年末、滋賀での素材撮影に回されることになった。観光地のあたりには、いくつかの村に不気味な噂があるらしい。緑の客車に揺られながら座っていると、隣にいる男が妙に気になった。そいつは全身を布でぐるぐる巻きにしていて、顔以外は何一つ見えなかった。一言も発さないまま、まるで死体が包帯を巻かれて転がっているみたいにそこに座ってた。隣に座っていた若い人とダラダラ話していた。突然、窓際に座っていた、顔中しわだらけで干からびたベーコンみたいな婆さんが口を開いた。「ムカデ村に行きな、きっと気に入るわよ」聞き返そうとした瞬間、男がガバッと顔を上げた。婆さんが男をジロッと睨みつけた。「ムカデ村?」と追いかけるように聞いた。婆さんは話を続けた。「ああ、ムカデ村さ」「そこに何があるってんだ?」と首を傾げた。婆さんのどんよりした目がじっと私を見据えた。「人体ムカデって聞いたことあるか?」その時、列車が暗いトンネルに滑り込んだ。冷たい風が背中を撫でて、全身に鳥肌が立った。震える声で聞いた。「それって何だ?」婆さんの声はひどく枯れていて、壊れたふいごみたいに耳に突き刺さった。「まず、肉ムカデを1万匹準備するんだ」「肉ムカデは、石の隙間で見かける普通のムカデとは違う」「生き物の生肉を食わせて育てるんだ。もっとでかく、太くなって、子供の腕くらいの太さになる」真っ赤なムカデ、太ってぐにゃぐにゃと曲がる体、無数の細い足が頭に浮かんだ。全身に冷や汗が噴き出して、胸の奥から吐き気が込み上げてきた。それでも聞かずにはいられなかった。「それで?」婆さんは一度窓の外を見てから、また私に視線を戻した。「あんた、今年いくつだ?」「24」少し間を置いて、しゃがれた声で低く呟いた。「ちょうどいい」婆さんは話を続けた。「25歳以下の処女を、その1万匹の肉ムカデと一緒に閉じ込めるんだ」「石を積み上げて作った家だ、光が一切入らないじめじめした場所がいい。肉ムカデはそういうところが大好きなんだよ」「裸にして、30日間閉じ込める。飲み物も食い物も無しだ。お嬢ちゃん、どうなると思う?」話を聞いてゾッとした。頭の中には、肉ムカデが女の体中を這い回る光景が浮かぶ。悲鳴、吐き気、逃げ場なし。震えながら声を絞り出し
Last Updated : 2024-12-06 Read more