数日前、友人から彼女がイギリスから戻ったことを知らされたばかりだった。 扉越しに想像してしまう。二人が寄り添い、交わる視線や呼吸。 なのに私はその場で立ち尽くしていた。 つい最近、彼は私を家に連れて帰り、「盛大な結婚式を改めてしよう」と約束してくれたばかりだった。彼は「これからは君を大事にする」と言ってくれたのに。 月島麗華(つきしま れいか)が去ったこの6年間、私は彼と彼の娘を支え、影のように寄り添ってきた。 6年かけて、やっと私に約束をくれたのだ。 でも――今、その6年間はただの冗談に思える。 私は結局、代わりでしかなかったのだ。 代わりに過ぎない私。本物が帰ってきたなら、きっと身を引くべきなんだろう。 そんなことを考えながら、真白(ましろ)の小さな手を握りしめていた。 彼女はまだ小さく、こんな光景を見せるわけにはいかない。 私は真白を連れてここを離れ、家に帰りたかった。 だけど、彼女は私の手をぎゅっと握り、柔らかい声で尋ねた。 「ママ、なんでずっとドアの前に立ってるの?入らないの?」 その声はオフィスの中にも届いたようだった。 中から慌てた様子がわずかに伝わってくる。 私は小さな声で答えた。 「ママ、今日はちょっと用事があるから、先に帰ろうか?」 「でも、パパに挨拶しなくていいの?私、パパに会いたい!」 仕方なくため息をつき、明るく見えるよう努めながら言った。 「じゃあ、真白だけ先にパパに挨拶してきなさい」 ドアを押し開けると、彼らは既に何事もなかったかのように装っていた。 麗華はソファに座り、ちらりと私を見ただけで微動だにしない。まるで羞恥心などないかのようだった。 赤い口紅が際立つその顔立ちは攻撃的で、全身から放たれる魅惑のオーラ。 彼女を何度か見たことがあるけれど、やっぱり思った。 ――これなら誠一郎が惹かれるのも無理はない。こんな女性に平常心でいられる人なんているのだろうか。 「真白、幼稚園はどうだった?」 御影誠一郎(みかげ せいいちろう)は手にしていた書類を下ろし、冷たい口調で真白に声をかけた。 まるで先ほどの出来事が存在しなかったかのように。 彼は本当に私が何も知らないと思っているのだろうか? 私は心の中で皮肉めいた笑みを浮かべ
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