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第6話

著者: 如月シン
last update 最終更新日: 2024-12-12 10:56:42
警察署で罰金を支払い、賠償について話し合い、署名さえすれば一連の手続きが終わるはずだった。

正直、行きたくはなかった。しかし、ここで離婚を切り出すのが絶好のタイミングだと思い直した。彼と二人きりで話すのは、恐ろしくて耐えられそうになかったからだ。

警察署に到着すると、一翔は鉄製の椅子に座っていた。私が姿を見せると、彼は気まずそうに視線を逸らした。

罰金を支払い、相手には60万円を賠償した。

一翔は椅子に置いていた上着を荒々しくつかみ取り、険しい顔で私を睨みつけながら吐き捨てるように言った。

「兄貴が来れなかったから、仕方なくお前に電話してやっただけだ」

その冷たい言葉を無視し、私は深く息を吸い込み、覚悟を決めた。

「一翔、私たち、離婚しましょう」

ちょうど出口に向かっていた彼は、驚いた表情で足を止め、こちらを振り返った。

「本気か?」

「ええ、本気よ」

彼は鼻で笑い、蔑むような目つきで私を見た。

「結婚したいってあんなに必死だったのに、今さら何の茶番をするつもりだ?」

一歩一歩ゆっくりと近づいてくる彼を目の前に、私の身体は本能的な恐怖に襲われた。

覚悟を決めたはずの私の体は自然と震え、後ずさりしてしまう。

「俺は同意しない!なぜなら……」

彼は私の耳元に顔を近づけ、冷ややかな声で囁いた。

「まだ梨奈の復讐が終わっていないからだ。お前があの日、俺を無理やり帰らせなければ、梨奈は死ななかったし、俺もこんな惨めな状況にならなかったんだ!」

周囲から見れば、まるで彼が私を抱きしめているように見えたかもしれない。

彼はその言葉を言い終えると、満足げな笑みを浮かべながら私の襟を直し、大きな声で続けた。

「だって、俺はお前を愛しているからな、綾音ちゃん」

その言葉は、周りに聞こえるようにわざと大きな声で放たれた。

「私を愛しているですって?笑わせないで」私は冷たい笑みを浮かべて返した。

「愛しているなら、父親が危篤のときに他の女と一緒にいるの?父親の葬式で妻を殴り、死ねと言うの?葬式の最中に家を出てその女に会いに行くの?」

そう言いながら、私はスマートフォンを取り出し、録音していた電話の内容を再生した。

周囲の人々から非難のざわめきが起こり、一斉に一翔を注視した。

彼の目は冷たく、私を刺すような視線を向けてきた。

もう逃げるわ
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    「跪け!伯父さんを探しているんだろ?ここにあるのが伯父さんだ!お前はどれだけ無知で愚かなんだ?俺たちがそろってお前を騙すとでも思っているのか!恥を知れ!」一登は明らかに興奮しすぎていた。義姉はそれに気づき、そっと彼の腕に触れて落ち着かせようとした。しかし、一登の怒りがあまりにも強かったせいか、義姉は一瞬動きを止め、ぎこちなく手を引っ込めた。一翔は祭壇に置かれた義父の遺骨と、私が手にしている義父の遺影を見つめると、その場に崩れ落ちた。両手で頭を抱え、大声で泣き叫んだ。しかし突然、彼は顔を上げ、私を鋭く睨みつけた。まるで獣のような低いうなり声を上げながら、私に飛びかかってきた。「全部お前のせいだ!あんな高齢の父さんをちゃんと世話しなかったお前が悪い!生きている間に孝行できなかったなら、死んででも償え!死ね!死ね!死ね!」何も防備をしていなかった私は、彼の手で首を絞められた。どれだけ力を振り絞っても、彼の手を引き剥がすことはできなかった。息ができなくなり、死を覚悟したその瞬間、彼の手が突然離れた。私はその場に倒れ込んで、必死に空気を吸い込んだ。彼を引き離してくれたのは、一登ともう一人の男性だった。私は震えながら涙を拭き、一登が一翔の顔に拳を叩き込むのを見ていた。「しっかりしろ!」それでも一翔は完全に逆上していて、立ち上がると一登と取っ組み合いを始めようとした。だが、その時、彼の携帯電話が鳴った。着信音は早坂梨奈の録音された声だった。彼女専用の着信音だ。一翔はどれだけ怒りに燃えていても、梨奈の電話には冷静に出ることができるようだった。「もしもし、分かった。今すぐ行く。大丈夫だから、待ってて!」電話を切ると、一翔はそのまま外に向かおうとした。「どこに行くつもりだ?伯父さんの息子として、最後の別れもせずに行く気か?」一登が驚きながら問いかけると、一翔は振り返りもせずに答えた。「お前たちがいるなら俺がいなくてもいいだろ。梨奈が俺を必要としてるんだ。行かないわけにはいかない!」そう言って、また歩き出した。「お前は正気じゃない!どこにも行かせるものか!帰ってきて何もしなかった挙句、今度はどこへ行くつもりだ!もしここを出て行くなら、高村家からお前は追放だ!女のために家族全員と縁を切るつもりか!

  • 脳梗塞の義父、救命の6分を捨てた私   第2話

    一登は頭をかきむしり、「くそっ!」と叫んだ。その後、震える指で一翔に電話をかけ始めた。私はとっさに顔を上げ、感謝の表情を浮かべながら彼を見つめた。電話はすぐに繋がったが、一登は開口一番、怒声で言い放った。「一翔!お前がどこで何をしていようと関係ない!今すぐ和平病院に来い!」向こうからざわざわと人混みの音が聞こえた。「兄貴?山川綾音がまたお前まで巻き込んで芝居を打ってるのかよ!山川綾音のあの女、くだらない騒ぎを起こすのはいつものことだが、兄貴まで一緒に騙されるなんてな!俺は今、梨奈のところにいるんだ。本当に忙しいから相手にしてる暇なんてない!」一翔は言いたいことを一方的に言い終えると、こちらの反応を待たずに電話を切った。一登はしばらく呆然と電話を見つめていたが、すぐに再度、一翔に電話をかけ直した。しかし、応答があるどころか、ついには着信拒否されてしまった。一登は電話を見つめたまま拳を握りしめ、「なんて奴だ!」と怒りを抑えきれず声を荒げた。私はその場に座り込んで涙を流しながら静かに顔を覆った――実際には笑みがこぼれそうになるのを必死に隠していたのだが。看護師がため息をつきながら、自分の携帯電話を私に差し出した。「これを使ってください。命に関わることですから」私は感感謝の気持ちを込めてその電話を受け取り、再び一翔にかけた。電話が繋がると、彼は出るなり激昂した声を上げた。「お前、いい加減にしろ!そんなに死にたいなら勝手に死ねよ!お前の声を聞くだけで本当にムカつくんだ!離婚だ、帰ったら絶対に離婚する!」そう言い終えると電話をガチャリと切った。その言葉に廊下にいた人々が一斉に憤りを露わにし始めた。「自分の親父が危篤だっていうのに、愛人といちゃついてるなんて何事だ!」「最低な男だな。こんな奴が息子だなんて、情けない!」その言葉を耳にした瞬間、私はとうとう涙があふれ、声を詰まらせながら顔を覆い、泣き崩れた。近くにいた女性が私にそっとティッシュを差し出しながら、小さなカードも一緒に渡してきた。それは離婚弁護士の藤堂美紗の名刺だった。私は涙を拭きながら何も言わずその名刺をポケットにしまい込んだ。どれほど待ったのか分からない。ついに手術室のランプが消え、医師が疲れた表情で現れた。マスクを外して、一

  • 脳梗塞の義父、救命の6分を捨てた私   第1話

    目を開けると、義父が床に倒れているのが見えた。私は幼い頃から重度の血液恐怖症だったので、反射的に夫に電話をかけようとした。スマホを解錠する瞬間、前世で夫に包丁で切りつけられた光景が脳裏をよぎった。その痛みは今も鮮明で、体に染みついているかのようだった。私は一瞬手を止め、夫に電話するのを思いとどまった。そして代わりに夫のいとこ、高村一登に電話をかけた。電話はすぐに繋がった。「あなた、大変です!お父さんが倒れて、頭から血を流しているんです!私、血が苦手で……どうしたらいいか分かりません!」慌てた様子で夫と間違えたふりをしながら、泣きそうな声を出した。「落ち着いて、今すぐ向かう」一登はそう答えると、すぐに電話を切った。彼の家はここから歩いても10分とかからない。案の定、5分もしないうちに玄関をノックする音が聞こえた。私は急いでドアを開け、一登の姿を見ると驚いたふりをした。「えっ?お兄さん?私、高村一翔に電話したつもりだったんですが」彼は何も言わず、倒れている義父を抱き上げると階段を駆け下りた。「ついて来い!」とだけ言い残した。病院に到着する頃には、義父の血が彼の服をすっかり染めていた。救急室の前で看護師が急いで出てきた。「患者さんの直系親族はどなたですか?手術の同意書に署名が必要です!」私は手を挙げて、「私が嫁です。私が署名します!」と答えたが、看護師は首を振った。「直系親族の署名が必要です」彼女は一登に目を向けた。「僕は甥です」一登が答えると、看護師は眉をひそめて続けた。「他の家族の方は?」一登は毅然とした口調で言った。「手術を優先してください。直系親族にはこちらから連絡します」看護師は病状説明書を持って再び救急室に戻った。私は一登の前でスマホを取り出し、夫に電話をかけた。1回目、切られた。2回目も同じだった。3回目でようやく繋がった。私はスピーカーをオンにし、その場の全員に聞こえるようにした。「お前、いい加減にしろ!何度もしつこいぞ!」夫の怒鳴り声が廊下に響き渡った。「あなた、大変なの!お父さんが倒れて頭から血を流してるのよ!直系親族の署名が必要だから、今すぐ和平病院に来て!」電話の向こうから冷たい声が返ってきた。前世と全く同じだ。「あいつが倒れたな

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