団地の向かいに新しく洋食レストランがオープンした。値段は高いが、評判は上々だ。私と拓真は結婚5周年記念のディナーをここで予約した。彼を待ちながら、私は検査報告書をもう一度確認した。妊娠初期9週目、赤ちゃんはとても元気だった。生理が2か月遅れていることは、拓真にはまだ話していなかった。今日、彼にサプライズするつもりだった。子供が大好きな彼がこの報告を見た時の顔を思い浮かべると、思わず笑みがこぼれた。私と拓真は、いわゆる制服からウェディングドレスまで歩んできたカップルだった。彼の優しさは、親友ですら「こんなに素敵な男性が本当にいるの?」と驚くほどだった。報告書を背中に隠しながら、時間を数えつつ入口のほうを見つめていた。拓真は「今日は6時に仕事が終わって、7時にレストランに着く」と言っていた。案の定、6時59分、彼の背の高い姿が入口に現れた。「待たせたかな?」彼はいつものように顔を少しかがめて私の頬にキスをし、それから椅子を引いて腰を下ろした。私は自分に隠し事があったせいで、彼の不可解な雰囲気には気づかなかった。ウェイターが料理を運んでくる合間、私は隠していた報告書をそっと握りしめ、どう切り出すべきか頭の中で考えた。「あなた、私……」「都希、俺……」私たちは同時に話し出し、息を合わせたかのようにまた黙った。「あなたから話してよ」私は顎を手で支えながら、期待を込めて彼を見つめ、内心の高揚感を必死に隠した。だからこそ、彼の言葉をはっきり聞いた瞬間、その場でしばらく動けなくなった。「あなた……何を言ってるの?」しばらくして、ようやく我に返り、目の前でまるで別人のように変わった拓真を驚いて見つめた。彼はいつもの口元の笑みを消し去り、全身から冷たさが漂っていた。優しい目元や表情が初めて冷たく鋭く変わった。「俺たち、離婚しよう」「俺の任務は終わった、自分の人生を生きる時が来た」彼がその言葉を口にした時、本当に知らない人のようだった。私は心臓が止まったかのように感じ、喉がむず痒くなったが、言葉が出てこなかった。洋食レストランはとても静かで、隅ではヴァイオリニストがジュール・マスネの「瞑想曲」を演奏していた。美しい旋律が心に染み入るはずなのに、この瞬間の私にはただの騒音にし
Last Updated : 2024-12-12 Read more