(魔王スカード、もうなんでもありだなコイツ……。流石は魔王といったところか?)
「他にも、魔王スカードは手をかざして更に強力な衝撃派を放つ事も出来るわ!」
「り、了解っ!」
「の、のじゃっ!」俺達がそんなやり取りをしていると、魔王スカードは何やら胸に着けているペンダントを握っているではないか?
「……もう、容赦せんっ! サイファーっ!」
「はっ!」な、何だ?
(魔法が封じられている今、契約魔法も当然使えずサイファーを雷銃『ハウリングヘヴン』にすることも出来ないはずだぞ?)
よく見ると、魔王スカードが身に着けているそのペンダントはまるで血の様に真っ赤に染まっているではないか……!
「あっ、あれは、『天罰の涙』っ! まっ、マズイ!」
(くそっ、ザイアード兵の大軍が殲滅されている今、発動条件が整ってしまっている!)「……だが、まだ間に合うっ! ノジャっ、幸い魔王スカードは今隙だらけだ!」
「のじゃ!」ノジャは返事と共に、魔王スカードに向かって容赦なくブレスを放つ!
このブレスは一瞬でザイアード兵百体を葬れる威力!
今回は盾となるうるザイアード兵も遥か後方にしかいないため打つ手なしだろう。
(頼みの綱であるサイファーも魔法が使えない今、盾にはなり得ないし、流石のスカードも無傷ではすむまい! とったぞっ! 魔王スカードっ!)
ノジャの高威力のブレスが魔王スカード達を襲う……!
「勝ったっ! やったぞ! 雫さんっ、ノジャっ!」
俺は歓喜の声を上げ雫さんの顔を見るが……?
「雫さん?」
が、しかし、雫さんの顔は俺とは対照
「い、いかん! 守様を助けろ! 全軍陣形を『魚鱗の陣』から攻めの『鋒矢の陣』に移行しつつザイアード軍の殲滅に迎え!」 その様子を遠目で見ていた宰相ガウスは、瞬時に守達の危険を察知しファイラス全軍を救助に向かわせる!「ははっ!」 ガウスの必死の号令と共にファイラスの大軍10万が一斉に動き出す!「騎馬兵よ! 多少陣形が乱れても構わん! 守様を急いで助けよ!」「ハアッ!」 ファイラス騎馬兵1万がガウスの命令に従い、一斉に動き出す!「ガウス様っ! 魔法が使えるようになった今、我が魔法兵団1万も騎馬兵の後ろに相乗りさせ、支援に向かわせます!」 魔法兵将ウィンデーニも機転を利かし、ガウスに助言する。「おうっ! そうだな! 少し変更だ! 騎馬兵は魔法兵を各自1名後方に乗せ移動しろ! ウィンデーニは俺の馬の後方に乗れ!」「ははっ!」「守様っ! どうかご無事で……!」 ガウスとウィンデーニは心の中で祈りながら、君主の救出に急いで向かうのであった。 一方こちらは再び、守達。 ノジャは地面の着地の瞬間、衝撃を和らげるために両足を何とか踏ん張っていたようだが……?(ノジャは大丈夫だろうか?) 正直、とても心配である。「屈強なる我がザイアードの兵達よ。主戦力のドラゴンが弱わり魔法が使えるようになった今が絶好の攻め時である! 全軍死に物狂いで突撃せよ!」「おおっ!」 朗々と吠え、草原に響き渡る魔王スカードの鼓舞! それに答えるは今までの死地を生き抜いてきた歴戦の猛者ザイアード千の兵! その猛者共が空から地上から俺達を襲ってくる!(まっ、まずいっ! スカードがこれ幸いとばかりに、突撃命令を出してきた……! が、どうする? いや、俺はどうすればいいんだ?) 数は圧倒的に我がファイラスが10万と優勢ではある。 が、魔法が使えるように
俺は涙を拭いながら、急いで腰に下げていた愛用の魔法剣を抜剣する。(魔王スカード達は何処だっ!) 俺は素早く魔王スカードとサイファーを見つけれたが、驚いた事に浮遊魔法で遥か上空に浮ている⁈「チャンスよ、守さん! コンヤニはもう足が使えないから、戦力半減よ!」 雫さんは魔法の弓に矢をつがえ、力強く叫ぶ!「え? どゆこと?」 「さっきサイファーが使用した高速移動『雷虎疾風』は魔法無しでも使えるんだけど、魔法無しで使うとその反動として足が歩けないくらいボロボロになるのよ」(そ、そうか! 『天罰の涙』が効果を発揮出来ればザイアード側の勝利は確定だっただろうから、サイファーは賭けに出てた訳か!) サイファー、見た目は強面のトラ頭の亜人だけど中々知恵が働く大胆な奴だ。 が、『天罰の涙』の効果が相殺されたのは魔王スカード達にとっては大いなる誤算だったのだろう。 ということでだ……。 俺は剣の切っ先を頭上にいる魔王スカード達に向け、大声で叫ぶ。「覚悟しろ、魔王スカードっ!」「……クク、これは少々俺達が不利かもしれんな……」 「……少々? ふざけるな! お前の負けは確定している魔王スカードっ!」「クックック……。守、お前やはり面白い。そして俺にとって最高の存在だ……!」 魔王スカードは不敵な笑みを浮かべ、遥か上空から俺達を見下しているが……? 奴のこの余裕、決してブラフとは俺は思えない。(まだ奴らには何か切り札的な物があるというのか……?)「サイファー、余興だ……。久々にアレをやるが魔力はまだあるか……?」 「ははっ! スカード様っ! いけますっ!」 魔王スカード達は上空にいるまま横並びになり、それぞれ両手を自身の胸元の心臓の位置に当てる。「我スカード汝と契約せしもの……」 スカードの声がその場に朗々と響き渡る……。「我サイファー主と契約せしもの……」 更にはサイファーもそれに習い魔王スカー
「待たせたな守! 悪い、ザイアード城内の負傷兵を片付けるのに結構手間取った! って? お前達を覆っているその不思議な赤い光は何だ?」「おせーよ学! この光はリタイヤしたノジャの恩恵だ、察しろ! でな、例の予定は変更し、俺と学だけで例のやつをやるぞ!」「な……? わ、分かった!」 学はノジャの事に動揺しつつも軽く頷き、俺の近くに着地する。「じゃ、俺達もやるぞ!」「おう!」 俺と学は横並びになり、それぞれ両手を自分達の胸元の心臓の位置に当て契約呪文を唱えていく。「我守汝と契約せしもの……」 俺の声が戦場の剣劇の金属音と共に朗々と響き渡る!「我学主と契約せしもの……」 そして学も俺の声を追う……。 (ついにこの技を出すときがきた! 対魔王スカード用に磨いたこの技をっ……!) 俺は学と共に呪文の詠唱をしながら、数か月前の事を思い出していた。 ♢ そう、あれは火山でノジャと初めて出会ってしばらくした後の事……。 俺と学は戦闘の訓練をファイラス城下町出入口から少し離れた平原にて行っていた。「あ、守君ちょっといいかな?」「のじゃっ!」 そんな最中、雫さんとノジャがこちらに向かって小走りでかけよってくる。 「あ、うん」 俺達は訓練を中止し、雫さんの話に耳を傾ける。 雫さんは何やら手に分厚い本を持っているのが気になる。 俺の視線に気が付いた雫さんは、俺に向かってにっこりと笑いかける。「えっと、ファイラス王国の文献を調べたらね、実はノジャちゃんと契約している者はノジャちゃんが変身した鎧や武器を装着出来るらしいの!」「なるほど、ウェポンアームドやアーマーアームドが出来るのか! かっけえな!」 学は雫さん
闇夜に走るは1台の漆黒のスポーツカー。 そう、俺【月神 守】は大学の親友達と車で深夜の山中をドライブの真っ最中だったりする。「わあ、夜風がひんやりとして、とても気持ちいいですね……」 俺の隣の助手席に座っているのは【風見 スイ】さん。 彼女は夜風に静かになびくセミロングの銀色の髪に手をそっと当て、サファイアのように澄んだ青い瞳でこちらを見つめ、ほがらかに笑っていた。 よく見ると童顔を感じさせる二重の大きな瞳に細長い眉、彼女の小柄な体形と血色の良いもち肌、そしてふっくらとした丸みを帯びた顔と胸に合ったは小動物的な癒しを感じさせる。 「今日着ている紺色のギャザーワンピがまた彼女にはとっても似合っている」と俺は「ですよねー!」と力強く返事しながら、ウンウンと頷き自身で納得していた。 あ、でさ! 実はこのドライブには目的があるんだよね! 結論から言わせて頂くと、「スイさんへの告白をかねて」のドライブデート中なんだ! まー情けない話だけど、親友にお膳立てしてもらったんだよね。(いやーホント持つべきものは良い友……) 「風も気持ちいいけど、俺ともっと気持ちいいことしませんか? なーんつって!」「……」 後部座席から訳の分からない言葉が聞こえ、その後静かなエンジン音が車内に響き渡るのが分る。(こ、こいつっ! まじかっ⁈) 色々と、台無しである……。 だからか、俺の額にじんわりと変な汗が滲み出てくるのが分る。 あ……、で今、後部座席から訳の分からない人語を発したのが、色々お膳立てしてくれた悪友の【星流 学】。 学は御覧の通り剛速球な会話を得意とし、パーソナルスペースというものは一切なく、両手を広げ土足で人の心の領域に踏み込んでくる。 体の線は細いが馬鹿力を持っており、かつ武道の実力は相当なもので空手の師範代持ちだったりする。(他人を思いやる優しい一面もあるんだけどね……) 性格に反して顔と雰囲気は整った中性的であり、髪は薄い茶髪のオールバック、目は二重のアーモンド形の薄い茶色の瞳が特徴的だ。 こいつの今日の服装は紺色のジーパンに灰色の長袖ポロシャツで、脳みそと同じで非常にシンプルだ。 「ごめんねスイ、こいつアホだから今の会話は軽いジョークと思って、軽く聞き流して?」「ひ、ひどっ⁈」 その馬鹿とは対照的に、今度は後部座席から
……。「う、うあああ――――――⁈」 落下の感覚を思い出した俺は絶叫を上げ目を覚ます。 気が付くと俺は白いベッドに寝ていたのだ。(は、ははっ、夢かあ……。そ、そうだよなあ、よ、良かったあ……) 俺は額の汗を拭い、落ち着く為に呼吸を整え、ゆっくりとベッドから起き上がる。(ん? しかし、なんか変だな?) 俺はその得も知れぬ直感を確認すべく、周囲をよく観察していくことにする。 ベッドと枕はフカフカだろ。 頭上を見上げると高級感漂うシャンデリアが吊し上げられていし、部屋は一室でプール並みに広い。 更にじっくりと観察していくと、白壁には高級感漂う名画っぽい絵、部屋の壁際には無数の重量感を感じる鎧の置物などの装飾品が飾ってある。 どう考えても一人暮らしの狭い俺の部屋ではない。(この感じ、どこかの豪邸か高級ホテル? ってか俺達確か事故にあって崖下から落ちていたよな? てことはもしかして助かったのか?) と……とりあえず、顔を洗って頭をスッキリさせよう。 そうだ、そうしよう……。 俺は洗面所にゆっくりと移動し、深いため息を吐いた後、顔を洗うため鏡を見つめる。「うっ、うわああああああああああああああ――――――?!」 思わず反射的に絶叫してしまう俺。 何故かって? だってその鏡には映画やアニメで見た立派なねじくれた角を二本生やした悪魔? が映っていたからだ!(し、しかも、顔は俺に瓜二つ?! な、なななにが? ど、どどどっどうなってっ⁈) 俺は再びパニックに陥ってしまう。(お、落ち着け俺っ! と、とりあえず、こんな時は深呼吸だ、深呼吸っ!) 俺はゆっくりと息を吐き吸い込み、ある事に気が付いてしまう。(し、心拍数がふ、複数っ! て、ことはま、まさか、心臓が複数あるのか? じ、じゃあ鏡に映ったアレは?) 俺はそれを確認すべく、おそるおそる再び鏡に映った自身を見ようとするが……。「ど、どうしましたっ? マモル坊ちゃま?」 鏡越しで分ったことだが、勢いよく俺のいた部屋の扉が開き、聞き慣れない低い声が聞こえてくる? なんと驚いたことに、鏡越しに見えたのは、『羊のような角を生やした年老いた白髪メガネ黒服の執事』だったのた⁈「う、うーん……」 俺は頭の処理が追い付かず、かつショックで目の前が真っ白にな……る……。「……?」 「…
それから数時間後、ここは俺の魔王部屋。「ま、学うー……。良かったなー無事で」 「ははっ……。お前こそ……な」 真っ赤なソファーに仲良く腰掛け、俺達はしばらく再会の会話を楽しんでいた。 この会話で分かったことだが、この世界では不思議なことにどの種族間でも言語が統一されているらしい。 早い話、ドラゴンでも、魔族でも、人でもある程度知恵があるものなら会話が可能のご様子。 うんまあ、異世界転生あるあるだし、正直便利に越したことないしどうでもいいかな。(そんな事より、この悪友が長男と言う事実が俺には一番ビックリニュースだったけどね。うんまあ、嬉しいけど) 「なあ、お前何処に言ってたの?」 「ファイラスまで散歩!」 学は両腕を元気よく左右に振り、ジェスチャーで示す。(こ、こいつ……相変わらずエネルギッシュだよな。まあ、魔王だからむしろ丁度いいのか……) 「で、何しに?」 「偵察だな。なんでもこの国に攻めてくると言う噂を聞いたんでな」「えっ? 停戦中じゃなかったのか?」 執事に聞いた話と違い、目をまん丸くする俺。「マモル坊ちゃま、実はここ数日で色々状況の変化があったのでございます」 俺の心情を察した執事は近況を補足説明をする。 何でも我が国の斥候情報せによると、最近『ファイラス』では数十万単位の軍隊が練兵しているんだとか。 その為この感じだと、少なくても数か月後にはこの国に攻めてくるとシツジイは予想している。「実際、練兵している姿を俺はこの目で見てきたぜ?」 マ⁈「た、大変な事になるじゃねーかそれ? その規模だと、どっちかの国が亡びるかの大戦じゃねーか」(こ、これはえらいこっちゃ……) 俺は急に不安になり、その場をうろうろする。 「まあ、そうなるな……。なあ、シツジイ、基本人と魔族の一人当たりの戦力差は人一人の百倍と言われているよな?」 学は執事に、この世界の種族間の戦力ポテンシャルを確認する。「そうでございます。これは魔族の闇の魔力の強力さが理由と言われております」 学が疑問に持つのも無理もない。 この国は『ファイラス』に対して五万の兵力を有している。 純粋な数で比較すると数十万対五万となり、この国が不利に思われる。 しかし、今説明した戦闘力換算単位として戦力を国単位で比較すると【人戦闘力数十万】対【魔族戦
翌日の昼、ここは俺の部屋。 接客用のフカフカの赤いソファーに腰かけ俺と学は談話の真っ最中だったりする。「……守ここは慣れたか?」 「まあ、なんとかね」 正直、魔王としての立場とかまだ色々違和感はあるが仕方がない。「そうか。ところで守は転生した時に『特殊能力が使える事』に気づいているか?」 「え? 空飛べる以外にまだなにか出来るの?」 実際俺は昨日、シツジイに直接指導を受け、嬉しくって大空をガンガン飛びまくったからな。(へへっ、だからもう鷹とかツバメとかより早く飛べるぜ!) なんとといっても機動力は早めに確保した方がファンタジー世界では色々便利だしね。 俺のやれることから直実に詰めていった方がいい。「えーと、言葉で説明するより実際見せたほうが早いか……。てことで外に出ようか」 「おう!」 俺達は漆黒の翼を大きく広げ、近くのただっ広い平地まで飛んでいくことにした。 澄んだ青空を気持ちよく飛びながら俺はふと後ろを振り返り、今出ていったザイアード城を眺める。(うん! 壮観、壮観!) 城はごつごつとした岩場の高き山をくり抜いて作られた、ゴシック様式の白亜の天然要塞といったところか? その城の周りだけ漆黒の瘴気にうっすらと覆われているところがもうね……。「なんかこの城ってさ、ドラキュラが住んでそうな雰囲気出てるよな」 「ははっ、そうだな。てか俺達今、魔族だからな?」「でしたね……」 俺は自身の頭から生えているねじくれた固い角に触れ、しみじみとそのことを実感してしまう。「……よし、ここでいいか」 俺達はほどなくし、平地に着陸する。 周囲は靴くらいの高さに伸びた草と、程よく育った木々がまばらに生え、大きな岩が適度に散在している場所だった。(なるほど周囲には建造物もないし、魔王として強大な力を振るう訓練にはうってつけってわけか) よく見を凝らすと、粉々になった岩々が多数見られるため、学がここで色々修行したのが分った。「よし、じゃ見てろよ守?」 「お、おう!」 学はよどみなく空手の構えをとる。「せいいっ!」 学は気合と共に、近くにあった大人程あろう大岩に向かって素早く正拳中段突きを放つ!(え、マジ? おまっ、拳壊れちゃうよ?) 俺の心配とは裏腹に、鈍い音を上げ大岩は粉々に消し飛んだ!「す、スゲー⁉」
それから数週間たったある日。 ここは人の国『ファイラス』の王の間、大理石の白壁に囲われたの城内である。 天井には壮大な壁画が見られ、均一に立派な硝子細工のシャンデリアが吊るされている。 床には立派な赤い絨毯が引かれ、そこに静かに整列した重曹騎士団が見守る中、一部の権力者達が会合を行っている最中であった。「お兄様方、私は他国と争うことは反対です!」 「だ、黙れっ! 王女であるお前に決定権はないし、俺達は方針を変えるつもりはないっ!」 シズク王女と王子達の口論が静かに城内に響き渡る。 『ファイラス』では現在、第一王子レッツ、第二王子ゴウ、そして第一王女のシズクの3人による統治が行われていた。 そう、雫は『ファイラス』の王女として守と同時期に転生していたのだ。 激情型である第一王子レッツはシズク王女の態度に激昂し、頭上の王冠を激しく床に叩きつけ、怒りをあらわにする。 黄金の鎧を纏っていても分かる恵まれた体格、更には獅子の如きレッツの形相に、周囲の大臣や宰相などはおろおろし、たじろぐばかりであった。「……兄上のおっしゃる通りだ。もう確定事項なんだよこれは……。お前は頭を冷やしに城外に散歩に行ってきなさい。……いい子だから、な?」 対して温和で優しい第二王子ゴウはその王冠を拾いレッツに手渡し、シズク王女をもなだめる。 「……っ、分かりました。では、失礼します……」 雫は王子達に軽く一礼し、言われるがまま静かに城外に出て行く。 雫は峠を越え城外からかなり離れた川岸に出るやいなや、周囲をキョロキョロと見回し、誰もいないことを確認し大きく深呼吸する。「レッツ王子のバッカヤロー! イノシシ武者――――――――――――っ!」 雫はそんな気持ちをぶつけるかの如く、大きく腕を振り絞り小石を川に勢いよく投げつけるのだった。 ドポンという鈍い音とともに、川に緩やかに広がっていく波紋。「あ―――――――すっきりした!」 落ち着いた雫はふと振り返り、少し小さくなったファイラス城を見
「待たせたな守! 悪い、ザイアード城内の負傷兵を片付けるのに結構手間取った! って? お前達を覆っているその不思議な赤い光は何だ?」「おせーよ学! この光はリタイヤしたノジャの恩恵だ、察しろ! でな、例の予定は変更し、俺と学だけで例のやつをやるぞ!」「な……? わ、分かった!」 学はノジャの事に動揺しつつも軽く頷き、俺の近くに着地する。「じゃ、俺達もやるぞ!」「おう!」 俺と学は横並びになり、それぞれ両手を自分達の胸元の心臓の位置に当て契約呪文を唱えていく。「我守汝と契約せしもの……」 俺の声が戦場の剣劇の金属音と共に朗々と響き渡る!「我学主と契約せしもの……」 そして学も俺の声を追う……。 (ついにこの技を出すときがきた! 対魔王スカード用に磨いたこの技をっ……!) 俺は学と共に呪文の詠唱をしながら、数か月前の事を思い出していた。 ♢ そう、あれは火山でノジャと初めて出会ってしばらくした後の事……。 俺と学は戦闘の訓練をファイラス城下町出入口から少し離れた平原にて行っていた。「あ、守君ちょっといいかな?」「のじゃっ!」 そんな最中、雫さんとノジャがこちらに向かって小走りでかけよってくる。 「あ、うん」 俺達は訓練を中止し、雫さんの話に耳を傾ける。 雫さんは何やら手に分厚い本を持っているのが気になる。 俺の視線に気が付いた雫さんは、俺に向かってにっこりと笑いかける。「えっと、ファイラス王国の文献を調べたらね、実はノジャちゃんと契約している者はノジャちゃんが変身した鎧や武器を装着出来るらしいの!」「なるほど、ウェポンアームドやアーマーアームドが出来るのか! かっけえな!」 学は雫さん
俺は涙を拭いながら、急いで腰に下げていた愛用の魔法剣を抜剣する。(魔王スカード達は何処だっ!) 俺は素早く魔王スカードとサイファーを見つけれたが、驚いた事に浮遊魔法で遥か上空に浮ている⁈「チャンスよ、守さん! コンヤニはもう足が使えないから、戦力半減よ!」 雫さんは魔法の弓に矢をつがえ、力強く叫ぶ!「え? どゆこと?」 「さっきサイファーが使用した高速移動『雷虎疾風』は魔法無しでも使えるんだけど、魔法無しで使うとその反動として足が歩けないくらいボロボロになるのよ」(そ、そうか! 『天罰の涙』が効果を発揮出来ればザイアード側の勝利は確定だっただろうから、サイファーは賭けに出てた訳か!) サイファー、見た目は強面のトラ頭の亜人だけど中々知恵が働く大胆な奴だ。 が、『天罰の涙』の効果が相殺されたのは魔王スカード達にとっては大いなる誤算だったのだろう。 ということでだ……。 俺は剣の切っ先を頭上にいる魔王スカード達に向け、大声で叫ぶ。「覚悟しろ、魔王スカードっ!」「……クク、これは少々俺達が不利かもしれんな……」 「……少々? ふざけるな! お前の負けは確定している魔王スカードっ!」「クックック……。守、お前やはり面白い。そして俺にとって最高の存在だ……!」 魔王スカードは不敵な笑みを浮かべ、遥か上空から俺達を見下しているが……? 奴のこの余裕、決してブラフとは俺は思えない。(まだ奴らには何か切り札的な物があるというのか……?)「サイファー、余興だ……。久々にアレをやるが魔力はまだあるか……?」 「ははっ! スカード様っ! いけますっ!」 魔王スカード達は上空にいるまま横並びになり、それぞれ両手を自身の胸元の心臓の位置に当てる。「我スカード汝と契約せしもの……」 スカードの声がその場に朗々と響き渡る……。「我サイファー主と契約せしもの……」 更にはサイファーもそれに習い魔王スカー
「い、いかん! 守様を助けろ! 全軍陣形を『魚鱗の陣』から攻めの『鋒矢の陣』に移行しつつザイアード軍の殲滅に迎え!」 その様子を遠目で見ていた宰相ガウスは、瞬時に守達の危険を察知しファイラス全軍を救助に向かわせる!「ははっ!」 ガウスの必死の号令と共にファイラスの大軍10万が一斉に動き出す!「騎馬兵よ! 多少陣形が乱れても構わん! 守様を急いで助けよ!」「ハアッ!」 ファイラス騎馬兵1万がガウスの命令に従い、一斉に動き出す!「ガウス様っ! 魔法が使えるようになった今、我が魔法兵団1万も騎馬兵の後ろに相乗りさせ、支援に向かわせます!」 魔法兵将ウィンデーニも機転を利かし、ガウスに助言する。「おうっ! そうだな! 少し変更だ! 騎馬兵は魔法兵を各自1名後方に乗せ移動しろ! ウィンデーニは俺の馬の後方に乗れ!」「ははっ!」「守様っ! どうかご無事で……!」 ガウスとウィンデーニは心の中で祈りながら、君主の救出に急いで向かうのであった。 一方こちらは再び、守達。 ノジャは地面の着地の瞬間、衝撃を和らげるために両足を何とか踏ん張っていたようだが……?(ノジャは大丈夫だろうか?) 正直、とても心配である。「屈強なる我がザイアードの兵達よ。主戦力のドラゴンが弱わり魔法が使えるようになった今が絶好の攻め時である! 全軍死に物狂いで突撃せよ!」「おおっ!」 朗々と吠え、草原に響き渡る魔王スカードの鼓舞! それに答えるは今までの死地を生き抜いてきた歴戦の猛者ザイアード千の兵! その猛者共が空から地上から俺達を襲ってくる!(まっ、まずいっ! スカードがこれ幸いとばかりに、突撃命令を出してきた……! が、どうする? いや、俺はどうすればいいんだ?) 数は圧倒的に我がファイラスが10万と優勢ではある。 が、魔法が使えるように
「守さん、ノジャちゃん、気を付けて! あの衝撃波は気合による体術なので封じる事は出来ないわ!」「まっ、マジかよ!」(魔王スカード、もうなんでもありだなコイツ……。流石は魔王といったところか?)「他にも、魔王スカードは手をかざして更に強力な衝撃派を放つ事も出来るわ!」「り、了解っ!」「の、のじゃっ!」 俺達がそんなやり取りをしていると、魔王スカードは何やら胸に着けているペンダントを握っているではないか?「……もう、容赦せんっ! サイファーっ!」「はっ!」 な、何だ? (魔法が封じられている今、契約魔法も当然使えずサイファーを雷銃『ハウリングヘヴン』にすることも出来ないはずだぞ?) よく見ると、魔王スカードが身に着けているそのペンダントはまるで血の様に真っ赤に染まっているではないか……!「あっ、あれは、『天罰の涙』っ! まっ、マズイ!」 (くそっ、ザイアード兵の大軍が殲滅されている今、発動条件が整ってしまっている!) 「……だが、まだ間に合うっ! ノジャっ、幸い魔王スカードは今隙だらけだ!」「のじゃ!」 ノジャは返事と共に、魔王スカードに向かって容赦なくブレスを放つ! このブレスは一瞬でザイアード兵百体を葬れる威力! 今回は盾となるうるザイアード兵も遥か後方にしかいないため打つ手なしだろう。(頼みの綱であるサイファーも魔法が使えない今、盾にはなり得ないし、流石のスカードも無傷ではすむまい! とったぞっ! 魔王スカードっ!) ノジャの高威力のブレスが魔王スカード達を襲う……!「勝ったっ! やったぞ! 雫さんっ、ノジャっ!」 俺は歓喜の声を上げ雫さんの顔を見るが……?「雫さん?」 が、しかし、雫さんの顔は俺とは対照
(……て、ことがあったよなあ……) 俺はしこたまワインを飲んだ後、自室のベッドに横たわり、これまでの苦労や楽しい思いでを思い出していたのだった。 そんな祝杯を挙げた日から月日はあっという間に過ぎ、ここはファイラス城下町から数キロ離れた草原……。 そよ風が爽やかに吹く中、ファイラスの万を超す大軍がその草原を埋め尽くす! 銀色の鎧に身を固めた騎馬兵を始め、槍を構えた歩兵、弓兵、魔導兵などファイラス自慢の精兵が各兵将の指示に従い陣を引き待機しているのが分る。「き、来ましたっ! 魔王スカード率いるザイアードの一軍ですっ!」 ファイラスの伝令兵が大声を上げ、周りの兵は大いにざわつく。「来たか……!」 俺達はそれぞれ剣を抜き、臨戦態勢に入る。「ま、守様っ! ま、魔王スカードが先頭に立って行軍してきます!」「……陣は?」「こ、これは『偃月の陣』です!」「な、何だとっ!」「ひ、ひぃっ……!」 伝令兵の回答にファイラス自軍から、再びどよめきが上がる……。(はは、いけいけのスカードらしいな……) 『偃月の陣』、この陣の特徴は大将を中心とした精鋭部隊を先頭に立たせることで指揮が向上し、突破力も向上する超攻撃型の陣である。 いわゆる『やられる前にやれ』という魔王スカードの考えだろうし、これ以上自軍に被害が出ないように警戒して行動している結果と俺は読んでいる。(さて、対してガウスはどんな対応をするのかな?) 「……陣を方円の陣から魚鱗の陣へ組みなおせ!」 ガウスの気合の入った大声が響き渡り、『魚鱗の陣』へ我がファイラス軍は変化していく! 兵の鍛錬を毎日欠かさず行っていたことから、ファイラスの兵達は滑らかな動
それから時は流れ、翌日の朝。 色々と気持ちを清算し終えた俺達はザイアード軍との戦いの準備を進めて行く関係で、ファイラス城下町にある『工房ゴリ』に来ていた。 ちなみにノジャはその機動力と運送力を重臣達に買われ、別件で働いてもらっている。 魔石発掘への功績もあり、ギールの奴と仲がいいというのが大きな理由ではある。「学様方! 頼まれていた鎧に魔石の仕込み終わりやしたぜ!」 スチームパンク臭が漂う工房にてゴリさんの雄たけび、もとい大声が響き渡る。「うん! ありがとうな、ゴリさん!」 俺達はその場で軽く飛び跳ねたり腰を捻ったりして、鎧の動きやすさや性能などを吟味していく。 飛び跳ねるたびに、カチャカチャと鎧の軽い金属音が工房に響き渡る。(うおお、すげえ! この鎧、麻の服並みに軽くて動きやすい!) 「ゴリさん、相変わらずいい仕事するねえ! てかこれ、一体何の素材を使っているんだ?」 学も思わずその性能に感嘆の声を上げる。「へへ、照れやすねえ……! それらは軽めのドラグニウム鉱で作った特注品、その名も『ドラゴニウムの鎧』! 龍の体液から作られた『封魔の炎龍石』と相性がいいんでさあ!」 ゴリさんは、「ウホホー!」と叫びながら、自分の胸を激しくドムドムと叩きだす。(出た! ゴリさんのテンションが上がると行う『歓喜のドラミング』だ!) ホントいい人? だな、ゴリさんと工房の皆さん。 そんなゴリさん達が総力を挙げて仕上げたこの『ドラゴニウムの鎧』。 こいつはきっと魔王スカード達との戦闘でも、その性能を遺憾なく発揮してくれることだろう。「雫様! 例のアクセサリー一式も完成してやすぜ!」「わあ、素敵! サンキューゴリさん!」「へへ、どういたしやして!」「はいこれ、学の分!」「おお? センキュー雫!」 照れながらもアクセサリー一式を付けていく学。「うん、似合う似合う!」
数十分ほど走り終えた後、今度は腰に下げている剣を抜き、俺の目線程の高さ以上ある枯れた大木目掛けて突きの練習をしていく。「ふっ!」 呼吸とも気合とも取れる声と共に、右手をピンと真っすぐに伸ばす俺。 一回一回丁寧にしかも鋭く早い突きを繰り出し、大木を突いていく。「朝から精が出ますな守様……?」「ッ!」 背後から聞こえる声に俺は驚き、振り向く。 するとなんと、ガウスがそこに立っていた。「な、なんだ、ガ、ガウスかビックリさせるなよ……」「はっはっはっ、申し訳ございません守様……。相手が雫様と学様ならもっと驚きましたか……?」(うっ! こ、コイツ、まさか……?) 「……な、何の話?」 俺は内心では思いっきり動揺していたが、冷静を装い一心不乱に大木を突いていく。「守様……。どうでもいいですが剣筋が乱れておりますぞ?」「なっ?」 よく見ると、確かに俺の剣は大木の真ん中から極端に離れた場所を突いていた。「何やら注意力散漫ですが、ナニがあったんでしょうなあ?」(こ、コイツ……? 昨日の事を知っているのか? それとも……?) 俺は訓練を中断し、ガウスと向き合う事にする。「……なあガウス、せっかくだし、ちょっと剣の相手をしてくれよ?」「ほお? やる気があるのは良いことですし、いいでしょう……」 ガウスは腰に下げている練習用の模擬剣を構え、更にはもう一本の模擬剣を俺に投げる。 軽くキャッチし、模擬剣を胸元に構える俺。 よく見るとガウスも同じように模擬剣構え、その丸くなった切っ先がこちらに見える。「では、行きますぞ?
「あ゛――――――――――――――――――⁈」 と、同時に湯船の中で学の絶叫が静かにこだまする……。 そ、そのお陰で俺は現状を視認出来た。 夢見心地の中、そっと雫さんの唇は離れていく。 更には再び俺の肩に自身の頭をそっと置く雫さん。 だからか、否応が無く先程の唇の感覚が俺の脳裏に鮮明に蘇って来る! 「あ、あの……? 雫さん?」「えへへ、その言葉ずっと待ってたんだ……」 雫さんは顔を真っ赤にしながら、少し照れくさそうはにかむ……。 俺もそれにつられて顔が真っ赤になるんですが?「あ……」(よく考えたら、今さっきの俺の言葉、ほとんど告白じゃねーか……!) 「えっ、え゛っぐ……う、うっうっ……」(ううっ、い、嫌な予感がする……) 当然、嗚咽を漏らしていたのは学だったが……。「ま、ま、学さん……?」 俺はもう訳が分からず思わずさん付けをしてしまうくらい狼狽えてしまっていた。「雫が雫が、守のファーストキスを取った―――! 俺なんか幼いころから好きだったのに、告白しようとして断られたのに―――!」 学は俺の肩に突っ伏し、号泣しだす始末! その俺の肩には涙やら、鼻水やら、何やら生暖かい液体がポタポタと流れ落ちてますが? うん、その一滴一滴が何やら重い、いや思い? 俺は孤児院時代の幼い頃の記憶を思い出し、友達認定して別れた頃を思い出していた……。(あ、ああ、あれはそう言う事だったのか……! いや、だってねえ? ホラ? 昔は男みたいだったじゃん? あ、でも、今
そんなこんなで数時間後、俺達は前に来たことある例の『秘湯の温泉宿』に来ていた。 「あー、久々の温泉は気持ちいいな……」 俺はお湯をゆるりと手ですくい、ゆっくりと顔を洗う。 リラックス出来た関係か、嗅覚が鋭くなり硫黄臭を強く感じる。(逆にそんなところが温泉地に来た雰囲気が味わえていいんだけどね……) まだお昼であるし、太陽が昇っている関係で当然周囲は明るく少し離れた山々の深緑がくっきりと見え、空気が余計美味しく感じられる。 太陽の反射光を浴びたお湯は輝いておりとても眩しい。(こんな時間にゆっくり浸かれるのはホント贅沢極まりないよな……) 「失礼しまーす!」「し、失礼します……」 複数の声の主が俺が浸っている湯舟に近づいて来るのが分る。 (きたきた学と雫さん達だ……!) 今回は二人ともタオルを羽織っている状態ではあるが?「こっ、こら押すな雫!」「え? だってこうでもしないと学は照れちゃって先に進めないでしょ?」 お2人がきゃいきゃい言いながら少しずつ近づいて来る。 顔を真っ赤にし、もじもじと照れながら、雫さんに背中をグイ押しされながら近づいて来る学。 太陽の逆光で眩く輝く、もち肌のうら若き女性達……。(こいつぁー、たまりましぇん……) タオルに半分ほど隠された白桃のような艶やかな胸は、そのボリュームの余り窮屈なタオルに逆らうかの如く食い込みが発生している状態だ。(……こ、今年の果物は豊作かな……?) 何故かそんな言葉が脳裏をよぎる。 不思議、止まらない……⁉ そして、そのサイズの大きい白桃は学が歩く振