Library
Search
Home / ロマンス / 猫被り女キラー / 第14話

Share

第14話

Author: 前川進次
last update Last Updated: 2024-12-16 11:06:00
数年後、あるバラエティ番組に出演していた際、私は再び美琴と遭遇した。

場所はまたしても楽屋だった。

私はコンシーラーで首元をカバーして、匠真が昨夜つけた小さな「記念品」を隠していた。

昨日、アラームをいくつももセットしておいて本当に良かった。匠真が夜遅くまでふざけていたせいで、もし目覚ましがなかったら、今日は間違いなく遅刻していただろう。

一方の美琴。

かつての自信に満ちたオーラは、今や見る影もない。

彼女が匠真の写真をツイッターに投稿して炎上し、その後、芸能界を追われたのは業界では周知の事実だ。

最近になってようやく復帰したものの、かつてのような視聴者から愛されることは無くなっていた。

インターネットは記憶を持っている。肥満の人々を見下すような発言をした過去は、簡単に消し去れるものではない。

そんな美琴は、怯えたような目で私を見つめ、以前のように堂々と楽屋内を歩き回ることもなくなっていた。

無理もない。今では、私たちの立場は全く異なるものになっていたのだから。

私はすでに、彼女の全盛期を遥かに超える成果を手に入れている。

今や私は、バラエティ番組の常連出演者として視聴者からも愛されている。

匠真と結婚した後も、小さな「社交不安」の部分は残っているものの、それはほんの時々現れる程度だ。

ただし、美琴のような「猫被り女」に遭遇した時は別の話だ。その瞬間、私は一気に「社交モンスター」へと変貌し、彼女たちを震え上がらせ、逃げ場をなくしてしまう。

そのため、今では私はエンタメ業界でこう呼ばれるようになった。

それは——「猫被り女キラー」

完結。
Locked Chapter
Continue to read this book on the APP
Previous Chapter Next Chapter

Related chapters

  • 猫被り女キラー   第1話

    未来の姑である清水さんと「バラエティ番組に出るべきかどうか」について熱く議論していた。その間、隣にいた匠真は、私たちのためにお茶を淹れたり、リンゴを剥いたりと甲斐甲斐しく動いていた。清水さんは言った。「凜華ちゃん、やりたいならやってみなさい！怖がることなんてないわ！」これまでにも何度も励ましの言葉をもらってきたけれど、生粋の人見知りの私には、無数のカメラに囲まれる場面を想像するだけで震えが止まらなかった。匠真がそっと差し出してくれたリンゴを一口かじりながら、私は恐る恐る言った。「お母さん……私、番組に出たら緊張して何も話せなくなっちゃいそうなんです」私の様子を見た清水さんは、呆れたようにため息をついた。「凜華ちゃん、人にはそれぞれの性格があるのよ。人見知りだって何も悪いことじゃない。でもね、それを理由にしてやりたいことまで諦める必要はないの」その時、黙っていた匠真がついに口を挟んだ。「お母さんの言う通りだよ。凜華ちゃん、僕はずっと君の味方だから！」すると、清水さんは匠真を鋭く睨みつけて一言。「女性同士の話に男は口を挟まないの！」匠真は素直に「はい」と返事をすると、剥いていたリンゴをそっと置き、今度は梨を剥き始めた。そんな匠真に私は「気にしないで」と目で合図を送ると、彼は子供のようにニコッと笑い、えくぼが可愛らしく浮かんだ。それでも、私にはまだ一つだけ心配事があった。「お母さん……でも、あれ親子番組ですよね？うちの母はきっと時間が取れないと思うんです」家族との関係があまり良くない私にとって、母がこの手の番組に付き合ってくれるとは到底思えなかった。「なんだ、そんなこと！」まだ迷っている私を見て、清水さんは安心したように笑いながら言った。「じゃあ、私が一緒に出てあげるよ！」私は思わず清水さんをぎゅっと抱きしめた。「お母さん、ありがとうございます！」これまでの私の人生は特別なことなんて何もない、ただの平凡そのものだった。時にはそんな自分に嫌気が差すこともあった。「こんなに平凡なくせに、性格まで内向的なんて、自分でも呆れるよ……」なんて考えたりして。でも、姑と彼に出会ってから私は気づいたのだ。誰にでも輝ける瞬間があって、それを見つけてくれる人がいるってことに。私の良さを知ってくれる人が、たまたま現

    Last Updated : 2024-12-16

  • 猫被り女キラー   第2話

    私は控室でメイクをしていたが、姑は藤原グループの経営陣として朝から会社の用事でまだ到着していなかった。突然、鏡越しに誰かの姿が映った。後ろから近づいてきたその人を見て、私は一瞬動けなくなった。また社交不安症のせいだろうか。その女性がゲストなのかスタッフなのか、どう呼ぶべきか悩んだ。「お姉さん」と呼んだほうがいいのかな？もし挨拶して無視されたらどうしよう......そんなことを考えているうちに、その女性は私の前に立ち、顔を近づけてきた。そして驚いた様子で口元に手を当てながら言った。「わあ！ここ、小さいニキビができてるじゃない！」その言葉で、私はハッと現実に引き戻された。「普通のことじゃない？」と内心思いながらも、これが挨拶の仕方なのかと戸惑った。私は正直に答えた。「ニキビくらい普通ですよね。コンシーラーで隠せば大丈夫ですし」顔を上げて、目の前の女性の顔を見た。厚化粧でまるで壁のようだった。「あなたもニキビを隠すために結構ファンデーション使ってますよね？それに、クマが目立ってますよ。アイコンシーラーを使ったほうがいいかもしれませんね」その女性の笑顔が一瞬で凍りつき、すぐに言い返してきた。「あなた、霧島凜華ですよね？」彼女、私のことを知っているの？ちょっと気になったが、社交不安のせいで何も聞けなかった。実は、これが初めての番組出演だった。それまではずっと研究室にこもっていたからだ。最近、実験が一段落したので、家にいるのが少し退屈になり、匠真の仕事環境にも興味が湧いて、エンタメ業界に関心を持ち始めたのだ。ちなみに、匠真は業界のトップスターだ。私が黙っていると、その女性は自ら名乗ってきた。「桐川美琴です。あなた、藤原匠真の彼女ですよね？」彼女、匠真のことも知っているの？どこかで聞いたことのある名前だな、と少し気になったが、やはり社交不安で聞き返すことができなかった。私はうつむきながら小さな声で答えた。「彼の婚約者です」私たちの結婚式は来月に決まっていて、もうすぐだ。その時、後ろからぽっちゃりした中年の女性が歩いてきた。おそらく、彼女の母親だろう。美琴は私に指を差しながら言った。「お母さん、これが霧島凜華だよ」その母親は冷ややかな目で私を見て、皮肉な口調で言った。「ああ、これ

    Last Updated : 2024-12-16

  • 猫被り女キラー   第3話

    清水さんは素早く身をかわした。美琴の母親は見た目からして体重が200キロ近くありそうだった。もし倒れてきたら、95キロしかない清水さんなど一瞬で押しつぶされてしまうだろう。そんな状況でも、清水さんの態度は私に対するそれとはまるで違い、冷静かつ冷ややかだった。彼女は目を細め、美琴とその母親をじっと見つめながら静かに問いかけた。「どなたですか？」美琴は清水さんの手を取ろうとして手を差し出しながら答えた。「おばさん、私のこと忘れたんですか？美琴ですよ！」その隣で、私に見せた態度とは正反対のにこやかな顔で言った。「お母さん、うちの美琴のこと忘れちゃったんですか？」私は疑問の表情で清水さんを見上げた。「お母さん、この人たち誰？」清水さんは少し考えた後、記憶を辿りながら答えた。「確か匠真の中学時代のクラスメートだったわね。卒業アルバムで名前を見たことがあるわ」どうやら、匠真の中学の卒業アルバムを整理しているときにその名前を見たことがあるらしい。一度見たら忘れない彼女の記憶力がなければ、そんな昔のアルバムに載っていた名前なんて誰も覚えていないだろう。「中学のクラスメート？」と私は首をかしげた。そんな昔の話を今さら持ち出すなんて……しかし、美琴はその答えでは満足しない様子だった。彼女は清水さんの言葉を訂正するように続けた。「おばさん、私は匠真の初恋なんです！中学の時、彼とお付き合いしてました！」その発言に、部屋の空気が一瞬で凍りついた。匠真の「初恋」については、私はよく知っている。彼は小さい頃のおねしょの話でさえ、私に打ち明けてくれるほど正直な人だ。その初恋についても、嫌な記憶であるにもかかわらず、誤解を避けるためにすべて話してくれていた。美琴を見つめながら、どこか胸騒ぎを感じた。彼女の厚かましい発言の意味も、ようやく理解できた気がした。清水さんは戸惑いながらも冷静に言った。「中学時代？そんな昔の話を今さら蒸し返して、一体何がしたいの？」清水さんは業界で知られた人物で、その一言には容赦がなかった。美琴は顔を少し赤らめながらも弁解した。「だって......匠真くん、中学の時に私に『結婚しよう』って言ったことがあるんですよ！」その瞬間、匠真が「初恋」の話をしてくれたときの暗い表情を思い出し、私は怒りが込

    Last Updated : 2024-12-16

  • 猫被り女キラー   第4話

    匠真とは大学時代に出会った。その頃の私は、すでに少し社交不安の兆候があった。毎日、研究室で教授のプロジェクトを手伝いながら、研究室、食堂、寮を行き来するだけの単調な生活を送っていた。新しい人と知り合う機会なんて全くなかった。でも、運命のいたずらなのか、匠真も同じ教授のもとで研究をしており、ある日、研究室にやってきて教授の居場所を私に尋ねてきた。それがきっかけで私たちは連絡先を交換し、彼が半年ほど根気よくアプローチを続けた末、付き合うことになった。匠真は見た目こそ「クールなイケメン」だけど、私の前では甘えん坊の「子犬」そのものだった。交際が落ち着いてきた頃、彼は自分の過去の話をいろいろと打ち明けてくれるようになった。その中には、中学生時代に出会った「特別な」女の子の話もあった。当時、彼は自分の外見にあまり自信がなく、両親も忙しくて家にいないことが多かったため、少し自己評価が低かったらしい。クラスでもあまり話さず、周りの子どもたちは無邪気に彼をからかい、「女々しい」と陰口を叩いていたという。そんなある日、隣のクラスの女の子が彼の席にやって来て、キャンディを2つ差し出しながら言った。「桐川美琴です。これから私たち、友達ね。いいでしょ？」その女の子、桐川美琴は学年でも評判の美人で、いつも可愛らしい格好をしていた。ポニーテールにふんわりしたスカート――いかにも男子に人気がありそうな子だった。彼曰く、彼女の見た目は他の女の子と大差ないけれど、唯一違ったのは、彼のような「冴えない奴」と友達になってくれたこと。それが初めて「友達」という言葉を実感した瞬間で、彼はとても嬉しくて何も疑わず、彼女の言葉をそのまま受け入れたそうだ。ただ、彼は恋人関係を望んでいたわけではなかった。それなのに、桐川美琴は周りに「彼氏だ」と吹聴し、それが原因でクラスの男子からの嫌がらせがさらにひどくなった。「お前なんか、あの子に釣り合うわけないだろ」と嘲笑される毎日だったらしい。意を決して隣のクラスまで話をつけに行こうとした矢先、桐川美琴がクラスメイトにこう話しているのを耳にしてしまった。「藤原匠真？私があんな奴を好きになるわけないじゃん。ただの遊びよ。友達になりたければ、それなりの価値が必要だけど、あいつは可哀想だからキャンデ

    Last Updated : 2024-12-16

  • 猫被り女キラー   第5話

    番組ディレクターがみんなに出番の合図を出した。このバラエティ番組は「親子の絆」をテーマに、出演者たちが家族愛の素晴らしさを感じられる内容になっている。今回の収録は屋外イベントで、最初のセクションはティーパーティー。参加者同士にお互い親しくなってもらうのが目的だ。私たちのような２組の参加者の他に、もう一組、ゲスト親子が参加している。その親子の名前は「高見紗奈さん」とそのお母さんだ。【きたー！美琴女神の登場！みんなで拍手と花束を！！】【左の子、誰？めっちゃ地味な格好じゃん。やっぱり美琴が一番！彼女がいるだけで画面が明るくなる〜！】【美琴最高！この番組見る理由はあなただけ！（歓喜の叫び）】【えっと、私は別に推しとかじゃないけどさ、左の子普通の服じゃない？屋外イベントなのにドレスの美琴の方が笑えるわ】【みんな落ち着けって。番組楽しもうよ、なんでいきなり炎上ムード？】テーブルの上には軽食とお茶が並べられているが、部屋の空気はどこかピリピリしている。美琴は小さなドレスを身にまとい、慎重に脚を揃えて椅子に座っている。そして、意図的に美脚を見せようとスカートをなぞる仕草。彼女は甘えた声で言った。「この服、ちょっと動きにくいのよね……凜華ちゃん、お水取ってきてくれる？喉が渇いちゃって」私は唇をぎゅっと噛みしめた。お水を取る？絶対に無理！彼女が以前、私の大事な人である匠真にした仕打ちを思い出すと、今ここでビンタをしないだけでも感謝しろってくらいだ！でも美琴は明らかに私を罠に嵌めようとしている。彼女は目を潤ませながらこう続けた。「凜華……やっぱり無理なのよね。そうだよね、私たちあまり話したこともないし、こんな小さなお願い、叶えてくれるわけないよね……」「小さなお願い」と強調し、これがどれだけ些細なことかをアピールしている。カメラが私たちをしっかり捉えている中で断ったら、私はみんなに悪者だと思われてしまう。このあざとい演技を見て、私はふと最近読んだ小説の中の「猫被り女」キャラを思い出した。匠真が中学時代の話をしていた時に見せてくれた暗い顔は今でも心に刻まれている。そして、彼女が匠真にしたこと、そして今のお願いを加えて、私は心に決めた。彼女の手口を逆手に取り、完膚なきまでに追い詰めてやろう。私は水を汲み、彼女

    Last Updated : 2024-12-16

  • 猫被り女キラー   第6話

    ティーパーティーが終わった後、いよいよ録画が始まった。ディレクターは皆に外の空き地に移動するように指示した。そこにはいくつかのテントの道具が置かれていて、「今晩の宿泊は各自で対応して下さい。スタッフが用意するのは、ここにある道具だけです」と伝えられた。高見紗奈は第3組の女性ゲストで、明らかに経験がありそうだった。監督が何も言わなくても、すぐにテントの組み立てを始め、手際よく進めていった。私は清水さんと一緒に、テントの組み立てなんてしたことがなかったし、スタッフから説明書も渡されていなかった。その時、美琴が私たちがその場で立ちすくんでいるのを見て、すぐに手を出してきた。まるで、自分が最初に動けば特別に評価されるかのように。「お母さん、心配しないで、私がテントを組み立てるから、あなたはただ楽しんでいて！」と、わざわざ彼女の母親に言ってから、私の方を一瞥した。でも私はあまり気にしなかった。私と清水さんは、美琴のこういった小さな挑発には簡単には影響されない。むしろ言うなら、匠真でさえ私と清水さんの関係に影響を与えることはできない。私たちは確かに手が遅かったけれど、すぐにどうすればいいか分かってきた。紗奈の組とうちはすぐにテントを完成させたが、美琴は汗だくで、テントの骨組みすら完成していなかった。彼女は私を見て、唇を噛みながら何か言いかけたが、私はすぐに勇気を出して先に話しかけた。だって、猫被り女なら、必ず存在感をアピールするものだし、さりげなくそれをするものだから。「美琴お姉さん、私たちが手伝わなくても大丈夫ですよね。だって、あんなにお母さん思いなんですもの。この仕事はきっと自分でやりたかったんですよね。手を貸すと、計画が台無しになっちゃいますよね？」そして、美琴にこう言ってみた。「美琴お姉さん、そうですよね？あなたなら成功するのは時間の問題ですから、私たちが手伝ってしまうと、達成感がなくなってしまいますよね？」いや、これが意外と効果的だったかもしれない。猫被り女を演じるうちに、少し社交不安症が和らいだ気がした。私は美琴を持ち上げて、結局彼女は自分一人でテントを組み立てるしかなかった。もし手伝ったら、彼女は親不孝者になっちゃうから。清水さんは私のやり方をよく理解していて、密かに「凜華ちゃん、

    Last Updated : 2024-12-16

  • 猫被り女キラー   第7話

    美琴がテントを組み終えるまで、ずいぶん時間がかかった。正直、どうしてこんなに不器用なのか理解できなかった。自分でできないなら、母親に手伝ってもらえばいいのに、まったく自己認識がない。次の課題は料理対決。食材を自分で集めるところから始めなければならない。周囲はほとんど山林と池だけ。浅い山林には果物が少しあるけれど、それだけでは腹の足しにはならない池には魚が泳いでいて、満腹になるには魚を捕るしかないようだ。みんな池のほとりに集まると、清水さんは水面を跳ねる魚を見て目を輝かせた。すぐにズボンの裾をたくし上げて、池に入る準備を始めた。「お母さん、私が代わりに行くよ」と心配そうに声をかけると、清水さんは笑いながら手を振って私を止めた。「何を言ってるの。私は田舎育ちだから魚捕りなんて朝飯前よ。ちょっと見てなさい！」清水さんは誰よりも先に池に入り、あっという間に大きな魚を三匹捕まえてみせた。その腕前は見事なもので、服もほとんど濡らしていない。私はバケツを持って横でサポート。息ぴったりのコンビネーションだった。その時、美琴が不満そうに言った。「凜華ちゃん、お母さんに魚を捕らせるなんてどうなの？若い人がやるべきでしょ？お母さんにこんなことさせるなんてありえないわ？」私は驚いて口を開けた。まさか、ここでそんな風に突っかかってくるなんて。でも、これもまた私にとっては演技の見せ場だ。「えっ？！美琴お姉さん、ごめんなさい！実は母が私にやらせたくないって言ったんです。それに、母全然苦しそうじゃないでしょ？見てください、すごく楽しそうですから！」清水さんの明るい笑顔を見て、美琴は何も言えなくなった。私はさらに清水さんに話しかけた。「お母さん、美琴お姉さん、きっと自分で魚を捕りたいんですよ！だって、美琴お姉さん、こんなに親孝行で、私たちのお手本ですもんね！」声のボリュームは美琴にも届くようにわざと少し大きめにした。拍手をしながら、内心こう思った。案外こういう猫被り女の役も悪くないかも。特に、美琴がまるで私を食べてやると言いたげな顔をしているのがたまらなく面白い。嫌々ながら池に入った美琴が、注意を集中していたところに、私は「わぁ！」と大げさに声を上げた。その声に驚いた美琴は足を滑らせて、池の中で派手に転んでしまっ

    Last Updated : 2024-12-16

  • 猫被り女キラー   第8話

    夜のテントの中、匠真とスピーカーフォンで会話をしていた。清水さんは微笑みながら、「邪魔しないように外で風に当たってくるわ」と言い残し、そっとテントを出ていった。そこへ、美琴が突然入ってきた。彼女は私の膝に置かれたスマホの画面が光っているのに気づかないまま、挑発的に言った。「凜華ちゃん、あなた、私と匠真の過去について何も知らないでしょ？」電話越しの匠真の声が一瞬止まり、静まり返った。美琴は得意げに話を続ける。「匠真ったら、本当に私のことが好きだったのよ！『彼氏になってくれる？』って聞いたら、すぐに『もちろん！』って答えたんだから！」彼女がその話を持ち出した瞬、私の胸の中に怒りが湧き上がった。感情を抑えることができず、思わず言い返した。「よくもそんな恥知らずな話を堂々と口にできるわね。顔まで捨てちゃったの？」電話越しに匠真が「プッ」と吹き出す声が聞こえた。私は瞬間的に顔が熱くなった。彼の前で、こんなに感情を剥き出しにするのは初めてだったからだ。でも全部美琴が悪い！本当に腹の立つ人だ！その時、美琴はようやく私の膝の上に置かれたスマホの画面が光っていることに気づき、驚いたように声を上げた。「まさか、匠真を裏切って他の男と電話してたの？！」その瞬間、電話越しの匠真が軽く咳払いをして、少し強い口調で言った。「桐川美琴、俺の妻の前でくだらないことを言うなよ。俺たちの間には何もなかったし、そんな作り話で自分を美化するのはやめてくれ」美琴はその声が匠真のものだと気づき、目に涙を浮かべた。そして、あたかも自分が傷つけられたかのような表情で、悲しげに言った。「匠真、私たちの過去をそんなに否定したいの……？」私は冷ややかに笑いながら答えた。「これ、ビデオ通話じゃないのよ。そんなに目を赤くしても匠真には見えないわ」というか、彼女が毎日こんなふうに目を赤くしていたら、ドライアイにならないのかと思った。私は迷うことなくスマホの通話を切った。清水さんが言っていた言葉を思い出したからだ。「女同士の争いに男を巻き込むべきじゃない」私はすっと立ち上がり、威厳を示すために清水さんを真似て顎を少し上げ、毅然とした口調で言い放った。「いい加減にして。くだらない話を続けるのはやめて！本当に口が臭いわよ！あ

    Last Updated : 2024-12-16

Latest chapter

  • 猫被り女キラー   第14話

    数年後、あるバラエティ番組に出演していた際、私は再び美琴と遭遇した。場所はまたしても楽屋だった。私はコンシーラーで首元をカバーして、匠真が昨夜つけた小さな「記念品」を隠していた。昨日、アラームをいくつももセットしておいて本当に良かった。匠真が夜遅くまでふざけていたせいで、もし目覚ましがなかったら、今日は間違いなく遅刻していただろう。一方の美琴。かつての自信に満ちたオーラは、今や見る影もない。彼女が匠真の写真をツイッターに投稿して炎上し、その後、芸能界を追われたのは業界では周知の事実だ。最近になってようやく復帰したものの、かつてのような視聴者から愛されることは無くなっていた。インターネットは記憶を持っている。肥満の人々を見下すような発言をした過去は、簡単に消し去れるものではない。そんな美琴は、怯えたような目で私を見つめ、以前のように堂々と楽屋内を歩き回ることもなくなっていた。無理もない。今では、私たちの立場は全く異なるものになっていたのだから。私はすでに、彼女の全盛期を遥かに超える成果を手に入れている。今や私は、バラエティ番組の常連出演者として視聴者からも愛されている。匠真と結婚した後も、小さな「社交不安」の部分は残っているものの、それはほんの時々現れる程度だ。ただし、美琴のような「猫被り女」に遭遇した時は別の話だ。その瞬間、私は一気に「社交モンスター」へと変貌し、彼女たちを震え上がらせ、逃げ場をなくしてしまう。そのため、今では私はエンタメ業界でこう呼ばれるようになった。それは——「猫被り女キラー」完結。

  • 猫被り女キラー   第13話

    今回のバラエティ番組が終わった後、私は少しカメラの前にいる自分が好きになった気がした。以前、一人だけの小さな世界とは全く違う新しい感覚だった。社交不安を乗り越えて、可愛いファンたちと少し交流することも、意外と楽しんだと気付いた。その夜、匠真はじっと私を見つめながら、不満な声でこう言った。「凛華ちゃん、ねえ、もしかして俺に飽きたの？携帯ばっかりいじってさ、ほかの男とLINEしてるんじゃないの？一晩中俺のことを無視してたじゃん！」実際は、ファンからのちょっとした質問に返信していただけだったんだけどね。実験室のプロジェクトを終えた後、少し時間を作って別のバラエティ番組にも参加した。その結果、ファンはどんどん増え、匠真との生活に興味を持つ人も増えてきた。ファンからこんなコメントが来た。【凛華ちゃん、どうしてこんなに長い間姿を見せてくれなかったの？マジで会いたかったよ〜！】私は軽い気持ちで返信した。【実は、Aプランのプロジェクトに参加しててね、これからはもっと出てくるから応援よろしく！ありがとう♡】さらに、他のファンからはこんなコメントも。【凛華ちゃん、匠真さんとどうなってるの？私が泣く泣く譲ったんだから、ちゃんと大事にしてよね！】ファンの冗談だと分かっているから、私は気にせず笑って受け流した。ちょうどファンに「いいね」を押して、モヤモヤ顔の匠真をなだめようと思った瞬間だった。匠真がいきなり私の携帯を抜き取って、手元に置いてしまった。そして、そのまま私に覆いかぶさりながら、こんなことを言った。「凛華ちゃん、バラエティ番組で疲れてないの？まだツイッターでTL追う元気があるのね？」私は何も考えずに頷いたけど、次の瞬間、これが匠真の罠だと気づいた！慌てて腕を振り払おうとしたけど、もう遅い。匠真は欲しい答えを手に入れたみたいだった。「よし」とばかりに布団を引っ張り上げて、私たちの頭にすっぽりかぶせてしまった。そして、可哀想なベッドが「ギシギシ」と意味深な音を立て始めた。その間、画面をオフにするのを忘れていた私の携帯は床に落ち、ファンのコメントが続いていた。【え？Aプランって何それ？初耳だけど、めっちゃ神プロジェクトっぽい……】【え、調べたけどやばい！Aプランって国レベルの研究事業じゃん！てか凛華さん、メイ

  • 猫被り女キラー   第12話

    深夜、ツイッターは突然機能不全に陥り、トレンドが美琴と匠真のニュースで埋め尽くされていた。【#桐川美琴、既婚者と知りながら誘惑？藤原匠真を公然と誘惑！】【#藤原匠真と霧島凜華、甘すぎる！】【#藤原匠真の中学時代……】【#桐川美琴、写真公開！】リンクをクリックすると、美琴が匠真を訪ねた際、彼がちょうどファンとライブ配信をしていたことが判明した。それは彼が毎月こなさなければならない仕事の一部であり、義務でもあった。テントの中にカメラはなかったものの、美琴の無遠慮な発言はしっかりと録音され、SNSにアップロードされ、瞬く間に議論を巻き起こした。【ハハハ、みんな見て！あなたたちの“清純派”がこれだよ。前に桐川美琴を擁護していた人たちはどこに行ったの？】【笑いが止まらない。誘惑をこんなに高尚に言えるなんて、初めて聞いた！】【本当に、恥知らずが最強だな！】その後、美琴は事態が明るみに出たことを知り、メディアの注目を逸らすために、わざわざツイッターに投稿した。そこには匠真の中学時代の写真が添付されており、文面は何も記されていなかった。ただし、匠真のアカウントをタグ付けしていた。その意図は一目瞭然で、誰が見ても明白だった。私は心配になり、匠真を振り返って見ながら、心の中で美琴を容赦なく罵っていた。朝、彼女の携帯を池に投げ捨てたというのに、まさかその写真がバックアップされていたとは！彼女は一体どういう心境でこんなことをしているのか？こんな風に人を愛するなんて、理解できなかった。呆れてしまう。匠真は私を見つめ、私がその写真を見ても嫌悪感を抱いていないと確信すると、ようやく安堵の表情を浮かべた。彼は静かに私の唇にキスをしながら、こう言った。「凛華ちゃん、君が気にしないならそれが一番だ。他人の目なんて、僕には何の意味もない。中学の頃からそれはわかっていた。大事なのは、自分が本当に大切に思うべき人だけだ。それに、凛華ちゃんが番組に出演し、僕のために変わろうとしてくれたことに感謝している。でも、君には君の居心地の良い場所にいてほしい。僕のために無理して変わる必要はないんだ」彼が私の社交不安について言っているのがわかっていた。この数日間で、自分の性格が少しずつ変わっていると感じていた私は、首を振りながら答えた

  • 猫被り女キラー   第11話

    今日のスケジュールがすべて終える頃には、太陽はほぼ沈みかけていた。明日でこのバラエティ番組も最終回だ。美琴の顔をもう二度と見なくて済むと思うと、寿命が10年延びたような気分だった。外でシャワーを浴び、すっきりしてテントに戻ると、中から女性の声が聞こえてきた。考えるまでもなく、美琴に違いない。美琴：「ねえ、朝、凜華ちゃんに私たちの中学時代の写真を見せたのよ。あの子の顔、どれだけ険しかったか分かる？匠真さん、信じて、あの子が本気であなたを愛してるなんてありえない。だって、あなたがどん底だった時期を知ってるのは私だけなんだから。彼女と一緒にいて、何が得られるっていうの？あなたは芸能界のトップスターで、私は人気絶頂の女優。私たちこそ、まさに最高のカップルでしょ？もしよかったら、今夜私のテントに来て……」美琴の言葉はどんどん度を超していく。テントにカメラがないからって、こんな無茶苦茶な誘い方が許されると思ってるのか？！私は「バッ」と勢いよくテントの幕を開けた。怒鳴りつけようとした矢先、匠真が先に動いた。棒を手に取り、冷酷に言い放つ。「朝、君のお母さんに言ったこと、もう忘れたのか？男だろうが女だろうが、俺を怒らせたら容赦しない」美琴は思わず一歩後ずさった。今の匠真の気迫は、彼女を震え上がらせるほどだったのだろう。私がテントに入ると、美琴は勝ち目がないと悟ったのか、何も言わずにその場を去った。匠真は私を見ると、ふっと表情を和らげ、「凛華ちゃん」と優しく呼びかけた。私は彼の頬をそっと撫でながら、柔らかく微笑んだ。「怒らないで。あんな人のことで怒るなんて、時間の無駄よ」

  • 猫被り女キラー   第10話

    美琴の母親は、私と美琴が朝に何があったのかを全く知らなかった。匠真を見るなり、満面の笑みを浮かべて言った。「匠真さん、どうして来たの？もしかして美琴を見に来てくれたのかしら？」しかし匠真は、冷たい表情を崩さず、無視を決め込んだ。気まずそうな美琴の母親は、今度は私に向き直り、睨むようにして言った。「まさか、この略奪女を見に来たんじゃないでしょうね？そもそも、美琴と付き合ってたんじゃないの？この女、本当に恥知らずだわ……」匠真はその言葉を遮り、最低限の礼儀を保ちながら、冷静に答えた。「僕と桐川さんには何の関係もありません。それに、僕は女性を殴らない主義だなんて思わないでくださいね」清水さんも横から冷たい視線を送り、辛辣な一言を放った。「本当に人のものを横取りするのが好きなのね。人の夫まで手を出すなんて、桐川家の家風かしら？」清水さんがここまで鋭く言い放つのも無理はない。朝、彼女も私と美琴のやりとりを耳にしていたが、少し遅れて現場に到着しただけだった。結局、美琴は匠真に追い返され、清水さんが直接彼女を叱る機会を逃した形になった。翌日、撮影の内容はハイキングだった。カメラが回り始めると、私たち3人は一言も会話を交わさなかった。美琴も、自分にとって得にならないと察したのか、絡んでくることはなかった。ディレクターが大声で指示を出す。「さあ！登山用の装備を抽選しますよ！それぞれ内容が違いますからね。運がいいのは誰でしょう？」美琴は勢いよく抽選に向かったが、相変わらず運が悪く、三等賞を引き当てた。一等賞は紗奈、私は二等賞を手にした。匠真が笑みを浮かべながら、私を安心させるように言った。「大丈夫だよ。君を抱えてでも山頂まで登れるから」彼は日頃から鍛えているので、この程度の山なら余裕だという自信に満ちていた。【コメント：尊死する……！もう結婚しちゃえばいいのに、役所呼んでその場で手続きして！】【コメント：藤原匠真、男らしさが爆発してる！凜華ちゃんがいらないなら、私にちょうだい！】【コメント：私だけ？昨日よりも2人の雰囲気がぎこちない気がするのは……】それでも、美琴の厚かましさは変わらなかった。朝の一件の後でも、平然と私の前に現れてくる。「匠真さんがそんなに自信あるなら、その装

  • 猫被り女キラー   第9話

    翌日、撮影用カメラがまだ準備されていないうちに、一人の飛び入りゲストがこっそり現れた。テントの入り口をそっと開けてみると、なんと匠真が立っていた。匠真は私に長く深いキスをしてきた。その後、彼はおでこを私のおでこに優しくくっつけながら囁いた。「いい子で待ってて。今から化粧してくるから」匠真が去った後、ふと隣を見ると、美琴のテントがすでに開いていることに気づいた。そこから美琴が姿を現し、冷たい声で言った。「条件を出してくれない？」朝早くから一体何を言い出すのかと呆れながら無視して立ち去ろうとしたが、美琴が私の前に立ち塞がった。「どうせ番組に出たのは仕事のチャンスが欲しいからでしょ？そのチャンス、私があげる。だから匠真と別れて」「……」こいつ、安っぽい恋愛ドラマを見すぎて頭がおかしくなったんじゃないの？むしろ1億円の小切手でも突きつけて、「匠真から手を引け」と言った方がよぽどドラマチックでカッコイイでしょ？「そんなもの必要ない。私には自分の仕事があるし、芸能界の収入がなくても十分やっていけるから」内心、もしかすると自分の銀行口座の残高は美琴のそれより多いかもしれないと冷静に思っていた。美琴は私を説得できないと悟ると、スマホを取り出して操作を始めた。そして画面を私に向けて見せてきた。画面には、非常に太った男の子が映っていた。顔には脂肪がたまり、目立つニキビが点在している。「これが誰だか分かる？」と美琴が尋ねた。その写真を見た瞬間、心の奥底で答えが浮かび上がった。美琴は得意げに言った。「これ、昔の匠真よ！」血が頭に一気に上り、胸が激しく上下した。美琴は一体何を考えているの？どうしてこんな写真を今でも持っているの？！中学生の頃の美琴は単に未熟だっただけだと思っていたが、今はっきりと分かった。彼女の本性は最初から歪んでいたのだ。美琴は、私が匠真の昔の姿に驚いていると勘違いしていたようだった。彼女は声を上げて嘲笑した。「ようやく分かったでしょ？匠真があなたを騙してたことが！昔はこんなに太ってて醜かったのよ！私と出会えたのが彼にとってどれだけの幸運だったか分かる？整形でもしなきゃ、今みたいに変わるわけないでしょ？」「パァン——！」ついに我慢の限界が来て、私は美琴の頬を力いっぱい

  • 猫被り女キラー   第8話

    夜のテントの中、匠真とスピーカーフォンで会話をしていた。清水さんは微笑みながら、「邪魔しないように外で風に当たってくるわ」と言い残し、そっとテントを出ていった。そこへ、美琴が突然入ってきた。彼女は私の膝に置かれたスマホの画面が光っているのに気づかないまま、挑発的に言った。「凜華ちゃん、あなた、私と匠真の過去について何も知らないでしょ？」電話越しの匠真の声が一瞬止まり、静まり返った。美琴は得意げに話を続ける。「匠真ったら、本当に私のことが好きだったのよ！『彼氏になってくれる？』って聞いたら、すぐに『もちろん！』って答えたんだから！」彼女がその話を持ち出した瞬、私の胸の中に怒りが湧き上がった。感情を抑えることができず、思わず言い返した。「よくもそんな恥知らずな話を堂々と口にできるわね。顔まで捨てちゃったの？」電話越しに匠真が「プッ」と吹き出す声が聞こえた。私は瞬間的に顔が熱くなった。彼の前で、こんなに感情を剥き出しにするのは初めてだったからだ。でも全部美琴が悪い！本当に腹の立つ人だ！その時、美琴はようやく私の膝の上に置かれたスマホの画面が光っていることに気づき、驚いたように声を上げた。「まさか、匠真を裏切って他の男と電話してたの？！」その瞬間、電話越しの匠真が軽く咳払いをして、少し強い口調で言った。「桐川美琴、俺の妻の前でくだらないことを言うなよ。俺たちの間には何もなかったし、そんな作り話で自分を美化するのはやめてくれ」美琴はその声が匠真のものだと気づき、目に涙を浮かべた。そして、あたかも自分が傷つけられたかのような表情で、悲しげに言った。「匠真、私たちの過去をそんなに否定したいの……？」私は冷ややかに笑いながら答えた。「これ、ビデオ通話じゃないのよ。そんなに目を赤くしても匠真には見えないわ」というか、彼女が毎日こんなふうに目を赤くしていたら、ドライアイにならないのかと思った。私は迷うことなくスマホの通話を切った。清水さんが言っていた言葉を思い出したからだ。「女同士の争いに男を巻き込むべきじゃない」私はすっと立ち上がり、威厳を示すために清水さんを真似て顎を少し上げ、毅然とした口調で言い放った。「いい加減にして。くだらない話を続けるのはやめて！本当に口が臭いわよ！あ

  • 猫被り女キラー   第7話

    美琴がテントを組み終えるまで、ずいぶん時間がかかった。正直、どうしてこんなに不器用なのか理解できなかった。自分でできないなら、母親に手伝ってもらえばいいのに、まったく自己認識がない。次の課題は料理対決。食材を自分で集めるところから始めなければならない。周囲はほとんど山林と池だけ。浅い山林には果物が少しあるけれど、それだけでは腹の足しにはならない池には魚が泳いでいて、満腹になるには魚を捕るしかないようだ。みんな池のほとりに集まると、清水さんは水面を跳ねる魚を見て目を輝かせた。すぐにズボンの裾をたくし上げて、池に入る準備を始めた。「お母さん、私が代わりに行くよ」と心配そうに声をかけると、清水さんは笑いながら手を振って私を止めた。「何を言ってるの。私は田舎育ちだから魚捕りなんて朝飯前よ。ちょっと見てなさい！」清水さんは誰よりも先に池に入り、あっという間に大きな魚を三匹捕まえてみせた。その腕前は見事なもので、服もほとんど濡らしていない。私はバケツを持って横でサポート。息ぴったりのコンビネーションだった。その時、美琴が不満そうに言った。「凜華ちゃん、お母さんに魚を捕らせるなんてどうなの？若い人がやるべきでしょ？お母さんにこんなことさせるなんてありえないわ？」私は驚いて口を開けた。まさか、ここでそんな風に突っかかってくるなんて。でも、これもまた私にとっては演技の見せ場だ。「えっ？！美琴お姉さん、ごめんなさい！実は母が私にやらせたくないって言ったんです。それに、母全然苦しそうじゃないでしょ？見てください、すごく楽しそうですから！」清水さんの明るい笑顔を見て、美琴は何も言えなくなった。私はさらに清水さんに話しかけた。「お母さん、美琴お姉さん、きっと自分で魚を捕りたいんですよ！だって、美琴お姉さん、こんなに親孝行で、私たちのお手本ですもんね！」声のボリュームは美琴にも届くようにわざと少し大きめにした。拍手をしながら、内心こう思った。案外こういう猫被り女の役も悪くないかも。特に、美琴がまるで私を食べてやると言いたげな顔をしているのがたまらなく面白い。嫌々ながら池に入った美琴が、注意を集中していたところに、私は「わぁ！」と大げさに声を上げた。その声に驚いた美琴は足を滑らせて、池の中で派手に転んでしまっ

  • 猫被り女キラー   第6話

    ティーパーティーが終わった後、いよいよ録画が始まった。ディレクターは皆に外の空き地に移動するように指示した。そこにはいくつかのテントの道具が置かれていて、「今晩の宿泊は各自で対応して下さい。スタッフが用意するのは、ここにある道具だけです」と伝えられた。高見紗奈は第3組の女性ゲストで、明らかに経験がありそうだった。監督が何も言わなくても、すぐにテントの組み立てを始め、手際よく進めていった。私は清水さんと一緒に、テントの組み立てなんてしたことがなかったし、スタッフから説明書も渡されていなかった。その時、美琴が私たちがその場で立ちすくんでいるのを見て、すぐに手を出してきた。まるで、自分が最初に動けば特別に評価されるかのように。「お母さん、心配しないで、私がテントを組み立てるから、あなたはただ楽しんでいて！」と、わざわざ彼女の母親に言ってから、私の方を一瞥した。でも私はあまり気にしなかった。私と清水さんは、美琴のこういった小さな挑発には簡単には影響されない。むしろ言うなら、匠真でさえ私と清水さんの関係に影響を与えることはできない。私たちは確かに手が遅かったけれど、すぐにどうすればいいか分かってきた。紗奈の組とうちはすぐにテントを完成させたが、美琴は汗だくで、テントの骨組みすら完成していなかった。彼女は私を見て、唇を噛みながら何か言いかけたが、私はすぐに勇気を出して先に話しかけた。だって、猫被り女なら、必ず存在感をアピールするものだし、さりげなくそれをするものだから。「美琴お姉さん、私たちが手伝わなくても大丈夫ですよね。だって、あんなにお母さん思いなんですもの。この仕事はきっと自分でやりたかったんですよね。手を貸すと、計画が台無しになっちゃいますよね？」そして、美琴にこう言ってみた。「美琴お姉さん、そうですよね？あなたなら成功するのは時間の問題ですから、私たちが手伝ってしまうと、達成感がなくなってしまいますよね？」いや、これが意外と効果的だったかもしれない。猫被り女を演じるうちに、少し社交不安症が和らいだ気がした。私は美琴を持ち上げて、結局彼女は自分一人でテントを組み立てるしかなかった。もし手伝ったら、彼女は親不孝者になっちゃうから。清水さんは私のやり方をよく理解していて、密かに「凜華ちゃん、

You may also like

DMCA.com Protection Status