-57 誘われるがままに-店主「では、スープを残したまま少々お待ちください。」 屋台にて店主による誘惑の言葉に迷う事無く鯛塩飯を注文した光は、ゾクゾクしながら店主を待っていた。車券の事など頭の隅にもない様子だ。ただ大食いなのでここのラーメンだけで自分の腹が満たされるかどうかを心配し始めた。 大食いの人間特有の心配をする光をよそにニコニコしながら店主が茶碗1杯のご飯を手に近づいてきた。店主「お待たせ致しました、鯛塩飯です。残ったスープにぶっこんでお召し上がり下さい。」 光はご飯を1匙すくい、スープに入れて1口食べようとしたら店主が来て説明しなおした。店主「すみません、説明が足りませんでした。ご飯を全部入れっちゃって豪快に食べちゃって下さい、美味しいですよ。」光「全部ですか・・・?」店主「はい、お席が汚れても私は気にせず喜んでお掃除致しますので。」 光はご飯の入った茶碗をスープの入った丼の上でひっくり返し、ご飯をスープにどぽんと入れた。 ご飯の1粒1粒にスープが染み込みお茶漬けや雑炊の様にサラサラと食べれる状態に変身する。 そのご飯をカウンターやテーブルに蓮華代わりとして設置されたお玉でたっぷりとすくい1口・・・。光「嘘でしょ・・・、美味しい!!!」 サラサラと優しく口に流れ込むご飯がスープを引き連れて次々と胃に納まっていく、まるで飲み物の様に。(※食べ物ですのでちゃんと咀嚼しましょう。)光「ダメ・・・、無くなっちゃう。」 自分の意志に反して両手は食事を止めさせようとしない。気付いたときには既に丼の中身は無くなり、スープは1滴も残っていない。光「美味しかった・・・。」店主「フフフ・・・、ご満足頂けましたか?」光「はい・・・、お会計お願いします。」店主「それより、予想の方はお決まりになりましたか?確か⑮番車をお考えだったと思いますが・・・。」光「どうしてご存知なんで・・・。」 光が質問しようとしたら頭の中に声が直接流れ込んできた。声「光さん!!光さん!!どちらですか?!」光「へ?」店主「おや・・・、この声は・・・。」声「光さん、聞こえますか?ゲオルです!!念話の魔法で直接語り掛けています、返事をしてください!!どちらにいらっしゃいますか?!」 念話・・・?あ、そう言えばここ異世界だったわ・・・、と改めて感じた光。店主
-58 レース開始- とりあえず⑮番車に投票しようと決めた光は残りの2台、若しくは3台を歩きながら決める事にし、忘れないように出走表の⑮番車に「◎」印を付けた。 改めて出走表の全体を見回し、計測タイムが一際目立っていた⑰番車も考えていたがやはりネフェテルサ王国の市街地をコースとして使用するレースなのでバルファイ王国のストレートを過ぎてからの事を考慮し「×」印を付けて票は入れない事にした。 コーナリング重視でのチューニングである事を考え⑥番車は入れる、まぁ50週目になるまでだったら買い足しが可能だから大丈夫だろう、気楽に行こう。 とりあえず後1台か・・・、そう思いながら所々に設置されたモニターを見ていると他のチーム以上にピットスタッフとドライバーが入念に打ち合わせと練習を行い、連携が取れていそうなチームがあった。やはりピットがもたつくとコースに戻った時の順位に影響する。光「このチームは⑨番車ドッグファイトね・・・、これ入れてみようかな。このチーム初出場か・・・。来たら大きいかもね。じゃあ⑥⑨⑮のボックスにしよう。」 偶々空いていた券売機が目の前にあったので思ったよりすんなりとマークシートを記入して車券を購入できた。光「結構遠くまで来ちゃったから『瞬間移動』で良いかな。」 『作成』したばかりの『念話』でゲオルとナルリスの位置を確認する、どうやら光がすぐ戻ると言ってからずっと客席で待ってくれていた様だ。他の観客達を驚かせる訳にはいかないと思い近くのトイレの隅に『瞬間移動』した、そして客席に戻り近くの売り子からビールを3杯購入して待っていてくれていた2人に渡した。光「すみません・・・、あまりにもパルライさんのラーメンが美味しかったので。これで許して下さい。」ゲオル「いえいえ、それにしてもまさか私の弟子がラーメン屋をしているとは思いませんでしたよ、ずっと連絡をよこさなかったので何をしているのか心配していたんです。屋台だったんですって?」光「中は比較的広々とした屋台でしたよ、ただそこからの香りが凄くて。」ナルリス「俺も今度食べに行きたいな・・・、今度連れてってよ。」光「ごめん・・・、普段何処でお店をしているか聞いてなくて。」ゲオル「念話で今聞いてみては?」光「えっと・・・、こうでしたかね・・・。(念話)パルライさーん、聞こえますか?先程はありがと
-59 かなりのハンデと判断力の良さ- スタート地点で各車が和やかに過ごしていると実況のカバーサの声が響いた。カバーサ「ご連絡いたします、只今の点灯は故障によるものではなく正式なスタートでございます。繰り返します、只今の点灯は故障によるものではなく正式なスタートでございます。よって冷静な判断でスタートした⑨ドッグファイトが1位で独走しています。」ゲオル・ナルリス「嘘だろ、こんな事毎年あったか?!」カバーサ「ドライバーの冷静さを見る為に敢えて主催者が仕掛けたトラップでございます、これに引っかかった残りの各ドライバーが車に乗り込みスタートして行きました。ドライバーの皆さん、くれぐれもスタートする時、他のドライバーに影響を与える事の無いようにお願いします。事故は勘弁ですよー。」光「カバーサさん・・・、こんなキャラだったっけ・・・。」 隣の魔法使いと吸血鬼が口をあんぐりとさせていた頃、唯一光が投票した⑨番車は大差を付け悠々と走っていた。18kmのホームストレートを抜け第一コーナーに差し掛かり、冷静なコーナリングを見せた。立ち上がりも悪くない、どうやら光の判断は正しかった様だ。 ふとオーロラビジョン映像が車内に切り替わり、実況と一緒に2人の男性の声が流れ出した。男性①「お、おい・・・。大丈夫なのか?」男性②「ま、まぁ・・・、問題ないさ・・・。何せ俺達の車は予選をトップ通過した高性能なんだぜ・・・。」男性①「な・・・、ならいいが・・・、ってあれ?何か俺達の声響いてね?」男性②「本当だ・・・、どういう事だ。」カバーサ「お気づきでしょうか、説明し忘れてました、てへっ。今年からレース中の車内の映像が流れ、ドライバーとチームメイトとの通信の音声を実況席を通してお楽しみ頂ける様になりました。各車の皆さんは下手に作戦を漏らさないようにお願いしますねー。」⑰ドライバー「聞いてねぇよ、こんなの初めてだ。慎重に行こう・・・。」 ポールポジションに車を止めている⑰ブルーボアのドライバーは運転席に急いで乗り込み魔力を流し込んで車を発進させた、後続車を一気に突き放し⑨番車をトップスピードで追いかけ始めた。ギアを5速に入れ18kmものホームストレートで一気に差を付け先程⑨番車が冷静にコーナリングを見せた第一コーナーに差し掛かった。第一コーナーの周りは砂漠から飛んで来た砂に囲
-60 十人十色- トップを独走する⑨番車と事故を起こした⑰番車を除いた各組の車がバルファイ王国にある第一コーナーと砂漠の道、国境近くの平地を抜けネフェテルサ王国に入って改めて平地に差し掛かり、未だ数台がスピード勝負を行っていた頃、⑨番車は市街地の複雑で狭い道を走っていた。市街地のコースではそのまま走ると交差点等でぶつからない様にする為、トンネルを掘ったり街中の小川の両端に柵を付けコースの一部として利用したり、また橋や立体交差を一時的に増やしたりと事故を出来る限り防止している。因みにコースの整備にはゲオルが魔法で関わっていたので車券購入時にかなり有利になっているはずなのだが・・・、そこは今関係ないのでやめておこう。 小川の端を突っ切っていた⑨番車は橋を通り対岸をまた突っ切ろうとしていて、未だ独走状態でほぼ趣味のドライブ感覚だ。ドライバーから何気にルンルンと鼻歌が出始めているので実況のカバーサが悪戯感覚で音声を切り替えた。⑨ドライバー「ふんふんふん・・・、ふふふふふん・・・。」カバーサ「トップの⑨番車はネフェテルサ王国の市街地で余裕をかましています、まさかの鼻歌が出ているなんて良いですねぇ・・・。曲選びはあれですけど。」光「何で『ぶんぶんぶん』なの・・・。童謡って・・・。」ナルリス「どうよ。」 周囲が凍り付くように静まり返ったのでゲオルがナルリスの肩に手を置いて一言。ゲオル「ナル君・・・、ウケると思ったんですか?」ナルリス「・・・、あ、フランクフルト1つー。」光「あ、逃げた。」ゲオル「逃げましたね。」 売り子の下に向かったナルリスは顔が赤くなっていて、汗が尋常では無い位に噴出していた。 その時、後続車の2位を争う3台のグループ、⑥番車⑮番車、して⑳番車が喧嘩をするようにひしめき合いながらトンネルを抜け出して走っていく。全車カフェラッテだが、数台纏まるとエンジン音も迫力がある。ぶつかりそうでぶつからない瀬戸際でずっと争っているらしくそろそろ1台が抜け出しそうな様子なのだが結局3台でずっと走っている。 暫くして3位グループが仲良さげな様子で走って来た。車番を出走表の番号と照らし合わせてチームを確認してみると加速やコーナリングの性能がほぼほぼ一緒と言える位に似ていて、ずっと一進一退をずっと繰り返している。よく見たら全車ダンラルタ王国代表らしい。
-61 昨日の敵は今日の友と言うが- 3位グループの3台は今までずっと共に走っていた為か、いつの間にか絆が生まれていた。④ドライバー「お前ら、大丈夫か?!悪かった!怪我してないか?!」⑫ドライバー「こちらこそ悪い・・・、あそこで俺が無理に妨害していなかったら・・・。⑧番車の野郎は・・・、無・・・。」⑧ドライバー「野郎じゃないわよ、失礼ね。」⑫ドライバー「そうか・・・、悪かった。怪我は無いか?」⑧ドライバー「私は大丈夫、とりあえずレースの邪魔にならない様に端に避けていましょう、奇跡的にも1台が通れる位の空間は空いてるみたいだからレースに問題は無いと思うわ。」⑫ドライバー「とにかく怪我が無かったらそれでいい、レースはまたの機会に参加すればいいさ。とりあえず端に・・・。」 どこかで会話を聞いていたのか実況のカバーサが一言。カバーサ「お2人さん、良い雰囲気ですがレース自体は一時的に予備のルートを使って続行していますのでご心配なく。」⑧ドライバー「そうなの?・・・って、アンタどこで聞いてんのよ!!」 ⑧番車のドライバーに追及されるとカバーサは慌てて胡麻化した。カバーサ「おや、1匹のコッカトリスが車番プレートを両手に持って自らコース飛んでますよ。えっと・・・、こちらは④番車のドライバーさんですか?」④ドライバー「俺は・・・、死んだ⑧番と俺を気遣ってくれた⑫番の為に・・・、それと自分達の為に完走だけでもするんだ・・・!!」⑧ドライバー「失礼ね、私まだ死んでないわよ!!」 ⑧番車のドライバーによる適格なツッコミにより一瞬会場は湧いたがレースの主催者から通達が出たのでカバーサが伝えた。カバーサ「えっと・・・、④番さん・・・、気合には皆が感動していますがお車で走っていませんので事故での失格は取り消されませんよ」④ドライバー「えっ・・・。」カバーサ「だから言ってるでしょ、あなた失格。今すぐコースから立ち退かないと私が自らピー(自粛)しますよ。」④ドライバー「は・・・、はいー・・・。」 ④番車のドライバーは諦めて地上に降り立つと人間の姿に戻ってから徒歩で戻って行った、背中にはとても哀愁を感じるが少し震えてもいた。カバーサ「まぁどう考えても距離的に無理なんですけどね、本人自ら立ち退いて下さったので良しとしましょう。あ、くれぐれも私は脅してませんので
-62 寡黙なドライバーの過去- レースは50周目に差し掛かろうとしていた、依然トップは⑨番車で車を操る寡黙なドライバーはまだまだペースを上げて最速ラップタイムを更新していった。数年もの間、続いて来たレースだがここまでの記録が出たのは初めてだと言う。⑨監督「おいおい、疲れて来てないか?そろそろピットに入って交代していいんだぞ。」⑨ドライバー「まだ・・・、行ける・・・。と言うか、行きたい・・・。」⑨監督「そうか・・・、お前が良いなら良いが、無理だけはするなよ?」⑨ドライバー「ああ・・・、感謝する・・・。」カバーサ「未だに記録が更新されていきますが、それに連れドライバーさんもがどんどん寡黙になっていきます。」 コースのコツを掴んだのか、彼にとったら現在このレースはただのドライブ感覚となっていた。彼はフルフェイスの顔部分を上げ、傍らに置いていた煙草を燻らせ始めた。⑨監督「お前、このチームに来て今年で3年目だったはずだが大分貫禄が出て来たな。まさかレース中に煙草を吸う程の余裕まであるとは。」⑨ドライバー「ふぅー・・・(煙草)、駄目か?」⑨監督「駄目とは・・・、言わないけどさ。タイヤは平気か?」 ドライバーはタコメーター横のパラメーターにチラリと目をやった。⑨ドライバー「まだ・・・、走れる・・・。すまんが、一人にしてくれ。」⑨監督「ああ・・・、いつでも交代するから言えよ?」⑨ドライバー「分かった・・・。」 ドライバーは短くなった煙草を灰皿に捨てると新たにもう1本煙草を燻らせ始め、1人思い出に更け始めた。カバーサが実況席を通し彼の回想を音声に変えて観客全員に行き渡らせ始めた、ドライバーは気付いてないらしい・・・。⑨ドライバー(回想)「そうか・・・、俺もこのチームに入ってもう3年目か。あの頃の俺はこうやって走っているだなんて想像も付かなかっただろうな。確か異動は急な話だったはず、前は営業3課にいたはずだな・・・。ホント・・・、課長がうるさかったな。一応・・・、このチームがあるから会社に入ったんだが・・・。」課長(回想)「キュルア(⑨ドライバー)!お前は相変わらず役に立たん奴だな!お前だけだぞ、この3課でノルマを達成出来ていないのはよ!何もしない癖に椅子にドカッと座って飯だけはいっちょ前に食いやがってよ、次の異動とボーナスを楽しみにしているんだな
-63 レースの裏で- レースは70周目に入ろうとしている、トップは未だキュルアが乗る⑨番車。他のチーム車両がピットストップを行っていく中でも彼は依然として行おうとしなかったので差がどんどんとついて行く、ピットスタッフに至っては交代で仮眠を取り出す始末だ。 そんな中、レースコースの周辺を3国の警察が協力して警備を行っていた。ネフェテルサ王国では林田警部が指揮を執り、息子で警部補の利通や刑事のノームこと、冒険者ギルドの受付嬢を兼任するエルフのドーラが参加していた。 コースの一部が併設されている競馬場にパトカーや覆面パトカーを止め警備本部のテントを設置して、林田警部がそこで街中の定点カメラ等の映像とにらめっこしていると1人の巡査が緊張で震えながら近づいて来た。手袋をした右手で1通の手紙を持っている。巡査「警部・・・、あの・・・、よろしいですか?」林田「ど・・・、どうした?顔が蒼ざめているぞ。」巡査「実はと申しますと、警部が乗って来られている覆面パトカーのミラーにこれが・・・。」 巡査から手紙を受け取るとゆっくりと開けて黙読した、切り貼りで作られた脅迫状で、こう書かれていた。-3国のレースコース周辺の各所とネフェテルサ王国にある貝塚学園小分校、そしてバルファイ王国の貝塚学園高等魔学校に爆弾を仕掛けた。最下位がゴールした瞬間に爆発する様に設定してある、解除して欲しければ現金1兆円用意しろ。またこの脅迫状を受けてレースを中止したり、爆弾の事を外部に漏らしたりすると即爆発のスイッチを押す。-林田「爆弾か・・・、しかも3国とはまた面倒な・・・。それにしても貝塚学園か、久々に聞く名前だな。確かネフェテルサの孤児院とバルファイ王国の魔学校がそこに当たると言っていたな。確か転生してくる数年前だったか・・・、あっちの世界で贈収賄の疑いで貝塚財閥の前社長が逮捕される直前に色んな作戦を経て最終的に全権を奪った今の社長夫婦がこっちの世界に転生した時に当時ボロボロになっていた2校を立て直したものらしい。前社長が理事長を務めた貝塚学園高校での独裁政治ぶりが露わになったが故に評判の落ちた学園や財閥を立て直すべく、今の社長が筆頭株主と協力して積極的な教育支援を行い今となってはあっちでもこっちでも文武両道の良好な学園となっていると聞く。確か・・・、貝塚財閥社長兼学園理事長の名前は・・
-64 この世界の爆弾処理班- 林田の指示を受け、ただちにドーラが連絡を入れるとダンラルタ王国警察から爆弾処理班が派遣され各国に散らばりもうすぐ到着するとの折り返しの連絡があった。 こっちの世界での爆弾処理班といえば重厚な装備を付けた正しく「爆弾のプロ」というイメージがある。 数十分後、軽装の男性が数名警備本部にやって来た。男性「お待たせっした、爆弾処理班っす。」林田「おいおいノーム君、こいつら本当に大丈夫なのか?」ドーラ「大丈夫ですよ、何せ彼らは火のプロですから。上級魔獣と上級の鳥獣人族(ホークマン)の集まりですよ。ここは私達にお任せください、警部は警備の指揮に戻られた方がよろしいかと。」林田「分かった、じゃあ任せるから随時報告を頼むな。」 林田警部はその場を離れ、逃げる様に競馬場周辺の警備隊と巡回し始めた。ダンラルタ王国警察から派遣された爆弾処理班は6名、内2名は上級鳥獣人族(アーク・ホークマン)で火属性に強いレイブン、そして人の姿をしたレッドドラゴンが2名と爆弾探し要因のケルベロスが2名、しつこい様だが全員かなりの軽装だ。 リーダーを務めるレイブンのプニは昔かなりのヤンチャだった為、少しチャラさがあった。プニ「んで、どっから調べます?」利通「プニー、久々だな。取り敢えずこの競馬場から頼むわ。」プニ「利通じゃねぇか、久しぶりだな!魔学校以来か、まさかお前と仕事するとはな。」結愛「プニ、俺達もいるぜ。」プニ「おお!!結愛に光明じゃねえか、結愛のキャラも相変わらず変わらねぇな!!」光明「俺達も捜査に手伝うから宜しくな。全社員一同、捜査に協力するぜ。」プニ「貝塚財閥だったか?えれぇデカい会社だもんな、心強いぜ。」利通「よし、そろそろ始めようぜ。」 テントを出て、ケルベロス達が嗅覚を利用して探し始めた。ケルベロス①「ふんふんふん・・・、さっきからずっと匂ってたけど分かるか?」ケルベロス②「この火薬臭い匂いだろ、お前も感じるか。」プニ「匂いなんて全然しねぇぞ、どっからだよ。」 ケルベロス達の案内で全員が競馬場内のコインロッカーへと向かって行った。南口にあるロッカーの45番、微かにだが確かにカチカチと音がしている。ケルベロス②「これ、開けれるか?」光明「任せろ、こういうのは得意だからな。」プニ「よっ、先生。待ってました。
-130 新しい仕事の為- タンクに珠洲田がある程度魔力を貯めておいてくれたので、渚はごく少量の魔力を流したのみでエンジンを起動する事が出来た。先程も聞いたのだが日本にいた頃と全く変わらないけたたましい排気音、渚の頬には感動の涙が流れていた。渚「懐かしいね・・・、またコイツで走れるんだね。」シューゴ「大きくてかっこいいですね、これが乗用車ってやつですか?」 シューゴもまた「乗用車は貴族の乗り物」と言う考えの持ち主で、すぐ目の前で見るのは人生初めてだそうだ。因みに本人の免許は林田警部の妻・ドワーフのネスタと同様に「軽トラ限定」となっていて、正直今の屋台のサイズはギリギリらしい。渚「これは・・・、スポーツカーって言った方が良いのかもしれませんね・・・。」 シューゴは初めて見たエボⅢをちらちらと見ながらも気を取り直し、屋台を追加する上で確認する事が1点あったので説明をしながら確認した。シューゴ「渚さん、ギルドカードをお見せして頂けますか?」 渚は取得したばかりのギルドカードを見せた。シューゴ「これは冒険者ギルドのカードですね。実は・・・、屋台を増やす上でまず考慮しないといけない事が一点、この国では「屋台」も「個人事業主・商店」の扱いになります。今回の様に2台目と言う名の「支店」の場合でもです。普通に企業やお店に雇われて働く場合は冒険者ギルドへの登録だけで十分ですが、今回の場合は前者なので「商人兼商業者ギルド」に登録する必要があるんです。渚さんはこちらのカードはお持ちでは無いですか?」 シューゴは商人兼商業者ギルドのギルドカードを見せながら聞いた。勿論初見なので首を横に振る渚、それにまだ必要な物や登録事項があった。いずれにせよギルドカードは偽造不可能なので必須となる、ただ渚とたまたまだがこの場に来たばかりの光は全くもってチンプンカンプンだった。シューゴ「そして最も重要なのは車です、ギルドで商用登録した上で屋台として造られた軽トラ等を購入する必要があるんです。」渚「光、知ってたかい?」光「うん・・・、全部初耳。」 取り敢えずだが屋台をするのだから車を用意する必要がある事は分かった、ただたった今職を失いシューゴと屋台をする事になった渚には正直資金が無かった。 渚は隣にいた光に、小声で毎日欠かさず大盛りの夕飯を作る事を条件に資金を貸してほしいと相談
-129 渚の転職- 電話を切った渚は震えながらシューゴに尋ねた。渚「シュ・・・、シューゴさん・・・。拉麵屋台って私にも出来ますかね?」シューゴ「あの・・・、どうされました?」渚「どうしましょう・・・。今の電話勤め先の八百屋さんの大将なんですがね、自分達ももう歳だから店を畳むって言ってるんです。」 急な知らせに動揺を隠せない渚はあからさまに震えていた、八百屋の店主によると一応渚の次の就職先は探すとの事なのだが念の為に自身でも探してみて欲しいと通達してきたのだ。 たった今、新メニューの開発に協力してもらった恩義がある。それに2台目の拉麺屋台に乗るのが女性だと話題と良い宣伝になりそうだ。シューゴ「渚さん、免許証はお持ちですか?」渚「勿論、こちらです。」 渚は日本で取得した運転免許証を見せた、今更だが日本語はこの世界の言葉に訳されて見えている。 シューゴは渡された免許証をしっかりと確認し、返却した。シューゴ「なるほど、ウチの屋台のトラックはMTなんだけど大丈夫ですか?何ならATをご用意致しますが。」渚「大丈夫です、日常的にMTに乗って・・・。」 その時外から聞き覚えのあるけたたましい排気音がし始め、渚の言葉をかき消してしまった。シューゴ「な・・・。何ですか、この音は?」渚「えっと・・・、愛車と言う名の証拠品が来ました・・・。」 窓の外を見ると、駐車場に洗車を終えピカピカになった真紅のエボⅢが爆音と共に到着した。車内から珠洲田が手を振っている。 渚はシューゴの手を握り、この世界の仕様になった愛車を迎えに行った。 自然の流れでだが、渚は思わずシューゴの手を握ってしまった事に気付くのに少し時間が掛かった。その上自分で気づいた訳では無い。珠洲田「なっちょ・・・、いつの間にこの世界で彼氏が出来たんだ?」渚「えっ・・・?あっ、ごめんなさい。本当にごめんなさい。」 渚は慌てて手を放し、シューゴに何度も何度も謝った。シューゴ「構いませんよ・・・、まだ独身ですし・・・。」珠洲田「あれ?よく見たら拉麵屋台の店主さんじゃないですか、どうしてなっちょと一緒にいるんですか?」渚「あの・・・、ここはこの人の・・・。」シューゴ「今日からウチの屋台で働いてもらう事になったんです。」 渚は震えながらゆっくりとシューゴの方に振り向きじっと目を見た。渚「
-128 新メニューと渚の驚愕- とにかく辛く仕上げたこの焼きそば、光が渚の遺伝で辛い物好きになるのも納得がいく。渚「ウチは昔、決して裕福とは言えなかったんだがね。せめて夕飯は豪華にしようとインスタントの焼きそばに残った豚キムチとウインナーを入れて、少しだけでも豪華に見せる様にしてたんだ。」 当初はまだ幼少だった光用に普通のソース味の焼きそばを作っていたのだが、渚自身の分として作っていたこの「辛い焼きそば」に興味を持った小さな光に恐る恐る少しだけ与えるとハマってしまったらしくそれから「何か食べたいものは?」と聞かれるとこの焼きそばをねだる程になっていた。 それから渚はこの焼きそばを酒の肴に、まだ未成年だった光はご飯のお供にしてよく食べていたのだ。 光はこの焼きそばの作り方を聞くことが出来ないまま渚が亡く・・・、いや渚と生き別れになってしまったので代用品としてあのツナマヨをよく食べていたんだそうだ。 その事を聞き、林田が号泣していた。林田「泣かせてくれるじゃないですか・・・、やはり私は罪深き男・・・。」渚「林田ちゃん、何を泣いているんだい。もう、伸びちまうから早く食べちまおうよ。」光「懐かしの味、頂きます!!」 辛子マヨネーズを麺に絡ませ一気に啜ると辛さがガツンとやって来て食欲をそそった、豚肉と一緒に食べると少し甘みのある脂が麺にピッタリだ。白米や酒が進む。 ソースの絡んだウインナーを食べるとそれも白米と酒に合うので最高の組み合わせだ。皆一気に完食してしまいそうになった時、店の出入口が開きある男性が入ってきた。レンカルドの兄で拉麺屋台店主、シューゴだ。少し落ち込んでいるっぽいが。レンカルド「兄さん、どうした?」シューゴ「レンカルド、実は相談が2つあって。その内の1つなんだが俺も新メニューを考えようと思っててな・・・。ん?この香りは?」レンカルド「あそこにいる渚さんが拘りの、そして娘の光さんとの思い出の味として作ってくれた焼きそばだよ。良かったら食べてみる?」 レンカルドがシューゴに自分の皿を差し出すと香りに料理の誘われ1口、決して豪華だとは言えないその料理の味に刺激され感動した兄は渚にお願いした。シューゴ「渚・・・、さんでしたっけ?このお料理のレシピをお教え願えますか?」渚「何を仰っているんですか、決して料理なんて呼べない代物ですの
-127 渚の拘り- 林田は友人であるデカルトに唐突なお願いをした。ただ相手は隣国の王、表情はおそるおそるといった感じだ。林田「デカルト、すまん・・・。少しお願いがあるんだがいいか?」デカルト「ん?どうした、のっち。」林田「ははは・・・、もう良いか。この新メニューの値段を決めてくれないか?」 店主のレンカルドが決めかねているので国王の権限で決めてしまって欲しいとの事なのだ。デカルト「俺は良いけど・・・。店主さん・・・、宜しいのですか?かなり拘って作っておられるとお聞きしましたが。」レンカルド「何を仰いますやら。1国の王様にお決め頂けるとはこの上ない幸せ、どうぞ宜しくお願い致します。」 価格を決めるヒントとして1つ質問してみる。デカルト「確か・・・、お兄さんの作られる拉麺のスープを使っておられるのですよね?お兄さんのお名前をお伺い出来ませんか?」レンカルド「兄・・・、ですか?シューゴと申しますが。」 メニュー表のパスタの欄を改めて見直しながら考え始めた。デカルト「パスタ料理の平均価格から見てそうですね・・・、「シューゴさん」だから1500円でいかがでしょうか?」レンカルド「あ・・・、ありがとうございます。光栄でございます。」 レンカルドが涙ながらに感謝を伝える横でデカルトが話題を変えようと「拘り」について聞いてみる事にしてみた。デカルト「そう言えば他の皆さんは何か拘っておられる事はありませんか?結構拘っておられる品を食べたので是非と思いまして。」渚「そうですね・・・、うちは「焼きそば」でしょうか。光、覚えているかい?あんたも女子高生だった時から好きだったインスタントの焼きそばに豚キムチを入れたやつ。」光「あれね、いつ作っても麺がやわやわになっちゃうやつ。いつもウインナーを入れてくれてたのを覚えてるよ、母さんの影響で辛い物が好きになったきっかけだったな。」 かなり腹に来ているはずの林田が唾を飲み込みながら渚に尋ねた、この世界の住民は皆美味い物に目が無い。林田「美味そうですね、宜しければ作って頂けませんか?」渚「私は構いませんが、店主さん良いんですか?」レンカルド「大丈夫ですよ、魔力保冷庫の中にある食材も良かったらお使いください。」渚「恩に切ります。んっと・・・、韮と豚の小間切れ肉、それとキムチはあるから後は「あれ」と「あれ」
-126 飲食店に拘る理由- 店主が思い出に浸っていると勢いよく出入口のドアが開いた、ドアを開けたのは愛車の修理を待つ渚の娘・光だ。店主「ごめん光ちゃん、今「準備中」というか休憩してたんだよ。」光「こちらこそごめんなさい、レンカルドさん。車屋の珠洲田さんに母の場所を聞いたらここだって聞きまして。」 光は懐からハンカチを出して汗を拭った、息を整えようとするとレンカルドがお冷を渡した。レンカルド「ほら、これ飲んで。それにしても光ちゃんのお母様だったんですね、何となく雰囲気が似ていた訳だ。」渚「こちらこそ娘がお世話になっています。」レンカルド「いえいえ、何を仰いますやら。光ちゃんはここの常連になってくれましてね、いつも美味しそうに私の料理を食べてくれるんです。」 料理と聞いて渚は先程の昔話について疑問に思っていた事をレンカルド本人にぶつけてみた、不自然すぎる事が一点。渚「そう言えば先程ヨーロッパや日本の洋食屋で修業をしたと仰っていましたが、どうやってそう言った国々に?」レンカルド「私が18歳になったばかりの頃です。実は兄が祖父の拉麺屋台の修繕とスープの再現に勤しんでいた傍らで、私は不治の病に倒れ入院先の病院で意識と霊魂の一部のみが異世界に飛ばされていたんです。そして現地の料理人見習の方に一時的に憑依する形でその方と一緒に洋食の修業をし、終わった頃に私本人として復活致しました。意識と霊魂の一部が自分自身の体に戻ったのですが、異世界で学んだ技能などははっきりと覚えていたのでこの経験を是非活かそうとこの飲食店を始めました。」光「初めて食べた時に何処か懐かしさを感じたから常連になっちゃったって訳。」男性「あのー・・・、とても良い話をお聞かせ頂いた後に恐縮なのですが、私はずっとほったらかしですか?」 光は後ろに振り返り、飲食店に来た目的等をやっと思い出した。レンカルドの話につい聞き入ってしまっていたのだ。 焦りの表情を見せながら一緒に連れてきたその男性を急いで招き入れた。光「あ、ごめんなさい。珠洲田さんの所に行ったらこの人がいてね、一緒に連れて行ってくれって頼まれたんだ。」デカルト「来ちゃったー。」林田「デカ・・・、ダンラルタ国王様。どうしてこちらに?」 周囲に他の人がいるので林田はいつも通り名前で呼びかけたが急いで言い直した。デカルト「のっ
-125 兄弟の頑固な拘りと料理- 渚はふと疑問に思ったことを店主にぶつけてみた、店内が不自然な位にスープの匂いで満たされていたからだ。渚「お店で出されるんですか?」店主「いえ、軽トラを改造した屋台で各国を放浪して売っているんです。」 ふと窓の外を見ると木製の屋根と煙突が付いた軽トラがあった、ぶら下がっている赤提灯に「拉麺」と書かれている。店主「屋台で販売する事が兄の拘りみたいでして、1箇所に留まりたくないそうなんです。」渚「お2人で拉麺屋をするおつもりは無いんですか?」店主「自分は自分で洋食の修業をしてきましたので大切にしたいんです。」渚「そうですか・・・。」 匂いの素となっていたスープの入った寸胴鍋を軽トラに乗せると兄らしき男性はまた何処かへと行ってしまった。 お店では再びハンバーグの香りがし始めた。店主は何故か「営業中」の札を「準備中」に返すと渚たち以外にお客がいない店内で店主が珈琲を淹れ始めた、自分用だろうか。ただ不自然なのは他にもカップが数個。 全てのカップに珈琲を淹れると渚たちが座るテーブルへと持って来た。店主「実はそろそろ休憩にしようかと思っていたんです、こちらの珈琲は私からご馳走させて頂きますので良かったらちょっと昔話にお付き合い願えますか?」 そう言うと淹れてきた珈琲を配膳し、他のテーブルから持って来た椅子に座り語りだした。店主「私達兄弟は学生の頃に祖父母を亡くしましてね。当時2人はずっと、昼間に小さな町工場を経営しながら夜に拉麵屋台をやっていたんです。私も兄もたまに食べていた2人の拉麺が大好きだったんですよ。ただ私も含め先祖代々そうなのですが、バーサーカーが故の頑固さで休みなくずっと働いていたが故に祖父は過労で倒れてそのまま・・・。 あ、バーサーカーと言っても我々は全く好戦的ではないのでご安心を。 実は私達の両親は私達が小学生の頃に離婚しましてね、2人共父に引き取られたんです。ただ父は務めていた会社が倒産してから全く働くこと無く酒と煙草、そしてギャンブルばかりしていました。 そんな中、祖母は私達に苦労をさせまいと1人になってもずっと町工場と屋台を続けていました。そんな祖母も祖父の後を追う様に急病に倒れ亡くなりました。 せめてもの感謝の気持ちとして2人の工場と味を残していきたいと兄が父に町工場を存続する様に説得
-124 大将の秘密の工房- デカルトが王宮からネフェテルサ王国に向かって飛び立った頃、ロラーシュ大臣によって一時的にだが鉱石がすっからかんになった採掘場を見てゴブリンキングのリーダー・ブロキントは一言呟いた。ブロキント「見た感じ美味そうに食うてたけど、そんなに美味いもんなんかいな・・・。言うてしもたらあれやけど石やで。」 味を一応想像したけど全くもって美味しいイメージが湧かない。 その時、たまたま近くを通った屋台から聞こえたチャルメラの音を聞き、魔法で誘われたかの様に腹をさすりながら食べに行った。ブロキント「大将ー、1杯くれまっか。」大将「あいよ、椅子出すからちょっと待っててくれな。」 大将は軽トラを改造した屋台から小さな椅子を数脚持ち出すとその一つに座るように誘った、ブロキントがそれに座るとスープの入った寸胴に火にかけ徐々に熱を加えていく。 丁寧に血を拭き取った豚骨と鶏ガラから丹念に煮だしたスープが香りだし食欲を湧かせる。大将「兄ちゃん、麺の硬さは?」ブロキント「粉落としで頼んま。」 採掘場で働くゴブリン達は皆歯応えのある硬い麺を好んだ、特にブロキントは茹でた後も生麺の香りがする粉落としを好んだ。2~10秒ほどで湯から上げるので名前の通り表面の打粉を落とすだけの茹で方。 濃い目の醤油ベースのタレを丼の底に入れ、香りの迸るスープを注いだ後茹でたての麺を湯切りして入れる。具材はもやしにシナチク、ナルト、そして豚肩ロースを丸めて作った特製の大きな叉焼。この叉焼は先程の醤油ダレで煮込み味を染み込ませている。大将「お待ちどうさん、待ってもらったから叉焼おまけしてあるよ。」ブロキント「それはおおきに、頂きますぅ。」 普段は2枚入れている叉焼を3枚にしてくれている美味そうな拉麺を前に、リーダーが割り箸を割り感動の1口目に入ろうとすると腹を空かせた部下たちが続々と屋台の席を埋めていった。ブロキントはおまけ分の大きな叉焼を急いで口に入れた、トロトロの食感と肉汁が舌を楽しませる。大将「ほらよ、絶対に合うぞ。」 大将が笑顔で白く光る銀シャリを渡すとブロキントは一気にがっついた。素直に合う、本当に合う。因みに炊飯器は太陽光発電で動く様にし、降水時でも大丈夫な様にバッテリーに繋いでいる。ゴブリン「リーダー早いでんな、ずるいですわ。大将、わいらにも一つ
-123 鉱石蜥蜴の正体と謝罪- 採掘場に潜み、その場のミスリルをメタル代わりに食べ尽くしてしまったが故に本人も気づかぬ内に鉱石蜥蜴(メタルリザード)の上級種である希少鉱石蜥蜴(ミスリルリザード)になっていたのはダンラルタ国王の側近である食いしん坊のロラーシュ大臣であった。 大臣を含む鉱石蜥蜴(メタルリザード)種の者達は人間や他の魔獣と同様の食物を普通に食べても体質的には問題ないのだが、デカルトはロラーシュ本人がたまにこっそり他の採掘場でメタルを勿論迷惑を掛けない程度におやつとして食べていた事を黙認していた。しかし、どうやら普通のメタルに飽きてしまったらしくぶらっとこの採掘場に来て1口ミスリルを食べたら一気にハマってしまったとの事だ。夢中になっていたが故に気付けば1週間ずっと食べ続けてしまっていたそうだ。 因みに王宮で大臣をしている位なのだから勿論人語を話せるのだが、正体がバレない様に敢えて人語を無視している事もデカルトは知っている。 別にミスリル鉱石自体は翌日にまた出現するので生産的には問題ないのだが流石に食べ過ぎだ、これは酷い。一先ずデカルトは採掘場のリーダーであるゴブリンキングのブロキントに頭を下げ小声で一言。デカルト「ブロキントさん、王宮の者がご迷惑をお掛けし大変申し訳ございません。心よりお詫び申し上げます。」ブロキント「国王はん、そんなんやめて下さい。誰だって美味いもん見つけたら独り占めしたくなるもんです。」デカルト「そう仰って頂けると幸いです。ご迷惑をお掛けしたゴブリンさんや発注元の方々にも王宮から謝罪させて下さい。勿論、1週間分の御給金は上乗せして王宮から支払わせて頂きます。」ブロキント「逆に申し訳ないです・・・。」デカルト「それ位のご迷惑をお掛けしたのです、せめてもの謝罪です。さてと・・・。」 デカルトはロラーシュに気付かれない様にこっそりと近づき、物陰に潜んだ。因みにロラーシュがまだ人語を理解しないフリを続けているのでデカルトは『完全翻訳』で話しかける事にした。ロラーシュ「誰だ・・・、誰がちょこまかと動いているんだ。コソコソせずに出て来い・・・。」デカルト「分かりました、ただ随分と長いおやつタイムですね。1週間も王宮に出勤できない程美味しい鉱石だった用ですね、大臣。」ロラーシュ「その声は・・・。こ・・・、国王様!!何故
-122 作業不可の理由と古き友人- 珠洲田からの連絡によるとこの国の車はエンジンの起動の為に予め魔力を貯めるタンクがあり、渚のエボⅢの様な乗用車は軽に比べて1まわり大きいのだがそのタンクを作るためのミスリル鉱石が足らないとの事なのだ。 この世界においてミスリル鉱石はそこまで希少という訳では無いのだが、全体の採掘量の8割以上を占めるダンラルタ王国での生産が滞りがちになっており、珠洲田自身も必要なので1週間前から採掘業者に何度も発注しているのだが全くもって品物が届いていないというのだ。 今までは軽自動車での作業ばかりだったので在庫で何とか持たせていたのだが、今回はエボⅢなのでどうしても追加が必要になる。 林田は状況を確認すべくある友人に連絡を取る事にした。林田「もしもし、今電話大丈夫か?」友人(電話)「のっちー、久々じゃん。」林田「デカルト・・・、それやめろと前から言ってるだろ。」 そう、林田が連絡を取ったのはダンラルタ国王でありやたらと「のっち」と呼びたがるコッカトリスのデカルトだ。デカルト(電話)「それは置いといて何か用か?」林田「実はな・・・。」 すぐさま珠洲田から聞いた事を報告し、ダンラルタ王国におけるミスリル鉱石の状況が知りたいと伝えた。デカルト(電話)「何だって?!それは迷惑を掛けて申し訳ない。すぐに王国軍の者と調べて来るから待ってくれ。何分俺も初耳だ、状況を知る必要があるから俺自身も出る事にしよう。待ってくれているお客さんにも俺の方から謝らせてくれ。」林田「すまない、宜しく頼む。」 デカルトは電話を切るとすぐに王国軍の者を呼び出した、応じたのは軍隊長のバルタン・ムカリトとウィダンだ。デカルト「南の採掘場の現状を知りたいので一緒について来て頂けますか?」ムカリト「勿論です。」ウィダン「かしこまりました、国王様。」 3人は王宮を出るとすぐに南の採掘場に向かって飛び立った。そこではゴブリン達が日々採掘作業に勤しんでいて、唯一人語を話せるゴブリンキングのリーダー・ブロキントが指揮を執っていた。 3人は採掘場の出入口の手前に降り立つと早速ブロキントに話を聞くことにした。ブロキント「お・・・、王様。おはようさんです。」 ブロキントは何故か関西弁を話した。デカルト「ブロキントさん、おはようございます。我々がここに来たのは他