夫は女アシスタントと同じテント、なのに私が悪いって？ のすべてのチャプター: チャプター 1 - チャプター 10

瀬戸丘臣が帰宅した時、私はキャンプに持って行く準備をしていた。子供の頃から山登りが好きだったことを、丘臣も知っている。今回のキャンプには、何度も頼み込んでようやく同行を許してもらえたのに、出発直前になって彼が気が変わった。丘臣は嫌悪感をあらわにして言った。「足が悪いくせに、山なんて登ってどうするんだ？いつも俺に恥をかかせるようなことばっかりするなよ」そう言うと、彼は振り向きもせずに去っていった。半年も楽しみにしていたのに、彼の「恥だ」という一言でその期待は泡と消えた。丘臣は床に置かれた荷物を苛立ちのまま足で蹴りながら言った。「お前、一日中家にいるなら少しは部屋を片付けろよ。こんなに散らかってどうするんだ」そして、彼は一つのネックレスが入ったケースを私の前に投げてよこした。「お前にやるよ。英美が選んでくれたんだ、開けてみろ」赤いベルベットのケースは見た目にはとても豪華だが、英美のSNSでそれを見たことがあった。その写真には、彼女が何千万もするネックレスを身につけ、背後で丘臣が微笑みながら会計している姿が映っていた。彼女のキャプションにはこう書かれていた。「社長がネックレスを選ばせてくれて、結局私にくれるって！これってどういう意味？」コメント欄には親切な回答が並んでいた。「何の意味って、本来は君へのプレゼントだよ！」「これって社長の告白じゃない？」私はそのネックレスを覚えていた。英美が持っていったのは高価な本体のネックレスで、私のケースには単なるおまけが入っていた。「ありがとう、でも好きじゃないわ」私はケースを閉じて、それをゴミ箱に投げ入れた。丘臣はそれを見て怒り出した。「英美がせっかく選んでくれたんだぞ、感謝しろよ！」「すぐに拾え、聞こえないのか？」私はその場で動かずにいた。すると、丘臣は近寄ってきて、私を力強く突き飛ばし怒鳴りつけた。「池子、お前、足が悪いくせに耳まで遠くなったのか！」「わざわざ拾うチャンスをやってるんだぞ、なんで素直に従わないんだ？」丘臣の手が力強く、私は立ち直ることができず、よろけて数歩後退した後、腰を机の角にぶつけた。私はうめき声をあげて地面に倒れ込み、痛みで震えた。彼は少し慌てた様子で近づき、私を助け起こしながら謝罪の言葉を

翌日の午後になってようやく、丘臣が家に戻ってきた。彼は私が家にいるのを見て、ほっとした表情で笑いながら言った。「病院に行くのを忘れてたよ。まさかこんなに早く退院してるなんて、たいしたことなかったんだな」私は本当のことは言わなかった。実はかなり重症だったのだ。背骨がずれており、もし病院に運ばれるのが遅れていたら流産していたかもしれない。だが私は何も言わず、ただ淡々と「うん」とだけ答えた。丘臣はネクタイを緩めながら、昨夜のことについて話し始めた。「本当は彼女を家に送ったら病院に行くつもりだったんだけど、英美が情緒不安定だったから、上司として気を配らないとさ」そう言いながら、彼は私の腰を後ろから抱きしめてきた。「怒ってないよな？」彼から漂う女性用の香水の匂いが気持ち悪くなった。私はそっと身をかわして言った。「もちろん怒ってない。彼女も女の子なんだから、あなたが気を配るのは当然だ」丘臣は私の答えに満足し、上機嫌でキスをしようとした。その時、彼のシャツの襟元は大きく開いていた。私は彼の次の動きを阻み、指を彼の首についたキスマークに向けて言った。「これ、何？」丘臣は急に背筋を伸ばし、ぎこちない表情で言い訳をした。「たぶん……虫に刺されたんだよ」この質問をしたのは、私が知らないからではなかった。むしろ、その逆だ。私はすべてを知っていた。それでも平然とした顔で、ただうなずいた。丘臣はいつも悪いことをした後、私に何かしらの埋め合わせをしてくる。今回も例外ではなかった。まずはドレスを一着プレゼントし、次にパーティーに一緒に行こうと誘ってきた。私と丘臣はもともと隠れた夫婦だった。さらに、私が足を悪くしてから、彼は私をどんなイベントにも連れて行かなくなった。そしてその頃から、藤野英美が彼のそばに現れるようになったのだ。英美はスタイルも良く、顔立ちも美しい。しかも名門大学を出た才女だ。以前、私は偶然にも丘臣が友人と話しているのを聞いたことがあった。彼はこう言っていた。「英美みたいな女と一緒だと様になる。池子とは違って、もう年もとってるし、足も悪いしな」私は離婚が成立するまで面倒を起こしたくなかったため、彼に気付かれないようにして、誘いに応じることにした。パーティーの席で

目を覚ますと、私は病院のベッドに横たわっていた。私を助けたのは、私と丘臣との関係を知っている友人の高原星輝だった。彼は私を病院に運んだ後、私たち夫婦双方の両親を呼び出してくれた。瀬戸父は丘臣に何度も電話をかけていたが、全く応答がなかった。「このバカ息子め！池子をこんな目に合わせておきながら、電話に出ないなんて！」「夫婦喧嘩は仕方ないとしても、人を水の中に突き落とすなんて、もしものことがあったらどうするつもりだ……」星輝も我慢できなくなり、冷たく言った。「池子さん、これは未遂の殺人ですよ。警察に通報したほうがいいと思います」警察という言葉を聞くと、ずっと黙っていた私の継母がついに慌て出し、急いで私の手を握りしめて言った。「池子、夫婦の間のちょっとしたいざこざなんて普通のことよ。後で話し合えばいいんだから、大事にしないで」「そうでなければ、あなたと丘臣の結婚は取り返しがつかなくなるわよ！」継母の言葉を聞き、私の心はすっかり冷え切った。私は彼女を実の母のように扱ってきたが、彼女は私をただ利用することしか考えていなかった。彼女にとって、私と丘臣の関係などどうでもよく、ただ私が瀬戸家の嫁として、彼女の息子に利益をもたらすことだけが重要だった。星輝も堪えきれず、首を横に振りながら言った。「おばさん……これは単なるいざこざじゃないですよ。もう少し遅れていたら、彼女は助からなかったかもしれないんです」継母は苛立たしげに星輝を睨みつけて言った。「あなたはまだ結婚もしていないくせに、何がわかるっていうの！」星輝は言い返せず、仕方なく口を閉じた。私は静かに、握られていた手を引き抜き、言った。「お母さん、もう説得しなくていいです。私は丘臣と離婚します」継母は驚愕し、目の前の瀬戸父と顔を見合わせ、どちらも言葉を失っていた。私が丘臣をどれほど愛していたか、誰もが知っていた。まさか私の口から離婚という言葉が出てくるとは思ってもみなかったのだろう。継母はなおも食い下がった。「池子、あなたと丘臣はずっと円満な夫婦だったじゃない？どうして急に離婚だなんて言い出すの？」「あなたが彼と結婚したいと言った時、私は忠告したじゃない。丘臣はまだ子供みたいなところがあるから、あなたが寛容にならなきゃって」「子供

入院している間、丘臣は今までにないほど私に気を遣い、世話を焼いた。だが私はよく分かっていた。彼がどんなに尽くしても、もう何も取り戻せないことを。私が冷淡な反応を示すと、彼は過去の思い出を語り始めた。しかし、彼が何を言おうと、私の返事はいつも無言のままだった。私が言いたいことは、すでに五年間の結婚生活で尽き果てていた。退院の日、弁護士が病室のドアをノックし、準備した離婚協議書を丘臣に渡した。丘臣はそれを受け取った瞬間、顔色が変わり、感情を爆発させて弁護士に怒鳴りつけた。「さっさと出て行け！お前なんか必要ない！」すぐに病室には私たち二人だけが残った。私は彼がサインをしようとしないのを見て、冷静に言った。「丘臣、離婚を言い出したのはあなただよ。病室で私に離婚してあげると言ったのもあなただよ。今、離婚協議書が目の前にあるのに、何を迷っているの？」「知ってるでしょ？私は一度決めたことは変えない人間よ。かつてあなたに尽くすことを決意したのと同じように、今日も迷いなく離婚を決意したの。だから、潔くしてくれないと、本当にあなたを見下すことになるよ」私がそう言うと、丘臣は苦悶の表情を浮かべ、頭を抱えて崩れ落ちそうになり、口の中で何度も呟き続けた。「池子、俺が本当に間違ってたんだ。お願いだから、もう一度チャンスをくれ！」「君も知ってるだろう、俺たちはずっと仲良くやってきたし、俺がミスを犯したのは今回だけだ！」「誓って言うよ、俺と英美の間には何もなかったし、一線は越えていない……」彼が話すにつれて、その言葉は次第に弱々しくなった。きっと自分でもこの言い訳が馬鹿げていると感じているのだろう。彼の言い訳など、私はもちろん信じていなかった。無表情のまま口を開き、淡々と言った。「そう？じゃあ一体どこまでが一線を越えないってことなの？」「私が二人がベッドに入っているのを目撃するまでかしら？」「丘臣、あなたは私に対して少し残酷すぎると思わない？」そう言いながら、自分でも思わず笑ってしまった。「認めなさいよ。実は私が足を悪くした時点で、あなたの私に対する愛情は徐々に薄れていったのよ」「あなたが離婚に応じないのは、ただ自分が無情な男と見られるのが嫌だからであり、黙って尽くしてきた私が突然去ることへの未練が

私を見つけると、丘臣はすぐさま駆け寄ってきて、私の手首を掴み言った。「池子、俺たちのことはまだ話し合いが終わっていないんだ。どうして勝手に行ってしまうんだ？こんな仕打ちはひどすぎる！」「会社は俺たち二人の努力の結晶なんだ。君はそれが倒れるのを見ていられるのか？」丘臣の顔には疲れがにじみ、目には血のような赤い線が浮かんでいた。このところ彼がまともに休んでいないのは明らかだった。私は彼を見つめ、冷笑しながら言った。「やっと、私がいなければダメだって気付いた？でもずっと見下して、私を切り捨てたかったんじゃなかったの？」「どう？君のアシスタントじゃ助けられなかったの？」「それに言っておくけど、私とあなたはもう他人よ。関係ない人を助ける気なんてさらさらない」丘臣は絶望の眼差しで私を見つめた。私は彼の手を振り払って背を向けたが、丘臣はすぐに追いかけ、私を抱きしめてしつこく言った。「池子、俺が本当に間違ってたんだ。ただ一度の過ちだったんだ。許してくれないか？」「もう君を侮ったりしないよ。どんなことがあっても愛し続けるから！」「お願いだ、戻ってきてくれ。俺には君が必要なんだ！」彼の偽善的な愛情に、私はただ吐き気を覚えるだけだった。その時、どこからか英美が現れ、後ろに数人の記者を引き連れてきた。彼女は丘臣を指さして言った。「これが私を弄んだ社長よ。私の初めてを奪っておいて、責任を取るって言ったくせに、今は前妻とイチャイチャしてるんだから！」「市民の皆さん、私に正義を！」丘臣はその光景に驚き、呆然としていた。私はその騒がしい連中を冷静に見つめ、警告を発した。「あなたたちはどこの記者ですか？身分証もつけずに、何を撮影しているんです？」「正式な許可なく私を撮影したら、すぐに訴えますよ。全員処分を待つか職を失う覚悟はできているんでしょうね？」記者たちはその言葉に気まずそうにして、カメラを下ろした。しかし、英美だけはなおも傲慢に叫んだ。「私はみんなにあなたたち夫婦の正体を知らしめたいのよ！他の女の子たちが被害に遭わないようにしてるの。私はただ皆のためを思ってるだけよ、名を残すつもりなんてないよ！」丘臣は彼女の侮辱に対し、ようやく我に返り、激怒して言った。「俺たちにこれ以上付きまとうな。さ