LOGINShare
第19話
Related chapters
永遠の毒薬 第20話
乃亜の体がふらつき、今にも倒れそうになったところを紗希が慌てて支えた。 「乃亜、大丈夫？」 乃亜は無理に微笑みを浮かべ、紗希に言った。 「大丈夫だよ。先生、新しい薬の件は私がなんとかしてみるから。じゃあ、おばあちゃんに会ってくるね」 そう言い残し、彼女は紗希を連れて病室を出た。医師はその後ろ姿を見つめ、深く息を吐いた。 ――分かっているだろうに......どんなにお金をかけても、命をつなぐだけ。それでも、なぜあそこまで必死になるんだろうか？ しかし、医師には分からない。 乃亜が守りたかったのは、祖母の命だけではない。家そのものだったのだ。 もし祖母を失えば、乃亜は家という居場所を失ってしまう。 一人ぼっちになり、もっと孤独で寂しい存在になるのが怖かったのだ。病室の中では、祖母が目を覚まさずベッドの上で横たわっていた。 体中に管がつながれていて、数年間の闘病生活のせいで、骨と皮だけになったかのような姿だった。乃亜はベッドの脇に立ち、目に涙をためていた。 紗希がそっと彼女を抱き寄せ、優しく声をかけた。 「乃亜、おばあちゃんに話しかけてあげて。私は外で待ってるから」 乃亜は小さく頷き、ベッドのそばに腰を下ろして、そっと祖母の手を握った。 「おばあちゃん、絶対に元気になってね......私を置いていっちゃったら、私、どうすればいいの？」 声が震え、目からは涙がこぼれそうだった。そのとき、看護師が点滴を交換しに部屋に入ってきた。付き添いの介護スタッフも、水を運んできて、乃亜に気づくと微笑みながら挨拶した。 「乃亜さん、いつもお疲れさまです」 「こちらこそ、いつもありがとうございます」 乃亜はバッグから封筒を取り出し、介護スタッフのポケットに押し込んだ。 「なかなか来られなくてすみません。いつも祖母がお世話になっております」 しかし、スタッフは慌てて封筒を取り出し、乃亜に返そうとした。 「いえ、そんなお気遣いは......いただいているお給料で十分ですから」 雇い主である乃亜の気遣いに感動しつつも、彼女は丁寧に断った。「いえ、どうか受け取ってください。今日は急用があるので失礼します。祖母が目を覚ましたら、すぐにご連絡をお願いしま
永遠の毒薬 第21話
乃亜は凌央と美咲の話題さえ聞かなければ、心穏やかに過ごせると思っていた。 エレベーター前に到着すると、タイミングよく扉が開いた。 目の前に現れたのは、美咲だった。 乃亜は一瞬驚き、動きを止めた。 こんな偶然があるだろうか。 「乃亜さん、私に会いに来てくれたんですか？」 美咲はにこやかに近づき、親しげに乃亜の腕に手を絡めた。声のトーンは柔らかく、まるで親友に話しかけるようだった。 乃亜は冷静に、しかし無表情で腕を引き抜き答えた。 「依頼人の一人が入院していて、様子を見に来ただけよ」 祖母がこの病院にいることを知られたくないという気持ちから、少し余計な説明を付け加えた。 「そうなんですね。私じゃないなら仕方ないですけど、せっかくお会いしたので、少しお話しませんか？私、伝えたいことがたくさんあるんです」 美咲は微笑みを浮かべながら、声をさらに柔らかくして話しかけた。その態度は、乃亜の冷淡さを意にも介していないかのようだった。 乃亜はそんな美咲を見下ろし、口元に冷笑を浮かべた。 「凌央と寝たところで、蓮見家の伝統のブレスレットをもらったところで、私と凌央が離婚しない限り、あなたはただの不倫女。それ以上でもそれ以下でもない。私と何を話すつもり？」 長い人生の中で、これほど図々しく正妻の前に出てくる不倫相手は初めてだ、と乃亜は内心思った。それが無神経なのか、それとも本当に凌央と真実の愛を築いていると思い込んでいるのか、どちらなのか。 周囲の視線が集まる。野次馬たちが噂をしながらその場に立ち止まった。 「あんなロマンチックなプロポーズが真実の愛かと思ったら、不倫男と不倫女だなんて、気持ち悪い」 「夫を奪っただけじゃなくて、家宝のブレスレットまで？奪うのが趣味なのか？」 「前にネットニュースで、裏の手段で賞を取ったって話があったけど、本当かもね」 「恥知らずってこのことよね」 そんな辛辣な言葉が飛び交い、美咲の顔から血の気が引いていった。 乃亜の前では平然と「凌央の子を妊娠している」と話せても、周囲の人々にとっては、彼女はただの恥知らずな不倫女に過ぎなかったのだ。 まるで自分が裸にされ、周囲の人々の目の前でさらし者にされたような屈辱と恥ずかしさで、美咲
永遠の毒薬 第22話
美咲は凌央の姿を見るなり、瞬時に計算したような目の輝きを見せ、勢いよく凌央の胸に飛び込んだ。 そして、か細い声で泣き始めた。 「凌央さん、ごめんなさい。私なんかがこの手首飾りを欲しがったせいで、乃亜さんをこんな気持ちにさせてしまいました！」 「医者から感情を安定させるように言われたばかりだろう。泣いて何になる」 凌央は眉をひそめ、顔には少し苛立ちの色が浮かんでいたが、声色は優しく、まるで目の前の女性を労わるようだった。 「やっぱり、この手首飾りは返します。私にはふさわしくありませんから......」 美咲は凌央の手を掴み、その手にブレスレットをそっと置いた。 その仕草にはどこか控えめで恥じらいがあったが、その裏に隠された本心は屈辱そのものだった。 ――私はこの家の孫嫁なのに、どうしてこんなにも扱いが違うのか。 美咲の胸には怒りが込み上げていた。 自分の誕生日には何一つ贈られず、乃亜には創世グループの株式と蓮見家の家宝のブレスレットが渡された。 このブレスレットは、蓮見家の「次期正夫人」としての地位を示す象徴。 それは権力、名声、財力を持つ者が身につけることを許される特別なアイテムだ。 桜華市の上流社会の中でも憧れの存在であるそれを、ずっと欲しがっていたのに。 ――どうして乃亜がそんな簡単に手に入れるのよ。 美咲は内心、ブレスレットを自分のものにしたいという願望でいっぱいだったが、凌央の前では無関心を装っていた。 「これは君にあげたものだ。一度渡したものを返してもらうなんて筋が通らない」 凌央は再びブレスレットを美咲の手に押し返した。その声は低く、落ち着いていた。 美咲はその瞬間、勝利の笑みを浮かべながら乃亜の方を見た。 ――これで私の勝ちね。 乃亜が欲しがっているこのブレスレットは、自分の手元に残る。 乃亜は静かにスマートフォンを取り出し、2人の様子を撮影しながら、笑顔を浮かべて言った。 「次に2人がベッドで愛し合うときは、ぜひ知らせてね。プロのカメラマンを連れて、証拠写真を撮るから。離婚のときに慰謝料の参考にするわ」 乃亜の笑顔はとても明るく、楽しんでいるように見えた。 しかし、心の中では悲しみが押し寄せていた。 凌
永遠の毒薬 第23話
乃亜は驚きの表情を浮かべた。 凌央の言葉の意味は...... 離婚したくない、ということ？ まさか、そんなはずがない！ 「私は別に構わないけど、お姉さんのお腹が隠せなかったら、周りから変なこと言われるかもしれないよ。その時、聞いてる人がどう思うか分からないよ」 乃亜は心の中でそう思った。こんなに寛大な妻は、なかなかいないよね！凌央は無言で乃亜を支え、次に乃亜の手首を掴んでエレベーターに無理に引き込んだ。 ドアが閉まると、凌央の大きな手が彼女の後頭部を包み込み、唇が軽く触れた。 乃亜は手で口を覆おうとしたが、彼の唇がそのまま指に落ちてきた。 一瞬の熱さ！ 凌央は冷たい声を出し、彼女の手を引き離した。 二人の唇が重なり合う。 凌央のキスはとても優しく、ほんのりタバコの香りが漂ってきて、まるでその温もりに引き込まれるようだった。 乃亜はその優しさにすっかり惹かれていた。一階に到着すると、エレベーターのドアが開き、騒がしい音が二人を現実に引き戻した。 乃亜は恥ずかしさと怒りで、凌央の胸を叩きつけた。 凌央は彼女の顔を抱きしめ、低い声で言った。「動かないで、抱えて出るから」 乃亜は言われた通り、じっとしていた。 凌央は彼女を抱きかかえ、エレベーターを出て、急いで車へ向かった。 祐史は凌央が女性を抱えて車から出てくるのを見て、一瞬驚いたが、すぐに理由を察した。 凌央が抱えている女性は二人しかいない。ひとりは蓮見家の奥さん、もうひとりは美咲さんだ。 蓮見家の奥さんは凌央に抱かれることはないし、距離を取るように言われている。 けれど、今の凌央の抱き方は、間違いなく美咲さんだ。 もしや、凌央は美咲を迎えに行ったのか？祐史は考えながらも、凌央が近づいてきて、「ドアを開けろ！」と言った。 慌てて車のドアを開けた祐史。 凌央は乃亜を車に乗せ、ドアを閉めてロックをかけると、彼女を座席に座らせ、自分もすぐに身を寄せた。 乃亜は目を見開き、彼の目に欲望が映っているのを感じて、思わず声を上げて手を振り上げた。「恥知らず！」 凌央はその頬を叩かれ、顔色を変えたが、すぐにネクタイを引き裂き、乃亜の両手を頭の上で縛り上げた。 唇を再び奪い
永遠の毒薬 第24話
乃亜は凌央に腕を掴まれたまま、彼が口にした「拓海」という名前に驚き、目を見開いた。 少し前に助けてくれた彼のことを思い出し、凌央が拓海に何か仕掛けるのではないかと心配になり、慌てて口を開いた。 「私と拓海さんは本当に何もないわ。凌央が考えてるような関係じゃない」 必死に言い訳する乃亜の様子を見て、凌央の目が冷たく光る。その手にはさらに力がこもった。 「何だよ？そんなにあいつのことが大事か？」 さっきまで自分に身を委ねていた乃亜が、拓海の名前を聞いた途端にその反応すら失う。 本当に拓海のことを庇っているのか――そう思うと、凌央の内心はさらに苛立ちを募らせた。 乃亜は彼の目に見透かされたように、体が一瞬こわばった。それでも首を振って否定する。 「違う。そうじゃない」 凌央は彼女の微妙な反応を見逃さず、眉を寄せた。 「蓮見家の嫁は、嘘をつくのが随分上手くなったな」 その低い声には、どこか鋭い危うさがあった。乃亜が他の男を心の中で思い浮かべる――それがどれほど腹立たしいことか。 だが、その瞬間の凌央は、自分の怒りの理由を深く考えようとはしなかった。 「私は嘘なんてついてない。本当に、拓海さんとは何の関係もないの」 乃亜は必死に否定した。 昨日、拓海が貸してくれた上着はまだ紗希の家に置いてある。明日クリーニングに出し、その後返す機会を探さなければならない。 もし久遠グループが拓海の帰国を知ったら、また彼女を監視するような真似をしてくるだろう。 そんなことになれば、拓海と会うどころか、上着を返すことすら難しくなる。 凌央は彼女の小さな口が言い訳を並べる様子を見て、ますます苛立った。そして、突然彼女の唇を奪った。 そのキスは乱暴で、まるで感情をぶつけるかのようだった。 乃亜は思わず体をよじらせて抵抗する。「凌央、痛い！」 その一言で、凌央の顔がさらに暗くなった。 「もう俺に触られるのも嫌になったのか？何のつもりだ？」 「違う。ただ、痛かっただけ」乃亜は慌てて言い訳をする。 凌央は彼女の顔をじっと見つめ、鋭い目で何かを見極めようとしているようだった。そして彼の目が彼女の首元に留まる。そこには赤い痕があった。 その痕跡は、色から見て
永遠の毒薬 第25話
「彼が私を抱えたのは、服が破れてしまって、あの時は恐怖で一歩も歩けなかったから。でも、車まで運んでくれただけで、その後は紗希と一緒に家に帰ったわ」 凌央が信じようが信じまいが、乃亜が言っていることは正真正銘の事実だった。 凌央は彼女の言葉を最後まで聞いたが、目は冷たいまま。 「昨日の夜、高架道路でそんな事件があったなんてニュースには一切出ていないぞ」 まるで「信じられるわけがない」と突き放すような言い方だった。 乃亜は胸の奥に、悲しみを感じた。 凌央は美咲と堂々と一緒にいて、毎日のように話題になり、子供まで作っているのに、乃亜には一言の説明すらない。 なのに、自分がこんなに心を抉るようにして真実を伝えても、彼は信じようとしない。 やっぱり、それは愛されていないからだろうか？ 「どうして黙る？嘘をつく言い訳も思いつかなくなったか？」 凌央の中では、乃亜と拓海の間に何かあると完全に決めつけていた。証拠を目にしない限り、絶対に信じることはなかっただろう。 乃亜は深く息を吸い、涙を浮かべた瞳で凌央をじっと見つめると、突然笑った。 「じゃあ、今すぐ祐史さんに頼んで、昨日夜の高架道路の監視カメラの映像と、私の病院の入院記録を調べてみてよ。私が嘘をついているかどうか、全部分かるはずよ」 一言一言を口にするたびに、彼女の心は少しずつ引き裂かれていった。 あんなに凌央を愛していたのに、今この顔を見ても何の感情も湧いてこない。 もう何年も凌央に尽くし、自分を犠牲にしてきた。それなのに――もう、それは終わりにする時だ。 凌央は乃亜の虚ろな目を見た瞬間、胸の奥がざわつくのを感じた。 もし彼女の言っていることが本当なら、自分が彼女を危険に追いやった張本人だということになる。 そんな自分を、どうしても許せるはずがない。 「凌央......私たち、離婚しましょう」 乃亜は目を閉じ、胸の痛みをこらえながら震える声でそう言った。 彼女は本気で、この愛のない結婚を終わらせたかった。 こんなふうに苦しむより、ずっとマシだと思ったから。 凌央は険しい表情を浮かべ、冷たく言い放った。 「前におじいさまの前で、一生離婚しないって約束したとき、お前も承諾したよな。今さら
永遠の毒薬 第26話
凌央は眉を軽く上げながら、冷たく問いかけた。 「それ、どういう意味だ？」 乃亜は少し笑みを浮かべながら、さらりと答えた。 「言葉通りの意味よ。とにかく、よく覚えておいてね！で、もう気は済んだ？ネクタイを外して、私を解放してくれる？」 彼女の口調は軽く、まるで何事もなかったかのようだった。 凌央は何も返さず、車のドアを開けて降りた。 祐史は少し距離を置いて立っていた。聞くべきでないことを耳にしないよう配慮していたが、それでも意識は凌央の動きに集中していた。 凌央が車を降りると、祐史は急いで近寄り、恭しく声をかけた。 「蓮見社長」 「昨日の夜、桜華市の高架道路で何があったのか調べろ。それから、乃亜がここ数日入院していた記録も確認してくれ」 凌央は乃亜の言葉を完全に信じていないわけではなかった。ただ、彼は確たる証拠を見てからでないと納得できない性格だった。 祐史は少し驚いたが、深く詮索せずに「かしこまりました」とだけ答えた。 祐史が電話をかけに行く間、凌央は車のドアにもたれてタバコを吸い始めた。 なぜか分からないが、頭の中には乃亜の首についたキスマークが何度も浮かんでくる。それが妙に胸の奥をざわつかせていた。 車内では、乃亜が座席に縛られた手を必死に擦りつけて、ネクタイを外そうとしていた。 ふと目を窓ガラスに向けると、そこにはガラス越しに見える凌央の端正な横顔があった。 この男を、乃亜は9年間も愛していた。 何度も夢に出てきたその顔。 しかし、今や二人の関係は終わりを迎えた。 その結末に直面しても、想像していたほど痛みを感じない自分に気づき、少し驚いていた。 祐史は仕事が早く、高架道路の監視カメラの映像をすぐに入手した。 凌央はパソコンを受け取り、動画を再生した。 2本の映像をすべて確認するのに30分ほどかかった。 その間、乃亜は手首に巻かれたネクタイをどうにか外し、素早く身なりを整えると、車のドアをそっと開け、気づかれないように静かに車から飛び降りて走り去った。 背後で聞こえた物音に気づき、凌央は振り返った。 彼女の姿が目に入り、祐史がすぐに追いかけようとする。 しかし、凌央は冷静に言った。 「追わなくていい。
永遠の毒薬 第27話
「蓮見社長が奥様にお話したい大事な件があるので、事務所まで来ていただけませんか？」 祐史の低く丁寧な声が電話越しに聞こえた。 乃亜は少し眉を上げ、冷静に答える。 「今、仕事が忙しいの。もし本当に急ぎなら、そちらの社長にこちらまで来てもらって。急ぎじゃないなら、私が仕事を片付けてからでいいでしょう」 以前の乃亜なら、祐史から電話が来た時点ですぐに荷物をまとめ、凌央のもとへ向かっただろう。 乃亜の中では、凌央の優先順位がいつだって一番だったからだ。 けれど、今はもう凌央との離婚を考えている。 彼に従う理由なんて一つもない。 仕事を放り出して彼に会いに行く？そんなことはもう二度としない。 「分かりました」 祐史は仕方なく電話を切り、社長室に戻ってそのまま報告した。 凌央は、乃亜が自分に会いに来るのを断ったことに少し驚いた。 以前の彼女なら、理由もなく頻繁にオフィスに来ていた。 手作りのクッキーやケーキ、ミルクティーを持ってきて、笑顔で「差し入れです」と言っていた姿が、ふと頭をよぎる。 「本当に『大事な話』があるって伝えたのか？」 そう尋ねる凌央の声には、明らかに疑念が含まれていた。 祐史はすぐにうなずく。 「もちろんです」 彼も有能な秘書だ。たった一つの伝言を伝えられないなど、ありえない。 凌央は眉間を揉みながら短く指示を出した。 「今からおじいさま名義の創世の株式を乃亜名義に移す。担当者を手配して、今日中に手続きを完了させろ」 乃亜が来ない理由は、きっとあのブレスレットの件で機嫌を損ねているからだ――そう凌央は考えていた。 だが、創世の株式を譲れば、彼女も怒りを収めるだろう。 祐史は指示通り、必要な手続きを進めるために部屋を出ていった。 凌央は一息ついてからお茶を飲み、心を落ち着けて、直接乃亜に電話をかけた。 その頃、乃亜はアシスタントと案件の詳細について議論していた。 電話の画面に凌央の名前が表示されると、思わず眉をひそめた。 さっき祐史に断りを入れたばかりなのに、どうして直接電話をかけてくるのだろう。 そんな乃亜の様子を見て、アシスタントが軽く冗談を言った。 「どうしたんです？電話に出ないなんて
Latest chapter
永遠の毒薬 第187話
拓海父と拓海母は視線を交わしたが、二人の考えは全く違っていた。 拓海父は心の中で思っていた。拓海と恵美が結婚すれば、今後は凌央とも家族になれる。 もし田中家が創世グループと提携できれば、田中家の未来に大きな利益がもたらされるだろう。 一方、拓海母はこう考えていた。拓海が恵美と結婚すれば、もう乃亜への未練も完全に断ち切れるだろう。 息子は自分が育てた。彼の性格はよく分かっている。責任感が強く、情を大事にする。ただ、唯一の欠点はあまりにも一途過ぎることだ。凌央は冷たい声で言った。「いつ食事が始まる？乃亜はもうお腹がすいているだろう」 乃亜はいつも決まった時間に食事を取っていた。毎晩6時半にきっちり食事が始まる。 結婚当初、乃亜は毎日彼が帰るのを待って一緒に食べ、食事を温め直していた。だが、しばらくすると彼女はもう彼を気にせず、食後はすぐに片付け、彼が遅く帰ってきても食事を用意しなかった。 今は8時近い。きっとお腹がすいているだろう。 体調も良くないし、これ以上空腹が続いたらどうなるのか。乃亜はちらっと彼を見た。心の中で冷笑を浮かべた。 両親は自分の命すら気にかけていないのに、どうして彼が自分の腹を心配するのか。 凌央が「お腹がすいている」と言ったところで、両親はきっと適当に流して終わるだろう。久遠母は乃亜が腹をすかせていることを聞き、反射的に言った。「お腹がすいてたら死ねばいいじゃない！」 あんなに意地が悪い子、誰が心配するものか。凌央は冷たい目で久遠母を見つめ、ますますその冷気が強くなった。 結婚してすぐに、乃亜の背中に大きな傷があることに気づき、彼は尋ねた。「これはどうしたんだ？」 乃亜は「母にやけどさせられた」と答えた。 凌央は耐えきれず、二人のDNAを調べた。親子だと分かったが、なぜ母親がそんなことをするのか理解できなかった。 その後、乃亜にはその傷を治すように勧めた。久遠父は凌央の冷たい視線を感じ、急いで久遠母に向かって怒鳴った。「今すぐ料理を出すように言え！」 怒鳴った後、久遠父はすぐに凌央に向き直り、にこやかに言った。「凌央、先に座って。すぐに料理が出るから」久遠母は凌央の視線にビクっとなり、久遠父に怒鳴られて急いで去った。心の中で乃
永遠の毒薬 第186話
拓海は眉をひそめ、恵美の手を引き剥がして言った。「座って」 彼と恵美の関係は...... ただの取引に過ぎない。 他人に愛を見せつけることが、どれだけ自分を不快にさせるか、拓海はよく分かっていた。「この個室はみんな自分たちの身内よ、拓海、そんなに恥ずかしがらないで！」 恵美は拓海の不機嫌な顔を無視して、再び彼の腰に腕を回し、甘く柔らかい声で言った。 乃亜には負けたくない。それだけが彼女の思いだった。香水の強い香りが鼻をつき、拓海の優しい表情が一瞬で冷たくなった。 彼は恵美を押しのけ、立ち上がって言った。「ちょっと外で煙草を吸ってくる」 このままだと、怒りを抑えきれなくなりそうだった。 温かい一面を壊したくなかったから、少し空気を入れ替えたかった。「拓海！行かないで！」 恵美は怒りで立ち上がり、彼の腕を掴んで引き止めた。 もし拓海が出て行ったら、恵美はどうすればいいのか分からなかった。 彼女の面子が潰れてしまう。拓海母は少し顔をしかめた。 恵美はわがままで、何も分かっていない。 こんな女性が、田中家の奥様になる資格があるのか。久遠父は眉をひそめ、久遠母に目を向けた。 久遠母は急いで恵美を座らせようと立ち上がり、「早く座りなさい！こんなところで恥を晒すな！」 恵美は不満そうだったが、久遠母は強引に彼女を椅子に押し込んだ。 「もう、騒がないで！」 久遠母は恵美が拓海を失うことを恐れているのは理解していた。 でも、この場で恥をかくわけにはいかなかった。田中家はまだ恵美を迎え入れると決めていない。 こんな風に騒いでしまうと、また結婚の話が延びてしまうだろう。恵美は久遠母が怒ったのを見て、渋々座り込んだ。 久遠母は一度恵美を見てから拓海に向かって言った。「拓海、煙草を吸ってきなさい」 拓海は立ち上がり、凌央の前に歩み寄った。 乃亜の顔を一瞬見、凌央と目を合わせた。 「最近、蓮見社長はお忙しいんじゃないか？どうしてわざわざこちらへ？」彼は凌央が来るとは思っていなかった。 彼はあんなに忙しい人だから。「お義母さんから電話があって、今夜は結婚の話をするから、乃亜と一緒に来たんだ」 凌央は少し皮肉な笑み
永遠の毒薬 第185話
乃亜は今、凌央の妻という役割を「仕事」としてこなしているだけだろうか？ 彼女は彼に合わせている。 愛しているわけではない。 これが本当の彼の望む結果だというのに、なぜか彼は嬉しくない。乃亜は膝の上に置いた手を見つめ、感情の波が立つことはなかった。 彼女は常に仕事に真摯だ。 ましてや、この「仕事」は菜々子の治療に繋がる。 菜々子が元気になるなら、どんなことでもやる覚悟だ。凌央は機嫌が悪く、車を速く走らせた。 その間、二人の間に一言も言葉は交わされなかった。 凌央も言わず、乃亜も何も言わない。 やがて、車はレストランの前に停まった。 車をドアマンに預け、凌央は乃亜に腕を差し出した。 「腕を組んで」 乃亜は一瞬彼を見て、すぐに腕を差し出した。 まるで「仕事」をしているかのように。「顔をしかめないで、笑顔を作って」 凌央は彼女の顔を軽くつまみ、少し力を込めた。 乃亜は眉をひそめた。 幸いにも薄化粧だったので、化粧が崩れることはなかった。 「お姉さん、凌央さん、いらっしゃいませ。早く中にどうぞ！」 恵美の声が聞こえ、乃亜は顔を上げた。 恵美は赤いコートを着ており、それが彼女の肌を余計に暗く見せていた。 出かけるとき、凌央にどこで食事をするのか聞かなかった。 まさかここに連れてこられるとは思わなかった。 今の自分の役割を理解している乃亜は、心を落ち着けていた。 結局、これはただの「仕事」だ。 感情を乱さないようにしよう。「お姉さん、顔色が悪いけど、大丈夫？」 恵美が甘ったるい声で言いながら、乃亜をじっと見つめた。 幼い頃から周りの人たちは乃亜の美しさや才能を褒めていた。 その一方で、恵美は陰で陰口を叩かれ、ずっと自分が脇役だと感じていた。 彼女は乃亜に嫉妬し、消えてしまってほしいと願っていた。凌央はふと顔を向け、乃亜を見た。 「化粧が濃すぎる。顔色が悪く見える。次からは化粧しないで出かけろ」 女性は元々美しい。 化粧でさらに輝くけれど、彼はどうしても彼女を隠したくなる。 誰にも見られたくない。「分かった」 乃亜は素直に答えた。 これはただの演技だ。
永遠の毒薬 第184話
乃亜は言葉を詰まらせ、何も言えなかった。 凌央を怒らせると、彼が医療チームを引き上げてしまうかもしれない。 そうなれば、菜々子は治療を受けられず、ただ死を待つしかなくなる。 「そんなに怒ってるのか？俺を殺したいのか？」凌央は乃亜の表情を見ながら、唇を指で押さえながら、はっきりと言った。「結局、お前が弱いから、俺に簡単に操られるんだ」 乃亜は深く息を吸った。 その通りだった。 もし強ければ、彼から離れたいと思った時に、すぐにでも離れていたはずだ。 でも、彼女はそれができなかった。 「言っただろう、俺のそばにおとなしくしてろ。不必要な考えを抱くな。さもないと、お前のおばあさんは死を待つことになる」凌央は言い終わると、背を向けて歩き去った。 以前は、凌央が欲しいと思えばすぐに手に入った。彼女は彼の言うことを素直に聞いた。 でも今、乃亜は拒否するようになった。彼が何かを言っても、彼女はためらう。 凌央は、乃亜を自分の手から逃がすわけにはいかない。 どんな手段を使ってでも、彼女を完全に支配したいと思っている。 凌央が菜々子を脅していることに、乃亜は胸が締めつけられるような気持ちになった。 でも、泣いてはいけない。 心を落ち着けて、乃亜は鏡の前に立ち、髪を梳き、化粧を始めた。 その頃、車の中で凌央は電話をしていた。 車のドアは開いていて、彼の顔の半分は灯りに隠れ、輪郭だけが見えた。 乃亜は、彼が美咲と電話をしているのだろうと察した。 美咲との会話の時だけ、彼はこんなに優しい表情をするからだ。 思わず、足を止めた。 邪魔をするのは嫌だったからだ。 彼に近づいても、ただ不快な思いをさせるだけだろう。 電話を終えた凌央は、振り向き、乃亜と目が合った。その瞬間、何とも言えない喜びを感じた。 昔のように毎日、帰宅すれば彼女の顔を見ることができた。それが、彼にとっては心の安らぎだった。 その感覚を久しぶりに感じていた。 「こっちに来て」凌央は淡々と手を招き、微かに笑みを浮かべた。 その時、彼は幸せな気分だった。 乃亜は静かに歩み寄り、落ち着いた表情で彼の前に立った。 数分前の短い時間で、彼女は心の中がすっきりした。
永遠の毒薬 第183話
なんで凌央がスピーカーモードにしたんだろう、わざわざ自分から苦しむようなことをするなんて。 乃亜は心の中でそう思いながら、凌央の言葉を振り返った。 「医者が言っただろ、感情を抑えるようにって。聞かないなら、もう知らないからね」 「凌央、私はそんなに感情的じゃないよ。ちゃんとお医者さんの言うことを聞くから、お願いだから放っておかないで」 美咲は涙がこぼれそうになるのをこらえながら、必死に言った。声には涙を堪えている気配が混じっている。 「わかった、少し休んで。暇ができたら顔を見に行くから」 凌央はやはり心配そうで、最後には折れて言った。 「ありがとう、凌央。体に気をつけてね。待ってるから」 美咲は笑顔を作り、涙を堪えて言った。 乃亜は深呼吸をし、急いで部屋を出た。 心の準備はできていたつもりだったけど、二人の会話を聞くと胸が痛んだ。 凌央は乃亜の背中を見送り、軽く頷いて電話を切った。 携帯をしまい、部屋を出た。 乃亜は浴室にこもり、服を着替えながら胸が痛み、吐き気を感じていた。 そのとき、ドアをノックする音がした。 「何か用？」乃亜は警戒心を込めて答える。 「着替えは終わったか？」凌央はドアをノックしながら、ドア越しに乃亜の姿を見ていた。 乃亜が気づいているかどうか、凌央は抑えきれずに気持ちがざわつく。 結婚当初、凌央は欲求が強かった。初めての夜は特にその傾向が強かったが、あるとき裕之と一緒に夢幻館で数人の女性を呼んだ。しかし、結局その女性たちの香水の匂いに耐えられず、凌央は女性たちを追い出してしまった。それからというもの、どんな女性とも関係を持たなかった。 それでも乃亜に対しては、結婚して三年が経った今も強く惹かれ続けている。なぜ彼女にこんなに惹かれるのか、凌央は未だに分からない。 「急いでるなら先に行ってもいいよ、気にしないで」 乃亜の穏やかな声がドアの向こうから聞こえてきた。 凌央は唇を噛みしめ、「出てこないなら、ドアを壊すぞ」と少し不満げに言った。 彼女の体、もう何度も見てきたはずなのに、どうしても抑えきれない気持ちが湧き上がってくる。 乃亜はすぐにドアを開け、顔を出した。「髪がファスナーに引っかかって、ちょっ
永遠の毒薬 第182話
凌央は頭に来ていて、当然彼女には自分でやらせる気はなかった。 「おとなしく立っていろ。さもないと、どうなるか分かっているだろ？」 低い声で脅しながら言った。 乃亜は心の中で少し不安になった。顔が青ざめ、弱々しく言った。「お腹が痛いの、からかわないで......」 凌央は冷たい目をし、少し疑いを込めて彼女を見た。「またお腹が痛いのか？お前、よくそう言っているな」 彼の視線には疑念が浮かんでいた。 乃亜は内心で焦ったが、表情には出さないように必死だった。彼を睨みつけ、少し怒ったように言った。「あんたが昨日あんなに激しくしてくれたおかげで今も痛いんだよ」 果たして凌央が信じるかどうかは分からないが、乃亜は何とか自分の不安を抑えた。 凌央は唇を引き締め、少し笑みを浮かべた。「お前、俺と寝るのは初めてじゃないだろ？激しいかどうか、前から分かってるだろう？」 乃亜の言葉が少し彼の気分を良くさせ、冷徹だった彼の態度が少し和らいだ。 乃亜はその隙に彼を軽く押しのけて、「元気になったらまた考えてくれる？」と甘い声で言った。 その柔らかい言葉と、可愛らしい目がとても魅力的だった。 「この前みたいに......」凌央は彼女の耳元で低い声でささやいた。乃亜はすぐに顔を赤くし、慌てて言った。「さっさと出て行って！着替えるから！」 あの時、手が疲れていてすごく痛かったから、絶対に嫌だ。 乃亜の恥じらいの表情を見た凌央は少しドキドキし、彼女を抱き寄せ、唇に軽くキスをした。「ほら、俺が見て、お前も見て」 その顔は、まるでイケメンでちょっとしたチャラ男のようだった。 乃亜は顔をそむけ、衣装棚に向かって歩き、淡い色の長いドレスを手に取って外に出ようとした。 彼の前で服を脱ぐ勇気はまだない。 凌央は彼女の腕をつかんで引き寄せた。「乃亜、どこに行く？」 乃亜が答えようとしたその時、携帯が鳴った。 彼女は口元に軽い微笑みを浮かべ、「先に電話を取って」と言った。 凌央は眉を一つ上げ、乃亜を見た後、「待ってろ。すぐに電話を取る」と言った。 乃亜は軽く笑って言った。「いいわ、電話を取ったら待っているわ。でも、スピーカーモードでね！」 彼に待たせるなら、堂々と聞いてやる！
永遠の毒薬 第181話
乃亜は男の冷徹な目を見つめ、胸に鈍い痛みが走った。 しばらくしてから、静かに口を開いた。「美咲が苦労して授かった子供、ちゃんと大切にしなさい！私は生みたくないけど、だからと言って私を見下しているわけじゃないってことをわかって！」 そう言うと、彼女は力強く男を押しのけ、エレベーターを出た。 彼は美咲が妊娠して苦しんでいるのを気にかけてはいたが、彼女をまるでただの出産道具のように扱っていた。 こんなに差があるとは。 すでに美咲に子供を産ませるつもりなら、わざわざ彼女を探す必要なんてなかった。 凌央はすぐに追いかけて、彼女の腕を掴んで冷たく笑った。「お前には決めさせない」 乃亜は気分が悪く、あまり話したくなかった。彼の手にかみついた。 男は痛みに顔をしかめ、手を放した。 乃亜はその隙に走り去った。 凌央の顔が曇り、彼女の背中を見つめていた。 この女、ますます手に負えなくなってきた。 その時、電話が鳴った。 凌央は目線を戻し、電話に出た。 「凌央、取引しよう」電話の向こうから男の挑戦的な声が聞こえた。 「興味ない」一言で拒絶した。 「奥さんのことには、興味ないのか？」男は最後の言葉をわざと引き伸ばした。 凌央は眉をひそめた。 乃亜が彼に接触してきたのか？ 予想以上に手強いようだ。 「興味がないなら、この取引はなしだな」凌央の沈黙に相手は不安になり、無理に話を続けようとはしなかった。 「言え」凌央は乃亜が何を企んでいるのか、確認したかった。 「どこかで会って話そう。一言二言じゃすまない」 「場所はお前が決めろ」 相手はすぐに住所を送ってきた。凌央は乃亜に電話をかけた。 何度もかけてようやく乃亜が出た。 「何か用？」不機嫌な声が返ってきた。 「今から服を着替えて、少し出かけよう」凌央はそう言って電話を切った。 今夜、拓海と恵美のことを話すつもりだ。彼女に二人の幸せを見せて、拓海への未練を断ち切らせるためだ。 彼は卑劣だと認めるが、もしこうしなければ、拓海と乃亜はずっと絡み合い続けるだろう。 乃亜は疲れを感じながら、タクシーで御臨湾に帰った。 小林は彼女の様子が悪いことに気づき、心配そうに声をかけ
永遠の毒薬 第180話
乃亜は少し迷った後、彼に尋ねた。「休暇を取るのは美咲の意見？それともあなたのお母さんの意見？」美咲が言ったことは、一言一句覚えている。「俺の意見だ！」凌央は乃亜の顔を軽くつまんで言った。「家で子供を作る準備をしてもらいたいんだ」乃亜の目が一瞬大きく見開かれた。「本気で子供を作りたいの？」どうしても、凌央が乃亜を試しているように感じてしまう。心の中で少し不安がよぎった。「前に言っただろ？子供を作ろうって」凌央はシンプルに、乃亜が子供を産むことで二人の関係が強くなると考えていた。彼は離婚したくないし、他の女性とも関係を持ちたくない。たとえ乃亜を愛していなくても、彼女と一緒に余生を過ごすつもりだった。「私が子供を作る前提に、あなたが美咲と完全に絶縁することがあるでしょう！でも、まだ関係は断ち切れていないわ。だから、今は子供を作る気にはならない！それに、私は明日から紗希のスタジオで働くことに決めたわ。妊活は急がない！」乃亜は冷静に、何の感情も込めずに言った。凌央がどうして乃亜に試練を与えているのか、乃亜はその意図を簡単に許すつもりはない。第一に、凌央と美咲の関係が曖昧で、このまま続けば、乃亜は耐えられなくなり、いずれ離婚する。第二に、凌央が言っている休暇の意味がわからない。もし長期間休んでいることになれば、必ず仕事を見つけなければならないだろう。もし妊活を受け入れることになれば、家にいることが強制される。それは乃亜にとって非常に苦痛だ。「美咲のことを片付けたら会わないって言っただろう？今、子供を作れって言って、俺と美咲の関係を断ち切らせるつもりか？乃亜、お前、少しやりすぎだろう！」凌央は顔をしかめ、怒りを隠しきれなかった。乃亜は微笑んで言った。「あなたにとって、子供は蓮見家の後継ぎ、産まれたら何もかも任せておけばいいって感じなんでしょう？」「家には女中がいるし、子供が生まれたら、育児専門の保育士や栄養士も雇う。お前が育てたければ育てればいいし、そうでなければ彼女たちに任せればいい。お前が働きたいなら、それを邪魔するつもりはない。何か不満でもあるのか？」凌央は冷静を装っていたが、乃亜の言い方に少し不満を感じていた。彼にとって、結婚した女性は必ず子供を産むべきだと思っていた。乃亜には最良の環境を与えているはずなのに、な
永遠の毒薬 第179話
電話の着信音が鳴り、凌央の思考が中断された。携帯を取り出し、美咲からの着信だと確認した。眉をひそめ、電話に出た。「何かあったのか？」「凌央、病室に誰かが飛び込んできて、私を殴ったの！怖くて......」美咲の声は震えていて、涙声だった。凌央は眉をひそめた。「どうしたんだ？」「私もよくわからないの！いきなり病床に走ってきて殴られて、それからみんな逃げていったの！」凌央は目を細めて言った。「山本に電話して、調べさせる」「凌央、私のところに来てくれない？私怖くて......」美咲の声は震えており、恐怖が伝わってきた。「今は無理だ。山本を送るから」凌央はそのまま電話を切った。電話の向こうで、美咲はベッドに横たわり、顔色が青ざめていた。乃亜が一体、凌央に何をしたのか。なぜ今、凌央は自分を無視しているのか。許せない、乃亜には必ず対価を払わせるべきだ。凌央は山本に電話をかけた後、乃亜を探しに行った。病室で。菜々子は目を覚ましたが、非常に弱っていて、声を出す力もなかった。彼女の目は乃亜を見つめ、何か言いたげだった。乃亜はその姿を見て、胸が痛んだ。「おばあちゃん、しっかり休んで、早く元気になってくださいね！」乃亜は声が震えているのを感じた。菜々子は唇を動かしたが、声は出なかった。代わりに涙が溢れた。乃亜はその様子に胸が締め付けられる思いだった。菜々子の手を握りしめ、「あなたが言いたいことは分かっています！私も大丈夫です！子供のことも、必ず待ちますから！」と言った。菜々子は手を上げようとしたが、途中で力尽き、また手は下がった。乃亜は耳を近づけて、「何か言いたいことがありますか？」と静かに尋ねた。「乃亜ちゃん、ここを離れなさい！」菜々子は全力を尽くして、その言葉を絞り出した。乃亜は菜々子の顔を見つめ、重く頷いた。「おばあちゃん元気になったら、ここから一緒に出て行きましょう！」今、凌央が医療チームを呼んで菜々子の診察をしている。きっとすぐに回復するだろう。菜々子が回復したら、一緒に小さな町で出産の準備をするつもりだ。菜々子は涙を流し続けた。乃亜が自分のために幸せを犠牲にしている......それを見て、菜々子は心が痛んでいた。その時、凌央が近づき、乃亜の肩に手を置いた。「おばあさんはか
