私は疑念を抱いたまま、彼を見つめた。彼は静かに口を開いた。「もし弁護士が必要なら、私が手を貸そう」私は彼に問いかけた。「どうして、私を助けようとするの?」彼の存在からは、どこか無目的な包容力を感じた。まるで、柔らかな雲のように。その立ち振る舞いや言葉の一つ一つが、私の心に安心感を与えた。しかし、次に彼が口にした言葉が、私の心を大きく揺らした。「君は……一目惚れを信じるか?」私は一瞬、息を飲んだ。驚きと困惑の間で、少しだけ間を置いて答えた。「信じないわ。――あなたが私を生かしてくれたら、信じるかも」その答えに、瞬希は軽く笑った。その笑みは驚くほど優しく、柔らかく、彼の瞳には深く成熟した光が宿っていた。彼は私の言葉に直接答えず、こう問いかけてきた。「この結果君は悔しくないのか?」私は言葉を失った。それは、ここ数日ずっと考えていた問いでもあった。私は悔しかった。それは、ようやく掴みかけた希望を無惨に砕かれたからではない。自分の力を証明する前に、「時間がない」と突きつけられたからでもない。「ただ……あの頃、未来に胸を張って誓った自分に、今の私は釣り合わないと思うの」瞬希は黙ったまま、目だけが静かに揺れていた。彼はゆっくりと手を伸ばし、私の頭に触れた。私たちの距離は近く、彼の香りがふわりと鼻をかすめた――松の木のような、穏やかな香り。私は無意識に布団をぎゅっと握りしめた。心の中に湧き上がる温かなときめきを、隠そうとするように。彼が気づいたかどうかは分からない。何も言わず、彼は病室の扉に向かい、少しの間そこで立ち止まった。横目で誰かを見つめるような素振りをした後、そのまま去っていった。彼が見ていたのが、誰か。私には分かっていた。扉の向こうから、誰かが静かにすすり泣く声が聞こえたのだ。その日、颯太は午後ずっと病室に入ってこなかった。
最終更新日 : 2024-12-13 続きを読む