目を開けると、義父が床に倒れているのが見えた。私は幼い頃から重度の血液恐怖症だったので、反射的に夫に電話をかけようとした。スマホを解錠する瞬間、前世で夫に包丁で切りつけられた光景が脳裏をよぎった。その痛みは今も鮮明で、体に染みついているかのようだった。私は一瞬手を止め、夫に電話するのを思いとどまった。そして代わりに夫のいとこ、高村一登に電話をかけた。電話はすぐに繋がった。「あなた、大変です!お父さんが倒れて、頭から血を流しているんです!私、血が苦手で……どうしたらいいか分かりません!」慌てた様子で夫と間違えたふりをしながら、泣きそうな声を出した。「落ち着いて、今すぐ向かう」一登はそう答えると、すぐに電話を切った。彼の家はここから歩いても10分とかからない。案の定、5分もしないうちに玄関をノックする音が聞こえた。私は急いでドアを開け、一登の姿を見ると驚いたふりをした。「えっ?お兄さん?私、高村一翔に電話したつもりだったんですが」彼は何も言わず、倒れている義父を抱き上げると階段を駆け下りた。「ついて来い!」とだけ言い残した。病院に到着する頃には、義父の血が彼の服をすっかり染めていた。救急室の前で看護師が急いで出てきた。「患者さんの直系親族はどなたですか?手術の同意書に署名が必要です!」私は手を挙げて、「私が嫁です。私が署名します!」と答えたが、看護師は首を振った。「直系親族の署名が必要です」彼女は一登に目を向けた。「僕は甥です」一登が答えると、看護師は眉をひそめて続けた。「他の家族の方は?」一登は毅然とした口調で言った。「手術を優先してください。直系親族にはこちらから連絡します」看護師は病状説明書を持って再び救急室に戻った。私は一登の前でスマホを取り出し、夫に電話をかけた。1回目、切られた。2回目も同じだった。3回目でようやく繋がった。私はスピーカーをオンにし、その場の全員に聞こえるようにした。「お前、いい加減にしろ!何度もしつこいぞ!」夫の怒鳴り声が廊下に響き渡った。「あなた、大変なの!お父さんが倒れて頭から血を流してるのよ!直系親族の署名が必要だから、今すぐ和平病院に来て!」電話の向こうから冷たい声が返ってきた。前世と全く同じだ。「あいつが倒れたな
最終更新日 : 2024-12-12 続きを読む