Home / 青春 / (改訂版)夜勤族の妄想物語 / 3. 「異世界ほのぼの日記」111

Share

3. 「異世界ほのぼの日記」111

Author: 佐行 院
last update Last Updated: 2025-04-12 08:39:33

-111 光の癒し-

 王宮での料理教室という大仕事がやっと終わったと油断していた光は、全部食べ終わったはずのカレーの匂いが何故かまだしているという事実を受け入れる事が出来ずにいた。そこで周囲を見回すと奥にあるおくどさんに乗っている大鍋一杯のカレールーがぐつぐつと煮えている。

光「どんだけ食べる気なの?」

 そう疑問に思う光をよそに王国軍の軍人達が鍋のカレーに食らいつき、大鍋のカレーは一気になくなってしまった。皆未だ空腹だと言わんばかりにお腹をさすっていて、まるで炊き出しに食らいつくホームレスみたいな様子だった。

 光も協力してお代わりを数回作ったので先程までの食事が無かったかのように空腹になってしまっている。

光「帰りに何か食べようかな、でも久々にあそこに行きたい。明日はパン屋の仕事もあるし取り敢えず一息つこうか。」

 王宮を後にした光はある店に向かった、実はこの世界に来てから結構なスパンで世話になっている店があったのだ。特にゆっくりとした「一人時間」を大切に過ごしたい時に。

 街中の西側寄りにあるにも関わらず決して目立つ事が無く、しかしいつも良い匂いを漂わせるその店は人化した上位飛竜(ワイバーン)の夫婦が経営する静かで店内からの景色が自慢の一つである珈琲屋だ。左に伸びる店内に入ると手前にはカウンター、そして奥にテーブル席が各々数席。また屋外に数席あるテラス席の目の前には川が流れ、ゆったりとした景色が広がる。

 コーヒーは1杯1杯サイフォンで淹れており、マスターが刷毛でお湯とコーヒー豆を混ぜるとふんわりと良い香りが漂う。

 その香りが好きで、光はいつもカウンター席に座っていた。席は必ず窓側、左から2番目。ただ最近は店外での商売や支店の経営が上々な所為か、マスターより奥さんがコーヒーを淹れる事が多い。どちらが淹れたにしろ変わらず美味しいので光はいつも満足した顔をして店を出ている。

マスター「光さん、いらっしゃいませ。」

 もうすっかり顔馴染になってしまっている、ただその事が本当に嬉しかった。なぜならこの店は落ち着きと本来の自分の姿を取り戻す唯一の場所だからだ、ここに来ると必ずと言って良いほどいい意味でのため息をつく。

 ずっと光を見てきたせいか、夫婦は表情を見るだけで光の気分を読み取る事が出来る様になっていた。

奥さん「いらっしゃいませ、お疲れの様ですね。良かった
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Related chapters

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」112

    -112 唐揚げと嫁の威力- マスター拘りのゆったりとした雰囲気にぴったりのBGMに耳を傾けながら冷めない内にと思いつつゆっくりとコーヒーを楽しむ光、今日はいつもと違った気分にもなり始めていた。 またいつもの様に光の表情を読み取った奥さんがメニューを手渡し、空になりかけていたグラスに水を追加する。冷え冷えの水で口をリセットしながら熟考した光が口を開いた瞬間マスターが一言。マスター「唐揚げですか?」光「な・・・、何で分かったんですか?」 怖くなってくる程ではないがマスターはいつも光が言おうとしている事が分かってしまうのでいつも驚かされる、試しに他のお客さんでもいつもこうなのかと奥さんに聞いてみた。奥さん「いや、光さんだけですね。」 自分では気づいてないだけで実は表情から気持ちが駄々洩れしているのではないかと光は少し顔を赤らめた。 そして恥ずかしがりながら注文をする。光「唐揚げ・・・、お願いします。」 光のこの言葉を待っていたかのように注文した瞬間奥の調理場から油で唐揚げを揚げる音が聞こえてきた、よく見てみると白飯とサラダがもう既にセットされている。 私が他の物を注文したらどうするつもりだったのだろうと疑問に思いつつ、良い香りにつられ空腹になって来た光は内心ワクワクしながら唐揚げを待った。 数分後、カラッと揚がった唐揚げが乗ったセットが光のもとに運ばれた。奥さん「お待たせしました、唐揚げです。」 その後耳打ちで笑顔の奥さんにおまけしておきましたからと言われた光の表情は少しニヤついていた。 幼少の頃から野菜から食べる様にと母・渚に教育されて来たので最初の1口としてサラダに箸を延ばした。酸味のあるドレッシングとサクサクのクルトンが食欲を湧かせ、シャキシャキのレタスが一層美味く感じた。 そして意気込みながらメインの唐揚げに移る、息で冷ます事無く敢えて熱々のまま口に入れると溢れる肉汁が光を感動させた。 勿論白米がどんどん進んでいく、さっぱりと楽しめる様にどうやらポン酢ベースのソースがかかっているらしく、それが光にとって何よりも嬉しかった。 ビールがあったら絶対頼んでいるわと思わせるその味の虜になっていたので、いつの間にか白飯が無くなっていた。 唐揚げ1個でご飯1杯を平らげたのは人生で初めてだったので少し焦りの表情を見せつつも、恐る恐る聞い

    Last Updated : 2025-04-12
  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」113

    -113 唐揚げへの欲望- 光は唐揚げセットを完食して店を出る事にした、グラスに入ったお冷を飲み干し会計へと移った。代金を支払い自動ドアを抜け街へと出る、新鮮な外の空気を胸いっぱいに吸い込んだ光に夫婦が声をかけた。2人「ありがとうございます、またお越しくださいませ。」 別に用事がある訳では無いのだが家路を急ぎ家の敷地へと入ると、家に入らず裏庭に行き地下へと降りて大型冷蔵庫までダッシュした。勢いそのままに冷蔵庫を開けると缶ビールに手を伸ばし一気に煽った、先程の唐揚げの味を思い出すだけでビールが進んでいく。まるでダクトの下で白飯だけを食うホームレスの様だった事に気づくと、一応光本人しか入る事がない地下だったのだが思わず周囲に人がいないかを確認してしまった。 その後、余韻に浸りながら一言呟く。光「唐揚げ・・・、食べたい。美味しくビール・・・、呑みたい・・・。」 目の前の冷蔵庫には缶ビールはたっぷりあるのだが、唐揚げの材料は全く入っていない。深呼吸して冷静さを取り戻し、家の中の冷蔵庫を確認する。昨日の残りのカレールーが入ったタッパーは目の前に映ったが、こちらの冷蔵庫にも唐揚げに出来る様な肉類は全く入っていない。光「少しの我慢・・・、少しだけだから。」 家から『瞬間移動』して先日お世話になったお肉屋さんへと向かい、店に入ろうとしたがまさかの行列に捕まってしまった。 店先に「本日全商品3割引き」ののぼりが出ている。どうやら月に1回だけ開催される特売日らしく、これはチャンスだと皆がこぞってやって来ていた。 その行列の中に見覚えのある男性の人影を見かけた、料理上手の人影。ただ唐揚げとビールの事で頭がいっぱいになっていたせいか、誰か思い出せない。男性「光?こんな所で何やってんの?というか何かぼぉー・・・っとしてない?」光「ビール・・・、ビール・・・、今すぐビールが吞みたい・・・。」 すると店内から良い匂いがし始めた、光の鼻を刺激する匂い。今何よりも欲しい物の匂い、目を閉じると光にとって神々しくあるその姿が浮かぶ。光「唐揚げ・・・。」 匂いにつられ涎が出てきたので恥ずかしくなり顔を赤らめた男性は慌ててポケットティッシュを取り出した、それを見て行列に並ぶ皆がくすくすと笑っている。男性「とにかく光、目を覚ませ!!俺の事分かるか?!」光「男の人の声・・・、

    Last Updated : 2025-04-12
  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」114

    -114 恋人の幸せ-店主「唐揚げ・・・、ですか?」 光の口から放たれた言葉が意外過ぎて開いた口が塞がらない主人は同行していたナルリスの方を向いた。ナルリス「すみません・・・、本人はどうしても唐揚げを肴にビールが呑みたかったらしくそこの空になりかけたガラスケースを見て愕然としているみたいでして。」店主「そうですか・・・、それは大変申し訳ございません。今すぐ作りますのでお待ち頂けますか?」 店主が急ぎ足で店の奥の調理場へ行くと、奥から油で沢山の肉を揚げる音がし始めた。音の大きさからかなりの量だと見受けできる。光の感情を汲み取った店主が小皿と箸、そして缶ビールを持って奥から出てきた。店主「先程のお詫びと言っては何ですがこちらをお召し上がり頂きながらもう少々お待ち頂けますでしょうか、こちらの缶ビールは私からの先日のお礼です。」 缶ビールを受け取ると小皿に乗った熱々の唐揚げを一口齧り勢いよく流し込んだ、少し落ち着きを見せたらしく涙ながらに唐揚げを楽しんでいる。勢いよく口に流れ込む肉汁が光の舌を喜ばせた。店主「お待たせいたしました!!」 その声の後、ガラスケースに大量の唐揚げが流れ込み始めた。その光景を見た瞬間、光が立ちあがる。光「それ、全部下さい!!」店主「吉村様・・・、今何と?」光「だからそれ・・・、全部下さい!!」 店主は手を止め、持っていた出来立ての唐揚げを全て紙袋に入れ始めた。ただ横でナルリスがずっと焦っている。ナルリス「おいおい・・・、足らなかったら俺が揚げるって。」光「ここのを全部買った上で帰ってからナルリスに追加を揚げて欲しいの!!」 どうやら久方ぶりに光の「大食い」が発揮されようとしていた。家の冷蔵庫には缶ビールが大量にある、それを大好きなナルリスと存分に呑みたいと思っている光の感情を汲んだヴァンパイアは店にあった鶏もも肉を大量に買い込んだ。そして漬けダレの材料も併せて購入し、何とか恋人を納得させた。店主「ははは・・・、また凄い量ですけど大丈夫ですか?」ナルリス「本人・・・、大食いですから。」 一先ず会計へと移る、店主のレジを打つ指がずっと震えていた。店主「お待たせいたしました、合計86万4677円でございます。」 店主は驚きを隠せない、何故なら唐揚げ含め鶏肉だけでこんな金額になったのは人生で初めてだったからだ。

    Last Updated : 2025-04-12
  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」115

    -115 陽気に誘われて- 過ごしやすいぽかぽかと暖かな陽気、いい意味で眠気を誘うこの気候が光は大好きだった。日本で言うと3月~4月のこの優しさの溢れる気候、桜の花びらが開き沢山の人々を優しく迎える花見の時期。四季を全く実感しないネフェテルサでもこの気候に出逢えて嬉しく思っていた。 光は日本にいた頃からこの時期必ず行っていた事があった、唐揚げの油で口を光らせながら思い出に浸るためにスマホのフォトアプリを起動して写真を出しナルリスに見せることにした。ナルリス「こんな花道を歩きながら美味しくビールが呑みたいって?」 日本にいた頃、光の自宅から歩いて5分もしない距離に遊歩道沿いに咲き誇る桜がとても綺麗な公園があった。光は毎年の開花予測と休日をチェックして時には有休を取得してでもその公園に出かけ、ビール片手に歩きながら桜を愛でていた。 幾度表情を変える桜の花や木々の姿を残そうと毎年必ず写真を撮り、フォトアプリに残している。その膨大と言える量の桜の写真をナルリスに見せていた。光「この世界で出来る場所無いかな?」 キラキラと目を輝かせる光の期待に応えようとナルリスは思いつく限りのスポットを雑誌を見せながら提示した、どれも日本での写真に劣る事の無い綺麗さを誇っている。どうやらこの国でもきれいな桜が楽しめる様だ。 テレビのニュースなどでネフェテルサでの開花予測を調べてみると1番早くて2日後、光のパン屋の仕事も丁度休みで嬉しさの余り飛び上がっている。その表情を見てナルリスは安心した、当日は雑誌にも載っていた近所の遊歩道を歩く事にしてその日は眠る事にした。 翌日、その日は1日パン屋の仕事があったので表情に出ない様に必死になっていたが明らかに思考が駄々洩れになってしまっていたらしく、キェルダに何かしらを汲み取られていた。キェルダ「あんた・・・、ニヤついてるけど何かあった?」光「いやぁー、別にー。いつも通りですよ。」 明日が楽しみすぎて仕事中ずっと顔が赤い、しかし仕事はしっかりしているから文句は言えないので店長のラリーは開店中の間そっとしておく事にした。そして売れ残りのパンを回収し、閉店準備をし始めた時に聞いてみる事に。ラリー「どうした光ちゃん、明日の休みにナルリスとデートでもするのかい?」光「デートだなんて店長ったらもぉー!!」 嬉しさの余り店長の肩を軽く

    Last Updated : 2025-04-12
  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」116

    -116 桜とそよ風が連れてきた故人- 光はビール片手に幼少の思い出に浸っていた、桜は若くして亡くなってしまった母・渚との数少ない思い出の花だ。 今いる遊歩道と同様に家のすぐ近くに桜の花が綺麗に見えるスポットのあった場所に住んでいた頃の光の小さな手を引いてゆっくりと歩く渚の姿は美しく優しい印象で光の目に焼き付いていた、とても巷で「赤鬼」と呼ばれていた走り屋に思えない。 桜の花を眺める度に光は母の穏やかだった顔や温かかった手を思い出して涙を流した。ナルリス「優しい・・・、お母さんだったんだな。」光「うん、桜を見る度いつも思うの。一度でも良いから母に会って一緒にお酒を呑めたらなって。何かね、桜の花の1つ1つが母の温かみを思い出させてくれてこの時だけ何となく子供の頃の気持ちに戻れる気がするんだ。」 ナルリスは知らぬ間に光が右手に持つ酒が缶ビールから紙コップに入った日本酒に変わっている事に気づいた。表情が先程以上に赤くなっている事も、そして涙もろくなっている事も納得がいく。光「多分母は今の私の姿を見ても私に気付く事は無いだろうけど会えたら声を掛けたい、産んでくれてありがとうって感謝の言葉を言いながら日本酒を注ぎたいな。」 その時、ふんわりとした風により散った桜の花びらが1枚光の日本酒の表面に乗った。風に身を任せゆらゆらと揺れながら浮かんでいる。光「会えたらな・・・、会いたいな・・・。後で仏壇にこの日本酒をお供えしよう。」 いつの間に、そしてどこから仕入れたのか分からないが左手に一升瓶を持っている。酔ったせいか幻聴らしき女性の声がし始めた。女性「光、大きくなったね。」光「えっ・・・?」 光は涙ながらに声の方に振り向いた、しかしこちらを向く女性の姿は全くない。その代わりに桜の花びらがそよ風に乗り頬をかすめた。 ナルリスが目を丸くして光の方を見ている。ナルリス「何かあった?」光「いや・・・、何でも無い。ごめん。」 どうやら今の声はナルリスに聞こえてなかったらしい、やはり今の声はただの幻聴だったのだろうか。女性「光・・・、こっち。注いでくれる?」 振り向くと光に紙コップを差し出す女性が1人、どうやらほろ酔いらしく表情が赤くなっている。光「気のせいかな・・・、悪酔いしたかも。隣にお母さんに似た人がいるんだけど。」 光の隣でナルリスがガタガタ

    Last Updated : 2025-04-15
  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」117

    -117 不自然な事象- ナルリスは渚がアイテムボックスから出した愛車・エボⅢを見て驚きを隠せずにいた。この世界では大抵の者が珠洲田製の軽自動車に乗っていて、乗用車を持っているのは都市圏に住む金持ちや貴族が殆どだ。ナルリス「光・・・、貴族様だったの?」 こう聞きたくなるのも無理は無い、しかし光はごく普通の一般市民だ。ただ神様の力により全財産の金額がとんでもなくなっているが。その事が冒険者ギルドで発覚してから光は決して言わないでおこうと誓っていた、ただ普段地下倉庫にしまっているカフェラッテを含めて愛車が2台ある時点で怪しまれても仕方ない。 一先ず話題を変えようと渚に質問をぶつけた。光「母さんは今どこに住んでいるの?」 かなり久々に、しかもこの異世界で亡くなったはずの母親との再会は本当に感動的で願わくば一緒に住めないかと思っていた。渚「今ね・・・、ネフェテルサ王国って所の団地かなぁ。」ナルリス「団地に住んでる方がお持ちのお車には思えないのですが。」渚「やっぱりそういう理由なのかな。何処も止める所がなくてね、いつも『アイテムボックス』に入れてんのよ。つい最近の事だけど今住んでる所に引っ越す時に大家さんに言って駐車場を確保してもらおうとしたら何故か入居自体を拒否されかけちゃったけど、そういう訳だったのね。」 違う、そういう訳では無い。後で分かった事なのだが大家にとったら皆軽しか乗らないのでその分の駐車場しか用意出来てなかった為に渚のエボⅢが大きすぎて困惑してしまったのだ、きっと駐車しようとしたら白線からかなりはみ出てしまう。別に入居を拒否した訳では無いらしく、ただの言い間違いだった。光「団地なんてあったっけ?」ナルリス「確か・・・、お風呂山の手前だった様な。」渚「そうそう、だから今みたいな風呂なしアパートでも問題なし。」 光は決して聞き逃さなかった、自分の母親が風呂なしアパートに住んでるって?自分は神様に貰った財産で一軒家を購入、それに対して親は風呂なしアパート暮らし・・・。何となく気になる事を聞いてみた。光「母さん・・・、家賃いくらの所なの?」渚「月3万8千円だったかな、八百屋の給料って安くてね。あんたはどこで働いている訳?」光「パン屋さん・・・、かな。」 真実を伝えその場を治めた。実はこの世界では冒険者ギルドに登録しているかどうかで

    Last Updated : 2025-04-15
  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」118

    -118 違和感と事情- 今思えば的な話なのだが、光や渚は転生してからあまり年を取った実感が湧いていない事に気づいた。何となくだが自分達だけ時間が止まっている様な、今会ったばかりの林田警部も久々に会うのに何の変化も感じない。林田「私もこの世界に転生してからしばらくして知ったのですが、どうやら転生者は年を取らなくなっているみたいです。本来なら今頃私も白髪の爺さんですから。」 言われてみれば確かに林田は光とこの世界で初めて出会った時と変わらず黒髪の立派な50代の紳士の姿をずっとキープしている。渚「確かにそうだね、今頃私ゃ腰の曲がった婆さんになっていてもおかしくないもんね。」林田「渚さん・・・、それは言い過ぎでしょ。」渚「ジョークジョーク。」 渚のお陰でその場が和んだ所で光は気になっていた事が2つあったので渚に聞いてみることにした、1つは個人的な事だがもう1つは重要な事できっと林田も気になっているはずだからだ。光「そういえば母さん、普段使っていた眼鏡どうしたの?」渚「ああ、言ってなかったかい?あれ伊達メガネだったんだよ、自分が「赤鬼」だってバレたくなかったからね。この世界では隠す必要がなくなったからずっとこのままでいるのさ。」 そう、久々に会った母親は「赤鬼」としてエボⅢに乗っていた時と変わらない姿でずっといるのだ。会社員と走り屋の2つの顔の両立は意外に難しかったらしい。 そしてもう1つ、林田も気になっていたであろう質問をぶつけた。光「ねぇ・・・、父さんはこの世界に来ているの?」渚「残念だけどこっちの世界に来てから見かけてないねぇ、私も八百屋の仕事が休みの時に探してはいるんだがね。」林田「渚さん・・・、ご主人はやはり阿久津さんだったのでしょうか。」渚「うん、確かにこの子の父親は当時走り屋のリーダーをしていた阿久津だよ。でも事情があってこの子にはずっと「吉村」って名乗らせていたんだ。」光「母さん・・・、どうして私は「赤江」でも「阿久津」でもなく「吉村」なの?」 渚は頬に手を当てながら近くのベンチに座ろうと提案した後、重い口を開いた。渚「知っていたと思うけど私のお母さん、つまりあんたのおばあちゃんの旧姓が「吉村」だったんだよ。実は当時「阿久津」も「赤江」も代々広域暴力団の家系で世間では余り良いイメージでは無かったんだ、あたしも父さんも実家

    Last Updated : 2025-04-15
  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」119

    -119 渚の新居- その場の雰囲気と場の流れに身を任せ、光は先程答えを聞けなかった質問を渚に再度ぶつけた。まさかこんな奇跡が起こるとは、きっともう一生ないだろう。光「ねぇ、母さん。さっきは上手くスルーされたけどやっぱりウチに住まない?」渚「良いのかい?あんたの家、エボⅢ置けんの?」 流石に愛車をずっと『アイテムボックス』の中に入れておくのはもうウンザリだそうなのだ。学生の頃からずっと憧れていてやっとの思いで買った自慢の愛車、やっぱり太陽の下で眺めていたい。その上別に無制限なので気にしてはいないがかなり容量を使う、そして正直に言うと『アイテムボックス』内で物を探すのに少し邪魔となっている。光「エボⅢの駐車場位余裕で用意するから。それに毎晩銭湯に行ってたらそりゃお金かかるよ、ウチにも露天風呂作っているから背中位流させて。」渚「そうかい・・・?じゃあ、お世話になろうかね。」林田「そうと決まれば皆で引っ越しの手伝いしますよ。」 渚は少し申し訳なさそうな表情をしていた、理由は本人の部屋に入るとすぐに発覚した。光が『瞬間移動』を渚に『付与』すると、渚は使い慣れていたかのようにすぐにその場にいた全員を連れて行った。渚「い・・・、いらっしゃい・・・。」 以前言っていた通り部屋は風呂なし、6畳1ルーム。トイレと洗面台と簡易的なキッチンが設置されていたその部屋には、テレビと小さなテーブルに何故かウォーターベッド置かれている、ベッドはピンク色で真ん中に大きく「我愛你(I Love You)」と書かれている見た側が確実に恥ずかしくなる物で光は正直家に持ち込みたくなかったが渚のお気に入りなので許すことにした。渚「だから手伝って貰う程じゃないって言ったの。」 頭を掻きながら渚は顔を赤らめ恥ずかしそうにしていた、そして林田とナルリスに聞こえない位の小声で少し笑いながら何かを耳打ちした。 それを聞いた瞬間に光は先程の渚以上に顔を赤らめ3つ隣の部屋に響く位の大声で叫んだ。光「お母さん!!これ、持ち込み禁止!!!!」林田「渚さん・・・、娘さんによっぽどな事を言ったんですね。」ナルリス「敢えて聞かないでおきます。」 光は涙を流しながら答えた。光「絶対聞かないで下さい・・・。」 さて、光一行は気を取り直して挨拶を兼ねて大家の所に許可を得に行った。引っ越す事が出来る

    Last Updated : 2025-04-15

Latest chapter

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」130

    -130 新しい仕事の為- タンクに珠洲田がある程度魔力を貯めておいてくれたので、渚はごく少量の魔力を流したのみでエンジンを起動する事が出来た。先程も聞いたのだが日本にいた頃と全く変わらないけたたましい排気音、渚の頬には感動の涙が流れていた。渚「懐かしいね・・・、またコイツで走れるんだね。」シューゴ「大きくてかっこいいですね、これが乗用車ってやつですか?」 シューゴもまた「乗用車は貴族の乗り物」と言う考えの持ち主で、すぐ目の前で見るのは人生初めてだそうだ。因みに本人の免許は林田警部の妻・ドワーフのネスタと同様に「軽トラ限定」となっていて、正直今の屋台のサイズはギリギリらしい。渚「これは・・・、スポーツカーって言った方が良いのかもしれませんね・・・。」 シューゴは初めて見たエボⅢをちらちらと見ながらも気を取り直し、屋台を追加する上で確認する事が1点あったので説明をしながら確認した。シューゴ「渚さん、ギルドカードをお見せして頂けますか?」 渚は取得したばかりのギルドカードを見せた。シューゴ「これは冒険者ギルドのカードですね。実は・・・、屋台を増やす上でまず考慮しないといけない事が一点、この国では「屋台」も「個人事業主・商店」の扱いになります。今回の様に2台目と言う名の「支店」の場合でもです。普通に企業やお店に雇われて働く場合は冒険者ギルドへの登録だけで十分ですが、今回の場合は前者なので「商人兼商業者ギルド」に登録する必要があるんです。渚さんはこちらのカードはお持ちでは無いですか?」 シューゴは商人兼商業者ギルドのギルドカードを見せながら聞いた。勿論初見なので首を横に振る渚、それにまだ必要な物や登録事項があった。いずれにせよギルドカードは偽造不可能なので必須となる、ただ渚とたまたまだがこの場に来たばかりの光は全くもってチンプンカンプンだった。シューゴ「そして最も重要なのは車です、ギルドで商用登録した上で屋台として造られた軽トラ等を購入する必要があるんです。」渚「光、知ってたかい?」光「うん・・・、全部初耳。」 取り敢えずだが屋台をするのだから車を用意する必要がある事は分かった、ただたった今職を失いシューゴと屋台をする事になった渚には正直資金が無かった。 渚は隣にいた光に、小声で毎日欠かさず大盛りの夕飯を作る事を条件に資金を貸してほしいと相談

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」129

    -129 渚の転職- 電話を切った渚は震えながらシューゴに尋ねた。渚「シュ・・・、シューゴさん・・・。拉麵屋台って私にも出来ますかね?」シューゴ「あの・・・、どうされました?」渚「どうしましょう・・・。今の電話勤め先の八百屋さんの大将なんですがね、自分達ももう歳だから店を畳むって言ってるんです。」 急な知らせに動揺を隠せない渚はあからさまに震えていた、八百屋の店主によると一応渚の次の就職先は探すとの事なのだが念の為に自身でも探してみて欲しいと通達してきたのだ。 たった今、新メニューの開発に協力してもらった恩義がある。それに2台目の拉麺屋台に乗るのが女性だと話題と良い宣伝になりそうだ。シューゴ「渚さん、免許証はお持ちですか?」渚「勿論、こちらです。」 渚は日本で取得した運転免許証を見せた、今更だが日本語はこの世界の言葉に訳されて見えている。 シューゴは渡された免許証をしっかりと確認し、返却した。シューゴ「なるほど、ウチの屋台のトラックはMTなんだけど大丈夫ですか?何ならATをご用意致しますが。」渚「大丈夫です、日常的にMTに乗って・・・。」 その時外から聞き覚えのあるけたたましい排気音がし始め、渚の言葉をかき消してしまった。シューゴ「な・・・。何ですか、この音は?」渚「えっと・・・、愛車と言う名の証拠品が来ました・・・。」 窓の外を見ると、駐車場に洗車を終えピカピカになった真紅のエボⅢが爆音と共に到着した。車内から珠洲田が手を振っている。 渚はシューゴの手を握り、この世界の仕様になった愛車を迎えに行った。 自然の流れでだが、渚は思わずシューゴの手を握ってしまった事に気付くのに少し時間が掛かった。その上自分で気づいた訳では無い。珠洲田「なっちょ・・・、いつの間にこの世界で彼氏が出来たんだ?」渚「えっ・・・?あっ、ごめんなさい。本当にごめんなさい。」 渚は慌てて手を放し、シューゴに何度も何度も謝った。シューゴ「構いませんよ・・・、まだ独身ですし・・・。」珠洲田「あれ?よく見たら拉麵屋台の店主さんじゃないですか、どうしてなっちょと一緒にいるんですか?」渚「あの・・・、ここはこの人の・・・。」シューゴ「今日からウチの屋台で働いてもらう事になったんです。」 渚は震えながらゆっくりとシューゴの方に振り向きじっと目を見た。渚「

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」128

    -128 新メニューと渚の驚愕- とにかく辛く仕上げたこの焼きそば、光が渚の遺伝で辛い物好きになるのも納得がいく。渚「ウチは昔、決して裕福とは言えなかったんだがね。せめて夕飯は豪華にしようとインスタントの焼きそばに残った豚キムチとウインナーを入れて、少しだけでも豪華に見せる様にしてたんだ。」 当初はまだ幼少だった光用に普通のソース味の焼きそばを作っていたのだが、渚自身の分として作っていたこの「辛い焼きそば」に興味を持った小さな光に恐る恐る少しだけ与えるとハマってしまったらしくそれから「何か食べたいものは?」と聞かれるとこの焼きそばをねだる程になっていた。 それから渚はこの焼きそばを酒の肴に、まだ未成年だった光はご飯のお供にしてよく食べていたのだ。 光はこの焼きそばの作り方を聞くことが出来ないまま渚が亡く・・・、いや渚と生き別れになってしまったので代用品としてあのツナマヨをよく食べていたんだそうだ。 その事を聞き、林田が号泣していた。林田「泣かせてくれるじゃないですか・・・、やはり私は罪深き男・・・。」渚「林田ちゃん、何を泣いているんだい。もう、伸びちまうから早く食べちまおうよ。」光「懐かしの味、頂きます!!」 辛子マヨネーズを麺に絡ませ一気に啜ると辛さがガツンとやって来て食欲をそそった、豚肉と一緒に食べると少し甘みのある脂が麺にピッタリだ。白米や酒が進む。 ソースの絡んだウインナーを食べるとそれも白米と酒に合うので最高の組み合わせだ。皆一気に完食してしまいそうになった時、店の出入口が開きある男性が入ってきた。レンカルドの兄で拉麺屋台店主、シューゴだ。少し落ち込んでいるっぽいが。レンカルド「兄さん、どうした?」シューゴ「レンカルド、実は相談が2つあって。その内の1つなんだが俺も新メニューを考えようと思っててな・・・。ん?この香りは?」レンカルド「あそこにいる渚さんが拘りの、そして娘の光さんとの思い出の味として作ってくれた焼きそばだよ。良かったら食べてみる?」 レンカルドがシューゴに自分の皿を差し出すと香りに料理の誘われ1口、決して豪華だとは言えないその料理の味に刺激され感動した兄は渚にお願いした。シューゴ「渚・・・、さんでしたっけ?このお料理のレシピをお教え願えますか?」渚「何を仰っているんですか、決して料理なんて呼べない代物ですの

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」127

    -127 渚の拘り- 林田は友人であるデカルトに唐突なお願いをした。ただ相手は隣国の王、表情はおそるおそるといった感じだ。林田「デカルト、すまん・・・。少しお願いがあるんだがいいか?」デカルト「ん?どうした、のっち。」林田「ははは・・・、もう良いか。この新メニューの値段を決めてくれないか?」 店主のレンカルドが決めかねているので国王の権限で決めてしまって欲しいとの事なのだ。デカルト「俺は良いけど・・・。店主さん・・・、宜しいのですか?かなり拘って作っておられるとお聞きしましたが。」レンカルド「何を仰いますやら。1国の王様にお決め頂けるとはこの上ない幸せ、どうぞ宜しくお願い致します。」 価格を決めるヒントとして1つ質問してみる。デカルト「確か・・・、お兄さんの作られる拉麺のスープを使っておられるのですよね?お兄さんのお名前をお伺い出来ませんか?」レンカルド「兄・・・、ですか?シューゴと申しますが。」 メニュー表のパスタの欄を改めて見直しながら考え始めた。デカルト「パスタ料理の平均価格から見てそうですね・・・、「シューゴさん」だから1500円でいかがでしょうか?」レンカルド「あ・・・、ありがとうございます。光栄でございます。」 レンカルドが涙ながらに感謝を伝える横でデカルトが話題を変えようと「拘り」について聞いてみる事にしてみた。デカルト「そう言えば他の皆さんは何か拘っておられる事はありませんか?結構拘っておられる品を食べたので是非と思いまして。」渚「そうですね・・・、うちは「焼きそば」でしょうか。光、覚えているかい?あんたも女子高生だった時から好きだったインスタントの焼きそばに豚キムチを入れたやつ。」光「あれね、いつ作っても麺がやわやわになっちゃうやつ。いつもウインナーを入れてくれてたのを覚えてるよ、母さんの影響で辛い物が好きになったきっかけだったな。」 かなり腹に来ているはずの林田が唾を飲み込みながら渚に尋ねた、この世界の住民は皆美味い物に目が無い。林田「美味そうですね、宜しければ作って頂けませんか?」渚「私は構いませんが、店主さん良いんですか?」レンカルド「大丈夫ですよ、魔力保冷庫の中にある食材も良かったらお使いください。」渚「恩に切ります。んっと・・・、韮と豚の小間切れ肉、それとキムチはあるから後は「あれ」と「あれ」

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」126

    -126 飲食店に拘る理由- 店主が思い出に浸っていると勢いよく出入口のドアが開いた、ドアを開けたのは愛車の修理を待つ渚の娘・光だ。店主「ごめん光ちゃん、今「準備中」というか休憩してたんだよ。」光「こちらこそごめんなさい、レンカルドさん。車屋の珠洲田さんに母の場所を聞いたらここだって聞きまして。」 光は懐からハンカチを出して汗を拭った、息を整えようとするとレンカルドがお冷を渡した。レンカルド「ほら、これ飲んで。それにしても光ちゃんのお母様だったんですね、何となく雰囲気が似ていた訳だ。」渚「こちらこそ娘がお世話になっています。」レンカルド「いえいえ、何を仰いますやら。光ちゃんはここの常連になってくれましてね、いつも美味しそうに私の料理を食べてくれるんです。」 料理と聞いて渚は先程の昔話について疑問に思っていた事をレンカルド本人にぶつけてみた、不自然すぎる事が一点。渚「そう言えば先程ヨーロッパや日本の洋食屋で修業をしたと仰っていましたが、どうやってそう言った国々に?」レンカルド「私が18歳になったばかりの頃です。実は兄が祖父の拉麺屋台の修繕とスープの再現に勤しんでいた傍らで、私は不治の病に倒れ入院先の病院で意識と霊魂の一部のみが異世界に飛ばされていたんです。そして現地の料理人見習の方に一時的に憑依する形でその方と一緒に洋食の修業をし、終わった頃に私本人として復活致しました。意識と霊魂の一部が自分自身の体に戻ったのですが、異世界で学んだ技能などははっきりと覚えていたのでこの経験を是非活かそうとこの飲食店を始めました。」光「初めて食べた時に何処か懐かしさを感じたから常連になっちゃったって訳。」男性「あのー・・・、とても良い話をお聞かせ頂いた後に恐縮なのですが、私はずっとほったらかしですか?」 光は後ろに振り返り、飲食店に来た目的等をやっと思い出した。レンカルドの話につい聞き入ってしまっていたのだ。 焦りの表情を見せながら一緒に連れてきたその男性を急いで招き入れた。光「あ、ごめんなさい。珠洲田さんの所に行ったらこの人がいてね、一緒に連れて行ってくれって頼まれたんだ。」デカルト「来ちゃったー。」林田「デカ・・・、ダンラルタ国王様。どうしてこちらに?」 周囲に他の人がいるので林田はいつも通り名前で呼びかけたが急いで言い直した。デカルト「のっ

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」125

    -125 兄弟の頑固な拘りと料理- 渚はふと疑問に思ったことを店主にぶつけてみた、店内が不自然な位にスープの匂いで満たされていたからだ。渚「お店で出されるんですか?」店主「いえ、軽トラを改造した屋台で各国を放浪して売っているんです。」 ふと窓の外を見ると木製の屋根と煙突が付いた軽トラがあった、ぶら下がっている赤提灯に「拉麺」と書かれている。店主「屋台で販売する事が兄の拘りみたいでして、1箇所に留まりたくないそうなんです。」渚「お2人で拉麺屋をするおつもりは無いんですか?」店主「自分は自分で洋食の修業をしてきましたので大切にしたいんです。」渚「そうですか・・・。」 匂いの素となっていたスープの入った寸胴鍋を軽トラに乗せると兄らしき男性はまた何処かへと行ってしまった。 お店では再びハンバーグの香りがし始めた。店主は何故か「営業中」の札を「準備中」に返すと渚たち以外にお客がいない店内で店主が珈琲を淹れ始めた、自分用だろうか。ただ不自然なのは他にもカップが数個。 全てのカップに珈琲を淹れると渚たちが座るテーブルへと持って来た。店主「実はそろそろ休憩にしようかと思っていたんです、こちらの珈琲は私からご馳走させて頂きますので良かったらちょっと昔話にお付き合い願えますか?」 そう言うと淹れてきた珈琲を配膳し、他のテーブルから持って来た椅子に座り語りだした。店主「私達兄弟は学生の頃に祖父母を亡くしましてね。当時2人はずっと、昼間に小さな町工場を経営しながら夜に拉麵屋台をやっていたんです。私も兄もたまに食べていた2人の拉麺が大好きだったんですよ。ただ私も含め先祖代々そうなのですが、バーサーカーが故の頑固さで休みなくずっと働いていたが故に祖父は過労で倒れてそのまま・・・。 あ、バーサーカーと言っても我々は全く好戦的ではないのでご安心を。 実は私達の両親は私達が小学生の頃に離婚しましてね、2人共父に引き取られたんです。ただ父は務めていた会社が倒産してから全く働くこと無く酒と煙草、そしてギャンブルばかりしていました。 そんな中、祖母は私達に苦労をさせまいと1人になってもずっと町工場と屋台を続けていました。そんな祖母も祖父の後を追う様に急病に倒れ亡くなりました。 せめてもの感謝の気持ちとして2人の工場と味を残していきたいと兄が父に町工場を存続する様に説得

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」124

    -124 大将の秘密の工房- デカルトが王宮からネフェテルサ王国に向かって飛び立った頃、ロラーシュ大臣によって一時的にだが鉱石がすっからかんになった採掘場を見てゴブリンキングのリーダー・ブロキントは一言呟いた。ブロキント「見た感じ美味そうに食うてたけど、そんなに美味いもんなんかいな・・・。言うてしもたらあれやけど石やで。」 味を一応想像したけど全くもって美味しいイメージが湧かない。 その時、たまたま近くを通った屋台から聞こえたチャルメラの音を聞き、魔法で誘われたかの様に腹をさすりながら食べに行った。ブロキント「大将ー、1杯くれまっか。」大将「あいよ、椅子出すからちょっと待っててくれな。」 大将は軽トラを改造した屋台から小さな椅子を数脚持ち出すとその一つに座るように誘った、ブロキントがそれに座るとスープの入った寸胴に火にかけ徐々に熱を加えていく。 丁寧に血を拭き取った豚骨と鶏ガラから丹念に煮だしたスープが香りだし食欲を湧かせる。大将「兄ちゃん、麺の硬さは?」ブロキント「粉落としで頼んま。」 採掘場で働くゴブリン達は皆歯応えのある硬い麺を好んだ、特にブロキントは茹でた後も生麺の香りがする粉落としを好んだ。2~10秒ほどで湯から上げるので名前の通り表面の打粉を落とすだけの茹で方。 濃い目の醤油ベースのタレを丼の底に入れ、香りの迸るスープを注いだ後茹でたての麺を湯切りして入れる。具材はもやしにシナチク、ナルト、そして豚肩ロースを丸めて作った特製の大きな叉焼。この叉焼は先程の醤油ダレで煮込み味を染み込ませている。大将「お待ちどうさん、待ってもらったから叉焼おまけしてあるよ。」ブロキント「それはおおきに、頂きますぅ。」 普段は2枚入れている叉焼を3枚にしてくれている美味そうな拉麺を前に、リーダーが割り箸を割り感動の1口目に入ろうとすると腹を空かせた部下たちが続々と屋台の席を埋めていった。ブロキントはおまけ分の大きな叉焼を急いで口に入れた、トロトロの食感と肉汁が舌を楽しませる。大将「ほらよ、絶対に合うぞ。」 大将が笑顔で白く光る銀シャリを渡すとブロキントは一気にがっついた。素直に合う、本当に合う。因みに炊飯器は太陽光発電で動く様にし、降水時でも大丈夫な様にバッテリーに繋いでいる。ゴブリン「リーダー早いでんな、ずるいですわ。大将、わいらにも一つ

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」123

    -123 鉱石蜥蜴の正体と謝罪- 採掘場に潜み、その場のミスリルをメタル代わりに食べ尽くしてしまったが故に本人も気づかぬ内に鉱石蜥蜴(メタルリザード)の上級種である希少鉱石蜥蜴(ミスリルリザード)になっていたのはダンラルタ国王の側近である食いしん坊のロラーシュ大臣であった。 大臣を含む鉱石蜥蜴(メタルリザード)種の者達は人間や他の魔獣と同様の食物を普通に食べても体質的には問題ないのだが、デカルトはロラーシュ本人がたまにこっそり他の採掘場でメタルを勿論迷惑を掛けない程度におやつとして食べていた事を黙認していた。しかし、どうやら普通のメタルに飽きてしまったらしくぶらっとこの採掘場に来て1口ミスリルを食べたら一気にハマってしまったとの事だ。夢中になっていたが故に気付けば1週間ずっと食べ続けてしまっていたそうだ。 因みに王宮で大臣をしている位なのだから勿論人語を話せるのだが、正体がバレない様に敢えて人語を無視している事もデカルトは知っている。 別にミスリル鉱石自体は翌日にまた出現するので生産的には問題ないのだが流石に食べ過ぎだ、これは酷い。一先ずデカルトは採掘場のリーダーであるゴブリンキングのブロキントに頭を下げ小声で一言。デカルト「ブロキントさん、王宮の者がご迷惑をお掛けし大変申し訳ございません。心よりお詫び申し上げます。」ブロキント「国王はん、そんなんやめて下さい。誰だって美味いもん見つけたら独り占めしたくなるもんです。」デカルト「そう仰って頂けると幸いです。ご迷惑をお掛けしたゴブリンさんや発注元の方々にも王宮から謝罪させて下さい。勿論、1週間分の御給金は上乗せして王宮から支払わせて頂きます。」ブロキント「逆に申し訳ないです・・・。」デカルト「それ位のご迷惑をお掛けしたのです、せめてもの謝罪です。さてと・・・。」 デカルトはロラーシュに気付かれない様にこっそりと近づき、物陰に潜んだ。因みにロラーシュがまだ人語を理解しないフリを続けているのでデカルトは『完全翻訳』で話しかける事にした。ロラーシュ「誰だ・・・、誰がちょこまかと動いているんだ。コソコソせずに出て来い・・・。」デカルト「分かりました、ただ随分と長いおやつタイムですね。1週間も王宮に出勤できない程美味しい鉱石だった用ですね、大臣。」ロラーシュ「その声は・・・。こ・・・、国王様!!何故

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」122

    -122 作業不可の理由と古き友人- 珠洲田からの連絡によるとこの国の車はエンジンの起動の為に予め魔力を貯めるタンクがあり、渚のエボⅢの様な乗用車は軽に比べて1まわり大きいのだがそのタンクを作るためのミスリル鉱石が足らないとの事なのだ。 この世界においてミスリル鉱石はそこまで希少という訳では無いのだが、全体の採掘量の8割以上を占めるダンラルタ王国での生産が滞りがちになっており、珠洲田自身も必要なので1週間前から採掘業者に何度も発注しているのだが全くもって品物が届いていないというのだ。 今までは軽自動車での作業ばかりだったので在庫で何とか持たせていたのだが、今回はエボⅢなのでどうしても追加が必要になる。 林田は状況を確認すべくある友人に連絡を取る事にした。林田「もしもし、今電話大丈夫か?」友人(電話)「のっちー、久々じゃん。」林田「デカルト・・・、それやめろと前から言ってるだろ。」 そう、林田が連絡を取ったのはダンラルタ国王でありやたらと「のっち」と呼びたがるコッカトリスのデカルトだ。デカルト(電話)「それは置いといて何か用か?」林田「実はな・・・。」 すぐさま珠洲田から聞いた事を報告し、ダンラルタ王国におけるミスリル鉱石の状況が知りたいと伝えた。デカルト(電話)「何だって?!それは迷惑を掛けて申し訳ない。すぐに王国軍の者と調べて来るから待ってくれ。何分俺も初耳だ、状況を知る必要があるから俺自身も出る事にしよう。待ってくれているお客さんにも俺の方から謝らせてくれ。」林田「すまない、宜しく頼む。」 デカルトは電話を切るとすぐに王国軍の者を呼び出した、応じたのは軍隊長のバルタン・ムカリトとウィダンだ。デカルト「南の採掘場の現状を知りたいので一緒について来て頂けますか?」ムカリト「勿論です。」ウィダン「かしこまりました、国王様。」 3人は王宮を出るとすぐに南の採掘場に向かって飛び立った。そこではゴブリン達が日々採掘作業に勤しんでいて、唯一人語を話せるゴブリンキングのリーダー・ブロキントが指揮を執っていた。 3人は採掘場の出入口の手前に降り立つと早速ブロキントに話を聞くことにした。ブロキント「お・・・、王様。おはようさんです。」 ブロキントは何故か関西弁を話した。デカルト「ブロキントさん、おはようございます。我々がここに来たのは他

Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status