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第153話

二人の男が互いに視線を交わし、空気が冷たくなった。

拓海は薄い唇を冷たく結んだ。この男がなぜここにいる?

そのとき、詩織が追いついてきて、診察室にいる北を見て驚いた。「北兄さん? 北兄さん、なぜここに?」

詩織は北を見た瞬間、興奮して部屋に飛び込んだ。ここで北に会えるとは思わなかった。

詩織の心臓が高鳴った。「北兄さん、やっと渡辺おばあさんの手術に来てくれることにしたの?」

そうでなければ、北兄さんがここに来るわけがない!

北は詩織を見て眉をひそめた。また詩織に会うとは思わなかった。

北は頭が痛くなった。紗希も病院にいる、万一紗希に出会ったら、全て終わりだ。

いや、彼はまだ正体を明かすわけにはいかなかった。

北は淡々とした表情で答えた。「渡辺おばあさんの病状を確認しに来ただけだ」

「北兄さん、やっぱり私の頼みを聞いてくれたのね」

詩織は我を忘れて北に抱きついた。本当に放棄せずに自ら道を見つけ出さなければならない。

彼女はもう追い詰められて拓海に全てを打ち明けようとしていたのに。

でも彼女は北が密かに病院に来て渡辺おばあさんの状態を確認していたとは思わなかった。実際、三兄は表面的には断ってるけど、本当は同意してくれているってことでしょ?

詩織は涙ぐんだ目で北から離れ、拓海の方を向いた。「拓海、私が言ったとおりでしょ? 北兄さんは私のことを大切に思ってくれてるから、きっと渡辺おばあさんの手術を引き受けてくれるわ」

拓海はその場に立ったまま、驚いた表情で言った。「彼はあんたのお兄さんなのか?」

この前、紗希が倒れた時、公立病院に連れて行ったが、紗希の治療をした医者はこの男だった。

紗希はこの男を知っているようで、二人の仲はよさそうだった。

追い出された介護士は、この男が紗希の周りをうろついて、ずっと親切に尽くしていたと言った。

拓海の胸に不快感が広がった。この男が詩織のお兄さんだったとは思わなかった。

北は冷ややかに言った。「どうした、何か不満でもある?」

それだけでなく、彼は紗希の兄でもある。

拓海は目を少し細めて、不愉快そうな表情を浮かべた。

隣にいた詩織は慌てて言った。「拓海、北兄さんはいつもこんな話し方なの。気にしないで」

北は目障りな拓海を見向きもせず、詩織に向かって言った。「あの男に、もし将来お前と結婚しても、女
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