ひとりで受付を済ませて点滴を受け、弱った体で壁に手をつきながら外へ出ようとしていた時だった。連絡を取れなかった彼氏が、女秘書と親しげに腕を組みながら待合室に座っているのが目に入った。伶智は弥織の前にしゃがみ込み、遠慮なく指を彼女の下腹部に当てていた。柔らかな笑顔を浮かべながら、次の瞬間には顔を近づけて胎動を聞いているように見えた。だが、私がかけた16回もの電話は全て無視され、仕事で忙しいという一言で片付けられた。胸が締め付けられるような痛みを感じながらその光景を見つめる。弥織は恥ずかしそうに伶智の頭に手を添え、甘えた声で言った。「吹野さん、赤ちゃんができちゃいましたけど......日原さんはどうするんですか?」私の名前が出た瞬間、伶智の柔らかな表情は不機嫌で冷たいものに変わった。彼は嫌悪感を露わに眉をしかめ、立ち上がると弥織の額にキスをした。「お前を囲う契約は、あと5年の期限がある」「その5年間、お前と俺たちの子どもを愛し続けるさ」「それにたかが5年だろう?壽良は7年も待ったんだ。彼女に約束した結婚だって、あと5年引き延ばしても問題ない」その言葉がはっきりと頭に響き渡る。目線をゆっくりと弥織の少し膨らんだお腹に移す。なんて滑稽なんだろう。私の生理を汚いと嫌い、自分は幼少期に家庭が崩壊したから子どもが苦手だと言っていた。自分には子どもを育てる能力がないと主張し、私の痛みを無視してまで皮下埋め込み手術を受けさせ、生涯不妊に追い込んだ。それなのに、22歳の若い女の子とこんなことをしているなんて。体の虚弱さと彼の言葉の痛みが相まって、目頭が熱くなる。震える指で再び伶智に電話をかける。これで発熱後17回目の電話だ。彼もこれ以上無視すれば怪しまれると思ったのか、渋々出た。彼が口の動きで何かを罵るのを見ながら、私は彼が嫌そうに電話に出るのを目撃した。「どこにいるの?」彼をじっと見つめる。伶智は弥織の耳たぶを触りながら、苛立った様子でこう言った。「会議で忙しいんだ。切るぞ、あとで話そう」一秒も待たずに、電話は無情にも切られた。もう涙を止めることはできなかった。冷笑しながら転がり落ちる涙を拭うこともせず、振り向いて母からの月に20回目となるお見合いの催促電話を受けた。
Last Updated : 2024-12-18 Read more