コンサートが終わりに近づいた頃、突然雷鳴が轟き、大雨が降り出した。僕はコンサート会場の外に立っていた。中の照明はすでに消えていた。人気のない暗い通りに佇む。傘も車もない。豪雨は雨幕となり、肌を打つほどの痛みを伴って降り注いだ。僕はゆっくりと遠くの通りへと足を進めた。スマホが振動し、画面が明るく光る。椎名鈴からだった。受話器越しの彼女の声はいらだちに満ちていた。「白川、今どこにいるの?こんな遅くまで帰らないなんて、どういうつもり?」僕は深く息を吸い、すぐには答えなかった。その沈黙に彼女はさらに不機嫌になったようだ。「話しなさいよ!口が利けないの?」「コンサートの体育館にいる」僕は淡々と言った。きっと彼女は自分との約束を忘れていたのだろう。電話の向こうで数秒の沈黙があり、その後冷たい声が返ってきた。「位置情報を送って。できるだけ迎えに行くわ」本来なら迎えを頼むつもりはなかったが、雷雨の夜で視界が悪く、不注意から自転車に接触して転んでしまい、全身泥だらけで足を捻り、脚には目を背けたくなるような傷が何本もついてしまった。位置情報を送信し、僕は何とか路端の細い軒下に避難して、雨の中で待ち続けた。時間が一分一秒と過ぎ、スマホの電池が切れるまで、彼女は現れなかった。幸いなことに、親切なタクシー運転手が通りかかり、近くのホテルまで送ってくれた。落ち着いてから、習慣的にスマホを開き、桐山陽介のSNSをチェックした。彼の最新の投稿が目に入った。写真には彼と椎名、そして彼の母が温かく明るい別荘で楽しそうに談笑している様子が写っていた。どうやら桐山家の別荘のようだった。雷雨の中での僕の惨めな姿が、まるで大きな冗談のように思えた。まるで彼らこそが本当の家族のように見え、夫である僕はまるで部外者だった。躊躇なく、僕は桐山をブロックし、続いて椎名も連絡先から削除した。七年の結婚生活、数えきれない喧嘩と冷戦、これが僕の初めての断固とした行動だった。昼休み、椎名が珍しくティールームに現れた。彼女は副社長で、普段は役員フロアにいて、この階に降りてくることは滅多になかった。僕を訪ねて来たことなど一度もなかった。「昨日の夜、なぜ帰って来なかったの?」彼女は詰問するような口調で言った。僕が口を開く前に、彼女は続け
Last Updated : 2025-01-10 Read more