輝明は顔を上げて桜井家を見つめ、手にしたスマートフォンを強く握りしめた。しばらく見つめてから車を発進させ、デザイナーからのメッセージにはなかなか返信しなかった。翌朝、綿が階下に降りると、盛晴の声が聞こえてきた。「昨日帰ってきたときに、輝明を見かけたのよ」綿は朝食を取りながら、穏やかな目で彼女に尋ねた。「どこで?」「家の前よ」盛晴はちょうど仕事が終わって帰宅した時、輝明が立ち去るところを見た。彼はなぜここに来たのかと不思議に思い、監視カメラを確認したところ、彼の車は家の前に約30分間停まっていたことが分かった。綿はただ「そう」とだけ言い、何も話さなかった。「外では彼が陸川家のお嬢様と婚約するって噂があるわよ」盛晴はコーヒーを一杯飲みながら、綿を見上げた。綿は気にする素振りもなく、サンドイッチをかじりながらスマホを見つめ、「祝福するわ」とだけ言った。彼が嬌と婚約するかどうかは重要ではなかった。重要なのは、雅彦がさっきメッセージを送ってきて、柏花草が国内にいることを知らせてきたことだ。綿は早く柏花草のオーナーに会う約束をしなければならなかった。盛晴は綿が輝明の話に本当に興味がないことを悟り、心の中でほっとした。「綿、クルーズパーティーのドレスもそろそろ準備しないとね」盛晴はふと思い出して、「どんな色のドレスにするのか教えて。ママが宝石やアクセサリーをコーディネートしてあげるわ」「適当に」綿はスマホに集中していた。盛晴は不機嫌そうに言った。「こんな場で『適当』はダメよ。知らない女性たちが集まるのは、みんな張り合うためなんだから」「じゃあ……黒」綿は適当に色を挙げた。盛晴はため息をついた。「最近の人たちはね、黒とか白とかばっかりで、まるで色を全部捨ててしまったかのようね。もっとカラフルなものを着たらどう?」「綿、あなたのイブニングドレスは私が選ぶから、自分で探す必要はないわよ」盛晴はデザイナーとして、見過ごせなかったのだ。綿は顔を上げ、にっこりと笑った。「ママがそう言ってくれるなら、それでいいよ」彼女はただ準備されたものを待っていたのだ。「じゃあ、今日の夜仕事が終わったらDSKの店に行って。デザイナーがサイズを測ってくれるから」盛晴はうなずき、「それじゃあ、行ってくるわね」綿は素直にうなず
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