着替室で重たい着ぐるみを着ていると、管理者の渡辺が急に私を観覧車のチケット係に回すと言った。心の中で疑問に思いつつも、反論はできず、着ぐるみのまま観覧車のチケットブースへ向かった。先月、神谷と一緒に貯めた百万円を騙し取られてしまった。そのせいで、仕事が終わった後もアルバイトをして生活費を稼ぐ必要があった。まもなく観覧車が点灯し、入口にはどんどん人が集まり始めた。こういう「ロマンチック」の象徴とも言える場所に来るのは、大抵若いカップルだ。心の中でふとこう思った。「私たちも一緒に観覧車に乗ることができたらいいのに……」神谷のことを考えると、自然と口元が緩んだ。今夜、鍋料理店で忙しくしているだろうか?ちゃんと食事をとったのだろうか?私にメッセージを送ってきているだろうか?残念ながら、着ぐるみを着ているせいでスマホを使うこともできなかった。ところが、不意に振り返ると、見慣れた後ろ姿が目に入った。神谷?どうしてこんなところに?もっと近くで確認しようと歩き出したが、途中で足を止めた。「もし似ているだけだったら?」自分をそう慰めた。お互いを信じること、それが愛の基本だ。彼を疑うなんて、そんなの私らしくない。昨日、彼はこう言った。「来月には店長に昇進するから、今はすごく忙しいんだ。だから家に帰って横になった瞬間に寝てしまうよ」だから、彼がこんなところにいるはずがないと確信していた。まして、あの男が着ていたスーツは高級感あふれる一着で、今の私たちの生活には到底手の届かないものだった。その背中をじっと見つめていた時、突然後ろから誰かに強くぶつかられた。勢いよく倒れた私の着ぐるみに足を取られたらしく、その女性も派手に転んだ。周りにはすぐに観光客が集まり、騒ぎになった。地面から起き上がろうとした瞬間、聞き覚えのある慌てた声が耳に飛び込んできた。「水野、大丈夫か?怪我はない?」その声を聞いた瞬間、動きが完全に止まった。信じたくなかったが、振り返ると間違いなく彼だった。水野という女性は涙を浮かべながら彼に手を差し出した。「沢雲くん、手が痛い……」名前まで同じだった。信じられなかった。これがすべて自分の思い違いであってほしいと願った。だが顔も声も、すべてが彼だった。
Last Updated : 2025-01-07 Read more