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第13話

作者: 致くん
静琉は一人では来なかった。看護師が彼女を探しに行った際、ちょうど静琉の指導医も一緒だったらしい。

指導医は、静琉の母親が病院で騒ぎを起こしていると知り、彼女と共に病室へやってきた。

静琉は真っ黒な表情をして現れた。特に、今まさに顔を真っ赤にして喚き散らし、髪も乱れている春華の姿を見た瞬間、その顔色はまるで鍋の底のように暗くなった。

春華は外では威圧的だが、娘には本当に甘い。一目娘の姿を確認すると、すぐに喧嘩をやめ、隣のベッドの女性に軽く引っ掻かれたことも気にしなかった。

一方で、静琉の指導医は荒れ果てた病室を見てため息をつき、闘争の主犯が静琉の母親であることを確認すると、淡々とこう命じた。

「ここを片付けてから帰りなさい」

静琉は目に涙を浮かべながら春華を睨みつけると、仕方なくビニール袋を拾い上げ、片付けを始めたフリをした。だが、指導医が去るとすぐに態度を豹変させ、看護師に向かって命令口調で指示を出し始めた。

看護師はそんな態度に我慢できず、すぐさま指導医に報告しようとしたため、静琉はあたふたと慌てふためいた。

看護師も春華にはうんざりしていたため、静琉にその鬱憤をぶつけることにした。彼女は掃除を手伝おうとした女性や外にいる清掃員を制止し、静琉と春華が全て片付け終わるまで見届けることにした。
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    影像室で半日近く待ち続け、ようやく検査が終わり、診察室に戻った時にはすでに医師が退勤する直前だった。 医師から「体に問題はない」という言葉を再び聞き、私はようやく安心できた。 医師は親切にも私の連絡先を聞き、「元の病院で何か問題があれば相談してください」と言ってくれた。 私は連絡先を交換したが、その言葉通り病院に苦情を申し立てるつもりはなかった。 前世の経験から、病院に直接苦情を言うのが最も遅く、かつ簡単にごまかされる方法だと分かっていたからだ。 どうせやるなら、もっと効果的にやるべきだ。 私は決めた。直接、厚生労働省に乗り込むことにする。前世、私が妊娠したかもしれないと勘違いして検査を受けに行った時も、静琉が勤めている病院を選んでしまった。 そのため、不審に思ってその場で苦情を申し立てた際、静琉はすぐに私の動きを察知した。 その時、私は疑問に思っていた。なぜ、誰にも話していないのに創眞がすぐに状況を把握し、会社からタクシーで駆けつけて私を怒鳴りつけたのか、と。 苦情を申し立てる前に、私は静琉に関する資料や、春華と隣のベッドの女性が病室で喧嘩している動画、私の電子カルテや保険記録などを全て別の場所に転送しておいた。 複数のバックアップを作成し、さらにタイマーを設定して自動で公開されるようにしておいた。 もしまた私が不幸に見舞われたとしても、静琉と御堂家の悪事が隠されることはないように。 とはいえ、全てをインターネットに頼るつもりはない。これまでに私のケースよりも酷い医療事故がインターネット上に公開されながらも、ほとんど注目されなかったことは幾度も見てきた。 インターネットには新しい話題が溢れている。人命に関わる事件ですら、日常茶飯事のように扱われることも珍しくない。 ましてや、手術を受けていないのに手術記録が残されていたり、実習医が執刀医として名を連ねている程度の話では、誰の関心も引けないだろう。

  • 義妹に騙されて手術台へ――復讐して新しい人生を掴むまで   第20話

    静琉の父親が医学界の権威である以上、近隣の病院で治療を受けると行動が露見するリスクが高い。 そのため、私は隣町の公立病院を選んだ。 公立病院の婦人科は少し雑だと聞いていたが、少なくとも私立病院のように小さな問題を大げさにしてすぐ手術室に連れ込むようなことはなさそうだ。 予約して順番待ちをし、ようやく診察室に呼ばれた。 私は緊張しながら診察室に入ると、目の前には男性医師が座っていた。 えっ、婦人科で男性医師? 気まずさをこらえつつ、以前撮った検査結果の書類を彼に渡した。 「子宮頸部の炎症ですね。これは病気ではありません。ただの炎症ですから、手術は必要ありません」 「おかしいですね……保険記録では、1か月前に手術を受けたことになっていますが。どうしてこんな短期間で再発したんでしょう?」 ――えっ?……私、手術なんて受けてないんだけど? 医師はパソコンをこちらに向け、記録画面を見せてくれた。そこには、確かに私が手術を受けたという記録が残っている。 さらに、執刀医の名前の欄には静琉の名前が記されていた。 ――「探し物は探さない時に見つかる」ってこのことね。 私が静琉を告発するための証拠をどう集めるか悩んでいたところに、思わぬ形で転がり込んできた。 ただ、これがどんな罪名に該当するのか、専門用語は分からない。 私は気持ちを落ち着け、まずは健康問題を片付けようと考えた。そして、ついでにこの医師から情報を引き出せるか試してみることにした。 「実は先月手術を受ける予定だったんですが、ちょっとした事情で中断して退院したんです。結局、手術は受けていません」 医師は眉をひそめ、私のカルテを見直した。 「電子カルテも紙のカルテも、どちらも手術済みになっています。本当に受けていないんですか?これは立派な医療事故ですよ」 私は強く頷き、手術を受けていないことを改めて説明した。 「あなたの体には特に問題はありません。ただ、念のため画像検査をして確認しておきますね。ただし、このカルテの問題は重大です。元の病院で確認したほうがいいでしょう。手術を受けていないのに保険が使われているなんて……」 「それなら、画像検査をお願いします」

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