民宿は時折一、二人の客が来る程度で、ほとんどの時間は暇だった。それでもオーナーは給料を惜しまなかった。家賃を差し引いても、手取りで16,000円はあった。一ヶ月目、新しい携帯を買い、電話契約もした。その契約には、オーナーの身分証を使わせてもらった。「怖くないんですか?」と私は尋ねた。「私が悪い人かもしれないのに。殺人犯とか......追っ手から逃げてきたとか」オーナーは暫く私を見下ろし、その目には嘲笑とも違う何かが浮かんでいた。「はっ、その細い腕で人を殺せるとでも?むしろ俺の方が人を殺しそうだろ」一瞬、凶暴な表情を見せたが、私は少しも怖くなかった。私のオーナー、月城星司は、言葉は荒いが心優しい人だった。日々は、水のように静かに流れていった。この日、私が掃除をしていると、月城がやけに大きな音で動画を見ていた。突然、陸橋と深水の名前が聞こえ、背筋が凍り、思わず水バケツを倒してしまった。月城が横目で私を見た。「知り合い?」私がここに来てから、彼は何も聞かなかったし、私も何も話さなかった。私のことを特に気にする様子もなかった。なのに、さも当然のように、私と陸橋たちが知り合いかもしれないと問うてきた。水バケツを片付けながら、軽く首を振った。「冗談じゃないですよ、オーナーさん。私なんかとは縁もゆかりもない人たちですよ」月城は何も言わず、ただ口元に薄い笑みを浮かべただけだった。床を拭きながら、空気は死のような静けさに包まれ、しばらくの間、私たちは誰も口を開かなかった。最近は客が増えて、私は忙しさに足の踏み場もない状態なのに、オーナーは新しい人を雇う気配すらなかった。不満げに問い詰めると、月城は眉を上げて嘲るように言った。「お前の給料を半分にして、新しい人を雇うってのか?」私は怒った。「オーナーさん、なんてケチなんですか?店が回らないじゃないですか。こんなに儲かってるのに、一人くらい雇えるでしょう?」以前は客が少ない時でも、2万円の月給をくれていたのに。今は客が増えたというのに、一人雇うのも渋るなんて。ろくでもないオーナーだ。正午が一番忙しい。チェックアウトもチェックインも多いし、部屋の掃除もある。おまけに月城の植物の世話までしなければならない。なぜこんな長身の男が花
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