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第8話

作者: 蘇璃
会社の業務がすべて整い、出産予定日も間近に迫っていることを確認した後、私は週刊誌に写真をリークした。

秘書が慌てた様子で部屋に駆け込んできたのは、私が重要書類を整理している最中だった。

彼女は困ったように口を開きかけては閉じ、どう話せばいいか迷っている様子だった。

「横山社長、ご主人と別の女性に関する、少し問題のある写真が週刊誌にリークされたようです」

私の表情を伺いながら慎重に続ける。

「ただ、相手がこちらに貸しを作るつもりなのか、まだ写真は公表されていません」

なるほど、失策だったわ。週刊誌が近藤家と繋がっているなんてね。

「ああ、その写真ね。止めなくていいわ。それ、私がリークしたの」

私は荷物を整え空港に向かった。空港に着く頃には、写真はすでにネット上で大騒ぎになっていた。

近藤家の広報部は大混乱。

SNSは炎上し、私のスマホは智也からの電話で鳴りっぱなしだった。

太郎からも「どこにいるんだ」とメッセージが届いた。

私は携帯のSIMカードを取り出し、それを真っ二つに折ってゴミ箱に捨てると、何も振り返らず飛行機に乗り込んだ。

夜中に陣痛が来たが、事前に準備を整えていた私は、すべてが計画通りに進んだ。

お金があるって本当に便利だわ。痛みらしい痛みもほとんど感じることなく、私は無事に娘を出産した。

私が出産したその夜、智也は高速道路で車を飛ばし、「妻と子どもを探すんだ」と錯乱状態になっていたらしい。

近藤家の株価は急落。

定年退職していた近藤母は、会社の混乱を収拾するため、再び現場に戻る羽目になった。

しかし、会社の社員はすでに私が大幅に入れ替えており、全員私の信頼する部下ばかりだった。

近藤母は会社を掌握できず、何度も病院に運ばれた。

最終的に、会社の危機を救えるのは私しかいないと悟った彼女は、私の過去や出自を非難するのをやめ、自分の息子を怒鳴りつけた。

「あんたが死ぬ気で雪乃と結婚するって言ったんでしょう!なのに今度は他の女と浮気なんて、何考えてるのよ!」

智也はぼんやりとした目で、街中を隅々まで探し回った。

優花が私に感想を聞いてきた。

私は気持ちよさそうに眠る娘の頭を撫でながら、ただ二言返した。

「いい感じ」
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    家に帰ると、時刻はすでに深夜だった。 リビングの電気は明るくついていて、智也がソファで寝ていた。 鍵を開ける音で彼は目を覚ました。 「雪乃、今日仕事の後どこ行ってたんだ?会社に迎えに行ったけどいなくて、秘書に聞いても分からないって言われた」 そう言いながら、私にキスをしようと近づいてきた。 私はスマホを取り出すふりをして、さりげなく避けた。 「あ、言い忘れてたけど、今日は優花の家に行ってたの」 智也は眉を少しひそめ、不満そうな顔をした。 「友達付き合いに口出しする気はないけど、優花ってバーやってるだろ?怪しい人間と付き合いが多そうだし、あまり関わってほしくないんだ」 「暇なら、他の奥様たちと付き合ったらどう?」 もっともらしいことを言ってるけど、彼の友達にもろくでもない人間はたくさんいるはず。 お坊ちゃま育ちの彼は、人を自然とランク付けして見る癖がある。そんな上から目線がふとした言葉に滲み出ている。 私は彼の首に腕を回し、顔を近づけて軽く鼻で匂いを嗅ぐふりをした。 智也は驚いて私を支え、転ばないように慌てて腕を回してきた。 優花の言うことは正しかった。 智也は私を愛している。ほんの少し誘えば、すぐに桜を捨てて私に泣いて謝るだろう。 智也は桜に初恋の幻想を抱いている。未練や少しの好意があるのかもしれない。 でも、裏切りは裏切りだ。 どれだけ些細でも、一瞬でも心が揺らぐのは、立派な裏切り。 嘘はどんなに取り繕っても嘘に変わりない。 もし私が何も持っていない人間だったら、今の裕福な生活を失うのが怖くて、黙って耐えていただろう。 でも、今の私は違う。私は全てを支配する力を持っている。 智也は笑いながら言った。 「なんだよ、犬みたいに嗅ぎ回って。何してるんだ?」 私は口角を上げて笑った。 「他の女の匂いがしないか確認してるの」 彼の腕が一瞬硬直するのが分かった。 智也は真面目な顔で言った。 「ちょっと、冗談でもそんなこと言うなよ。俺が......」 「冗談よ。そんなに真剣にならないで」 前回、私が軽く探りを入れてからというもの、智也は私に前よりも優しくなり、一日中私に気を使うようになった。 そ

  • 浮気夫の億万財産、私に奪われる   第4話

    少しして、私はコートを手に取り、外へ出た。 「みんな、お昼どこ行くの?私も一緒に行くよ。今日は私の奢り」 みんなが歓声を上げた。「やったー!」 「横山社長が奢るなら、今日は思いっきり食べちゃおう!」 でも、秘書だけは不思議そうに尋ねた。 「旦那さん、今日は来ないんですか?」 私は作り笑いを浮かべながら答えた。 「彼にはもっと大事な用事があるのよ。今日は来ないし、これからも来ないと思う」 誰も私の様子に違和感を覚えず、私の頬を伝う涙にも気づかなかった。 普通のランチが、こんなにも美味しいなんて。 人はみんないつか去っていく。 誰もずっとそばにいてくれるわけじゃない――そんなこと、私はずっと前から分かっていた。 大丈夫だよ、雪乃。 その頃、智也はようやく桜の「甘い時間」から抜け出したのか、電話をかけてきた。 「ごめん、雪乃。スタジオで急にトラブルがあってさ」 「お昼、何食べた?俺、今日はすごく美味しいレストラン見つけたんだ。今度一緒に行こう」 生活のことを細かく報告するのは、彼の習慣だった。 私はスマホをスピーカーモードにして机の横に置き、メールを確認しながらいくつか返信していた。 「雪乃?ねぇ、聞いてる?」 彼の声でようやく電話の存在を思い出した。 「ごめん、何か言った?聞きそびれちゃった」 電話の向こうで、しばらくの沈黙があった。 智也はすぐに私の様子がおかしいことに気づいたようだった。 私は普段、彼にこんなに丁寧な言葉遣いをしないから。 「疲れてるの?それともお昼のことで怒ってる?」 彼は慎重に聞いてきた。 私は目を伏せ、甘えた声を作って答えた。 「何それ、私がそんな小さいことで怒ると思ってるの?」 智也はほっとしたように息をつき、また甘い言葉を並べた。 電話越しの私は、無表情で、心の中に浮かぶ苛立ちを隠す気もなかった。 電話を切る直前、私は冷たく聞いた。 「智也、何か私に隠してること、あるんじゃない?」 「急にどうした?俺に隠すことなんてないし、うちの大事なことは全部雪乃が決めるだろ?」 彼の声はいつもと変わらない平静なトーンだった。 でも、結婚して6年。私は彼

  • 浮気夫の億万財産、私に奪われる   第3話

    デスクの上には、私と智也のツーショット写真が飾られている。 それは、私たちが初めてデートした時に撮ったものだ。 こうして結婚に至ったことを思い返すと、本当に簡単な道のりではなかった。 智也は円満な家庭で育ち、両親は仲が良く、生活にも不自由はない。 一方、私の両親は早くに離婚し、どちらも私を引き取るつもりはなかった。 私という「厄介者」を押し付け合うようにして。 裁判の結果、私は父に引き取られることになり、母は振り返ることもなく荷物を抱えて家を出た。 私の父は最低な人間だった。 酒とギャンブルに溺れ、私の存在などどうでもいいかのように扱った。 酔えば私を殴り、ギャンブルで負けても私を殴る。 私は必死で抵抗したが、父の暴力はさらに荒れ狂い、命を奪われかねない勢いだった。 だから私は諦めて、反抗することをやめた。 ただ静かに、彼が怒りを発散し終えるのを待つようになった。 そんな父も、ある日突然死んだ。 真冬の寒い夜に酔っ払って外で寝込み、そのまま凍死したのだ。 その知らせを聞いたとき、私はどうしていいかわからなかった。 長年積み重ねてきた憎しみは行き場を失い、ただ呆然とした。 それでも、気づけば笑っていた。 涙が出るほど大声で笑っていた。 家中をひっくり返して金を探し、なんとか少しだけ見つけ出した。 そのお金で新しいランドセルを買い、住民票を持って自分で学校に入学手続きをした。 しかし、お金はすぐに尽きた。 私は仕方なく母親を訪ねることにした。 彼女は美貌を武器に再婚し、金持ちの家に入っていた。 彼女と再会したとき、彼女は地面に寝転がって駄々をこねる子どもを宥めていた。 その子どもは彼女を突き飛ばし、こう言った。 「お前なんか、俺の母さんじゃない!」 私は彼女を助け起こそうとしたが、彼女は私の顔を見るなり表情を変え、私を路地裏に引きずり込んだ。 「ここに何しに来たのよ!あんた、私が幸せに暮らしてるのが気に入らないわけ?!」 彼女は私のことを覚えていた。 自分に娘がいることも、その娘の顔も。 「お金をもらいに来たの」 彼女は私を嫌悪の目で睨みつけ、言い放った。 「あんた、あの男と

  • 浮気夫の億万財産、私に奪われる   第2話

    「おい親父、言っとくけど、俺の嫁に失礼なこと言ったら許さねぇぞ」 近藤父は怒りを抑えきれず、手を振り上げた。 「許さないだと?俺に歯向かうつもりか?!」 智也は私を守るようにして、その場から少し距離を取った。 私は彼の手を軽く叩いてから、書斎に入った。 近藤父と近藤母は椅子に座っていたが、私には座るよう促さなかった。 しばらく立って様子を見ていたが、何も言われないので、自分でソファに腰を下ろした。 私を嫌う人たちに、わざわざ愛想を振りまくつもりなんてない。 せいぜい、外の人や智也の前でだけ、嫁としての義理を見せるくらいだ。 「会社の人間から聞いたけど、あのプロジェクト、よくやったそうじゃないか」 「すべてお母様のご指導の賜物です」 陰で妨害しなければ、もっといい結果を出せたのに――そう心の中で付け加えた。 彼らは、近藤家の跡取りの妻には一定の能力を求めるが、あまりに目立ちすぎるのは気に入らないらしい。 翼が強くなれば、鳥は巣を飛び立つとでも思っているのだろう。 近藤母はゆっくりとお茶をすすりながら言った。 「でもね、今お腹の子もだいぶ大きくなってきたんだから、会社の仕事は少し控えたらどうかしら? 外で誰かに見られでもしたら、うちが嫁を酷使してるって思われかねないわ」 「私の部下がしっかり見ているから、大丈夫よ」 しばらくの沈黙の後、私は小声で答えた。 「わかりました」 近藤母は満足そうに頷いた。 他のことはともかく、近藤母は私を評価しているようだ。 度胸があって、野心もある。努力を惜しまないし、学ぶ意欲もある。 有利な状況ではすぐにチャンスを掴み、不利な状況では躊躇なく頭を下げる。 体裁なんて気にしない、その柔軟さがあるからだ。 ただ、それを理解していないのは、あのバカ息子くらいだろう。 ここ数年、目を光らせていた。 横山雪乃が近藤家の命運を握り、何か野心を抱かないように。 幸い、彼女はここ数年、近藤家のために全力を尽くしてくれた。 息子との仲も良好だし、お腹には新しい命もいる。 そう考えてから、念のため口を開いた。 「そういえば、須藤桜が帰国したみたいね」 私は部屋を出ようと

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