怯えたように彼の影に隠れている女性がいた。楚々とした雰囲気で、怯えるように光子を見つめていた。 「光子、いい加減にしろよ!雪乃はただの患者だって、何回言えば分かるんだ!」 幸吉が苛立ちを露わにして怒鳴った。 すると光子は突然声を荒げ、幸吉に掴みかかった。 「患者?あんたが患者と何もないなんて、そんな嘘信じるわけないでしょ!」 「あんたたちのLINEのやりとり、全部見たわよ!気持ち悪くて吐きそう!」 すると、幸吉の後ろにいた雪乃が震える声で話し始めた。 「光子さん......幸吉先生は、ただ私の情緒を安定させるためにお家に連れて行ってくれただけなんです。本当に誤解なんです......」 光子の言葉を無視するように、幸吉は苛立ちを込めて彼女を突き飛ばした。 「お前は薬を飲めばいいんだよ!病気なんだから、いちいち疑ってばっかりいないで!」 その場には、かつての同僚たちも立ち会っていた。 彼らは小声で囁き合いながら、この一部始終を見ていた。 「ほらな、やっぱりこの男、変わらないよな」 「『犬は吠えるけど泥を食う』ってこういうことか」 この光景......どこかで見たことがあるような気がした。 でも、何かが違う。 幸吉は相変わらず幸吉だったが、私はもう光子ではなかった。 その時、賢一が私の隣に来て言った。 「光子さんのカルテを見たけど、重度のうつ病と妄想性障害がある。だけど、幸吉が出してた薬は安定剤ばっかりで、ほとんど効果がないね」 私は頷いた。それなら、光子が前よりひどくなっているのも無理はない。 賢一はさらに続けた。 「でも、幸吉も正直、普通じゃないよな。この状態だと......何か事件を起こす可能性が高い。早めに何か手を打たないと......」 賢一が言い終わる前に、光子が突然その女性に向かって掴みかかろうとした。 それを見た幸吉が、怒りに任せて大声を張り上げた。 「もう我慢できない!」
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