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杭西(こうせい)へ行く前に腹ごしらえを

Author: 液体猫
last update Last Updated: 2025-04-25 20:36:00

 |華 閻李《ホゥア イェンリー》が行く先を決めた直後、昼休憩として緑にまみれた村を|訪《おとず》れていた。

 村の人口はおよそ数十人で、非常に小さな村である。

 建物は|蔦《つた》や|苔《こけ》で|覆《おお》われており、幻想的な雰囲気があった。この村は枸杞(クコ)という名で、|杭西《こうせい》へ向かう途中の休憩所としても使われることが多い。

 村を囲むのは緑|溢《あふ》れた山々で、隅には|運河《うんが》が流れていた。それは|京杭《けいこう》大運河であり、どこまでも続いている。

 そんなのどかな村の入り口からすぐ近く。小さな飲食店があった。看板はボロボロになっていて名前は読めないが、年期の入った家屋である。

 三人はそこへ足を伸ばし、昼食を交えながらこれからについての話し合いを始めた。

「──え? 先生、一緒に行かないんですか?」

 二段構えの丸い机を囲み、彼らは各々が食べたいものを注文していく。

 窓際に|華 閻李《ホゥア イェンリー》が座り、壁側に|全 思風《チュアン スーファン》。そして扉側には|爛 春犂《ばく しゅんれい》が腰を落ち着かせていた。

「うむ。私は先代皇帝、|魏 曹丕《ウェイ ソウヒ》様の|命《めい》で動いている。目的は知っての通り、各地で起きている|殭屍《キョンシー》事件の|全貌《ぜんぼう》だ」

 机の上にある|烏龍《ウーロン》茶を飲む。ゆっくりと口に入れていき、コトリと音をたてて|茶杯《ちゃはい》が置かれた。

「私は一旦、王都へと戻る。現王である|魏 宇沢《ウェイ ズーヅァ》様の真意を探るためにな」

「……わかりました。じゃあ僕たちは、|杭西《こうせい》へ行きます。そこであの兵のお母さんに、真実を伝えようと思います」 

「そうしなさい。それがいいのか悪いのかではなく

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     枌洋(へきよう)の村、そして蘇錫市(そしゃくし)。そのどちらにも疑問が残るかたちとなった。 ただひとつ。わかっているのは、どちらも白き服の者たちが関わっていたことだった。 ──|小猫《シャオマオ》のいう事は|尤《もっと》もだ。だけど何もわからない以上、考えてもしかたないんだろうね。 よしと、気を取り直して棒を動かした。「それらについては、情報を集める必要があるんだろうね。最終目的地は王都だ。そこに行くまでに、何かしらを得られるかもしれない」 少しばかり跳ねた水を浴びながら、|垂直《すいちょく》に舟を進ませる。 「とりあえずはさ、|杭西《こうせい》へ行こう。そこで情報を得られればいいんだけど……」 「そう、だね。あ、見て! 花売りだよ」  たくさんの舟が行き交うなかで、たくさんの花がふたりの元へとやってきた。舟の上に乗っている花たちは|彩《いろとりど》りで、|牡丹《ぼたん》や|薔薇《バラ》などが積まれている。 舟員は|華 閻李《ホゥア イェンリー》の弾んだ声が耳に入ったようだ。微笑みながら近づいてくる。「おやおや、とっても可愛い子だね。どうだい? お花、買っていくかい?」 花売りは|老婆《ろうば》だった。子供の無邪気な笑顔に気をよくし、いくぶんか割引をしてくれるよう。   |全 思風《チュアン スーファン》が子供にどの花を買うのかと問えば、|華 閻李《ホゥア イェンリー》は両目をキラキラとさせた。まるで宝石箱でも開けるかのような、期待に満ちた眼差しである。 しばらくすると花売りの老婆が乗った舟は、ふたりから離れていった。 代わりに、彼らの舟は花でいっぱいになっている。 花びら

  • 鳥籠の帝王   運河を超えて

     枸杞(クコ)の村で昼食をすませた後、|爛 春犂《ばく しゅんれい》と一旦別れた。男を見守りながらふたりは|杭西《こうせい》へと向かうため、村の隅にある|京杭《けいこう》大運河へと|訪《おとず》れる。  |京杭《けいこう》大運河の向こう|岸《ぎし》は山になっており、降りれる場所はなかった。 |運河《うんが》自体は深く、大人でも足をつけることが困難なほどである。|汚染《おせん》されていない河は水面が|透明《とうめい》で、泳ぐ魚や底が見えていた。 そんな河には運搬船のみならず、観光客を乗せた船も行き交っている。「ねえ|思《スー》、ここから船で行くの?」 小型で美しい髪を持つ、端麗な少年──|華 閻李《ホゥア イェンリー》──は頭の上に|躑躅《ツツジ》を。両腕で|白虎《びゃっこ》を抱きしめていた。 小首をかしげる様は、その見目も相まって非常に愛らしい。二匹の動物も合わさると、さらに|儚《はかな》く見えて、|全 思風《チュアン スーファン》の中にある|庇護欲《ひごよく》をそそった。「うん、そうなるかな」 抱きしめてしまいたい気持ちをこらえ、肩にかかる三つ編みを|払《はら》う。 木で作られた足場に向かい、小舟を棒で引きよせた。片足を足場に。もう片方を船の上に乗せ、動くのを防ぐ。「あそこに山があるだろ? あの山は、かなり道が細くなっててね。馬車では通れないんだ」  山道は険しいため、馬では進むことが難しい。凸凹道もあり、旅に慣れていない者には|厳《きび》しい道ゆきにしかならなかった。「それに、ほら」 空を指差す。そこには海のように|蒼《あお》い空があった。しかし目を|凝《こ》らしてみれば、何かの集団のようなものが飛んでいる。  |華 閻李《ホゥア イェンリー

  • 鳥籠の帝王   杭西(こうせい)へ行く前に腹ごしらえを

     |華 閻李《ホゥア イェンリー》が行く先を決めた直後、昼休憩として緑にまみれた村を|訪《おとず》れていた。 村の人口はおよそ数十人で、非常に小さな村である。 建物は|蔦《つた》や|苔《こけ》で|覆《おお》われており、幻想的な雰囲気があった。この村は枸杞(クコ)という名で、|杭西《こうせい》へ向かう途中の休憩所としても使われることが多い。 村を囲むのは緑|溢《あふ》れた山々で、隅には|運河《うんが》が流れていた。それは|京杭《けいこう》大運河であり、どこまでも続いている。 そんなのどかな村の入り口からすぐ近く。小さな飲食店があった。看板はボロボロになっていて名前は読めないが、年期の入った家屋である。 三人はそこへ足を伸ばし、昼食を交えながらこれからについての話し合いを始めた。「──え? 先生、一緒に行かないんですか?」 二段構えの丸い机を囲み、彼らは各々が食べたいものを注文していく。 窓際に|華 閻李《ホゥア イェンリー》が座り、壁側に|全 思風《チュアン スーファン》。そして扉側には|爛 春犂《ばく しゅんれい》が腰を落ち着かせていた。「うむ。私は先代皇帝、|魏 曹丕《ウェイ ソウヒ》様の|命《めい》で動いている。目的は知っての通り、各地で起きている|殭屍《キョンシー》事件の|全貌《ぜんぼう》だ」 机の上にある|烏龍《ウーロン》茶を飲む。ゆっくりと口に入れていき、コトリと音をたてて|茶杯《ちゃはい》が置かれた。 「私は一旦、王都へと戻る。現王である|魏 宇沢《ウェイ ズーヅァ》様の真意を探るためにな」「……わかりました。じゃあ僕たちは、|杭西《こうせい》へ行きます。そこであの兵のお母さんに、真実を伝えようと思います」 「そうしなさい。それがいいのか悪いのかではなく

  • 鳥籠の帝王   情報を求めて

     太陽が真上に差し掛かった頃、|華 閻李《ホゥア イェンリー》は眠りから覚めていた。 うーんと上半身だけを伸ばし、少し体をひねる。「はあ、よく寝た。って、もうお昼……なのかな?」 お腹の虫がぐるぐる鳴った。お世辞にも肉づきがいいとは言えない薄いお腹を|撫《な》でる。 ふと、自身にかけられた布に気づいた。これは誰のだろうかと小首をかしげ、大きな瞳をまん丸にさせる。 そんな子供の細く長い銀の髪は太陽の光を浴び、とても美しい。髪を耳にかける仕草には|儚《はかな》さがあり、|陽《ひ》の光が彼の|見目麗《みめうるわ》しさを引きたてていた。「この服は|思《スー》……じゃ、ないよね?」 見覚えのある服だった。 上は白で下にいくにつれて黄色くなっていく、特徴ある服である。これは|黄族《きぞく》のものだった。「あれ? もしかしてこれ、先生の?」 先生がかけてくれたのだろうか。 周囲を見渡す。しかしそこには|爛 春犂《ばく しゅんれい》はおろか、優しい青年の|全 思風《チュアン スーファン》すら見かけなかった。 唯一いるのは、二匹の獣である。 一匹は白い毛並みに黒の|縦《たて》じま|模様《もよう》が入った、仔猫のような見目をした|白虎《びゃっこ》だ。もう一匹は|躑躅《ツツジ》と名づけた|蝙蝠《こうもり》である。 どちらもかわいらしい姿で、一緒に丸くなって寝ていた。 |華 閻李《ホゥア イェンリー》は、無防備な二匹を軽く|撫《な》でる。「ふふ、どっちも可愛いなあ」 体毛の少ない|蝙蝠《こうもり》は存外ツルツルとしていた。|白虎《びゃっこ》の方は、もふもふとし

  • 鳥籠の帝王   黄と黒、そして王

     現|皇帝《こうてい》である|魏 宇沢《ウェイ ズーヅァ》は、この|友中関《ゆうちゅうかん》で起きた事件に関わっている。 |爛 春犂《ばく しゅんれい》が集めたこの情報は、|全 思風《チュアン スーファン》の瞳に|焔《ほのお》を灯させた。くつくつとした笑みが、静かな|関所《せきしょ》の中を走る。 |淡々《たんたん》と、呼吸すらも知らしめんと、男を見張った。「……逃げた者たちは皆、|怯《おび》えておった。夜も眠れぬ者、飯を喉に通す事すらできない者もいた。そんな彼らに聞き出すのは|憚《はばか》れたが……」 眠る美しい子供、|華 閻李《ホゥア イェンリー》を間に挟み、彼は横に座る。前方にある|薪《たきぎ》を|見据《みす》え、重たい口を開いていった。「彼らは、こう言っていた。゛|殭屍《キョンシー》の群れに|襲《おそ》われた前日、白い服を着た者たちが、この|関所《せきしょ》に訪れた。゛らしい」 その者たちいわく、|友中関《ゆうちゅうかん》に貼られている札は効力を|喪《うしな》っているとのこと。|國《くに》の|命《めい》により、札の全てを貼り変える作業をするとのことだった。 そして彼らは最後にこう告げる。「゛これは|魏 宇沢《ウェイ ズーヅァ》様、お|達《たっ》しの|命《めい》である゛と」 後は知っての通り、この|関所《せききょ》が|殭屍《キョンシー》の群れと化した。 そしてもうひとつ。白い服の者たちは皆、一様に、白い|勾玉《まがたま》を首にかけていたのとこと。  ここまで|一欠片《ひとかけら》も|溢《こぼ》さず伝えた|爛 春犂《ばく しゅんれい》は、ふーと呼吸を整えた。「……なるほどねえ、やっぱここでも絡んでくるんだ。あの白い連中は。|小猫《シャオマオ》に、どうや

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