All Chapters of 私は社長と恋をした: Chapter 1 - Chapter 8

私は北島冬馬と別れた。それも、私たちの5周年記念日のことだった。会社を出たとき、まぶたが絶えずピクピクしていた。会社が大手に買収され、みんな必死で残業していた。新しい社長にいい印象を与えるため、上層部は休暇を拒否した。そのせいでイライラしていたのと同時に、なんだか落ち着かない気持ちもあった。さらに不思議だったのは、冬馬が一日中何の連絡もしてこなかったことだ。スマホの通知欄にグループチャットのメンションが次々と表示され、私はついタップして開いてしまった。「冬馬、今日は何か大きなことをするつもりかな？私たちにさえ内緒にして」「きっとプロポーズだよ！私たちは親友だから、招待されるはず！」そうして私に「どこでやるか知らない？」とメンションが飛んできた。私は唇を引き締め、何も答えなかった。その質問に私も答えられなかったからだ。冬馬と付き合ってから、毎年記念日にはサプライズを用意してくれていた。親友たちも毎回のように参加し、時には準備まで手伝っていた。でも、今年は......胸の奥で何とも言えない違和感を感じつつ、何かが暗示されているような気がした。私は冬馬とのチャットを開いた。最後のメッセージは昨晩の「おやすみ」のまま止まっていた。彼は今年の5周年記念日をどう過ごすのか、私に事前に何も伝えていなかった。でも、それにも慣れていた。冬馬はいつも全てを完璧に準備してくれるので、私が口を挟む必要はなかったからだ。しかし、私が今朝送った「おはよう」も、昼休みに撮った社員食堂の写真も、彼からの返信はなかった。胸の中に小さな不安が広がっていく。「仕事が終わったよ」「今何してる？」疲れた体を引きずるように家に帰ったときも、冬馬からのメッセージはなかった。慣れ親しんだ番号に指を止め、2秒間迷った。なぜか緊張していた。付き合っている間、私たちは誰もが羨むような仲の良さを見せていた。でも、その関係はずっと彼が主導権を握っていた。そして私は、いつも受け身の立場だった気がした。間もなく、電話から冷たい音声が流れてきた。「申し訳ございません。お掛けになった番号は現在使われておりません......」不安がさらに膨らむ中、ようやく電話がかかってきた。冬馬の友人からだった。「ソー

しかし、私が予想もしていなかったのは、冬馬が私に連絡がつかないと知るや、なんと私の家まで押しかけてきたことだ。外からノックの音が聞こえた瞬間、てっきり頼んでいたデリバリーが届いたのだと思った。午前中は空腹を我慢し、昼も満足に食べられなかったせいで、帰り道では待ちきれずに注文を済ませていた。しかし、大喜びでドアを開けたその先に待っていたのは、あの陰気な顔だった。ため息をつきたいのはこちらの方なのに、彼はむしろ冷たい顔でこう問い詰めてきた。「どうして俺の電話に出ないんだ？」私は答えず、彼を押しのけて一歩外へ出た。彼の顔を見ているうちに、玄関の指紋認証に彼のデータがまだ残っていることを思い出したのだ。彼の指紋を削除し終えてから、改めて彼に向き直った。「何か用？」そう尋ねると、冬馬の表情はますます険しくなった。さっきの私の行動が原因だろう。だが、私は彼の機嫌など気にしていないどころか、彼が来たことに少しばかり苛立ちを感じていた。心の中で自分を褒める。「やるじゃないか、私、カッコいい！」「有希から聞いたけど、君が会社を辞めたくないって？」私は思わず目を天に向けた。まさかそのために来たとは。幸い、この男にはもう何の期待もしていない。私が黙っていると、彼は続けた。「有希が君がいると嫌だって言ってるんだ。辞めてくれ」「もし仕事が見つからないなら、俺がもっといい仕事を紹介してやる」なんという言い草だ。まるで私のためを思っているかのような口ぶり。「いいよ」彼の顔が目に見えてほっとした表情に変わる。私は微笑みながら続けた。「月に2千万円くれるなら、今すぐ辞める」彼の顔が一瞬で豹変した。2千万円など、冬馬にとって大金ではない。だが、仕事をしていない彼には自分の出費も多い。元カノに月2千万円払うなんて、嫌に決まっている。案の定、彼はすぐさま言い返してきた。「お前、どうしてそんなに貪欲な女になったんだ？」そんなことに付き合うつもりは毛頭なかった私は、力強くドアを閉めた。その勢いに驚いた彼は後ろに2歩ほど下がったらしい。ドア越しに冷笑すると、彼が不愉快そうにする様子が心地よかった。すると、外から再び彼の声が聞こえた。「小山夏希、お前がどうしてこんな人間になってし

「会社があなたのものだとでも思ってるの？社長にどうこう言える立場だと思ってるの？秘書になったくらいで、まるで社長夫人にでもなったつもり？」午後の勤務が始まってから10分も経たないうちに、会社のグループチャットに新しい規則が投稿された。その中に「社員同士のゴシップを禁止する」という項目が含まれていた。一見すると、このルール自体は特に珍しいものではなかった。ただ、その規則の最後には社員名簿が添えられており、リストに載った人は罰金として2000円支払うことと明記されていた。そして、私を侮辱した人たちの名前もそのリストに含まれていたのだ。このリストを見たとき、心の中で何となく予感はしていたものの、確証を得ることはできなかった。とはいえ、社員たちも馬鹿ではない。その背景にある事情に気づかないわけがない。その結果、午後の時間は誰もが興味津々でも、ゴシップ話をする勇気はなかった。さらに驚いたことに、有希が嵐太に呼び出され、社長室に入っていった。私は外で興味津々だったが、さすがに盗み聞きする度胸はなかった。それでも間もなく、有希が出てきた。彼女は通りすがりに私を睨みつけていったが、私は鼻先を軽く触り、訳が分からないという表情をしただけだった。私が知らなかったのは、有希が社長室を出た後、すぐに休暇を取ったことだった。午後の勤務が終わる頃になって、ようやくその日の最初の仕事が与えられた。それは、パーティーに嵐太と一緒に出席するというものだった。上司の命令であれば、社員として従うのが当然だ。私は特に詳しく事情を尋ねることもせず、帰宅して準備を整えることにした。会社を出るのが少し遅くなり、玄関にはほとんど人がいなかった。そのとき、見覚えのある人影を見つけた。一瞬だけ視線を向けた後、すぐに目をそらした。しかし、その人は私のほうへ歩み寄り、目の前に立ちふさがった。眉をひそめ、不機嫌そうな顔をした私が何か言い出す前に、彼が先に口を開いた。「夏希、お前がこんなに計算高い人だとは思わなかった」「もし俺のことを恨んでいるなら、俺に向かってくればいいだろう？有希も女の子なんだぞ。これ以上彼女を傷つけるなよ。」その一言で、すべてを察した。有希が自分のやったことを棚に上げ、被害者ぶって冬馬に泣きつき、私を

「他人の使ったものは好きじゃない」私は目を伏せ、数秒間考えた後、その言葉の意味を理解した。おそらく、ようやく口を開いたのに、少しも諦めたくないという気持ちがあったからだ。酔って寂しいだけなのかもしれない。「私は処女です」と私は言った。嘘は言っていない。冬馬とは長年一緒にいたが、私たちは実際にはそれほど親密なことはなかった。最初は、この素晴らしい瞬間を結婚式の夜にとっておきたかったのだ。そして冬馬もそのことについて言及することはなかった。私は彼が私を尊重しているのだと思っていた。しかし、あの晩、彼が他の女性に情熱的にキスするのを見て、私は彼が私とそういうことをしたくないのだと気づいた。心の中にわずかな悲しみが湧き、私は嵐太の膝の上に座り、彼に近づいた。その後のことはあまり覚えていない。朝目が覚めた時、体中が痛いことを感じた。昨晩の行動を思い出すと、少し後悔が込み上げてきたが、逆に嵐太のような男性と一緒に寝たことに対して得をしたような気もした。「目が覚めた？」声が聞こえた瞬間、私はピンと背筋を伸ばして起き上がった。動きが大きすぎて、下半身がさらに痛くなった。嵐太がまだここにいたことに驚いた。今、目を覚ました私はただただ気まずさを感じていた。しかし、嵐太は気まずさを感じている様子はなく、むしろ堂々とその話題について話し始めた。「俺と結婚するか、それとも俺の愛人になるか？」彼の言葉から皮肉を感じなかったので、どうやら本気で私に選ばせようとしているようだ。しかし、私はどちらも選ばなかった。大人には、暗黙の了解があるべきだと思ったからだ。「愛人を探すつもりはない」と嵐太は言った。その言葉は私の頭を一瞬混乱させた。これはどういう意味だろう？私は彼を見つめ、試すように言った。「結婚？」「いいよ」と嵐太は答え、微笑んだ。私は「？？？」と驚いた。予想以上に嵐太は行動派だった。午後、私たちは結婚届を出した。あまりにも急だった。たった一日で、私は少女から妻へと変わったのだ。役所を出た後、私は嵐太と共に会社に戻った。最初は少し心配だったが、みんなが特に変な目で見ていないことに安心した。私は嵐太の秘書だし、彼と一緒に行動するのは当然のことだ。しかし、すぐに気づ